『ピース・セルズ…~』メガデスの2作目はインテレクチュアルスラッシュメタルを確立した傑作
どうもSimackyです。
本日はメガデスが1986年にリリースした2作目であり、メジャーデビューアルバムである『Peace Sells…But Who’s Buying?』を解説していきますよ。
本作への評価と初期から貫かれるオリジナリティ
本作はメガデスのオリジナルアルバムの中でも最高傑作に挙げられる作品の一つです。
やっべ~…。
久々に聴き返しているのですが、これはマジでヤバイ。
鳥肌立ちまくりです。
メガデス全16枚のオリジナルアルバムを一気解説した時に、本作、次作、次次作の3作を同率1位で最高傑作に挙げましたが、やっぱ一番やばいのはこれかな?
こちらは全アルバム解説やってます⇩
【メガデスのおすすめアルバムは!?】最高傑作を探せ!~全アルバムガイドと歴史~
こういうのをマジックが起きているっていうんですよね。
本作はメガデスの2作目であり、インディでの1作目リリースからレコード会社を移籍してのメジャーデビューになります。
セールス的にはチャート78位までいきました。
ムス大佐がクビになったメタリカよりも1作目リリースまでには2年の遅れを取ったメガデスでしたが、メジャーデビューは同じ1986年に追いつけたというのは凄まじい執念を感じますよ。
スタートラインでコケて最下位にまでなったランナーがトップ集団になんとか食いついたというか。
けれどもメジャーデビューを急いで売れ線の音楽に走ったかと言うと全然違って、むしろメタリカよりもコアでこだわりとクセが強い。
それは特にムス大佐のボーカルに顕著で、
「このボーカルスタイルは色々と言われただろうな」
とは思います。
ヘヴィメタルのボーカルってメイデンやプリーストに代表される本格派の伸びやかなハイトーンが主流でしょう?
上手いんですよね。
まあ、大佐の声もかなり高くはあるのですが、魔法使いのおばあさんのようなしゃがれ声は異色中の異色です。
個性は強いですが「上手いか?」と聴かれればそういうのとはちょっと違う。
要は正統派ボーカルではないってことなんでしょうが。
ちなみに私が中3の時に初めて聴いたメタルアルバムはオムニバスで、そのアルバムにはUFO、マイケル・シェンカー、スコーピオン、WASP、サバス(DIO期)などのそうそうたる正統派メタルバンドが参加してました。
まあ中3だし、メタルを聞き始めの頃って全部同じに聞こえちゃうんですよ(笑)。
でも全12バンドのうち、メガデスの『狂乱のシンフォニー』だけは明らかに空気感が違うと感じました。
おどろおどろしくて、ボーカルの声と歌い方が気持ち悪くて。
あの頃の記憶を辿ると、印象としては『メガデスだけはちょっと特殊で無理』という感じかな。
あれだけ個性的な面々が参加しているのに、当時のSimacky少年に『メガデスとそれ以外』と感じさせるほどのクセの強さがあったということです。
だからしばらくしたらメガデス聴くのが苦痛で『狂乱のシンフォニー』だけ飛ばしてました(笑)。
今となってはなんとも思いませんが、メタルに免疫のない一般人の耳にはかなり個性的に映るという分かりやすい事例です。
けれども、さらにしばらくするとそのクセ(毒)が妙に好きになってきて、メガデスがそのアルバムで一番好きになっちゃうんですよ。
私は大佐のボーカルは今では大好きだし、ここまでの個性を確立されると上手い下手で考えたことがないというか。
そのムス大佐の個性的な毒舌ボーカルの中で一番好きなのが初期2枚である本作と前作かな。
って初期でほぼ完成されているのが実はすごい。
下手くそとか言われること多いですけど、私はオジーと並んでメタル界で最も個性的なボーカルだと評価しています。
オリジナルメンバー最後のアルバム
メガデスの中心人物はボーカルのデイブ大佐、ベースのエレフソンの二人。
まあ、とは言ってもほぼデイブ大佐のソロプロジェクト色が非常に強いですが。
そこにジャズ/フュージョンバンドに在籍していたギターのクリス・ポーランド、ドラムのガル・サミュエルソンが加入して4人でスタートしたのがメガデスなのですが、この二人はジャズ畑出身とはいえ、大佐たち同様、やはりストリートのならずものだったようです。
