『ユーフォリア・モーニング』クリス・コーネルのソロデビューアルバム
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
今回はクリス・コーネルが1999年にリリースしたソロデビューアルバム
EUPHORIA MOURNING
(ユーフォリア・モーニング)
を語っていきますよ。
先日、サウンドガーデンの解散前5枚をすべて語り終えました。
次は再結成後のラストアルバム『キングアニマル』に進もうとも思ったのですが、やっぱり時系列順に紹介したくなったので、今回は、サウンドガーデン解散後にリリースされた本作を紹介します。
サウンドガーデンも素晴らしいのですが、クリスのソロも素晴らしいので、この機会に聞いていただけると嬉しいです。
サウンドガーデンというバンド
さて、皆さんはクリス・コーネルという稀代のボーカリストをどのタイミングで知りましたか?
ある人は、2000年に衝撃の解散をしたレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのメンバーと結成したスーパーバンド
オーディオスレイブ
で知ったかもしれません。

オーディオスレイブ1作目『オーディオスレイブ』
「レイジが解散して心にぽっかり穴が空いていたところに、まさかボーカル交代して復活してくれるなんて!」
と、レイジのファンだった流れで知ったというパターンですね。
日本でレイジの人気はとにかく高かったから、レイジの解散から1年後に結成されたこのスーパーバンドは大歓迎され、そして期待通り、あるいは期待を超えてきたその音楽に熱狂したことでしょう。
またある人は映画『007(ダブルオーセブン)カジノ・ロワイヤル』を観て、主題歌『ユー・ノウ・マイ・ネーム』がかっこよかったから、クリス・コーネルという歌手を知った、という人もいるかも知れませんね。
けどね、クリス・コーネルといえば、私にとってはやっぱり
サウンドガーデン
なんですよ。
日本ではサウンドガーデンの人気なさすぎるから、
「サウンドガーデン解散⇨クリスのソロ」
という普通の流れよりも、
『レイジの解散⇨オーディオスレイブ⇨クリスのソロ』
という流れでたどり着いた人のほうが多いのでは?(笑)
しかしね、クリス・コーネルをせっかく好きになってもらったのであれば、絶対にサウンドガーデンは聴いてもらいたいですよ。
かつて1990年代に一大ムーブメントとなったグランジ・ミュージック…。そのムーブメントの発祥の地シアトルのアンダーグランドシーンにおいて頂点に君臨し、シアトル勢に先駆けてメジャーデビュー後は、4作目『スーパーアンノウン』の1000万枚セールスでロックシーンの頂点まで登り詰め、ニルヴァーナのカート・コバーンの死後、「グランジは死んだ」と言わたグランジシーンを1997年の解散まで牽引し続けた伝説のバンド…その名もサウンドガーデン。
おお、自分で書いておきながら、なんかかっこいいぞ(笑)。
まるで
激動の幕末時代…伝説と呼ばれた人斬りがいた…その名も『人斬り抜刀斎』…
みたいな(笑)
ニルヴァーナはカート・コバーンの死により1994年解散、パール・ジャムはカートの死による過剰な期待に耐えきれず失速(商業性の拒否)、アリス・イン・チェインズはボーカル=レイン・スタイリーの薬物依存により完全に活動休止状態…。
グランジシーンが尻すぼみに勢いを落としていったそんな1990年代において、サウンドガーデンは逆に尻上がりに人気を上げていった唯一のバンドです。
シアトルグランジシーンで一番の古株だったにもかかわらず、ブレイクしたのは一番遅かったという
超スロースターターなので(笑)。
そして、セールス結果こそ1994年の4作目『スーパーアンノウン』が頂点だったとはいえ、1996年の5作目『ダウン・オン・ジ・アップサイド』でも好調なセールス(全米2位)だったし、1997年までのワールドツアーでも全世界のファンを熱狂の渦に叩き込んでいました。
その盛り上がりはライブアルバムでも確認できます⇩

『LIVE ON1-5』
これはまず聴いてほしい。
インディ時代の曲からラストアルバム『ダウン・オン・ジ・アップサイド』の曲まで、代表曲を全て網羅してます。
このアルバムは1996年のライブを収録したもので、いやはや凄いテンションです。
まさに全盛期そのものですよ。
それだけに、1997年の突如の解散はファンにとってあまりにも唐突で、衝撃を与えました。
だって最後のコメントが
「サウンドガーデンでやりたいことはやりきったから解散する」
だったんですもの(笑)。
これってすごくワガママに見えるかもしれませんが、これこそが彼の生き方を象徴してる発言だと思いますね。
クリス・コーネルという人の“生きざま“
今まで応援してくれたファンに申し訳ないとかさぁ、せめてそういう気持ちが何かしら伝わるようなコメントをしようよ?
