『Sakura(さくら)』サザンの異色作と呼ばれた作品は本当のところどうなのか?

本記事はプロモーションを含みます。

どうもSimackyです。

本日は1998年にリリースされたサザンオールスターズ13作目『さくら』を語っていきたいと思います。

個人的にはサザンで5本の指に入るほど好きなアルバムですが、なかなかに癖があります。

なので、本日はおもしろおかしく解説しますので、興味が湧いたら聴いてみてくださいね。

『さくら』は異色作?どんなアルバム?

セールスは久々にミリオン逃す

さて、本作のレビューを見渡すと「異色作」「ダーク」「実験作」はては「失敗作」とまで色々ネガティブなことが多く目に付きます。

もちろんこのアルバムが大好きだという声もたくさんありますが、他の作品に比べて賛否両論分かれている印象を受けました。

まあ、ネガティブなレビューに呼応するように実際セールスを落としています。

前作「ヤングラブ」はサザン史上最高売上250万枚を売り上げたのに対して、本作は97万枚と久々の100万割れを起こしております(8作目『KAMAKURA』以来5作ぶり)。

前作の半分も売っていないとはいえ、97万枚売ってりゃ十分だとは思いますが(笑)。

これは私の勝手な推測ですが、『意図的』ですね。

「ヤングラブ」の解説記事でも書きましたが、どうも桑田さんはレコード会社から自由を獲得するためにヒットシングルなり、ヒットアルバムを生み出し、そこで担保した自由を使って音楽的探究をしているように感じるからです。

だって「ヤングラブ」の方向性は誰の目から見ても「売れ線ポップ」でしたから。

どの曲もシングルカットできるほどポップでしたし、その通り最高セールスを叩き出したわけだから確信犯でしょう(音楽的に素晴らしいので文句はありませんが)。

やりたいことを心ゆくまでやった充実内容

そして本作はこの実験的な方向性とレコーディング制作時間が過去最高の3000時間でしょ?

大作と謳われた『KAMAKURA』でも1800時間だったのにですよ?

まるで、

「前作は望み通り売ったから今作はヤリタイ放題させてもらうからね」

と言っているようじゃないですか?

なので本当にヤリタイ放題やってます。

まあ、どういうことかは後でたっぷり解説しますが…。

ほんっっと、あんたらいい加減にしとかないとPTAに怒られるよ、マジで(笑)。

ちなみにサザン結成のきっかけを作ったギターの大森さんは本作を最後に脱退をします(敵対的な脱退ではない)。

大森さんのギターもこれが最後とばかりに唸りを上げておりますよ。

じっくりとことん作り上げた本作のトータルタイムはなんと16曲で78分!

2枚組『KAMAKURA』の87分(20曲)に次ぐ2番目の長さ。

前作『ヤングラブ』の64分から14分も伸ばしてきましたね~。

CDの容量いっぱいまで詰め込んだてんこ盛りの内容です。

しかしこれがどういうわけか私の一番好きな『世に万葉の花が咲くなり』(16曲72分)よりもダレずに聞けるというか。

要因として考えられるのは、大森さんのワイルドなギターが掻き鳴らされるロックナンバーの存在が、アルバムにアクセントを付け緩急が出ているからかもしれません。

#1『NO-NO-YEAH / GO-GO-YEAH』#5『爆笑アイランド』#7『CRY哀CRY』#13『GIMME SOME LOVIN’』#15『01MESSENGER』と5曲も入っており、ハードロックの構成比としては全カタログ中で一番多いのでは?