ロック演ってなくても十分ロックな環境なんでしょうよ。
まだ大佐なんかはマリファナぐらいしかやっていない時期に、もうすでにもっとやばいクスリに手を出しており、あの大佐でも手に負えないほどひどかったみたいですね。
そのため本作を最後にこの二人は解雇されます。
メガデスはマーティ(g)、ニック(d)の在籍していた1980年代後半~1990年代頃が一般的に黄金メンバーと呼ばれ、もっとも人気が高いのですが、個人的にはこの初期2作品のオリジナルメンバーも素晴らしいと思っています。
内部事情はガタガタだったとはいえ、こんな傑作を生み出せる4人組だったのだから、クスリの呪縛から解き放たれてちゃんと作れていたらその後どうなっていたのか、期待はしますよね。
まずもって私はマーティ・フリードマンのギターソロと同じくらいクリス時代のソロも好きだったりします。
マーティのような分かりやすく構築されたメロディはないのですが、適当に速弾きしているようでめちゃめちゃ雰囲気出すんですよね。
#2『 The Conjuring』#5『Good Mourning/Black Friday』でのソロなんか「これぞクリス!」というプレイが聴けますよ。
ガルのドラムはメタルドラマーとは根本的に立ち位置の違う人がメタルのドラムを叩かされている感じがして新鮮。
拍の頭にスネアのアクセント入れるのが好きなため、キメッキメです。
かっちりしてて、それがハマる瞬間ももちろんあるのですが、アップテンポな場面でちょっとスピード感を削いでいると感じる時もあります。
なので、どちらかというとスピードナンバーよりもミディアム、スロー系のヘヴィナンバーのほうがハマってると思います。
タムワークはシンプルなんですが、何なんですかね、この問答無用の説得力は(笑)。
ところどころリヴァーブを強めに掛けて奥行きを出した演出がうまい。
ま、その辺はエンジニアの仕事でしょうが。
で、特筆スべきはエレフソンのベースラインでしょう。
こんなにかっこよくてベースラインが楽しめるスラッシュ・メタルアルバムなんて他にありませんよ。
本作がリリースされた年にメタリカは名盤『マスター・オブ・パペッツ』をリリースするのですが、聴き比べてみても決してメタリカに追随していないメガデスのサウンドが確立されていると感じる一番の要因はエレフソンの存在です。
メタリカのクリフ・バートンも非常に人気の高いベーシストではあるのですが、やっぱり本作に比べるとベース音小さすぎます。
超イケメンで性格温厚で、メガデスの良心とも呼ばれた男だったのに、よもやあんなスキャンダラスなことになるなんて…。
楽曲レビュー
楽曲数は全8曲。
捨て曲なんてものはありやしません。
本作を聴いていると、メガデスはずっとこのぐらいのボリュームで行くのがベストだったのでは?と思わずにはいられません。
これは全てのバンドに当てはまることなのですが、78分収録できるCDという媒体に振り回されすぎです。
レコード会社の方針なのでしょうが、収録曲はもっと厳選して欲しいし、トータルタイムも短くしてほしい。
んなこと今更言ってもしょうがないですが。
メガデスの全16作品の中で「捨て曲一切なし」と思えるのはわずかで、ほとんどの作品で『中だるみ』が生じていくことになります。
本作が傑作を印象づけるのは、無理に曲数を増やして全体の印象を損なう愚を犯していないこともあるでしょう。
頭からケツまで完璧ですよ。
それから、本作にはオリジナルとリマスター盤があるのですが、1作目と違いもともと音質が良かっただけに、逆にリマスターによって違和感が残る結果になりました。
なんかリマスターでエッジが丸くなった感じがするんですよ。
ドラムの音もしょぼくなってるし。
私は圧倒的にオリジナルをおすすめします。
1.Wake Up Dead
名曲中の名曲。
オープニングはダントツ人気ですね。
確かに私も一番好きでしたね。
メガデス初のシングルカットでもあります。
冒頭のキメからすでにエレフソンのベースが存在感放ちまくってます。
本作中で最も展開の大きな曲になるのかな。
曲がどんどん変化していく様は圧巻ですよ。
ちなみにMVでは鉄網に囲まれたステージに観客たちがよじ登ってきてかなりかっこいいと思ったけど、80年代的にはワリとベタかな(笑)。
