『タイニイ・バブルス』サザンがアルバム主義に切り替えていく最初の作品
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
本日は1980年リリース、サザンの3作目のオリジナルフルアルバム
『タイニイ・バブルス』
を語っていきますよ。
当時のサザンを取り巻く状況
さて、本作がリリースされた1980年という時期はサザンにとってどういう時期だったのか?
これが分かっておかないと、本作の面白みは理解できません。
1978年にシングル『勝手にシンドバッド』でビッグヒットを飛ばし、派手にデビューしたサザンは
「なんか面白い芸人みたいな陽気なバンドが出てきたな」
というコミックバンドのような印象を持たれており、『アルバムをじっくり聴かせる』というバンドと言うより、『派手なシングルでお茶の間の人気者』というポジションだったようですね。
私たちの世代でいうと氣志團なんかが近いイメージになるのかな?
ようは見た目やパフォーマンスが面白いからテレビに引っ張りだこっていう状況。
「また『勝手にシンドバッド』みたく陽気で楽しいやつ頼むぜ」
って世間から求められている状況があって、レコード会社からもそう求められていました。
『気分次第に責めないで』なんかのシングルがまさにそうですね。
私見ですが、傑作だった『熱い胸さわぎ』がちゃんとした音楽的評価、つまり名盤として認知されていないように感じるのも、そういう当時の偏見に原因があるんじゃないかな?と思ってます。
しかし、ツアーにテレビに大忙しの最中、リリースされた2作目『10ナンバーズ・からっと』、およびそこからのシングル『いとしのエリー』のリリースによって、
「なんちゅう本格バラードだ…こいつらただのお笑いバンドじゃねぇ!」
と、実力派のバンドとしてのパブリックイメージを獲得することに一応成功しはしましたが、現在考えられているようにここで世間の目がガラッと変わったということはないそうですよ(ギター大森談)。
「さて、もういい加減、こういう見られ方に疲れたよ。なんでテレビ出るたびにコスプレせにゃならんのだ!こんなにテレビに出続けるのもうんざりだし、今後の方向性としてどうやっていこうか?」
っていうことを模索しながら作られたのが、この3作目『タイニイ・バブルス』なんだと思います。
この頃は『ファイブ・ロック・ショウ』と称して、シングルを5ヶ月間に毎月1枚リリースしていくことを打ち出します。
1.涙のアベニュー
2.恋するマンスリー・デイ
3.いなせなロコモーション
4.ジャズマン
5.わすれじのレイド・バック
この内、第1・2弾は本作収録となってます。
で、第2弾シングルは本作と同時リリースですね。
「テレビ出演を減らす分、ちゃんとやることはやりますから」
といったところでしょうが、テレビ出演を控えることによって自分たちがどういう音楽を作っていくのかを自問自答する時間を確保し、より先を見据えた音楽制作をしようとした時期とも言えます。
多分、私の推測だと、桑田さんはこの時期にシングルをヒットさせようなんて思っていなかったんじゃないかな?
テレビ出演を減らすための交渉材料として、打ち出しただけの戦略というか。
そもそもシングルヒットを狙った選曲に見えないし、シングル用に作ったようにも見えない(笑)。
「ファイブ・ロック・ショウ」の5枚は、音楽的に見ればおもしろい曲が多いのですが、これがセールス的には全然ヒットしなかったですね。
どれくらい売れていないかと言うと、各シングルの売上は
涙のアベニュー10万枚、恋するマンスリー・デイ7万枚、いなせなロコモーション11万枚、ジャズマン5万枚、わすれじのレイド・バック5万枚。
5枚合計でも38万枚。
90年代のサザンから入った私世代からするととても信じられないような売上枚数なんです。
私が中学生の頃のリアルタイムなんて
涙のキッス&シュラバラバンバ2枚同時発売250万枚
エロティカ・セブン&素敵なバーディ2枚同時発売225万枚
これが私たちの世代にとってのサザンですから、5枚合計して40万枚に届いていないというのはかなり意外。
まあ、売れなかったのも当然といえば当然。
シングルをリリースしたら、テレビ出演してその曲を演奏するから認知も広がるし、多くの人に買ってもらえるのに、この頃のサザンはテレビ出演というプロモーションをせずにシングルを出し続けるわけですから仕方ないでしょう。
「ファイブ・ロック・ショウ」の直前に出したシングル『C調言葉にご用心』はちゃんとプロモーションしてたから37万枚くらいは売れてるわけだし。
売れなかったとは言えど、それは音楽的にパッとしなかったということでは全然なくて、このシングルラッシュの中に、『涙のアベニュー』『いなせなロコモーション』みたいな今でもファンに愛される名曲が潜んでいたりするのは注目に値します。
5枚とも音楽的にはバラッバラなことやってるんですよね。
これがリアルタイムでは『迷走』と受け取られても仕方がないとこなんですが、ジャズやカントリー、オールディーズといった1~2作目では未開のジャンルまでその引き出しの中に吸収していた時期とも言えます。
