『ジャガー・ハード・ペイン』イエモン初のコンセプトアルバム!
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
本日は1994年にイエローモンキーがリリースした通算4作目のオリジナルフルアルバム
ジャガー・ハード・ペイン
(1944-1994)
を語っていきます。
念願のコンセプト・アルバム
このジャケットの宝石みたいなの(エメラルド?)は、前作『エクスペリエンスムービー』のジャケでロビン扮する『ジャガーの恋人・マリー』がその指につけていた指輪の宝石です。
前作ではジャケといい、ラスト曲『シルクスカーフに帽子のマダム』といい、『ジャガー』『マリー』という登場人物がちょいちょい登場していたのですが、そのストーリーを拡大して一枚のコンセプトアルバムに仕上げたのが本作です。
『コンセプト・アルバム』なんて最近のリスナーにはピンとこないと思うので一応説明しておきます。
『コンセプトアルバム』とは、テーマ(主題)となるメロディが複数の楽曲に使用されたり、歌詞が全体的なストーリーとして全て関係していたりするような作りのアルバムのことです。
通常であれば、アルバム収録の各楽曲は統一感はあっても独立した単体の楽曲であるのに対し、コンセプトアルバムは楽曲が全て『あるテーマ』で統一されているんですね。
ちなみに、この世で最も有名であり、史上初のコンセプトアルバムと呼ばれるのがビートルズのこれ⇩
ビートルズの最高傑作ともロック史上の最高傑作とも呼ばれています。
そしてイエモンのメインコンポーザー(作曲者)であるロビン(吉井和哉)は、デビッド・ボウイを崇拝しすぎてデビッド・ボウイになりたいあまり、コンセプトアルバムまで作っちゃいました。
そう、デビッド・ボウイにも歴史に名を残すコンセプトアルバムの決定版があるんですよ。
それがこれ⇩
これまたビートルズに負けず劣らずの大名盤!
このアルバムを目指して作られたのが本作『ジャガー・ハード・ペイン』なんです。
コンセプトアルバムっていうのは、アルバムを強制的に丸ごと通して聴かせる力技みたいなところがあり、ミュージシャンの力量もさることながら、そのリスナーにもなかなかの忍耐力と集中力を求めるところがあります。
なので音楽ヘヴィユーザー向けの作風であり、傾向としては実験的な作風を好むアーティストとか、プログレッシブ・ロックバンドなんかがよくやる作風なんですよ。
「普段はテレビで流れているのを聞いてシングル買ってた程度です」
「ストリーミングで気に入った曲だけ聞いてます」
っていう人にはちと重い作風かもしれません。
なのでイエモン初心者の最初の一枚としては、絶対に選ばないでいただきたい。
デビッド・ボウイやプログレバンドなんかのアーティストは、それをフォローするファンもこういう作風に慣れているわけです。
そして世界中にそういうファンを持っているので、決して売れないわけじゃあない。
プログレバンドの大御所ピンク・フロイドなんて、コンセプトアルバム『狂気』で、全世界セールス
5000万枚以上
を記録してます。
アメリカのヒットチャートトップ200になんと
15年間残り続けた
というモンスターアルバムです。
コンセプトアルバムなんてやってる場合じゃないエモン!
デビッド・ボウイやピンク・フロイドら、世界的なレジェンドクラスのバンドならともかくですよ?
この当時のイエロー・モンキーのファンは、そもそもコンセプト・アルバムという『重い作品』を受け入れる土壌ができているのか?
『重い作品』でも売ることができるほどの広いマーケットを確立していたか?
というと『ノー』だと思います。
この時期のイエモンのライブに訪れるお客の約9割は女性、そしてその数も決して多くはありません。
なので、コンセプトアルバムという選択は、この時期の売れないイエロー・モンキーがやるべきことじゃあないというか。
メジャー1作目『夜行性のカタツムリ~』も2作目『エクスペリエンス・ムービー』もセールス的には『こかして』いながら、ここで出すもんじゃないというか。
よくレコード会社から契約を解除されなかったなっていう。
『こかす』っていう表現は失礼かもしれませんが、レコード会社が納得するセールスとは程遠かったということです。
なぜなら2作目(デビュー・アルバム)『夜行性のカタツムリ~』は
8000枚
3作目『エクスペリエンス~』は
5000枚
しか売っていないのですから(前作より落ちとるやないかい)。
5000万枚じゃないですからね(笑)?