2.The Conjuring
いいな~。
この不穏な空気感と緊張感。
ムステインの描く世界観にクリスのソロが見事に合っています。
っていうかこのソロ構成は圧巻ですよ。
クリスはもっと評価されて然るべきギタリストですね。
ドラムに関してもったいないと感じたのが、ツーバス連打のところ。
拍の表にスネア持ってきてるところが野暮ったいというか、こういうところが「ガルはメタル慣れしてないんだろうな~」と感じる部分でちょっと残念です。
本作で最高の曲ではないでしょうか?(2回目)
3. Peace Sells
代表曲の登場です。
ムス大佐は『最もベースが印象的な曲』としてブラック・サバス『N.I.B』などを引き合いに出して説明してました。
途中まではそんなに名曲だとは思わないのですが、中盤から化けます。
この展開はやばい。
ツーバスが入ってくるところからアドレナリンが噴出しますよ。
本作で一番好きかな(3回目)。
4.Devil’s Island
これまた途中までは退屈だと思って聴いていたのですが、後半は疾走します。
何を聴いても「この曲はいつから速くなるんだ?」っていう聴き方をしてしまうクセはこういう楽曲のせいなんですよね(笑)。
5. Good Mourning/Black Friday
タイトルで分かるように2部構成になってます。
『Good Mourning』冒頭の美しいアルペジオには一瞬「バラードか?」と思わせるのですが、クリスのソロが切り裂きます。
これがたまらない。
後半はテンポアップしてツーバスで攻め立ててくるのですが、合間合間に入るキメで変拍子をぶっ込んでくるんですよ。
こういうところって後々のプログレッシブ・メタルの雛形になってますよね。
ドリーム・シアターはメガデスのオマージュを結構入れてますからね。
『Black Friday』に入ってからはさらにテンポアップして突っ走ります。
どんどん展開していく様はまさにインテレクチュアルスラッシュメタル!
ラストのクリスのソロに入っていくとこは鳥肌モノでシビれますが、さらにコーラスはかっこよすぎて失禁しそうです(笑)。
本作でダントツで一番好きな曲ですね(4回目)。
6.Bad Omen
ものすごくトライバルなドラムにせわしなくポジション移動するリフが絡み合ってます。
ドラマーは楽しすぎて発狂するでしょう。
そして後半はまさかまさかの突然のテンポアップ!
この予想外の展開と緊張感がたまりません。
一筋縄では終わらせてくれません。
スネアも今回は拍の裏で打ってくれてるので疾走感は本作イチ。
この曲はずっとガルのターンです(笑)。
好きすぎる…。
7. I Ain’t Superstitious
いきなり雰囲気がガラッと変わります。
それもそのはずカバー曲です。
あの伝説の名曲、マディ・ウォーターズ『フーチークーチーマン』を作曲した偉大なるブルースミュージシャン:ウィリー・ディクソンの曲をカヴァーしてます。
アルバムの中で完全に浮いてるので、最初聴いた時は
「え?もうボートラ?まだ7曲目なのに?」
って思いました(笑)。
メガデスってこういうセンス抜群だから、この方向性で1枚作ってくれたら、メタリカの『Load』よりももっとセンス抜群のアルバム作れたんじゃないかな?
8.My Last Words
本作で一番好きな曲がきましたよ(5回目)。
こんなリフを考えつけるなんて素敵すぎる。
鳥肌が留まるところを知らない!
いや~、しかしムステインは発想もテクニックもすごいけど、あらためて聴くと音作りもすごいですよ。
本作のギターの音は本当に最高ですね。
ラストのリフの刻みなんてメタリカのジェイムズと双璧をなす職人芸と言えます。
そしてエレフソンのベースがコードの裏でめちゃめちゃいい仕事してます。
こんなベースラインをスラッシュメタルに融合させる発想は普通できませんよ。
彼も隠れた天才だったのかも知れません。
『インテレクチュアルスラッシュメタル』を象徴するナンバーです。
はい、本日はメガデスの2作目をたっぷりと語ってまいりました。
やばすぎ。
っていうかもはや耳が幸せ(笑)。
完全復活した今のメガデスもかなりの傑作を生み出しているのですが、やっぱこの頃は最強ですね。