『ジェラシー』を解説。Xメンバーの個性がまるごと見える作品

どうもSimackyです。

本日は1991年リリース、3作目の『JEALOUSY』を解説していきますよ。

このブログを通してXの素晴らしい音楽に目覚める人が増えることを願っています!

TAIJIの貢献:「BlueBloodは音が悪い」と言われた彼らの劇的な音の進化

この『JEALOUSY』、前作『BLUE BLOOD』からの変化は何と言ってもまず一番に挙げなければいけないのは

『音の進化』

これでしょう。

私が友人にもらったアルバム『singles』から7曲選んだテープでは前作『BLUE BLOOD』から『紅』と『ENDLESS RAIN』が入っていましたが、

その時点で『silentjealousy』や『JOKER』『Say Anything』と並んでいても音の古さは気になりませんでした。

しかし、『BLUE BLOOD』のオリジナル・アルバムで2曲目のタイトル曲が流れた時は「あれ?」ってなったんですね。

そして3曲目『WEEKEND』を聴いた途端、肩からガクッと来たんですが、

なぜか『BLUE BLOOD』は曲ごとに音のバランスや音質がかなり違っているようです。

それがこの『JEALOUSY』にはほとんどないですね。

現代ではあまりないかもしれないのですが、ライブでの生の音の迫力とスタジオレコーディング後の音のギャップは常に世界中のバンドの悩みの種でした。

アンプやスピーカーなどの『音を出力する機材の進化』が、マイクなどの『音を拾う機材の進化』よりだいぶ先を行っていたんだと思います。

「なんでライブではあんなすげー音が出ているのにレコード(もしくはCD)ではこんなチープな音になっちまうんだ?」

ロック黄金時代の1970年代で代表的な話をするとXも大好きなKISSがその1つですね。

ライブでは爆発音と轟音と派手なパフォーマンスで観客を魅了していたKISS。

でもオリジナルアルバムでの音の薄っぺらさ(笑)。

特に1枚目とかひどいです。

かえってライブ盤『ALIVE!』のほうがはるかに迫力があって本質に近い出来あがり。

これが売れた売れた。

そういう例もあり、同時代のもう一つのハードロックのカリスマAEROSMITHなんかは、

「だったらライブみたいに撮ればいいんじゃないか?」

と、4作目の『ROCKS』であえてライブに近い環境で撮るためにガレージ(車庫)でのバンド一発撮りを試してみたりしていました。

METALLICAみたいにそれまで3作はド迫力のサウンドで録れていたのに、4作目『メタル・ジャスティス』でいきなり音作りに失敗して、

「これってリズムマシンでももうちょっとマシな音にならないか?」

ってくらいひどいドラムの音になったり、ベースが全く聞こえなかったり、、、。

それくらい、音質や音のバランスというのはミュージシャン達を悩ませてきたわけです。

そして我らがXも1枚目『vanishigvision』、2枚目『BLUE BLOOD』とその音作りに苦しみました。

HIDEは1枚目『vanishigvision』を振り返り、

「もう音楽を続けていくことを辞めようかとさえ思った。何のためにここに来たのかってくらい思いつめた」

と語っています。

3作目を作るに当たり、バンドのテーマは本場アメリカのサウンドを吸収することでした。

特にTAIJIは問題意識が相当強かったらしく、現地で知ったバンドのCDを研究しては、メンバーに聴かせ

「こういう雰囲気の音作りがしたいんだよね」

と語ったといいます。

『2次元的に薄っぺらい音じゃなく3次元的に奥行きのあるキラキラしたサウンド』

これがTAIJIが求めた理想のサウンドだったらしいです。

そのなかでマノウォーというヘヴィメタルバンドのアルバムに着目し、

「これはHIDEに聴かせるとピンとくるはず」

とHIDEに聴かせたところ、意気投合。

そしてこの『JEALOUSY』の音が出来上がったというわけです。

この音を作ることに対しての貢献度の大きさ。

このアルバムはTAIJI抜きには語れません。

いいですねー、この当事者意識というか、YOSHIKI以外のメンバーが主体的にXを引っ張る感じ。

これがTAIJI脱退後のXに残念がらなくなったものなんですよね。

出来上がったサウンドは文句なし。

ドラム、ギター、ベースが当時としては最高の音で撮られています。

特にギターはいいですね。

音が低音部分までしっかり聞こえてくるのでリフの凄みがある。

『silentjealousy』でのリフなんて、X史上最高のリフに挙げる人も多いのでは?