この桑田さんの貪欲さは凄いな~。
『ジャズマン』もかなりの力作で、1曲の中に込められている情報量が驚くほど多いんですよ。
普通のメロディはないし、繰り返しが少ないし、展開の多さが目まぐるしい。
3作目『タイニイ・バブルス』を考える際、このあたりのシングルの方向性にヒントがあるような気がするんですよね。
いかにもシングル受けしそうな曲ではないというか。
『いなせなロコモーション』も本来ヒットさせたければもっとシンプルにしてコーラスを繰り返す回数を増やせばもっとポップにできたはずだし。
聴いてて「あれ?まだコーラス行かないんだ」ってなりますもんね。
なんか一捻りがあるというか。
「こういうのをサザンの名義で出したら世間はどう反応するんだろうか?」
っていうマーケティング調査をしているような5枚に見えるんですよね。
自分の感覚とリスナーの感覚のズレ・ギャップを確認していると言うか。
でも、桑田さんの凄いところって、ここで売れなかったからといって、それらの新しい音楽性を放棄することなく、アルバムの中でずっと後年発展させていくんですよね。
『タイニイ・バブルス』楽曲解説
さて、それでは簡単に楽曲解説行ってみましょう。
簡単にと言うのは、今現在、かなり聴き込んでみたけどまだお気に入りの一枚にはなりきれてなくて、まだまだそこまで感情移入できていないからですね。
本作はラテン系の疾走ナンバーがなくなったせいか、またさまざまな音色が導入されて空間が埋まってしまったためか、ドラムの松田さんの存在感が若干薄まりましたね。
野沢さんに至ってはほぼ存在を感じません(笑)。
それから「もしや」と思って、今回1,2作目と聴き比べたのですが、大森さんのギターは本作ではかなり削られてますね。
ギターソロの出番がないない。
#1『ふたりだけのパーティ』は気持ちいいくらいのスライド・ギターでのっけから攻めてきて
「おぉ?今回は大森さんが気合入ってんな!」
って思ってたんですけど、どうやら桑田さんみたいですね(笑)。
なんか大森さん可愛そうだな。
#2『タバコ・ロードにセクシーばあちゃん』は本作で一番好きなナンバー。
原さんのめっちゃいい声で「セクシーばあちゃん」っていうところは、一緒に聞いていた子供たちも爆笑してました(笑)。
コーラスはほぼツインボーカルのように原さんがガッツリ入ってきて驚きました。
今作で原さんのあの魅力的なボイスは完成されてきたと言うか、90年代の我々世代がお馴染みの原さんの声になってきてますね。
#3『ヘイ!リュード』はジャズ調の色気のある曲ですね。
前作から導入し始めたホーンが更に本格的になってきてますね。
というよりこの時点でかなり完成度が高いのは驚き。
#4『私はピアノ』は原さん初のリードボーカル曲ですが、ドストレートな歌謡曲ですね。
これなんかシングルカットしなかったところに、やっぱり桑田さんがシングル売る気なかったと思ってしまうんですよね。
なんかあの原さんの妖艶な歌声という感じではなくて、まっすぐに歌っている感じがズドンと胸に響いてきますね。
#5『涙のアベニュー』は「ファイブ・ロック・ショウ」の第1弾であり、本作からの第2弾シングルです。
ファンには人気の高い曲で、心落ち着くバラードですね。
このブルージーな大森さんのギターソロがかなり好き。
っていうかやっと出番きたね。
例によって途中でサックスに持ってかれますが(笑)。
#6『TO YOU』は関口さんの間をおいたベースがいい味出してます。
ただひたすら楽しくくつろげます。
#7『恋するマンスリー・デイ』はレゲエ調のナンバーで、これもシングルカット曲です。
これがシングルのB面ではなくA面というのが色んな意味で信じられません(笑)。
この頃は『ニューウェーブ』とか言って、パンクバンドなんかがこうした『非ロック』な音楽要素を取り入れて発展していた時代だったと思うんですけど、桑田さんの場合はそうした世界の流れに先んじて、1作目の頃からやっていたということはすごいですよね。
しかしこんな曲を作られて『思いやりを感じた』という原さんもだいぶとぶっ飛んでると思うんですが(笑)。
#8『松田の子守唄』はドラムの松田さんが初のボーカルをとります。
今作でかなりドラムが大人しくなったけど、その分がんばってます。
まったくサザンの楽曲を聴いている気がしない(笑)。
けど、純粋に曲は心に響いてくるんですよね。
#9『C調言葉に御用心』は本作からの第1弾シングル。
この曲は人気高いですね。
というか、この時期に発表されたシングルでは最もシングルらしい曲ですね。
#10『タイニイ・バブルス・タイプB』
ここでタイトル曲をもう一度持ってくることでビートルズの『サージェント・ペパーズ』みたいにカーテンコールを意識したみたいですね。
#11『働けロックバンド』はさながらアンコールの一曲といったところでしょうか?
すごく哀愁漂うバラードのわりには歌詞はちょっと愚痴っぽいところが面白い。