『ハイド・ユア・フェイス』hide(X JAPAN)のソロデビュー作は必聴の名盤!
どうもSimackyです。
本日はhideの『HIDE YOUR FACE』を解説していきたいと思います。
Xの全オリジナルアルバム解説、ビデオ解説が終わり、ようやくhideのことを書こうかなと。
Xのファン世代よりも少し下の世代の私にとって、多感な時期にまさにリアルタイムだったのがhideソロやLUNA SEAです。
Xを知った時にはもうほとんどテレビで見かける状況でも、新作が発表される状況でもなかった…。
そんな時期に、このhideの活動がXファンにとって唯一の救いでした。
そんな思い入れたっぷりの作品なので今日は長くなりますよ~!
そもそもhideってどんなイメージだったか?
hideの知名度が一般的に大きく認知されるのはXが解散してから。
それまでもソロでヒット作は出していましたが、まだXのいちギタリストという見られ方だったと思います。
Xの衝撃的解散やTOSHIの洗脳騒動で絶望する全国のファンの期待を一身に背負ったhideは、渾身のヒットシングル『ロケットダイブ』でXファン以外の一般層からも一躍脚光を浴びていきます。
しかしその直後、後追い自殺などの社会現象まで生んでしまった悲劇の死。
X解散からここまでわずか7ヶ月あまり。
亡くなった人に使う表現ではないのかもしれませんが、『時の人』になりました。
「ロケットダイブ」、そして死後にリリースされた「エバーフリー」「ピンクスパイダー」は、追悼番組で何度も何度も流され、死を悼むファンたちのアンセムソングに。
なので、現在に至るまでのhideの世間一般的な認識って、おそらくこの時のイメージに集中していると思うんですよね。
おしゃれでキュートでポップで、でも気持ちいいくらい痛快なロックしてて。
しかしね、このhideって人は初めからあのイメージじゃなくて、どんどん変化していった人だったと思うんですよ(YOSHIKIもそうですけど)。
私はXのプロモーションビデオやライブビデオは高校の頃全部見てたのですが、その時のhideの印象ってあんなに垢抜けてなかった(笑)。
こんなこと言うとファンに怒られそうですけど。
けばけばしくはあったし、一度見たら忘れられないインパクトはあっても、垢抜けてはいなかった。
Xのメンバーの中で一番アンダーグラウンドの匂いがしたしマニアックでいかがわしい匂いを放っていました。
曲でいうと『JEALOUSY』に収録されていた『LoveReplica』のようにダークなイメージ。
もちろん音楽的には『CELEBRATION』や『JOKER』で聴けた明るさやポップさもあったのですが、ヴィジュアル的には毒々しかったですよね。
ライブで言うと初期の『HIDEの部屋』に見られる「見ていてさっぱり意味が分かんない」アヴァンギャルド(前衛的)なイメージ。
「オレはロックバンドのボーカルをやるようなパーソナリティを持つ奴は大っ嫌いなんだ」
とか本人も言ってましたけど多分、根暗で(失礼)コンプレックスの強かった過去を持つかつてのhideは、そんな垢抜けた存在のボーカリストが嫌いだったのでしょう。
私から見てもそう見えてましたし(笑)。
なので、まずもってhide自身がボーカルをやると決断したことがすごく意外というか。
インスト曲(歌がない曲のこと)のソロアルバムならイメージできたのですが。
実際、当初は曲ごとにボーカリストを呼ぼうとも考えてたくらいなので。
もしくは歌は入っててもノイジーに加工されたナイン・インチ・ネイルズみたいなものしかやらないかな、と。
そしてそのイメージを見事にぶち壊して『ニューhide』を見せてくれたのが、ソロデビューである本作『HIDE YOUR FACE』というわけです。
「hideが思いっきり歌モノやってはる!!」
とびっくりした当時のXファンは多かったと思いますよ。
それでは本作の中身にいってみましょう。
本作を一言で評すれば『なんでもありのおもちゃ箱』
音楽の方向性は?