ザクザクの高速低音リフに爆走するツーバス。

鼻血出そうなくらいです(笑)。

そして何と言ってもTAIJIのベースがしっかり聞こえてくる。

前作と今作を聴き比べると『ベースがバンドのグルーブ感を作っている』ということに気付かされます。

あのベースにしか出せない独特の『うねり』というものは、スラッシュメタルのようなジャンルの楽曲では、

ともすればほとんど聞こえないようなものも多いのですが、このアルバムではしっかり存在感を発揮しています。

特に#3『Miscast』や#4『DesparateAngel』#9『JOKER』なんかのミドルテンポの曲ではっきりと分かります。

いいですねー、この骨太なハードロックサウンド!

めっちゃ硬派。

全然、『日本のヒットチャートに入っているバンド』っぽくない音作り。

ハードロック、ヘヴィメタルフリークまで唸らせるソリッドでスピード感がある暴力的なサウンド。

曲の構成にも必ずフックがあり、TAIJIとHIDEのアレンジャーとしてのこだわりが強く感じられます。

特にHIDEは、まだソロを開始していないこの時期は、わりと発想がマニアック。

「ロックわかんねぇ奴は聴くな!」みたいな感じがバリバリ出ていた頃で大好きです。

神曲『Silent Jealousy』

このアルバムはこの神曲抜きには語れません。

実質的なタイトルナンバーであり、実質的なオープニング曲が#2『Silent Jealousy』です。

この曲はなんと表現したら良いんでしょう。

『紅』のようなあからさまな激情は感じないんですよ。

押し殺したような殺気が漂う異常な緊迫感で張り詰めたナンバーです。

そして物悲しく、ドラマティック。

人間のあらゆる感情の振り幅をこれだけ1曲の中に込めた楽曲を他に知りませんでしたから、当時の衝撃は凄まじかったです。

この後の『ART OF LIFE』でファンはさらに腰を抜かす事になるのですが、こうして改めて聴いてもこの曲もやはり伝説の名曲です。

YOSHIKIの生き様、狂気のような死線スレスレのドラミングといった要素が、曲のドラマティックさで完璧に表現されているというか。

津田直士さんもライナーノーツで語っていましたが、曲を「作る」ではなく「生む」というのはこういうものを指すんでしょうね。

高校生の頃を思い出すと、当時この曲に衝撃を受けた割には、意外に人気ランキングであまり上に来ていなかった印象があります。

しかし、You Tubeの時代になりこの曲が『神曲』としていろんなところで語られるようになった印象があります。

プレイヤーとしてはヨダレが出るほどドラムもギターもおいしすぎる。

ちなみにギターリフに関してはこの曲が、この世のありとあらゆる楽曲の中で一番好きです。

ブラック・サバス、レッド・ツェッペリン、メタリカ、ニルヴァーナ・・・

伝説のリフメイカー達は歴史に数あれども、これが最高。

私はリフメイカーとしてのHIDE/PATAコンビは過小評価されすぎだと思ってます。

作曲者のバランスが変わった

それからこのアルバムの特色で次に挙げたいのが

『作曲者のバランス』

前作は12曲中8曲がYOSHIKI、1曲がHIDE、1曲がHIDEとTAIJIの共作、1曲がカバー、1曲が全員作曲に携わる、というバランスでした。

YOSHIKI色が非常に強かったんですね。

それが今回は10曲中4曲しかない。

YOSHIKI4曲、HIDE3曲、TAIJI2曲、PATA1曲で全10曲ですね。

しかもYOSHIKIの4曲のうち1曲は2分弱で終わるインスト小曲の『EsDurのピアノ線』なので、

実質3曲の印象ということを考えると、かなりYOSHIKIのカラーが後ろに退いた印象があります。

もっとも本来であれば30分の大作『ART OF LIFE』が入る予定だったし、

『StandingSex』も入っていれば前作のようなYOSHIKI色を感じたんだと思いますが。

ただ、TAIJIの自伝によると前作『BLUE BLOOD』では、

これだけの作曲能力があるメンバーがたくさんいるにも関わらずYOSHIKIの曲が多くを占めたことから、

「リーダーだからってやっていいいことと悪いことがあるだろ!?」

とYOSHIKIに食って掛かったそうなので、そのあたりへの配慮があり、こういうバランスになったのか、たまたまなのかは分かりません。

ガンズ・アンド・ローゼズの『ユーズ・ユア・イリュージョン1・2」のように

メンバーの作曲能力がいかんなく発揮されたすべての曲がボツなしで2枚組にどっさり30曲入ったようなのも

聴いてみたいという願望はXマニアなら絶対あるでしょう、ねえ、皆さん。

Pata、Taijiの個性

で、作曲者のバランスが変わったことで、