ちなみにインディ版『バンチド・バース』は1000枚です。
このぐらいの枚数ということは、あなたが周囲の友達とかに当たってみても、この3枚を持っている人を見つけ出すのは困難なくらいの数字です。
もはやブートレグ(海賊版)や限定版のレベルです(後にリマスター版などが出て少しは増えたと思いますが)。
この状況がいかにやばいか?を分かりやすくお伝えするために、これまでブログで取り上げたバンドの例を紹介します。
例えば、Xの場合。
1988年にYOSHIKIが自分で設立したエクスタシーレコード(インディ)で出したアルバムは、発売するなりそれまでのインディでの記録であった2万枚をあっという間に塗り替えた後、17万枚で着地。
しかも初期は違法海賊版が出回ったため、それがなければ20万は軽く超えていたと言われています。
で、メジャーデビュー作の『ブルー・ブラッド』はあっという間にゴールドディスクを達成し、71万枚で着地。
続くメジャー2作目『ジェラシー』では111万枚でプラチナディスク達成。
次にLUNASEAの場合。
彼らはインディの時期、デビュー年、ブレイクした時期、解散した年がイエモンとほぼ一緒です。
インディ版、メジャー1作目、2作目は全てイエモンと同じ年にリリースしてます。
インディ版『LUNASEA』は4万枚。
彼らは『Xの後輩バンド』『大型新人』と呼ばれ、鳴り物入りでデビューし、Xと同等のアルバムセールス(デビュー作50万枚超え)を期待されながら、メジャー1作目である『イメージ』のセールスが11万枚と振るわなかったため、2作目の『エデン』では『売るための作曲』を強要され、ノイローゼになりながら作ってるんですよ?
それでも22万枚しか売れず、御存知の通りメジャー3作目『マザー』(1994年)でようやくブレイク。
見事71万枚を売り上げます(ゴールドディスク獲得)。
音楽の方向性が全然違うので、XやLUNASEAを比較対象としてもピンとこないかもしれませんが、私がお伝えしたいのは
ブレイクするバンドがどれだけの枚数を売っているものなのか?
ということです。
そして、それに比べてイエモンの売上が
『ブレイク』と呼べるものとはどれだけかけ離れていたのか?
をイメージしてもらいたかったからなんです。
いかにやばい状況かお分かりいただけましたでしょうか?
これじゃあ、レコード会社に契約解除されても文句は言えません。
「おい、インディのバンドでもまだお前らより売っとるやないかい!」
ってお叱りを受けても仕方のない売上結果ですから。
「メジャーデビューした意味ないじゃん」って感じ。
イエモンの最初の3作合わせても、LUNASEAのインディ版1作の売上枚数(4万枚)の半分にさえ届いていないのです。
なので、イエモンの場合は、メジャーで2作もこかしておいて
「この期に及んでまだ売れそうもない作品出すか?」
っていうのがレコード会社の本音であるとは思います。
しかし個人的には、このロビンの音楽的わがままというか、ミュージシャンエゴには好感が持てます。
華やかなルックス、ファンの殆どが女性ファン(当時)、というイメージとは真反対の硬派な姿勢を貫いているんですね~。
ロビン曰く
「男性ウケを狙った」
とのことなので、自分たちの置かれている状況とか、見られ方に対して「なんとかしよう」っていう『あがき』が伝わってくるんですよ。
おそらく自分たちの目指したい方向性と、現実のリスナー層の間にかなりのギャップが有ることを感じていたのではないでしょうか?
「こういうアルバムも好きだって言ってくれるファンであってくれ!」
って叫んでる(願ってる)ように感じたんですよね(笑)。
しかし、思いも虚しく本作のアルバムセールスは
2.1万枚。
・・・・・・・
言わんこっちゃない(笑)。
とは言っても、いうほどコンセプトコンセプトした作風ではないと思います。
別にストーリーが複雑ということもなければ、各楽曲が繋がっていると言うよりは結構バラバラ。
それはなんでかというと、主人公ジャガーが1944年に戦争で死んで、魂だけになって1994年の現代に彷徨っている(蘇ってる?)というストーリーだから。
で、そのジャガーの主観だったり、客観だったりする目で見た現代の闇の側面がひと場面ごと描写されながら、ジャガー御本人も登場する。
そういう作風なので、各楽曲はまったくコンセプト関係なしの単体の楽曲としても聴くことができる、という作風なんですね。
歌詞をちゃんと読み込むと、すべてがジャガーとマリーが登場する訳ではないし、一見、ストーリーに関係ないように思える楽曲もあります。
『現代を描写する俯瞰的な視線=ジャガーの魂からみた視点』という構図のようでもあり、闇に染まったジャガーが現代人に憑依して欲望の限りを尽くしているようでもあり。
ジャガーは物語の主人公でありながら、ストーリーテラーみたいな位置づけでもあるというか。
なので、『コンセプトアルバム』っていう謳い文句を聴いていると敷居が高く感じられるのですが、実際はそんなに小難しくはなく、ただちょっとダークな楽曲が多いかなって感じですかね。
ロビンが崇拝するデビッド・ボウイってどんな人?
