『WHITE ROOM』吉井和哉~前作から一変したバンドサウンド~
本記事はプロモーションを含みます。
どうもsimackyです。
本日は吉井和哉が2005年にリリースしたソロ2作目のオリジナルアルバム
『WHITE ROOM』
を語っていきたいと思います。
ソロ2作目と言いましたが、一応2作目までの名義は「yoshii Lovinson」になってます。
ストリーミングで探す時は、「吉井和哉」のところには出てこないので
「あれ?ストリーミングでは3作目からしか聴けないぞ?」
ってならないように気をつけてくださいね(笑)。
さて、それまでのイエローモンキーファンを良い意味でも悪い意味でも裏切りまくってしまった前作『at the black hole(以下「ブラックホール」)』。
まさにロビンがブラックホールの真っ直中にあることを感じさせる作風でしたが、今回は「WHITE ROOM」ですからね。
光明が差してきているように感じるではないですか。
それでは、この頃のロビンはどういう制作環境だったのか?
2004年頃からの流れを追ってみましょう。
実は本当の「ブラックホール」はこの時期だった…
前作「ブラックホール」がリリースされたのは2004年2月。
この作風と、リリース後の評価に満足しなかったロビンは、自分の中での煮えきらない気持ちを断ち切るために、イエモンを正式に解散させることを決断します。
2004年7月に解散発表がなされ、12月の東京ドームでのイベント会場で最後にメンバーが集結し、『JAM』を演奏したのが、イエモンとしての最後の活動となりました。
ちなみにこの7月の解散発表当日に、ロビンは東京から山梨のど田舎に引っ越します。
ずっと東京、都会という刺激的な生活で感じることを題材としてきたロビンが、それを捨てたということは非常に大きいです。
しかし、生活環境の激変は奥さんにかける負担も大きかったらしく、それが原因で夫婦関係がきしみ始めます。
「ブラックホール」の制作時期は、初めての1人制作に相当苦労はしましたが、日常生活は良き父親として極めて穏やかな生活を送っていたんですよ。
しかし、この時期は環境の変化が原因で夫婦間の信頼関係がどんどん悪化していくんです。
なおかつ、田舎で感じることをテーマにすることに対して、自ら望んでそうしているにも関わらず、これがなかなか上手くいかない。
「こんな辺鄙なところで、こんなことやってるべきなんだろうか?俺ってこのままでいいの?渋谷のアンダーグラウンドな人たちに向けて曲を書いていたような自分が、こんなのどかな環境で何が書けるっていうんだ?」
いやいやいやいや、今さらそれ言っちゃう?
決めたのはあなた自身でしょ?
もう、おかしいですよね、かなり。
つまり、ロビン自身この時期はまだ、イエモンの解散という環境の変化にまだ対応できていないんですよ。
そりゃ10年続いたバンド生活がポーンと消えてしまったわけなので、この時期は生活にしても音楽制作にしても暗中模索だったということでしょう。
ただそのフラストレーションはかなりのものだったらしく、ついに2005年の4月に爆発することになります。
大喧嘩となり、なんと
家を出ます。
別居です。
新しい家も、地下スタジオも出来たばっかりですよ?
しかも愛人作って。
ずっと辞めてた酒も飲み始めて。
ため込んじゃう人なんだろうな~(笑)。
夫婦は日頃から、『小ゲンカ』を数多くこなしておくことが『大ゲンカ』にならない秘訣です。
『大ゲンカ』になっちゃうと収集つかなくなります(痛いくらいの経験者は語る:笑)
で、ちなみにこの「ホワイトルーム」がリリースされたのは家出の直前の2005年3月。
ということは、本作の制作当時はイライラが爆発寸前にまで溜まっていた時期ともろにかぶるんですよ、実は。
アルバムタイトルは「ホワイト」って付くもんだから、ちょっと光が指してきたかのように見えて、実は前作よりも
よっぽどブラックホールな状況
で制作されているんですよ。
本人もインタビューで
「『ホワイトルーム』は『at the BLACK HOLE2』っていうタイトルでもいいかもしれない」
と語っていたのは、つまりそういうことなんです。
けれども、おそらく多くのファンが本作のことを
「ロビンがブラックホールを抜け出した作品」
だと認識していたと思うんですよ。
実際、前作ほどとっつきにくい作品ではありませんし、明るい曲調が増えてますから。
作風と精神状態の関係性ってのは一概に「こうだ」とは言えないものですね。
ちなみに、「音楽と人」という雑誌の2005年4月号では、3月にリリースしたばかりの本作に関してインタビューを受けているのですが、そこでは田舎での暮らしやそこに暮らす人たちのことを褒めちぎっていて、なかなか笑えます。
「あなた1ヶ月後にその暮らしに我慢できなくなって家を出ますからね!」
と言ってやりたい(笑)。
『ホワイトルーム』の作風とは?
