『スマイル』イエモンがヒットメーカーへ大きく舵を切った作品
どうもsimackyです。
本日はイエローモンキーが1995年にリリースした通算5作目のオリジナルフルアルバム
スマイル
を語っていきますよ。
ようやく“売れた“!イエモンの初ヒットアルバム
イエモンは1991年のインディアルバム『バンチド・バース』から前作『ジャガー・ハード・ペイン』まで1年に1枚のペースでアルバムをリリースしてきましたが、これまで4作品ではセールス的に苦戦しまくってました。
3作目『エクスペリエンス・ムービー』が売れなかった時点で、レコード会社も黙ってはいなかったみたいなのですが、それを説得し、ロビンの、そしてイエモンとしてのミュージシャンエゴの極みであるコンセプトアルバム『ジャガー・ハード・ペイン』で勝負をかけ、セールス的には見事玉砕してしまいました(笑)。
『ジャガー・ハード・ペイン』はせめて1回売れてから、ファンの母体が広がってから出して良かったんじゃないのかな?
まだまだイエモンを知らない人が多い時期。
そんなイエモンを知らない一般リスナーに聴かせる名刺代わりの作品としてはいささか重すぎる感じはありましたから。
まあ、これまでの解説でも書いてきたように、これは内容の善し悪しとは関係ありません。
けど、のちにフジロックフェスでアルバム曲をやりすぎて失敗してしまった話を持ち出すまでもなく、イエモンが「みんなこういうのを俺たちに期待しているはずだ」と思っていることと、リスナーが求めていたことが違ったのかもしれませんね。
これまでの4作品はどれも素晴らしいし、この初期にしかないイエモンテイストは本作以降味わうことはできないので、とても貴重だとも思います。
『ジャガー・ハード・ペイン』で決定的なブレイクを果たせなかったイエモンは、いよいよもって本気で『売れる音楽』を作るという避けて通れない至上の命題へと立ち向かうことになりました。
それまではあまり売れなかったとは言え、イエモンには万人受けするメロディセンスがインディ初期からあり、暗くてマニアックだった前作『ジャガー・ハード・ペイン』にさえ「ロックスター」や「悲しきアジアンボーイ」のように強烈に明るいロックナンバーもあったんですよね。
多分、初期を聴いたことがなくて、シングルヒット曲しか知らない一般リスナーでも、これらのナンバーを聴けば
「あ!イエモンだ!これこれ!」
ってなるであろうメロディセンスを持っていたんです。
なので、ここで試行錯誤してガラッと生まれ変わったわけではなく、
『元々あったけれどあんまり開くことがなかった引き出しの1つを開放した』
と表現するほうが正しいのかもしれません。
彼ら4人の体にはキッスやチープトリックやクイーンの血が脈々と流れているわけですから。
で、本作はそのイエモンの持つポップで明るい側面が惜しげもなく、捻りもなく、あますことなく、出血大サービスの大盤振る舞いで溢れ出た作品となっております。
よく言われているのが
『イエモン♪入門♪最適だもん♪』
誰もそんなリズミカルに表現はしてませんけど、いい感じに韻が踏めましたね(笑)。
それは間違いないです。
毒がないというか、非常に聴きやすいです。
いかがわしさもエロさもちゃんとあるのですが、それは例えるならばサザンの桑田佳祐のような「クスッ」と笑えるユーモアの範囲内というか。
メジャーデビュー作『夜行性のカタツムリ~』こそ明るい作風だったものの、続く『エクスペリエンス・ムービー』『ジャガー・ハード・ペイン』は結構暗かったです。
音世界もですが、何より歌詞世界が生々しく痛々しかったですから。
ニルヴァーナに代表されるグランジ・オルタナティブムーブメントに影響された側面が強かったのかもしれません。
『リアル』で『ヘヴィ』であることが時代の合言葉になってましたしね。
今回は幻想的で軽やかです。
例えるならば、前作が純文学の『人間失格』のように救いのない世界観だとすると、今回はディズニーのような世界観です。
きらびやか。
ハッピーメリーゴーランド(だから何だその表現は)。
それは極端だな。
相手が気を許しているのをいいことに、お客のおねーさんのケツをさわってるやたらスケベなミッキーといったところでしょうか(笑)。
「太陽が燃えている」以降のシングルヒット曲を聴いてイエモンを聴き始めた人にとっては、まさに最適な入門編でしょうね。
腹をくくったのか?
前作からのシングルは『悲しきアジアンボーイ』1枚だったのに対し、今回は『熱帯夜』『LOVE COMMUNICATION』『嘆くなり我が夜のファンタジー』と3枚もリリースしました。
スタッフからも
「『悲しきアジアンボーイ』こそ君たちの真骨頂。あの路線を作ってくれ」
と説得されて出来たのが『LOVE COMMUNICATION』らしいです。
この頃はロビンよりもスタッフの方がバンドのことを客観的に分かってるような(笑)。
そんな売る気満々の本作『スマイル』は前前作のオリコン80位、前作の28位から大幅に記録更新してなんと
4位
へと大躍進を遂げます。
ついにトップ10入り!