無骨すぎだろ。
とは言っても、カート・コバーンの自殺の仕方にしろ、サウンドガーデンの解散の仕方にしろ、やっぱりグランジ的なんですよね~。
というより、グランジの精神性そのものの終わり方というか。
生き様が散り様だったというか。
このあたりがガンズのアクセル・ローズとか、コーンのジョナサン・デイヴィスとかがグランジを批判する点なんですよね。
曰く
「グランジの奴らは自分のことしか考えていない。ファンのことを思っていない。そもそも“売れたくない“ってどういうことだ?売れてキッズたちに夢を見させんのが俺達の仕事だろうが!」
うん、まったくもって正論だと思います(笑)。
ただ、私の個人的な見解としては、色んな価値観のミュージシャンがいて良いと思ってます。
「売れたくない!ロックスターとして見られたくない!」
とか
「自分のためだけに音楽やってる!」
とか、そういう価値観が支配した特殊な一時代という意味で、1990年代は面白いと感じてます。
まあ、表向きはかっこよく伝わってますが、解散理由には
メンバー間の亀裂
も絶対にあったはずなんですよね。
ベースのベン・シェパードがライブの途中で帰っちゃったりとか、ありましたからね。
相当、溜まってはいたのかと。
ワールド・ツアーってやつはとにかく精神的な消耗が激しすぎるんですよ。
あんないつ終わるともない過酷なロードを2年も3年も続けさせられたら、そりゃ誰だってメンバーの顔も見たくなくなるってものです。
けれども、そんなことはどのバンドだってあるわけで、それくらいで解散してたら世界中の売れたバンドがワールドツアー直後に解散してしまうわけですよ?
けど、実情はそうはなってないでしょ?
みんな、それを耐えて、個人的な感情を押し堪えて、壊れた絆を修復したりして、ビジネスをうまく回していくわけです。
いわゆる“大人の事情”ってやつで。
サウンドガーデン、いやクリス・コーネルっていう人は、その“大人の事情”ってやつに屈するのが大嫌いな人なんだと思います。
シアトル勢では一番の先輩でありながら、ブレイクするのが一番遅かったのも、『売れる』ということに対しての拒否感が一番強かったからだと思うんですよ。
頭が良すぎるから、売れることを無邪気に喜べない性格というか、その先を心配してしまうというか。
彼は幼い頃に、家に引きこもって来る日も来る日もビートルズの音楽をひたすら聴きまくってたらしいです。
他の余計な付加価値はいらない、ただただ音楽と自分の内面がどう反応しているか?にしか興味がない。
売れた作品かどうか?評論家の評価が高いかどうか?賞を取った作品かどうか?
そんなことなんざ全く度外視して、音楽に没頭していたクリス少年のまんま大人になっちゃったというか。
だからロックスターとして振る舞わない、インタビューでも望まれる発言は分かっていてもしない、ライブでも盛り上げるためのパフォーマンスはしない(感情が発露した結果がパフォーマンスになることはあっても)。
そして非常にクレバーで、音楽業界の都合で自分たちミュージシャンが『消費』されている実情を客観的に分かってる。
それ以上彼らに付いて行ったら、自分がその業界の都合に使い捨てにされることを分かっている。
そういうのをスルッと躱(かわ)せる人なんです。
カート・コバーンとかビリー・コーガンみたいにナイーブに受け止めない。
一度売れたバンドにいれば、そりゃもっともっと稼げますよ?