本作には前作との決定的な違いがあります。
それは
密室性
ですね。
3年かけて、たった1人で部屋でシコシコ作曲して、レコーディングもドラム以外を全て1人でやった前作は、ものすごい密室性でした。
『たった1人で完結している作品』とでも表現すればいいでしょうか?
『他人の関与を許さない作品』とでも呼びましょうか?
「人に聞いてもらおう」っていう気持ちよりも、「自分が表現したいものを込めたい」っていう気持ちのほうが明らかに勝ってる。
「バンドアンサンブル」とは対極に位置するアルバムですね。
その意味ではやはり本人が言うように『決してその後超えることの出来ない』究極の自己表現だったのでしょう。
けれど、今回はオープンです。
閉じこもってません。
「みんなぁ、カモーン!」
って、そこまで明るいわけじゃないですけど(笑)、盟友エマちゃんを始めとしていろんな人が関わってます。
さらに言えば、前回はツアーをやっていなかったので、今回はライブが念頭にあります。
明らかにライブで演ることを意識はしてる作風ですよね。
これってその後のロビンにとって非常に大きかったと思うんですよ。
本作に伴うツアーは2回もやっていてその公演数は30本。
そこでどんどん元気を取り戻して、それが3作目『39108』の作風に繋がっていると感じるので。
やっぱり「ロックスターはもう辞めだ!」と本人は思っても、人前で演奏すると元気をもらえるんでしょう。
活性化するんでしょうね。
それがイエモン時代のようなロックスター然としたものではなかろうが、人前で演奏することはロックスター以前に、ミュージシャンとしての本質ですからね。
そう、本作でのロビンからは”ミュージシャンシップ”を感じます。
エマが加わってるから、
「おお!やっぱエマのギターがあると違うね!」
とか思ってると大火傷しますよ。
かっこいいリードギターがロビン自身の演奏の時もありますから。
つまり、ミュージシャンとしての腕を磨き続けているんですよ。
これが偉い。
それが傑作の6作目『アップルズ』での完全1人完結アルバムに繋がっていくのですから。
それでは楽曲解説行ってみましょう!
このアルバムは全曲良いですよ!
#1『PHOENIX』
硬派なアコギが掻き鳴らされた瞬間、グッと拳を握りしめたのは私だけではないでしょう。
それほど、前作の『20GO』のオープニングは衝撃的だったので(笑)。
タイトルのフェニックスの名の通り、ここには生まれ変わったロビンがいます。
「何度死んでも何度でも蘇って羽ばたいてやる!」
という宣言ソングですね。
いや~、しょっぱなから男:吉井和哉が出てきてます。
#2『CALL ME』
吉井ソロではトップクラスにお気に入りの名曲です。
ついにソロでもイエモンに劣らない名曲を生み出してしまいました。
そしてこれはソロとしての吉井和哉の魅力を完成させた瞬間ではないでしょうか?
「この曲はこのロビンの声、今のロビンの歌い方じゃないとダメ」
っていう風に感じたんですよ。
それまではいつも
「ああ、イエモン時代のロビンの声が恋しい」
とか思いながら聴いていたのに、この曲でそれが払拭されました。
歌詞も完璧。
なんて突き刺さってくるんだ。
「何年過ぎても同じさ 人が人の上を目指し」
都会的価値観に疑問を感じるっていうことは、商業主義的価値観への疑問と同義。
田舎に引っ越した生活がロビンに気づかせたものって、商業主義に染まっちまった自分自身ということではないでしょうか?
ロックスターも商業主義が生み出した幻想でしかないわけで。
この哀愁たっぷりのリードギターはエマです。
これがないとこの曲はここまでの完成度になりません。
これぞバンドアンサンブル。
#3『欲望』
メタルですな~。
非常に攻撃的でスリリングです。
ソロにおける「アイ・ラブ・ユー・ベイベー」といったところでしょうか?
ドアーズの「ハートに火をつけろ」に対して「ハートに火なんか点けないでくれ」と来ましたよ。
#4『WANTED AND SHEEP』
牧歌的な歌ですね。
タイトルを訳すると「指名手配と羊」。
指名手配犯が追われて逃げて囲まれて蜂の巣にされ鶏についばまれて骨になるまでのお話。
「羊」は指名手配犯に連れられた女なのか?
それとも別の何かなのか?