前作にないカラーが出ているのが『アコースティック』や『打ち込み』の要素ですね。

#5『White Wind From Mr.Martin』

#6『VoicelessScreaming』

PATAやTAIJIによるアコースティック色が出ています。

#5なんてそれまでのXのアルバムにはまずもって絶対想像もできない要素ですよね。

喜怒哀楽のどれかの方向の感情が常にMAXである極端なXの楽曲群の中にあって、

肩の力を抜いた『昼寝』のようなリラックスした空気というのは、PATAならではの個性ですね。

『命がけのYOSHIKIの隣で平然と昼寝をかますPATA』

こういう雰囲気の曲をアルバムに入れることを許可したYOSHIKIに、

前作からのリーダーとしての成長を感じるのは私だけでしょうか?

それだけ、前作までのYOSHIKIには『自分の美学に固執』している印象を受けましたし、イメージ戦略的にも「俺達はこういうイメージで売っていく」という明確に見えていたビジョンがあったのでしょう。

けれど、自分の戦略は一旦脇において、メンバーの個性と能力を信じ、メンバーに好きにさせてみることで出てくるものを面白がる『余裕』が見え隠れします。

このバンドとしての奥深さ、関係性がオリジナルメンバーのたまらない魅力でもあります。

『VoicelessScreaming』に関しては『破滅に向かって』のレビューでも書きましたが、この曲はLED ZEPPELINの『天国の階段』に匹敵するほどの名曲だと私は思っています。

TAIJIの才能はおそろしいです。

この曲で使われているクラシックギターというものは、エレキギターのようにピックで演奏するものではなく、『指』を使って演奏します。

アコギみたいな見た目ですけど、弦が違います。

つまり『普通にロックバンドやっていてはあまり身につかない演奏方法』を新しく取り入れて、曲を作っているんですね。

貪欲さがすごい。

初期ローリング・ストーンズにシタールを持ち込んだリーダー:ブライアン・ジョーンズのようですね。

なんでも器用にこなすマルチプレイヤーなのでしょう。

そしてコピーしようとすると意外にめちゃくちゃ難しい。

テクニック的にも楽譜的にも(ドラマーがちょっと手を出すにはハードル高すぎました)。

HIDEも「あんな難しい曲弾けない」と語った逸話があるほどの難曲。

しかしだからといってギター(TAIJI)はこの曲の主役ではないんです。

主役はTOSHI。

Toshiの新たな一面

この『VoicelessScreaming』の歌詞はTOSHIが書いています。

これまでYOSHIKIの描いた世界観を忠実に再現する、演じることが役割だったTOSHIが、この曲で初めて自己表現をしてます。

当然アコースティックナンバーを歌うTOSHI、自分自身の心の叫びを歌い上げるTOSHIをこのアルバムで初めてお披露目することになったわけですが、

これがまた、YOSHIKIに引き出されている部分とまた違った側面が引き出されていて非常に興味深いです。

この曲、当時高校生の私には良さがあまり分からなかったのですが、大人になるにつれ、心にどんどん響いてくるから不思議です。

大人の階段を登ったことを実感できる曲とも言えるでしょう(笑)。

『違う一面』という意味では、#3『Miscast』や#4『DesparateAngel』#9『JOKER』の楽曲群もそうです。

YOSHIKI作曲のナンバーは『紅』や『ENDLESS RAIN』に代表されるような伸びのあるハイトーンボイスが一番に思い起こされると思います。

しかし、これら3曲(『Silent Jealousy』もかな?)では早口でまくし立てたり、時に悪魔的であったり、

非常に歯切れのよいロックヴォーカルが特徴です。

この方向性でもう少し進めてもらいたかった気もしますが、

残念ながらこのアルバム以降はこのヴォーカルスタイルはなくなっちゃうんですよね。

Hideの実験的な試み

次にこのアルバムの『打ち込み』の要素が表れているのがHIDE作曲の#8『Love Replica』。

このアルバムを貸してくれた友達はすでに「HIDEのソロの方がXより好き」と公言してはばからなかったので、この曲をイチオシししてきました。

まあ、「それはいくらなんでも極論すぎるだろ」と最初はバカにしていたのですが、気がつくと病みつきになります。

HIDEは後にソロでやって行く方向性がすでにXの頃から見えていますし、

Xで実験して取り入れた方法論を確実にものにしているのが分かります。

明るくポップな方向性の『Celebration』『JOKER』、マイナーで攻撃的な方向性の『sadisticdesire』や『Miscast』、そして打ち込み要素のこの曲ですね。