イエローモンキーはインディでの1作目『バンチドバース』の頃から、グラムロック、とりわけデビッド・ボウイからの影響がそこかしこに感じられるのですが、それを強く感じられるのは本作までで、次作『スマイル』からはデビッド・ボウイ色どころか、グラムロック色も希薄になっていきます。
ロビン曰く
「本作はデビッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』を目指して作られている」
とのことなので、この際、デビッド・ボウイってどんな人なのか解説しておきましょう。
デビッド・ボウイは世界中のミュージシャンからリスペクトされる、まさにミュージシャンズ・ミュージシャンの象徴。
ご覧の通り、
度し難いほどのイケメン
です。
普通にしてたら生前のリヴァー・フェニックスもかくやというほどのイケメンなんですが(ボウイのほうが歳上だけど)、頭のネジがぶっ飛んでるので、宇宙人みたいなかっこばかりしています。
そしてそのネジのぶっ飛んだような発想は、とても普通の人が思いつくようなレベルではなく、他のミュージシャンに計り知れないほどの影響を与えています。
『20世紀にもっとも影響力のあったロックミュージシャン』
とも称されてますからね。
この人の場合はもはやミュージシャンという範疇さえ超えてしまって、ほんとうの意味での『アーティスト』と表現するのがぴったりでしょうね。
その実験的で前衛的なセンスは音楽性のみならず演劇、ファッション、映像という分野にまで発揮され、日本の映画『戦場のメリークリスマス』でも北野武、坂本龍一(YMO)らと共演したり、
山本寛斎のデザインした斬新なファッションをステージに取り入れたりと、日本文化をこよなく愛する面も持ち合わせおり、親日家で有名です。
そのためか、日本ではファンも多く、日本ロック界ではXやLUNASEAに代表されるヴィジュアル系に区分されるミュージシャンたちのファッションは、すべてボウイからの影響下にあると言えます。
そもそも『ヴィジュアル系』という言葉の生みの親であるXのhideがめちゃめちゃ影響受けてます。
また、ジャンルを飛び越え、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者・荒木飛呂彦先生も影響を受けており、『ジョジョ立ち』で知られる独特のポージングにも影響を与えています。
ここまでのイエモン解説記事ではデビッド・ボウイを『グラム・ロック』という語り口で語ってきましたが、それはイエモンが最も影響を受けている時期であるということであって、本来のデビッド・ボウイは時期によってその音楽性を千変万化させます。
ざっくりと大まかに分けても『グラムロック期』『ソウル期』『ベルリン期』『ダンス期』『バンド期』『インダストリアル期』『ナチュラル期』とこんなに変わってるんですが、詳細に言えばアルバムごとに全部違います。
1947年生まれで2016年にガンで亡くなるまでに生前残したアルバム枚数は28枚にものぼり、その旺盛な創作意欲は亡くなる直前まで失われることはありませんでした。
で、世間一般的に「デビッド・ボウイってこんな人」とまっさきに思い起こされる時期が初期の『グラムロック期』で、ジギー・スターダストというロックスターキャラを演じていました。
T-REX、ロキシー・ミュージック、モット・ザ・フープルらとともに4大グラムロックバンドと呼ばれていた頃ですね。
一つ間違えばゲイすれすれの際どいファッションは、もはやこの世の人間とも思えないほどで、宇宙人みたいでもあります。
イエモンは1作目『バンチド・バース』2作目『夜行性のカタツムリ~』3作目『エクスペリエンス・ムービー』と3作のジャケット全てに『両性具有』『女装』というキーワードが隠されているのは、この頃のデビッド・ボウイのイメージなんですよ。
後進ミュージシャン達に多大なる影響を与え続けたボウイは、がんと闘病した晩年はギリギリまでラストアルバム『ブラックスター』を制作し、リリースの翌日に息を引き取ります。
アーティストとして前のめりな姿勢のままであの世へ旅立ちました。
『バンド・イエローモンキー』として頂点の作品
実は私、本作『ジャガー~』と前作『エクスペリエンス~』は、1作目『バンチドバース』~5作目『スマイル』までの初期5作の中では一番好きです。