地味だけど、聴くほど染み渡ってくる良い曲です。
本作って、音楽的な世界観と歌詞的な世界観の統一感が素晴らしいですね。
#5『RAINBOW』
「線の細いボーカルだな~。これが今のロビンのスタイルだよな」
なんかもうちょいゴイって来そうで来ない。
どこまでも抑制の効いたボーカルスタイル。
けれどもバンドグルーブはがっつり生々しい。
いいですね~。
このベンチャーズのようなギターソロはロビンです。
ヘタウマですね(笑)。
#6『JUST A LITTLE DAY』
死んだ友人のことを歌ってます。
タイトルを直訳すると「ほんのちょっとの1日」。
そのほんのちょっとの1日を積み重ねていくと、人生の絵が出来上がる、と。
何が良いのかって説明できませんが、やたら好きな曲ですね。
だってポジティブなんだもん。
これまでのソロ楽曲の中でもっともポジティブなエネルギーを持っていると感じました。
で、最後のエマのギターソロがたまんない。
いや、このアルバムのクオリティやばいって…。
#7『FINAL COUNTDOWN』
前曲もかなりポジティブだったのですが、さらに輪をかけてポジティブです。
っていうかもはやポップです。
歌詞も内省的じゃありません。
もっともイエモン的世界観に近づいた、というか。
印象的なスライド・ギターはロビンとエマの二人でやってます。
#8『NATURALLY』
レビューを読むと意外と人気の高い楽曲です。
『自分励ますソング』ですね(笑)。
確かにリスナーを励ましているようにも受け止められるのですが、私は「めっちゃ自分を鼓舞してんな~」って感じました。
かなり独特の曲で、他の何とも似ていない曲ですね。
「ぶきっちょでまっすぐはいいんじゃない」
のところなんて、すごいセンス。
「気にするな貫け自己流」
のところのパイプオルガンみたいなとこもおしゃれなんですよね~。
#9『トブヨウニ』
本アルバムからの第1弾シングルです。
このキレの良いファンキーなカッティングはロビン本人ですよ。
最後のヘタウマなギターソロがまた味があって良いんだよな~。
本作ってギターソロの重要度高いですよ。
しっかりツボを付いたメロディ繰り出してくるんですよ、どの曲でも。
#10『FOR ME NOW』
なかなかロックンロールしてるナンバー。
珍しくシャウトするロビン。
この人を食ったような歌詞がかつてのロビンを思い出させます。
「あっちむいてホイをハイスピードでやっていたら人の言うことに首を縦に振れなくなったよ」
で、最後は
「あっちむいてホイでまた負けた」
でいきなり曲がブツって終わります。
最後まで人を食ってます(笑)。
#11『WHAT TIME』
あっというまのラストナンバー。
おいおいおいおい、結局、ここまで全部良かったぞ。
すごい完成度の高さだな、このアルバム。
すごい地味な印象が残るんですけど、これはスルメですよ。
で、ラストナンバーなんですが、冷たい潮風に打たれているような曲です。
ヒリヒリと冷たいんですけど、辛いんですけど、自分を信じようとしているように感じます。
この曲なんか、まさにブラックホールの真っ只中にいるロビンじゃないですか?
皆さんいいですか?
人生は
このまま黙って走れ!
はい、というわけで今回は「ホワイトルーム」を語ってきましたが、今回聞き返してみて、これは名盤だと思いました。
前作も良かったのですが、自分的には超えてきましたね。
着々と前に進んでいる感じがします。
結局、やっぱりソロになるっていうことは振り出しに戻ってるんだと思います。
イエモン時代の遺産をアテにしていないというか。
ゼロから出発して着実に積み重ねていっているんだと感じました。
進化が感じられるんですよね。
ソロ作品で一番好きという人がいてもなんら不思議じゃない出来です。
「吉井ソロは嫌い」
という人も、今一度聴き込んでみることをおすすめします。
吉井さんのソロの記事、ありがとうございます。
「CALL ME」は名曲ですよね。私もこれを聴いて、ソロになったからこそ出てきた曲であり、ソロになった意義があったんだな、と思いました。
個人的には、「枝切られる枝切られる都会では両手を伸ばせない」という感じのフレーズが好きです。(今、記憶で書いてるから間違えてるかも)東京行くたびに思い出します。
地方から上京してから感じていた疎外感とか、重圧がこめられたフレーズなのかなと思っています。
コメントありがとうございます!
最近、記事が更新できていなかったので、コメントいただいて恐縮です。
ところで、歌詞は間違ってないですよ(笑)。
私もその部分、大好きです。
人間性とか、感情とかを一つ一つ奪われていくような窮屈な都会の暮らしを、絶妙な言葉で表現しているし、その部分のロビンの歌い方がまた染みてくるんですよね~。
お陰様でやる気も出てきたので、4作目からもそろそろ進めていきますね!