「なんかこの曲、まるでライブの『HIDEの部屋』からそのまま抜き出したみたい」

これが『破滅に向かって』のビデオを見た直後にこのアルバムを聞いた時の印象です。

あの『HIDEの部屋』でのトラウマが蘇りました(笑)。

この頃のHIDEはマニアックでアヴァンギャルドな要素が強かった。

だからXの中で一番うす気味悪く怖かった。

でも強烈に惹きつけられる、ライブ映像でも目がついつい追ってしまう、そんな魅力がありました。

「蛾(が)と思ってたらよく見れば見るほどキレイな模様が入ってるな」みたいな(笑)。

後のソロhideから入った人には想像もできないでしょうけど。

当時の時代背景を考えてみてください。

今と違いネット社会じゃないから情報が極端に少ないんです。

HIDEってどんな人間?っていう情報はCDのジャケット写真なんかを見ながら想像するしかないんです。

インタビュー記事なんかを豊富に読める環境なんかもありません。

高校生の少ない小遣いでCDやビデオ買いまくったら音楽雑誌は買えないし。

Xの活動が日本で行われていないから、ミュージックステーションもソロで出演するのですが、

そこで裸のネーチャンが金網をよじ登っているみたいな過激な映像だったり、

泥まみれでシャウトする映像が流れるものだから、

HIDEという人間への恐怖は増幅されていく一方なんです(笑)。

同時期に借りたHIDEのプロモーションビデオ集『A Souvenir(ア・スーベニア)』ではプレゼントの包装紙を破ると人間の内臓が出てくるという無茶苦茶グロテスクなオープニングだし(笑)。

ソロになってそういう方向性をやりまくるんだと思っていたら、

思いっきりポップでキャッチーな方向性に振り切れたのは正直かなり意外でした。

私がこのアルバムを聞いている時にタイミング的にはソロの『TELL ME』が出たので、聴いた時はかなり意外に感じたものです。

Xでやり尽くしたんでしょうかね(笑)。

Xの真骨頂は寡作にあり

こうして今回このアルバムのレビューを書いてみて思ったのが、Xの寡作(作品が少ない)さと、1曲ごとのクオリティの高さですね。

これじゃあ、ライブのセットリストあんまり増えないよね(笑)。

フルアルバム10曲とはいえ、メンバー単独の小楽曲が#1『EsDurのピアノ線』,#5『White Wind From Mr.Martin』でしょ?

で、#6『VoicelessScreaming』と#8『Love Replica』はそれぞれTAIJIとHIDEのソロコーナーでしょ?

しかも#7『Stab Me In The Back』はインディ時代からあった曲でBlueBloodツアーでもやってたし、『SAY ANYTHING』はYOSHIKIが納得いかなかったらしくほとんどライブで演奏されなかったんですよ?

ってことは、全員で演奏する純粋な新曲としては4曲しか増えていないわけですよ(笑)。

これで『JEALOUSYツアー』やれちゃうんですから凄いですよね。

でも、よく考えれば前2作、特に『BlueBlood』にライブで外せないど定番曲がしっかりあるから、

色々作ってもセットリストを大幅に変えることは結局できないんじゃないかな?

だって『紅』『ENDLESS RAIN』『X』『オルガスム』の4曲のうち1曲でも欠けたら暴動起きそうじゃないですか(笑)?

この4曲が鉄板であり、さらに各20分はあろうかというYOSHIKI、HIDEのソロコーナーがあり、

そこにあらたにTAIJI・TOSHIコーナーまで入ってくれば、

オープニングの『BlueBlood』を『Silent Jealousy』に変えたり、『セレブレーション』を『JOKER』にといったことしか変化がつけれない。

そんな中でも『サディスティックディザイア』や『WEEKEND』のように昔から支持される曲は人気高いから外せない。

こういう現象ってローリング・ストーンズとかの歴史が非常に長いバンドで起こることであって、

普通、まだメジャーでアルバム1枚しか出していないバンドに起きることじゃないと思うのですがね。

これこそ、Xの真骨頂だと思います。

つまり、Xのようにものすごく寡作で1曲1曲のクオリティが異常に高いバンドは、そんなに曲数を増やさなくてもいいんです(笑)。

ファンは十分満足できますし、いつまでも出るかどうかもわからない新曲を待つんです。

それって再結成した後の話じゃなくて、最初っからそうなんで。

「ニューアルバム」は気長に待ちましょう(笑)。


はい、というわけで、『JEALOUSY』解説でした。

X大好きな皆さんからのコメントお待ちしてます!

「昔Xが大好きだった」という方にも「なんかまた聴きたくなってきたな」と思っていてだければ幸いです。

no music no life! 

”音楽なしの人生なんてありえない!”

Simackyでした。

それではまた!

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