「売れるアルバムを作んなさい!」
と怒られて
「わーったよ、しゃーねーなー」
とすぐさま売ってしまうとは…さすがロビン。
やればできる人(誰目線?)。
こんなものロビンの実力からすると朝飯前だったんでしょうね。
このポップな一面も彼らの本当の姿だったのでしょう。
妙にしっくりきていると言うか、本来のスタイルに戻した感すらあります。
なんですけど、コアなファンの間では「売れ線に走った」とか言われて「このアルバムが好きです」って言いにくい空気感が出来上がっていると言うか(笑)。
だから『ジャガー・ハード・ペイン』出すのはまだ早かったんだって。
そりゃあんな作品作って、その中毒性に当てられた人からすりゃ、本作は裏切りにも感じるでしょうね。
私の場合は『フォー・シーズンズ』から逆行してきたので、出会い方が良かったんだと思います。
なのでこの作風には大いに肯定的です。
『スマイル』楽曲解説
#1『Smile』
いきなり教会で流れているかのようなパイプオルガン、そして聖歌隊のようなコーラス。
誰かが天に召されているようです。
で、続く2曲目が『マリーにくちづけ』でしょ?
しかも「ボンジュール・ジャポン!」ですよ?(マリーの故郷はフランス)
これね前作『ジャガー・ハード・ペイン』のジャガーとマリーが天に召されるシーンなんだとずっと思ってました。
バッドエンディングで終わった前作のストーリーを、ハッピーエンドに昇華させることで、『笑顔=スマイル』というアルバムをスタートさせようとしたんじゃないかな、と。
けれども、ロビンはインタビューでそれを明確に否定してるみたいで、前作のマリーとは別人とのこと。
#2『マリーにくちづけ』
ハッピーメリーゴーランドですね~(笑)。
いきなり観客の大歓声から始まります。
アニーはスネアの4つ打ちというこれまでのイエモンにはなかったリズムパターンで、明るく前向きに突き進んでいきます。
エマのギターソロもいつになく明るい!
#3『Love Communication』
シングルナンバーです。
何だこれは!?
ま、まるでオア◯スのアルバムでも始まったのかと思ってしまいました(笑)。
ギターリフといい、やたらリバーブかかってるとことか。
やっぱこういうのが彼らのこれまであまり見せなかった本領なんじゃないでしょうか?
このポップセンスはすごい。
付け焼き刃でこの曲はできませんからね。
本気で『売り』に来てますな~!。
#4『サイケデリック・ブルー』
ここで初めてちょっとアンニュイなナンバーです。
#5『See-Saw Girl』
うおっ!
イッツ・レニー・クラヴィッツ!(笑)
ファンキーだな~。
すりつぶすようなエマのギターリフとアニーのウラを刻むスネアのリズムが気持ちいい。
このロビンのボーカルにかかったエフェクトもかっこいいんだよな~。
#6『争いの街』
ちょっと前作のストーリーを引きずってるようにも感じるのですが、戦争中に恋に落ちたカップルの歌です。
汽車(電車?)が走り始める効果音で始まります。
サイケな雰囲気をもったナンバーです。
最期の泣きのブルースギターがいいですね~。
#7『エデンの夜に』
後の『タクティクス』に繋がっていくような、ブルージーで渋めのナンバーです。
ブルーステイストが続きますね。
こういうのも、前作の重苦しさはなくなり、さり気なく聴かせてくれます。
#8『イエ・イエ・コスメティック・ラヴ』
ブギーではないけど、独特の気だるさと陽気さが混在したイエモンならではのロックが完成してます。
ロビン節に合いの手の「イェーイェー」が気持ちいい。
#9『ヴィーナスの花』
ひさびさのブギー。
この手のリフを弾かせたらエマの右に出る人はいませんね。
やっぱイエモンのアルバムにはこういうナンバーがないと。
#10『“I”』
ウィキペディアを読むと、楽曲解説でこの曲に関しては「FU◯K ME」って一言だけ書いてあります(笑)。
おいおい、これはウィキ的に大丈夫なやつなの?
本作の中でキラリと黒光りする攻撃的ナンバー。
初めて聴いたときはシビレまくって聴きまくりました。
かっこよさだけで言えばイエモンの全曲の中でもトップクラスに来るでしょう。
エマのカッティングにアニーとの決め、そこにのっかるキーボードの怪しいメロディがかっこよすぎる。
ライブで盛り上がらないわけがない。
#11『Hard Rain』
ウィキに「亡くなった友人へ捧げた曲」と書いてあるのですが、歌詞の内容からするに『恋人』の間違いとしか思えない(笑)。
それか、ロビンがそういう時期もあったということ?
#12『嘆くなり我が夜のFantasy』
シングルナンバーです。
インディ時代『バンチド・バース』の頃に制作された楽曲の収録としては、これが最後になります。
ライブではずっとインディ期から演奏されていたお馴染みのナンバー。
ここまで温存しましたか。
やっぱりこういう曲はすでにインディ時代から作れたんですね。
前作までがいかにひねくれていたのかが分かりますね(笑)。
ニューイエモンの典型的なパターンというか王道をいってます。
#13『熱帯夜』
ラストはシングルナンバーで代表曲ですね。
これもトップ10を狙っておもいっきり売りに行ったけど、59位くらいでがっかりしたんですよね。
これまた王道中の王道イエモン。
前曲もそうですが、王道過ぎて『フォー・シーズンズ』との境目がほとんどないというか。
やっぱり本作と次作がいわゆる『王道イエモン』を感じさせますね。
ライブでの大合唱が聴こえてきそうです。
はい、というわけで本日は「スマイル」を語ってきました。
ブレイク前で影が薄い作品ですが、これはもっと多くの人が名盤だと認識する必要があると感じるアルバムですよ。
もし聴いたことがない人は、これをきっかけに聴いてみてくださいな。
それではまた!