どっちが?と言われてもトップ2としか言えないのですが。
この頃っていうのは、売れていないからこそ各メンバーのエゴが出ています。
そこが次作『スマイル』以降と決定的に違う点です。
売れる楽曲というのはプレイヤーエゴとは真反対に位置します。
各パート、つまりギター、ベース、ドラムは『皆に心地よく響く歌を邪魔しないような存在』であることに徹することが多いです。
『歌』なんですよ、つまるところ売れるために重要なのは。
耳に残るキャッチーな歌メロ。
なので色んなバンドがやっぱりセールスが成功してからは、どんどんシンプルな楽曲になっていく傾向が強い。
それはイエモンも同じです。
私はバンドの初期が好きな傾向があります。
なんでかって言うと、『歌を聞かせる』っていうことよりも『各パートが自己主張する傾向が強い』からです。
『歌』に注目すれば多くの人に響く曲ではないのかもしれない。
けれども、各パートがバチバチにエゴを主張して火花をちらしている作品が私は大好きだし、それこそが『バンドらしい』と感じてしまう人間です。
バンドって売れてくると、まず『売れる歌ありき』になってしまい、各パートのエゴが引っ込んでしまうんですよ。
それって私のように実際にバンドを演奏する側の人間からすると
「これって誰でも演奏できるし、この人が演る必然性ってものがないよね」
って感じてしまうんですよ。
ソロシンガーとバックバンドっていう関係ならばそれでもいい。
けれども、仮にもバンドを名乗るからには歌っているシンガーと同等に、ギター・ベース・ドラムも同じくらい自己主張してほしい。
メンバーそれぞれが
「俺が主役だ!」
ぐらいの勢いでプレイをしてほしい。
そう、かつてのクリーム、ブラック・サバスやレッド・ツェッペリンのように。
これはあくまで私の個人的な嗜好であって、楽曲の良し悪しとは別です。
例えば、先日まで全アルバム解説をしたサザンオールスターズ。
サザンは桑田佳祐というお人の『歌』を聴かせるために他のパートがあり、ほとんど自己主張していない。
桑田佳祐のサポートみたいに見える。
もちろん、それ自体を否定するわけではなく、楽曲が聞いていて素晴らしければそれを否定する理由にはなりません。
けれども、いちバンドマン(プレイヤー)としては、初期のバッチバチにやり合っていた頃は、楽曲のクオリティこそ後期の完成度に及ばずとも、また違ったものとして愛着があるんです。
魂が熱くなるんです。
「やっぱ松田さん(サザンのドラマー)はこんぐらい叩いてくれなきゃ!」
みたいな(笑)。
イエモンもまさにそう。
特に、この『ジャガー・ハード・ペイン』(前作『エクスペリエンス~』もそう)は各パートのミュージシャンエゴが高い次元でぶつかり合っていて素晴らしい。
これにハマったら、次作以降の作品は楽曲が素晴らしくても、ちょっと物足りなくなることがよくあります。
っていうか優等生に見えちゃう。
エマも、ヒーセも、アニーも、ガンガンに攻めてくる本作の魅力は、次作以降からは減退していくからです。
はっきり言って、『フォー・シーズンズ』から遡ってきた私からすると、エマのギターは
「え?こんなに弾きまくってロビンからクレームこないの?」
って思うし、ヒーセのベースは
「ベースの音量をここまで上げさせるには相当意見を主張しなきゃ無理でしょ」
って思うし、アニーのドラムからは
「叩き過ぎでちょっとうるさいけど、問答無用にかっこいいから他のメンバーを黙らせてる」
って感じがビンビンに伝わってくるんですよ。
まるで音楽がビッグ産業化(ショウビジネス化)していない古き良き時代を感じさせるというか。
そういうわけなので、バンド・イエローモンキーとしてのエッセンスが凝縮された作品としてはここが頂点かな?と思います。
今でもコアファンから絶大なる支持を得ている本作。
出すタイミングさえ間違わなければ、もっと多くの人に認知される名盤足り得たのに…
2.1万枚しか売れなかったっていうのは…もったいない。
『ジャガー・ハード・ペイン』楽曲解説
#1『SECOND CRY』
戦地で死んだジャガーが、死ぬ間際を思い出すところから始まります。
死んでも死にきれない想い、現世への執着は別れた恋人への想いなのでしょうか?