良いもの食って、良い車に乗って、良い家に住んで、テレビでチヤホヤされてっていうのが続けられます。
けど、それが自分の幸福にとって必要ないって分かってる、価値観がはっきりしてる。
だから、そんなものには執着しないでパッと捨てる。
これは彼の人生、常に一貫してるんですよ。
そして前向きに次の進むべき方向をしっかり睨んでる。
サウンドガーデンが1997年に解散する頃には、おそらくソロでどういう曲をやりたいか?までもう考え始めてる。
だから解散翌年の1998年にはレコーディングして、1999年にソロデビューなんて芸当ができるんです。
解散に打ちひしがれている期間とかがない。
変に浸ったり、執着したりしないんですよね。
2007年のオーディオスレイブが解散する時だって、すでにソロの2作目に取り掛かってる。
だからオーディオスレイブでもサウンドガーデンの時みたいに、人間関係が煮詰まってくると
「じゃ、俺はやりたいことがあるんでこの辺で」
と、ぱっと脱退して、ソロ2作目をすぐさまリリースする。
修羅場になって、そこでエネルギーを消耗することは無駄だと考えてるんじゃないかな?
そんなものにエネルギーを消耗するくらいなら、もっとクリエイティブなもの=作品制作に向かいたい。
過去の遺産に固執しないからいつも身軽だし、前向きだし、動きが早いですね。
他のバンドだと利権関係で揉めている間に、クリスはとっとと先に進んでるんです。
そりゃサウンドガーデンもテンプル・オブ・ザ・ドッグもオーディオスレイブも全て成功させる人には、やっぱりそれなりの理由があるってことですよ。
おそらく音楽業界を見渡しても、彼ほどクレバーでしたたかな人はそういないと思います。
『ユーフォリア・モーニング』に至る経緯
クリス・コーネルは、生前にソロで4作のオリジナルアルバムをリリースしますが、第一弾となる本作『ユーフォリア・モーニング』、そして3作目『スクリーム』はちょいとばかし“異色“です。

3作目『スクリーム』2009年
それは『外部の人間の影響が色濃く出ている作品』という意味でです。
『スクリーム』に関しては、個別アルバムの解説時に説明しますので、ここでは割愛します。
今回の『ユーフォリア・モーニング』に関しては
ELEVEN(イレブン)
というバンドを抜きにして語ることは出来ません。
イレブンの二人、ナターシャ・シュナイダーとアラン・ヨハネスの夫婦ですね。
もともと、サウンドガーデンのワールドツアー(「スーパーアンノウン」時も「ダウン・オン・ジ・アップサイド」時も)のオープニングアクトを務めてくれたことで友だちになり、サウンドガーデン解散後もクリスとイレブンの二人はプライベートで一緒にスタジオに入り、遊びのレコーディングとかをしていました。
で、そのタイミングでサントラの話が来たので『サンシャワー』を一緒に作ったり、クリスマス・オムニバス楽曲の話が来たので『アヴェ・マリア』(シューベルトの楽曲)を一緒にレコーディングしたりしました。
この2曲はベスト盤『クリス・コーネル』(4枚組)にのみ収録されてます。

死後リリースされたベスト盤『クリス・コーネル』。4枚組は敷居が高いのでSpotifyでも聴けますよ
そしたら、それが思いのほか出来が良くて気に入ってしまったので、ソロアルバムに取り掛かる際には自然な流れでイレブンにも声をかけた、という流れです。
それではこのイレブンとは一体何者なのか?
イレブンとは何者?
