『ドリームシアター』(アルバム)セルフタイトルアルバムに新体制での決意表明が見える作品。
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
本日はドリームシアターが2013年にリリースした12作目のオリジナルアルバム
『ドリームシアター』
を語っていきますね。
本当の意味での再スタート作品。本作の特徴は?
前作『ドラマティック・ターン・オブ・イベント』の記事でも書きましたが、前作はリーダーであるマイク・ポートノイが脱退した直後の作品であったため、大々的な変化を避け、いかにもドリームシアターらしい作りを目指した『保守的』側面が強い作品でした。
前回の記事はこちら⇩
「やっぱりマイク・ポートノイが抜けたからガラッと変わっちゃったね。もうドリームシアターはいいかな…」
ジョン・ペトルーシとしては、長年応援してくれたファンにこのセリフだけは言われたくなかったと思うんですよね。
しかし、前作は単なる『無難な出来』どころか、非常にクオリティの高い作品に仕上がっており、リーダーが抜けてもその音楽性が劣化することなどないことを証明したと言っても過言ではないでしょう。
ここで、前作から本作までの流れを分かりやすく船で例えるとこうなります。
マイク・ポートノイは船長として船の全てのシステムを理解し、クルーたちを組織として機能させ、航行を取り仕切っていました。
その上で
「よし、このあたりの海は飽きたから、ちょっとスリルがありそうな北東に進むぞ。やっぱ行ったことないとこ行きたいよね」
とかって進む方向性を決定していたんですね。
その船長がいきなりいなくなっちゃった。
「おいおい、どーすんだ!?このままじゃ氷山にぶつかっちまうぞ!安全な航路とか誰か分かる人いねーの!?」
っていう大ピンチです。
でも副船長のペトルーシが船長の代理として全てを取り仕切って指示を出した。
そしたらなんとか氷山も避け、無事安全な航路も取れた。
これからは副船長がリーダーとしてやっていっても船はちゃんと航行することができるということを証明するための作品が前作というわけです。
で、ピンチの局面を乗り越えて一段落ついたところで
「さて!新船長として目的地を新たに設定しようかな。以前の船長は北東を目指していたけど、そもそも皆はそれを望んでいたのかな?ちょっとここで皆の意見を訊いてみよう。なになに?分かった。おおむね北の方向には皆が賛成みたいだけど、正確には北西に行きたかったみたいだな。それに氷山があるようなリスクはもうコリゴリなんだね?よし、舵を切るぞ!」
ということで、若干の方向転換をしたのが本作というわけです。
ここでポイントなのは南(真反対)に舵を切ったわけでもなければ、西や東に振り切ったわけでもないということですね。
さらに氷山があるような『冒険性=リスク』も取らない作風といえば手厳しいでしょうか?
デスヴォイスやブラストビート、果てはヒップホップの要素のような
「ドリームシアターではちょっと違うんじゃないかな?」
という癖の強い実験性はほとんどないです。
久々に初期の雰囲気をまとっている
ドリームシアターらしさを形成する要素である、メタルやプログレの要素はもちろんあります。
それはこれまで通りなんです。
ただ、雰囲気、匂いとでも表現しましょうか?それが変わりました。
これまでは、どちらかというと『湿った匂い』のしていたドリームシアターが、今回は妙に『乾いた匂い』がします。
「なんかアメリカンハードロックだな~。いやLAメタルかな?」
とかって感じる瞬間が結構あると思いますよ。
さらにデビュー作『ホエン・ドリーム~』や2作目『イメージズ&ワーズ』なんかがまとっていた雰囲気がちらほら見られます。
どっちかというと2作目に近いかな?
バンドで例えるとボストンとかに近い雰囲気を感じます(#3なんか特に)。
具体的に言うと、サウンド面ではまずギターリフの質感が変わりました。
3作目『アウェイク』に端を発し、5作目『メトロポリス2』以降は前面に出てきていた『極度に歪んだディストーションのダークなヘヴィロック感』が抜けたことにより、彼らがもともと持っていた要素が浮かび上がったという感じでしょうか?