「お前に魂を売ってやる お前に全てを売ってやる お前に薬を射ってやる」
の部分でのロビンの感情移入が半端ないです。
悪魔に魂を売り渡したかのように、人間であった頃の善のタガがはずれ、闇に染まっていくジャガー。
これだけで本作が並々ならぬ意気込みで制作されていることが伝わってきます。
ちなみに私、この曲かなり好きなんですが、『イエモン・ファンズ・ベスト・セレクション』での人気投票では41位に入っており、実は人気高いです。
この曲とか『悲しきアジアンボーイ』とかって、のちのアルバムで確立される『いわゆる皆がイメージするイエモン像』の雰囲気が出始めてますよね。
#2『FINE FINE FINE』
前作に引き続きダークだな~。
このアニーのタム回しすごい迫力。
兄貴の悪魔的な余韻のギターも超かっこいい。
けど、やっぱりこのアルバムを裏で引っ張ってるのはヒーセかな。
この人ってツボを抑えることにホントに長けてるよな~。
シンプルだけど、いやシンプルだからこそ一番センスが求められるプレイをしているから、この人の偉大さは伝わりにくいんですよね。
ギターリフと同じくらいベースラインが目立ってて、ギターとベースが絡まって1つの楽器みたいな。
まるで初期のブラックサバスみたいです。
あまりにもサウンドに迫力があるんで、
「インディの『ウェルカム・トゥ・マイ・ドッグハウス』もこの迫力で録り直してくんないかな~」
とか思ったのは私だけじゃないはず。
っていうか、ジャガー大丈夫か?
かなり邪悪な匂いがプンプン。
#3『A HENな飴玉』
『A HENな』というのは「あ、変な」と麻薬の「アヘン」の2つの意味があります。
前曲に続きこれまたダークすぎる。
スピード感で攻めてきます。
イントロのエマのリフがかなりヒステリック。
救いようもないほど自堕落に落ちるところまで落ちていく雰囲気が見事に表現されてます。
#4『ROCK STAR』
本作の中では浮いているという声が多いですね。
「調子いいかい?」
ってほぼパーリーピーポーですもんね。
なんか雰囲気がやたらとオアシスの1stっぽく感じます。
イエモンって絶対オアシス好きだと思うんですよね。
この曲に関しては、歌詞も本作の流れとあまり関係がないようにも感じます。
アルバムの流れとしてはともかく、楽曲単体としてはすばらしく、しっかりイエモン節が光ってます。
『イエモン・ファンズ・ベスト・セレクション』での人気投票では33位に入り、本作の中では『悲しきアジアンボーイ』(16位)に次ぐ人気曲です。
そう言えば、フェードアウトで終わっていくイエモンの楽曲って珍しくない?
#5『薔薇娼婦麗奈』
タイトルが漢字6文字なので、ちょっと気圧されるのですが、本作の中ではちょっとおもしろい作風の楽曲です。
のっけからギターリフがメタルっぽい始まり方ですが、アコギが入っているのがやはりイエモン流。
フラメンコ調のようで、ちょっとオリエンタルな響きがあります。
いかにも情熱のスペインを彷彿とさせますが、ドロドロとした雰囲気が入ってきて一筋縄ではいきません。
間奏部分は新境地で、これはオールマン・ブラザーズ・バンドのようなブルースバンドのそれを感じさせますし、そこにやっぱりスパニッシュな匂いもして、他では味わえない雰囲気が出ています。
このオリジナリティすごいな。
最期はバイオリンが悲哀を演出しててベリーグッド。
『イエモン・ファンズ・ベスト・セレクション』での人気投票では37位に入り、本作では3番目に人気の高いナンバー。
#6『街の灯』
「恋人探しも楽じゃないのさ」
これまでの情念渦巻くドロドロの世界観から一転して、のんびりとおおらかな雰囲気にガラッと変わります。
ズンタッタ~ズンタッタ~。
3拍子のワルツですね。
『薔薇娼婦麗奈』でのフラメンコもそうだったのですが、本作はロック以外の要素が上手く取り入れられていて、ロビンの音楽的バックボーンの広さに驚かされます。
前作に収録された『PUFF PUFF』とかも、どこかの国の民謡っぽかったし。
ああ…セーヌ川が見える(笑)。
この曲好きだな~。
っていうかこの曲がここで来なかったらちょっと重すぎますからね。
しかし、一服の清涼剤というには楽曲がしっかり作り込まれており、かっこいいです。
ミュージカル的というか、映画サントラ的な音楽ですね。
#7『RED LIGHT』
劇団女優のボーカルで始まります。
「さ、さびしい…。きっと救いのないお話に違いない。」
始めてこの部分を聞いた時、なんか、映画『火垂るの墓』の節子が頭をよぎったのは私だけ?