クリスのインタビューでは、
「サウンドガーデンのワールドツアーのオープニングアクトをやってくれた縁で仲良くなった」
とか言っていたので、てっきりELEVENの二人は若手ミュージシャンで、クリスの後輩なのだとばかり思ってました。
けど、今回調べてみてびっくり。
ELEVENの二人はクリスよりも年齢もミュージシャンとしても大先輩です(笑)。
そこのところは本作の作風にとってかなり重要なポイントなんですよ。
クリスのアシスタントをしたというより、共同作業、時には彼らがクリスに先輩としてアドバイスをしながら作っている側面があるからです。
まず、アラン・ヨハネスから語っておきましょう。
この人、ELEVENの結成前は、なんとレッチリのメンバーとのバンド
ホワット・イズ・ディス
をやってた人なのです。
・・・・・・・
「誰それ?知らないけど…」
と、思ったそこのあなたのために説明しましょう。
ホワット・イズ・ディスは、レッチリのオリジナルメンバーである、ヒレル・スロヴァック、ジャック・アイアンズ、そしてフリーの3人が加わっていたバンドです。
レッチリって変なバンドで、オリジナルアルバム3作目にして初めてオリジナルメンバーが出揃ったというのは、ファンの中では割と知られている話ですが、
「え?普通、デビューアルバムのメンバーのことをオリジナル・メンバーって呼ぶものでしょ?」
と思う人も多いかと。
そう、普通はそうなんですが、ギターのヒレル・スロヴァク、そしてドラムのジャック・アイアンズの二人は、ホワット・イズ・ディスというバンドと掛け持ちしていたため、レッチリの最初の2枚のアルバムには参加してません(ヒレルだけ2作目には参加してますが)。
その頃はこのアラン・ヨハネスとホワット・イズ・ディスのアルバムを作ってたんですよ。
ちなみにベースのフリーも元々は一緒にやっていたんですが、ボーカル・アンソニーの親友という立場なので、先にホワット・イズ・ディスを脱退してレッチリに専念していたんですね。
で、ホワット・イズ・ディスが泣かず飛ばずの有り様だったので、ヒレルとジャックはレッチリの方に力を入れ始めたんです(まあ、この頃はレッチリもメジャー契約を切られようとしていたので五十歩百歩ですが:笑)。
この時、レッチリのメンバーがアンソニーを選ばずに、アランを選んでいたら、今のレッチリはなく、ホワット・イズ・ディスがレッチリのようなビッグな存在になっていたかもしれませんね。
で、その後ホワット・イズ・ディスを解散したアランは、その後奥さんになるナターシャと出会い、ヒレルの死をきっかけにレッチリを脱退したジャックも誘ってELEVENを結成する、という流れですね。
ドラムを叩くジャック・アイアンズを見たのは高校生の時レッチリのMV見てた時以来です⇩
右でギター持って歌ってるのがアラン、左でキーボード兼コーラスがナターシャですね。
潔いくらいの3ピースバンドで、ベースなんていません(笑)。
アラン、ナターシャの二人はこのELEVENでオリジナルアルバム5枚をリリースするのですが、アラン個人としての活動はELEVENだけに収まらず、色んなミュージシャンと交流します。
ある時はスタジオ・セッションミュージシャンとしてレコーディングに参加、ある時は共同制作者として楽曲づくり、ある時はプロデューサーやエンジニアとして、ある時はツアー・ミュージシャンとして…。
裏方ワークが多いので、関わったアーティストは多岐にわたるのですが、なんと日本人ミュージシャンの作品にも参加してるんですよ。
氷室京介と吉井和哉です。
2人とも、レコーディングをアメリカでやったりしているので、交流が生まれたのでしょう。
私はこのサイトでイエモン・吉井和哉の作品解説をしているのですが、まさか私が解説したアルバム『スターライト』のオープニング曲『ハットトリッキン』で全てのギターを弾いていたとは!