湿っぽさがなく、カラッとしてて明るい。
5作目以降とはいっても、6作目『シックスディグリーズ~』のDISC2、8作目『オクタヴァリウム』や10作目『ブラッククラウズ~』の後半なんかではそうした要素が時々顔を出していました。
そうした作品たちの中でも本作はダントツで強く現れており、本作を聴いていて『ダーク』だと感じる瞬間はほぼほぼないと言ってもいいでしょう。
さらにドラムサウンドがタイトでクリアですね。
ちょっとステレオタイプになりすぎな感じもしますが、これは2作目『イメージズ&ワーズ』を完璧に意識した音作りしてるでしょ。
アタック強めで残音は短く切る。
だから音量を上げている割には他の楽器をジャマしていません。
前作でドラムの音がかなり絞ってあったので、心配していたファンが一安心できたことでしょう(笑)。
短い曲が多い
そして一番大きなポイントがタイムでしょうかね。
1曲10分を超える大作主義的な作風もかなり抑えられ、ラスト曲(22分)を除けば平均6分台。
かなりコンパクトにまとめてきましたね。
まあ、6分台の曲がコンパクトだなんて他のバンドではありえない表現なのですが(笑)。
もうドリームシアターを聴いている気がしないくらいサクサク進んでいきます。
「え?もう4曲目まできちゃったの?」
みたいな(笑)。
次作『アストニッシング』はストーリーを中心に据えた特殊な作りなので例外として、この流れは次次作14作目『ディスタンス~』でも引き継がれます。
ポートノイが抜けたことによる変化って、やっぱり脱退直後の『ドラマティック・ターン・オブ・イベンツ』に注目が集まりがちなんですけど、あそこは実は大きな変更点ではありません。
タイトルでは『激的な変化』みたいなこと言うとりますが(笑)。
今作のような『大作主義の方針を変える』『実験性を弱める』といった試みの中にこそ、ポートノイの抜けた変化を感じます。
やっぱり曲が短くなってインスト部分が少なくなると、相対的にヴォーカル部分が多くなってラブリエが目立ちますね。
それにプレイも冗長さがない。
変態悶絶プレイも今回は鳴りを潜め(一部はありますが)、ペトルーシもルーデスも曲をよくするためのプレイに徹しています。
アルバム『ドリームシアター』の曲紹介
#1『False Awakening Suite』2:42
こういう『導入部的』な始まり方ってこれまではあんまりなかったですよね。
6作目『シックスディグリーズ~』DISC2『オーバーチャー』のような映画/ゲームサントラ的な曲です。
こうして振り返ると次作『アストニッシング』の方向性はこの時点から予兆があったんですね。
「今回の作風は全部こんな感じなの?」
と一瞬不安にさせますがご安心ください。
#2『The Enemy Inside』6:17
さあ、来ました。
実質上のオープニングナンバーにして本作でもっともドリーム・シアターらしい曲と言えるでしょう。
これは激しい、速いぞ。
さらにサビ後のキーボードのキャッチーさにびっくりしたら、2回目のサビ後はギターが同じフレーズでくるという不意打ちがきます。
そこからソロに持っていってキーボードとのユニゾンに持っていく流れはお見事です。
#3『The Looking Glass』4:53
キラーチューンが続きますね。
本作でもっともボストンを感じた曲です。
「ここまでいっちゃうか?」と。
というより私の場合、今起きていることが信じられないくらい驚きましたが。
「オレ今ドリームシアター聴いてたはずだよね?」って(笑)。
考えてみたらボストンみたいな「アメリカン・メロディアス・ハード」っていうジャンルににくくられるバンドって、もともと『プログレッシブメタル』の元祖的なところがあるわけで。
影響受けていないわけがないんでしょうね。
それからこの曲のベースソロ~ギターソロの音使いにすごく『イメージズ&ワーズ』を感じてしまったのは私だけでしょうか?
本作はこれ感じる瞬間多いですよ、ホント。
いい曲なのですが
「デモテープじゃないんだから、もうちょっとなんとかならんものかね」
っていう終わり方するんで、目が点になると思います(笑)。
#4『”Enigma Machine』6:01
お久しぶりのインスト曲ですよ(#1もだけど)。
9作目『トレインオブソート』以来ですが、あれよりもコンパクトにまとめてきましたね。
他で封印されてる分、変態プレイを詰め込んでます(笑)。
ペトルーシさんとルーデスさんが暴れとりますよ。
アグレッシブで好感はもてるのですが、私はイマイチぐっとこなかったです。
#5『The Bigger Picture』7:40
本作で一番『美しい』世界観ですね。
うーん、ここまで『イメージズ・アンド・ワーズ』の匂いが出てしまうと、否が応でもあの強烈なメロディを求めてしまうというか。
それだけにヴォーカルメロディにもうひと押しがほしいと感じたのは私だけでしょうか?
ギターソロはシンプルですね~。
7:40もある曲なので以前であればもっとギターとキーボードが色々演ってたと思うのですが、やりそうでやらないんですよ。
その意味では、このアルバムの方針を象徴しているような曲とも言えます。
#6『”Behind The Veil』6:52
メタリカの『クリーピングデス』みたいな始まり方します(笑)。
この曲のリフも以前のサウンドであればかなりダークなイメージになったでしょうね。
これだけヘヴィでも軽さを感じる。
音選びって影響でかいですね。
割りとアグレッシブに進んでいくのに、サビはほぼバラードみたい。
ん?なんかこのパターン多くないか?