確か本作のライナーノーツにも書いてあったと思うんですが、本作を評する言葉としてこの『おもちゃ箱』が一番ぴったりかなと。
もう「あれもこれもやりたい」感が凄まじくて「子供か!?」とツッコミを入れたくなるほどです。
後のhideのソロキャリアで証明された鬼才っぷりというか豊富なアイデアを知ると、Xではその10分の1も発揮されていなかったことが分かります。
まあ、XはYOSHIKIのバンドでこっちはソロだから当然ですが。
「相当やりたいこと我慢してたんだな~」
って思いましたよ。
そりゃソロでの第1弾でいきなり16曲78分もCD容量目一杯に詰め込まれてれば、ひしひしと伝わってきますがな(笑)。
まさに溢れんばかりのおもちゃです。
このアルバムに関しては情報量が非常に多いので語り尽くせないくらいの量になります。
基本となるのは驚くほどのキャッチーでポップなメロディ。
hideっていう人はやっぱり基本がキッスやオジー、アリス・クーパーっていう『魅せるロック』っていうところにあるので、ジャケットでもブックレットでも楽しませてくれるし、クラッシュやダムドといったパンクの影響も強いので音楽もシンプルで小難しくない。
その意味ではやはりYOSHIKIと原点が通じる部分があったのでしょう。
しかし、X(YOSHIKI)と大きく違うのは大作主義的な部分がないことと、エンターテイメント性の高さでしょうか?
実はこれは後に、hideと仲の良かったSUGIZOがツイートで言ってたのですが、生前のhideは
「音楽を芸術とか言ってんじゃねぇ。音楽はエンターテイメントでしかない」
っていうポリシーがあって、
「今にして思えばあれはXへのアンチテーゼだったのかもしれない」
とも語っています。
SUGIZOは
「自分とhideさんとは考え方が真反対だった」
と言っていたので、どちらかというとSUGIZOはYOSHIKI寄りの考え方をする人なのでしょう。
こんなYOSHIKIとhideの真反対な要素を内包していたから、Xは懐の深い音楽性を持ち合わせていたのだと思います。
本作はそんなhideのエンタメ性が基本としてあって、その上に各曲ごと色んな要素を乗せています。
同時代の最先端シーンから貪欲に吸収したインダストリアルロックなどの打ち込み要素だったり、LAでのめり込んだゲームからの影響だとか。
そしてギターの音はと言うと、ヘヴィメタルでありながらも、そうとは一言でくくれないものがあります。
パンク/ハードコアの要素やオルタナティブの要素が混ざっていて新しい。
単純に音ということであればアリス・イン・チェインズが近いかな?
けれど印象としては全くの別物で、アメリカのオルタナティブって感じはしないんですよね。
hideは自分のルーツと最新の音楽を調合するのが非常にうまい。
めちゃめちゃ凝り性らしいので、実験的なことも相当詰め込んでいるみたいですが、それを小難しい音楽に聞こえないようにかなり配慮して作り込んでいる感じがします。
簡単なことやってるようだけど、優秀なエンジニアがいてこその作風というか。
影は薄いけれどコンピューター担当のI.N.A(稲田和彦)はhideの相棒というか、hideのアイデアを具現化する上で欠かすことのできない超重要人物です。
実は1991年ぐらいからXのスタッフだったみたいですが、hideとは音楽に関しての考えで意気投合していて、ソロ活動ではhideと二人で楽曲を制作し、裏方なのにツアーにまで引っ張り出され無理やりステージに立たされてました(笑)。
ボーカリストとしてのhide
かつてボーカリストが大嫌いだったhideは、本作においてやっぱりまだその余韻が残っている気がします。
ソロ2作目『PSYENCE』以降の『開き直ってJ-POPに思いっきり近づいた歌い方』に比べ、この頃のボーカルスタイルは『楽器』みたいです。
「いかにも歌い手さんみたいなマネなんて、そんな小っ恥ずかしいことできっかよ!」