『スターライト』アルバム解説は⇩
この曲、超かっこいいんですよね。
破壊力抜群のこのギターはアランだったのか…。
クリス・コーネルの記事を書いていて、まさかここでイエモン・吉井和哉と話が繋がってくるなんて思いもしませんでした(笑)。
この人はボーカル、ギターのみならず何でもこなすマルチ・プレイヤーでありながら、作曲、編曲、エンジニア、プロデュースまでできるまさに“何でも屋“。
しかし、何でも出来るからといって個性がないわけでは全然ありません。
というより、あまりにもクセが強いため、参加する作品に必ず“爪痕を残す“人というか(笑)。
本作でもアランのクセの強いギターは存在感を発揮してますね。
けれども、絶妙なバランス感覚で楽曲を引き立てる“黒子役“に徹することも心得ているというか。
本作『ユーフォリア・モーニング』では、そのどちらの側面も惜しげもなく曝け出してます。
そんな人たちが作曲段階からがっつり入り込んで作った作品なので、これはクリス・コーネルのソロというよりも、『クリスwithイレブン』という一つのプロジェクトのようなものですね。
あるいは、テンプル・オブ・ザ・ドッグやオーディオスレイブのようなスーパーバンド的なノリにも近いとも言えるかもしれませんね(スーパーバンドと呼べるほどイレブンの知名度が高くないのが悲しいですが)。
このソロ1作目アルバムは1999年のリリース、次作『キャリー・オン』はオーディオスレイブが解散した後の2007年と、間が8年も空いているために作風がガラッと違うのですが、それは単に期間が空いたからということだけでなく、本作だけはこのイレブンの個性が濃厚に注入されているから、ということもあります。
なんと12曲中、半分である6曲がイレブンとの共作、その中にはイレブンがもともと持っていた楽曲というものもあります。
この割合っていうのは、サウンドガーデンにおけるクリスと他のメンバーの作曲割合に近いから、やっぱりこれってバンドっぽいんですよね。
ちなみに、『ユーフォリア・モーニング』を制作したのはアラン夫妻の自宅スタジオなのですが、制作の順番としては先述したクリスの『サンシャワー』『アヴェ・マリア』、次にイレブンの4作目『アヴァンギャルドドッグ』を完成させ、そのまま本作の制作へなだれ込みます(リリースされたのは本作のほうが先になりましたが)。
というより『アヴァンギャルドドッグ』の合間合間に本作の制作を進めているので同時進行ですね。

ELEVEN4作目『アヴァンギャルドドッグ』2000年
で、この同時期に制作された『アヴァンギャルドドッグ』は本作を語る上でかなり重要な作品であることは間違いありません。
Spotifyでも聴けるので、是非とも一聴してみてください。
ここで今度はアランの奥さんであるナターシャの話をしますね。
この『アヴァンギャルドドッグ』は、ナターシャがボーカルを録っている曲がわりと多い作品で、このナターシャのボーカルスタイルが、本作のクリスのボーカルに影響を与えているのが聴けば一発で分かります。
っていうより、ナターシャがボーカルメロディに関してクリスにアドバイスをしているみたいです(アラン談)。
クリスがもともと持っていたリズム&ブルースの要素を、ナターシャが引き出しています。
このナターシャっていう人は旧ソ連の生まれ(ラトビア)なんで、ちょっとセンスが特殊なんですよね。
“敵国アメリカ的な音楽は許されない国における音楽表現“の環境下にいた人ですよ?
つまりロックを演奏するなんて許されない国にいたわけです。
我々が普段慣れ親しんでいる、アメリカ・イギリスのポピュラーミュージックの素養とは違う素養を持ったミュージシャン。
そりゃあ特殊にもなるでしょう。
本作におけるクリスのボーカルの特殊性、『ゆらぎ』とでも表現したら良いのでしょうか?