#7『Surrender To Reason』6:34
レビューを見ていると、この曲が好きという人が多く、人気曲のようです。
確かに私も本作で最初に好きになったのがこの曲でしたね。
聴き所はペトルーシのギターソロですかね。
中間とラストの2回あるのですが、1回目のほうが私は好きです。
こういう短く一見シンプルな曲にも実はかなり変拍子を入れているのですが、本作では
「いかにも難しいことをやっている感じ」
がしないのがすごいんですよね。
マンジーニのバスドラなんてちょいちょい変なことやってて、ドラマーとしては面白いですよ(笑)。
#8『Along For The Ride』4:45
ゆるやかなショートバラードです。
しかし途中でヘヴィなギターリフが入るのがやはりドリームシアター。
個人的にはルーデスのキーボードソロとそのバックでジョン・マイアングのベースが優しくボトムを支えているところとか好きです。
珍しいなこういうパターン。
『Illumination Theory』22:17
私は基本的に音楽は流し聴きをしてまして、各曲レビューをするときだけガチ聴きします。
流し聴きをしている時って本当に琴線に触れてくるメロディのところだけで、「ふっ」と注意が向くものなんですよ。
メロディの持つ普遍性やフックの強さを測るためにあえてこういう聴き方をしています。
そしてこのアルバムでは、いつもこの曲で注意が向くことがダントツで多かったので、この曲にはそれだけのパワーが秘められているのだと思います。
20分前後の曲としては8作目の『オクタヴァリウム』や10作目の『カウント・オブ・タスカニー』のようにゆっくり大きな流れで展開する曲とは対照的に、のっけからガンガン攻めてきますよ。
序盤のギターリフからフックが効いてていいのですが、
「この密度が22分も続いたら情報量多すぎだろ…」
というぐらいスリリングな展開をみせます。
が、7分ぐらいでアンビエント(環境)音楽が入り、8:40からクラシックになります。
「動物の鳴き声が聴こえたかと思えば、今度はクラシック…一体ここはどこなんだ?」
そして11分過ぎから突如ベースとドラムだけになった瞬間、
あなたは完全に置き去りにされた上に迷子になります(笑)。
その後のルーデスのピアノ・ソロがカオスで凄まじくかっこいいですけど、あなたはまだ迷子のまま。
で、ギターソロがピークを迎えた後に冒頭のリフに戻った時は、
『知らいない道で迷ってぐるぐる回ってたら、いきなり自分の家の真裏に出てきた』
みたいな感覚に襲われますよ(笑)。
セルフタイトルに込めた思いとは?
このアルバムは先程も書いたように、ペトルーシ体制になってほんとうの意味での再スタートした作品という側面があるため、セルフタイトルにしたのは
「ここがスタートだ」
という意思表示だと思ってました。
デビュー作がセルフタイトルっていうパターンが多いので、その意味を含ませたのかな、と。
けれど、本作をとことん聴き込んでみて、もう1つ気がついたことがあります。
実は、かつてないほど『イメージズ&ワーズ』の匂いが強い。
私は全オリジナルアルバムのレビューをこれまでたくさん読んできましたが、ドリームシアターというバンドは2作目『イメージズ&ワーズ』があまりにも傑作であるがために、新作を出すたびごとに比較をされてるんですよ。
『イメージズ&ワーズ』っぽいとか、ぽくないとかいう言葉が飛び交います。
正直、私は
「どこがだよ。『イメージズ&ワーズ』に似てるのなんてないし、近い匂いがするのは3作目までじゃね?」
とか思っていました。
そもそもかつての名作と新作を比較したくないし、することが不毛だと感じているので、これまでのアルバム解説でもそうした表現は使ってきませんでした。
しかし、今回は『似てる』という表現を使いまくってます(笑)。
この12作目は驚くほど『イメージズ&ワーズ』の匂いがしたからなんですよ。
つまり、自分たちにとってメモリアルな作品である『イメージズ&ワーズ』が原点であり、それを再現しようとした可能性があるということですね。
あくまで新体制での、『今の自分たちにとっての』あの作品を作ろうじゃないか、と。
いいですね~、そういうの好きです。
はい、本日は『ドリームシアター』を語ってまいりました。
非常にクセのない作風で、それでいて初期を感じさせるテイストがあり、聴きやすさという点ではピカイチ。
もし、ドリームシアターを聴いたことがないという人であれば最初の入口としていいですよ。
あと、最初に聴いた作品が「ヘヴィ過ぎてちょっと苦手」という印象だった人はまだ逃げないで、本作を聴いて駄目だったら逃げてください(笑)。