って言ってるみたいに私は感じました(笑)。
楽器みたいと評したのは、楽器のように様々な音(声)を使い分けているからです。
まあ見事なほどのボーカル七変化ですよ。
歌い方も変えているし加工もしているし。
中性的で透明感のある声を出したかと思えば、吐き捨てるようなシャウトで歌ったり、ディストーションギターのようにギンギンに歪ませてみたり、静かな語りがあったりと、楽しませてくれます。
これは試行錯誤でもあるんですよ。
hide自身が自分のボーカルスタイルに納得するまでの試行錯誤。
自分の声が好きになれない、というより大っ嫌いだったhideは、TOSHIに電話でアドバイスなどをもらいながら凄まじい数のテイクを録ってます。
正確に何回かは覚えてませんが、そのテイク数をインタビュアーから聞いたTOSHIが
「オレはそんなに歌えない。すごい努力ですよね!」
と感嘆するほど。
YOSHIKIの『地獄のボーカル録り』にさらされるTOSHIを長年見てきているから、自身のボーカル録りの基準がそこになってしまったのだと、hideがインタビューで語っていたのを覚えています。
ここでの努力と、ツアーでのパフォーマンスを通して、hideはボーカリストとしての自覚と自信がどんどん育っていくんだと思います。
あのhideが酒を飲むことを控えるようになったり、次作のボーカルはもっと開き直って歌に向き合っていたりするからです。
外部アーティストとのコラボレーション
XのレコーディングでLAに長く滞在していたこともあり、アメリカの人脈が開拓できたのか?
そこのとこはよく分かりませんが、関わっているアーティストが今回は多いです。
ジャケットはH.Rギーガー
まずはインパクトのあるジャケット。
これは映画『エイリアン』に登場するあのエイリアンの特殊メイクをデザインしたギーガーに頼んでマスクを作ってもらってます。
中世ヨーロッパの拷問用具のようでもあり、SM趣味の人がかぶりそうな雰囲気でもあり(笑)、なかなかに不気味です。
そしてブックレットではそのマスクにまつわるストーリーのようなものをhideが演じています。
炎のように赤いhideの髪とこのマスクがインパクト抜群で楽しませてくれます。
超豪華なゲストミュージシャン
次にゲストミュージシャンには凄腕を呼んでます。
ドラムがテリー・ボジオ、ベースがTMスティーブンス。
二人とも1970年代から活動する、hideより大先輩の大物ミュージシャンです。
テリー・ボジオと言えばドラム界では知らない人がいないほどの超凄腕ドラマーで、要塞のようなドラムキットを信じられない技量で叩きます。
フランク・ザッパのバンドでは、超絶プレイをしながら卑猥な歌をまくし立てる変態コメディアン的な一面も持つけど超イケメンという、一癖も二癖もある人です(笑)。
今回はhideがスタジオミュージシャンとしてダメ元でテリーにオファーをかけたところ、たまたまスケジュールが空いていたとのこと。
で、スティーブ・ヴァイのアルバムで共演していたスティーブンスをテリーが誘ってくれてこのリズム隊が完成します。
このスティーブンスもかなり癖の強いお人で、hideが作ったデモ音源を拒否して、叫びながら好き勝手演奏しまくったらしいです。
ベースの音を聞き返すとほぼすべてのテイクにスティーブンの声が入っている、と(笑)。
しかし、この二人のリズム隊とジャムりながら、バンドとして音を固めていく一体感にhideは痛く感動しています。
本作は『バンドっぽい有機的な楽曲』と『密室感の高い無機的な楽曲』の二本柱になっているという構造があります。
ちなみに私は本作を聞いていた高校の頃には、「打ち込みドラム」と「生ドラム」の区別がついていなかったので、完全に打ち込みの曲(『SCANER』とか)でもテリーが叩いていると思ってました(笑)。
どれが生音か?果たしてあなたには分かるかな?