我々、一般リスナーが慣れ親しんだポピュラー音楽の歌メロから、ちょっと外してくるんですよね。
「あれ?そうくるの?」みたいなシーンが多いですね。
クリスはこの二人との制作環境がよっぽど居心地が良かったのか、この間ずっとアラン夫妻のスタジオ兼自宅に住み込んでます(笑)。
ほぼ3人で制作し、プロデューサーはドタキャンしやがったので今回はいません(笑)。
3人によるセルフプロデュースです。
ボーカル、コーラス、ギター、ベース、キーボード関係、その他の楽器はほとんどこの3人でプレイし、ドラマーが入れ代わり立ち代わり色んな人が叩いてますね。
サウンドガーデンからマット・キャメロンも1曲だけ参加してます。
この人ってサウンドガーデンの中では、クリスと一番仲良くて、あのテンプル・オブ・ザ・ドッグでも一人だけ呼ばれて叩いてましたよね。
『ユーフォリア・モーニング』楽曲解説
このアルバムはクリスソロの中でも一番好きかな。
とにかく込められているものが“濃い”というか、芸術作品としての純度がピカイチです。
もうね、全曲が素晴らしいです。
非の打ち所がない。
あまりにもクリスの表現の幅が広がっているので、次作やオーディオスレイブにも期待したのですが、ここで聴けるクリスはその後の作品ではもう二度と聴けません。
それほど、ELEVENの二人との間には奇跡的な化学反応が起き、これまで眠っていたクリスの才能を開花させた、ということでしょう。
「この作風をあと2,3作は続けてほしかった」
という声はけっこうレビューで見かけましたが、私もまったく同感でしたね。
それから念のために言っておきますが、サウンドガーデンのようにヘヴィでハードな音楽ではありませんので、そんなものを期待しちゃ駄目ですからね?
逆に、クリスの相棒がELEVENになったことによって、サウンドガーデンのメンバー達が果たしていた役割も浮き彫りになるという側面もあり、非常に興味深いですよ。
「あのギターリフの冴えはやっぱりキムがいたからこそか」
「やっぱりマットのドラムって特殊だったんだな」
みたいな、サウンドガーデンのメンバーはそれぞれが非常にレベルの高い集団だったということが分かりますね。
#1『Can’t Change Me』
しょっぱなからクリスのソロを代表する名曲が登場します。
これこれ!
この渋いクリスが聴きたかった。
『スーパーアンノウン』における『フェル・オン・ブラック・デイズ』みたいなボーカルだと本人も言うとります。
しかも、あれがさらに洗練され色気が増している。
『憂い』が漂っててかっこいいんですよね~。
それはアランの妖しいギターラインが相乗効果で高めている部分はあるでしょう。
ちなみにMVでは超イケメンを惜しげもなくさらしております⇩
始めて観た時は、クリスがこんなにイケメンだったことにかなり驚きました。
だってサウンドガーデン時代は”山猿”みたいだったので(笑)。
ちなみにこの後オーディオスレイブではまるでブラッド・ピットみたいなルックスになりますよ。
#2『Flutter Girl』
シアトル・グランジのバンドたちが楽曲を提供した1992年の映画『シングルス』で、登場人物のクリフ・ポンシアーがソロデビューEPをリリースするという設定があるのですが、それらの曲は映画では演奏されません。
しかし、その5曲をクリスが実際に作曲、パール・ジャムのメンバーが編曲して監督のキャメロン・クロウにサプライズプレゼントしたエピソードがあります。
その出来を痛く気に入ったキャメロン・クロウが、5曲入りEP『ポンシアー』としてリリースしたんですよね。
なのでこの時もほとんどテンプル・オブ・ザ・ドッグの面々が動いていたことになります(マイク・マクレディは不参加)。
相変わらず仲いいねぇ(笑)。
その中の1曲がこの曲なんですよ。
ちなみに録り直す前の原曲がこちら⇩
本作はかなり練り上げて完成度が上がっていることが分かります。
ナターシャとアランも作曲に参加して作り直してます。
まず、クリスのボーカルの妖しさが際立ちました。
原曲のほうが当然若い頃なのでハイトーンは凄まじいのですが、それだけというか。
まだデモテープ段階というか。
それと、アランのギターソロの響きなんてこれキング・クリムゾンのロバート・フリップみたいですよね。
えらいかっこいい。
原曲の方のギターソロもなかなかかっこいいです。
マイク・マクレディは参加していないので、これはストーン・ゴッサードのソロになるのかな?