まあ、内容は戦争ではなくまたもや娼婦のお話ですが。
ジャガー、あんたほんとにマリーを探してんのか?
病的なまでにセックスを求め彷徨うジャガー。
いや、もはや堕ちるとこまで堕ちてしまった狂ったジャガーは、マリーの記憶もなく、ただ欲情に溺れることで何かを思い出そうとしているのかもしれません。
タイトルの『レッド・ライト』というのは『赤線』のことで、赤線というのは戦後に売春が行われていたエリアのことを指します。
衛生環境も労働環境も劣悪な状況で働く街娼たちは当然、健康状態も良くなく、やはり何かしら病んでいる。
それが分かるのが「エフェドリンなため息」という表現で、エフェドリンというのは喘息を抑える薬です。
なんて救いのない歌だ…。
もう、歌詞を読みたくない、痛々しくて…。
しかし、胸に刺さってくる。
こういう世界観の曲をかけるところに、ロビンの昭和歌謡の影響を強く感じてしまいます。
「君はバカじゃない」
ホントにそうなんですよ。
時代を呪うしかない。
#8『セルリアの丘』
ふと正気に戻ったジャガーがマリーに思いを忍ばせているのでしょうか?
この曲に激しい感情はなく、ただただ打ちひしがれているようです。
絶品のピアノプレイは、ロビンが敬愛するグラムロックバンド・モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーです。
この縁がきっかけで、後にモーガンが企画するモット・ザ・フープルのトリビュートアルバムに参加し、名曲『ホナルーチ・ブギー』をカバーします。
エマのギターソロの素晴らしさも負けてません。
エマって決してメタル的な速弾きをせずに、しっかりメロディを構成するのが素晴らしい。
#9『悲しきASIAN BOY』
ここでシングルカットされた代表曲の登場です。
「イエェェェイ!!!!」
というロビンの高らかなシャウトで突き抜けます。
堂々として貫禄さえ感じますよ。
まるで
「俺たちがイエローモンキーだ~!!!!」
って宣言してるみたい。
明るいな~。
イエモンのライブではほぼ必ず演奏されるほどの人気曲です。
『アンセム的』という意味では並ぶもののない曲でしょう。
この曲ってライブの1曲目の鉄板にすればいいのに、アンコールとかが多いんですよね。
『スパーク』と並ぶくらいオープニングにピッタリだと個人的には思っております。
イエモンを初めて聞く人にはこれを最初に聴かせたいと言うか。
ロビンのボーカルメロディといい、エマのギターといい『まさにイエモン』なナンバー。
この曲からも分かるように、売れるための音楽性はとっくにできあがってるんですよね。
歌詞の内容としては、ジャガーがまだ死ぬ前のマリーとウブな恋をしていた頃、純粋で意気地のない少年だった頃のお話といったところでしょうか?
#10『赤裸々GO! GO! GO!』
う~ん、ツッパリ・ハイスクール・ロックンロール!
ビー・バップ・ハイスクール!
いや、なんとなく(笑)。
ライブでのヒートアップぶりはすごいですね。
#11『遥かな世界』
最初聴いたときは別になんとも思わなかったのですが、聞けば聞くほどじわじわ好きになってくる味わい深さを持った曲ですね。
「もう痛くない」が最期にカタカナで「モウ イタクナイ」になるのは、「ここに居たくない」という意味にも受け取れるし、ジャガーの意識(自我)が崩壊していくのを表現しているようにも感じます。
物悲しい。
#12『MERRY X’MAS』
エンディングは7分の大作です。
冒頭で「あなた」という呼称を使っている部分はマリーのセリフ、そして「君」という呼称を使う部分でジャガーに切り替わります。
ようやくジャガーがマリーの元へたどり着きます。
季節は雪降るクリスマス。
最期のロビンの叫びはイエモン史上最高に熱く、悲しい叫びです。
ロビンはいわゆるロックバンドのボーカリストとしてはかなりキーが低いと思いますが、高音域でなくてもここまでの表現ができることを証明した特異なボーカリストだと思います。
世の中の殆どの男性同様、私のような声が低い人でも、ちゃんとカラオケで熱唱できて涙まで出てくるっていうのはイエモンならではです。