さらに『BLUE SKY COMPLEX』で聞くことのできるホーンセクションは、ジェリー・ヘイというこれまた超凄腕のミュージシャンで、グラミー賞を5回も受賞した人です。
なんとマイケル・ジャクソンの『スリラー』『バッド』にも参加している大物で、今回のゲストの豪華さを伺わせます。
映像コラボでL7
最後に音楽制作には関わっていませんがL7。
当時女性のみのオルタナティブバンドとして人気のあったアメリカのバンドです。
『Doubt』のミュージックビデオでhideと共演し、野性的なパフォーマンスを見せてました。
楽曲紹介
#1「PSYCHOMMUNITY」
Xのライブでオープニングを飾る「World Anthem」のようなものを作りたかったらしいです。
壮大なギターオーケストレーションでそこにマーチングバンドのようなリズムがかっこいい。
まさに映画のスター・ウォーズのようなイメージですが、hideとしてはおそらくゲーム音楽からの影響が強いのだと思われます。
「World Anthem」をイメージした割にはライブのオープニングには使わず、意外にもこの曲でラストを締めており、これがまた非常に感動的なんですよ。
#2「DICE」、#11「BLUE SKY COMPLEX」、#14「HONEY BLADE」
骨太なアメリカンハードロックが聴ける3曲です。
「DISE」は実はもともとXの楽曲としてYOSHIKIが作っていたものを、ボツになったことからもらってきてアレンジしてます。
テリー・ボジオのドラムが冴え渡ってますね~。
緊張感のあるhideのギターリフですが、テンポが非常に速いことがそれを助長してます。
「BLUE SKY COMPLEX」はブラックミュージックの要素が非常に強いナンバー。
ジェリー・ヘイのホーンセクションを全面的に導入し、スティーブンスのスラップベースもブイブイいってます。
hideのイメージともっとも離れたところにある要素を持っている楽曲です。
「HONEY BLADE」はなにやら背徳的なストーリーを匂わせるドラマティックな楽曲で、ライブでは映像的なものを駆使して物語を表現しており、今では当たり前となったこのスタイルの10年先を行っていたと言っても良いでしょう。
#3「SCANNER」、#5「DRINK OR DIE」#7「DOUBT」#9「FROZEN BUG ’93」#12「OBLAAT」
「打ち込み系」に分類され、本作のアグレッシブな側面を請負う楽曲たちです。
こうして振り返ってみると本作は、この手の楽曲がこんなに入っているから「痛快なギターロック」というイメージが残るんでしょうね。
この5曲はとにかくギターリフが非常に秀逸でギタリストhideとしての面目躍如と言うか。
痛快なまでにかっかいい。
「ヘヴィなギターリフを弾かせたらオレの右に出るやつはいないぜ!」
とか自信満々なことを言っていた記憶がありますが、それほど出来には満足していたのでしょう。
ただ、90年代オルタナティブバンドたちと明確に違うのは、そこにインダストリアルロックのもつ密室感の度合いが非常に高く、hideにしかできない音世界を完成させていることです。
この頃、あのマリリン・マンソンがブレイクして有名人になる前に実はhideのファン(hideに電話をしてきたらしい)だったというほど、強烈に影響を与えるクオリティを持った楽曲たちだったということでしょう。
また、1990年代に入りサンプリングの技術が進化しているおかげで、80年代のように「安っぽいリズムマシーン感」が出ていません。
スネアの音だけ聴けばもはや打ち込みとは分からないレベルですね。
#4「EYES LOVE YOU 」、#13「TELL ME」
シングルカットの2曲です。
どちらも正確にはバラードとは呼ばないと思うけど、本作においてバラード的な役割を果たしている曲たちですね。
hideの透き通るような透明感のある声に、クリーントーンのギターが清涼剤の役目を果たしています。
まだギターとかの弾き方も知らなかった当時の私には、MVでの「EYES LOVE YOU」のギターソロが衝撃的でした。
「なにやら両手で弾いてらっしゃいますがこれは一体!?」
タッピングのことなんですが(笑)。
「Tell Me」の肩の力の抜けた感じは、その後J-POPに意図的に歩みを進めていくhideのその後を暗示してます。
Xから通じて初めて「友達に貸しても絶対わかってもらえる曲」だと思いました(笑)。
はい、というわけで本日は「HIDE YOUR FACE」を語ってきました。
ソロ1作目にして驚くべき完成度と盛りだくさんの内容で、当時Xの音楽に飢えに飢えていたファンをお腹一杯に満たした作品です。
これは楽しめますよ~!
『no music no life!』
”音楽なしの人生なんてありえない!”
Simackyでした。
それではまた!