#3『Preaching the End of the World』
ここでサウンドガーデンではまったく見せなかった音楽的側面を出してきます。
まごうことなきバラードです、しかもフォークソング。
なのですが、ボーカルラインがメジャーとマイナーの間を行ったり来たりと揺れ動いていて、メロディがどっちに展開するのかまったく先が読めません。
私は勝手に『揺らぎボーカル』と呼んでいるのですが、こういうところがナターシャの影響なんじゃないかな?
聴いていると、すごく明るい展開が待ち受けているようでもあり、一寸先は闇が広がっているようでもあり…。
この『揺らぎボーカル』は本作で何度となく登場します。
この曲はどうにかポジティブな方に着地した感がありますね。
#4『Follow My Way』
『揺らぎボーカル』が前曲にもまして炸裂します。
アラン&ナターシャの共作2曲目。
私の場合、この曲は聴く日によって印象がまったく違ったりします。
摩訶不思議な曲です。
すごく美しく聴こえ、うっとりする時もありますが、すごく暗く感じて聴いてて辛くなってくる時もあります。
クリスの心のなかにあるオアシスが表現されているようでもあり、絶望が表現されているようでもあり。
だからアルバムで一番好きな曲でもあり、一番キライな曲でもあります。
どんな曲?(笑)
こんな曲が生み出せるのは彼の人生でもこれっきりだったでしょう。
#5『When I’m Down』
ジャジーなピアノに乗せて、今回は熱いクリスの熱唱が聴けます。
この極上のピアノはナターシャです。
まったく、ジャズをバックに歌うクリスなんて想像したこともなかったですよ。
しかし聴いてみるとまったく違和感がありません。
こうやってソロのクリスは色んな音楽ジャンルに挑戦し、サウンドガーデンでは見せなかった新たな魅力を見せてくれるんですよね。
#6『Mission』
アラン&ナターシャの共作3曲目です。
相変わらず『揺らいで』るな~。
で、アランのギターがそれに拍車をかけてます。
アダルトな雰囲気が出ていますね。
#7『Wave Goodbye』
最近、何故かこの曲だけSpotifyで聞けなくなり、この曲のタイトルだけグレイになってて再生できません。
版権絡みか?こういうことはストリーミングではちょいちょいありますよね。
聴けない人のためにYoutubeをアップしておきますね⇩
すごくリラックスしてて、ほんと、アラン夫妻の家でくつろぎながら良い空気感で制作できている感じが伝わってきます。
それプラス、なんかやたらレッド・ツェッペリンっぽい雰囲気を放っていて、楽しげです。
このやたらファンキーなギターは全てクリス自ら弾いてます。
#8『Moonchild』
#4『フォロー・マイ・ウェイ』のように、非常に『揺らぐ』ので、これまた陰か陽かどちらに展開するのかかがまったく読めません。
一体何なんでしょうね、この雰囲気。
こんな不思議な雰囲気はこの作品でしか聴いたことがないです。
まったく誰にも似ていない唯一無二の世界観です。
サウンドガーデンもアリスみたいに、アコースティックのみのミニアルバムとか出せば面白かったのに。
#9『Sweet Euphoria』
クリスによる弾き語りです。
3分ほどの小曲です。
後の弾き語りツアー『ソング・ブック』に繋がっていく原点がここにあります。
#10『Disappearing One』
これはクリスではなくアランとナターシャがもともと持っていた楽曲です。
本作制作の直前に、このアラン宅にてELEVENの新作『アヴァンギャルドドッグ』が録られているので、もしかしたらそこでの未収録曲をもらったのかもしれません。
おもしろいのが、原曲の制作段階にクリスがタッチしていない楽曲にも関わらず、なぜかクリスのボーカルが一番サウンドガーデンっぽいというか(笑)。
本作イチのハイトーンボーカルを聴かせてくれます。
ちなみにこの曲だけサウンドガーデンのマット・キャメロンがドラムを叩いてます。
特筆すべき個性を発揮してはいませんが(笑)。
#11『Pillow of Your Bone』
アラン&ナターシャとの共作です。
揺らぐね~(笑)。
これってカラオケで歌えって言われるとおそらくかなり難しいかと。
こんな揺らいだボーカルラインなんて、ポップミュージックではめったにお目にかかれませんから、一般人であれば歌ったことないでしょう普通は。
ここまで“揺らぐ“ともうプログレ、いや、もはや前衛音楽というか。
最後はナイン・インチ・ネイルズみたいになってフェードアウトしていくし(笑)。
#12『Steel Rain』
ラストナンバーです。
最後まで揺らぎっぱなしできましたね(笑)。
ダークなアルペジオ。
アリス・イン・チェインズのミニアルバム作品を思い出します。
ソロ活動のその後
1999年本作リリース後の2001年に、クリスはソロ2作目『キャリー・オン』の制作を進めていましたが、2000年に解散したレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンから新バンドの結成の話を持ちかけられます。
これがスーパーバンド=オーディオスレイブですね。
クリスと元レイジのメンバーの間には化学反応が起き、
「1作目の制作時点でレイジ時代10年間に作った楽曲数を軽く上回った」
とトム・モレロ(ギター)が語るほどの楽曲を作りまくります。
最初のわずか19日間で21曲を作ったというくらいなので、この時のインスピレーションは相当なものだったことが伺えます。
普通こういうことって起き得ないんですけどね。
クリスという人の放つ才気ばしったオーラは凄まじいんでしょうね。
クリスも元レイジのメンバーとの制作方法がしっくりきたみたいで、2作目『キャリーオン』の制作は一旦中止して、新バンド結成に動いていきます。

ソロ2作目『キャリー・オン』
しかし、この時期のクリスは持病のうつ病がかなり酷かったことから、酒と薬物漬けになっており、それが原因で当時の奥さん(スーザン)と別居してます(後に2004年離婚)。
そういうプライベートでのゴタゴタや、メンバーの所属レーベルの違いなどの問題から、クリスはオーディオスレイブを一度は脱退するんですよね。
しかし更生施設に2ヶ月通い、完全にシラフに戻ったクリスは新バンド結成に向けて動き始めます。
こうして無事、オーディオスレイブが結成され、衝撃のデビュー作『オーディオスレイブ』がリリースされる、という流れです。

デビュー作『オーディオスレイブ』
オーディオスレイブは2007年までの6年間の活動で3作のオリジナルアルバムを残し、そのトータルセールスはなんと全世界で
800万枚!
これはCDの売上が激減している2000年代としてはかなり奮闘している数字であり、オーディオスレイブが『かつての栄光』にすがったロートルバンドなどではなく、リンキン・パークなどの若い次世代バンド達と同じ第一線で戦っていたことを意味します。
つまりクリスはサウンドガーデン解散(1997年)からわずか5年で、自身のキャリアの2度目の全盛期を迎えたのです。
とんでもない人ですよ、まったく。
そういうわけなので、クリスのソロが再開されるのは2007年のオーディオスレイブ解散後になります。
レイジ再結成の雰囲気を感じたクリスは潮時だと感じたのか?
あっさりとオーディオスレイブを脱退し、作りかけだった2作目『キャリー・オン』の制作を再開します。
そしてその中の収録曲『ユー・ノウ・マイ・ネーム』が映画007の主題歌となり、ソロ歌手:クリス・コーネルとしても世界的知名度を獲得することになるんです。
まあ、そのあたりの話は一旦オーディオスレイブのアルバム解説が終わった後にじっくりやっていきますので、楽しみにお待ち下さいな(笑)。
はい、本日はクリス・コーネルのソロデビューアルバムを大いに語ってきました。
サウンドガーデンに負けず劣らずの力作、どころかクリスの全キャリアの中でももしかしたら頂点に到達したアルバムかも知れません。
なので、ぜひストリーミングで聴いてみてくださいね。
それではまた!
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