サザン史上もっともハードロックした作品でしょうね。

78分といったら、ともすればかなり苦痛な長さになることもあるのに凄いことだと思います。

大森さんのギターだけじゃなく関口さんのベースがゴイゴイ攻めてくるし、松田さんのドラムもワイルドです。

リズム隊は今回強めですよ。

前作からその雰囲気は出始めていたのですが、本作はもっとノイジーでサイバーなテイストが出ていますね。

また、ジャズピアノやホーンセクションといった要素が多く感じ取れ、すごく『夜の雰囲気』を演出していて、本作のいかがわしい雰囲気を増長しています。

ダークな印象が残る理由

聴き込んでみるとそうでもなくなってくるのですが、聴き初めの頃は随分とダークなアルバムに感じたものです。

先に挙げた5曲のハードロックナンバーが全てマイナーな曲調ということもありますし、先程述べた『夜の雰囲気』を感じさせるジャズ要素も要因の一つでしょう。

しかしそれだけでこんなに濃厚ブラックチョコみたいなダークテイストにはなりません。

このアルバムはどこかネガティブなものをイメージさせる雰囲気だったり、歌詞だったりがやっぱり目立ちますね。

これまで表現をオブラートに包んでいたものを、ダイレクトにむき出しに表現している部分があります。

エロビデオで言えばモザイク無しみたいなものです(笑)。

どうしてこのアルバムがダークな雰囲気をまとっているのか解説していきましょう!

エロソングがもはや笑えません

まず挙げたいのが#3『マイ フェ レディ』。

・・・って待て。

しれっとやばいことすんな。

バレバレだから。

みんながサラッと「マイ・フェ・レディ」と読むと思ったら大間違いだぞ。

このタイトルはいかんだろ…?

「パパ、このタイトルなんて言う意味?」

って子供から聞かれたどうするんだ!

このタイトルこそが本作の『悪ノリさ加減』の度合いを象徴しているといっていいでしょう。

これまで『中学生の下ネタ』みたいな、割りと明るい雰囲気を持っていた桑田さんのエロソングが、『大人の欲情渦巻くドロッとした雰囲気』に変わってます。

「シュラバラバンバ」の頃は

「クスッ!まーた、桑田さんがやってるなぁ(笑)。」

みたいに笑って済ませられていたラインを

軽く踏み越えてきます。

歌詞なんて聴きたくなくても否応なくその卑猥(ひわい)なワードがあなたの耳を蹂躙(じゅうりん)してくるでしょう。

聴き終わった後にあなたの大事な何かが汚された気分になるので注意してください。

普段は

「字幕つけないと何歌ってるか分からない」

と言われる桑田さんですが、なぜこのような曲の時だけ分かりすぎてしまうのでしょうか?

歌詞読まない派の私でも理解できるってどんだけ滑舌よく歌ってらっしゃるんでしょうか(いつもは巻き舌のくせに)?

いや~もうここまで露骨で生々しいと半分引きますよ?

バックサウンドが極上のジャズだから、英語詩で歌ったら名曲間違いなしなんですけどね。

#13『GIMME SOME LOVIN’』もアップテンポで曲はかっこいいんですが歌詞はひどいもんです。

なんとSMの歌。

「アクメ」「お聖水」などの紙一重のワードが飛び交います。

ホントよくやりますよ。

これ書いてる私のブログまでグーグルにアカBANされないかヒヤヒヤするってのに!

広告付かなくなったらど~してくれんだよ(笑)。

っていうかここまでのこと歌って問題ない日本って

表現の自由が保証されている国

なんだな~とかしみじみ思っちゃいますよ。

これアメリカだったら絶対あのマークが付くやつですよね。

これこれ

不倫ネタがやたらある

本作はエロだけじゃなくて背徳的な雰囲気もあるんですよ。

不倫が関係する曲が2曲もあります。

明るい不倫ソングは#4「LOVE AFFAIR 〜秘密のデート」。

前の曲が「マイフェラレディ」でいかがわしい雰囲気だったのに、いきなり大歓声からパ~ッと明るくなります。

なんだこの落差…。

ツイッター読んでると、この曲大好きっていう人に女性が多いと感じたのは私だけ?

けど、この曲はサザンのシングルの定番中の定番というほど典型的なポップソングで、聴いててダークな雰囲気は一切ありません。

ただ、そんなに明るく不倫を歌うのもいかがなものかとは思うのですが。

とにかく幸せいっぱいな雰囲気なので、

「あ~癒されるっ!」

って感じにはなりますけどね(だからその雰囲気はいいのか?)。

この曲と#8『唐人物語 (ラシャメンのうた)』ラストの『素敵な夢を叶えましょう』の存在がこのアルバムをどれだけ救っているか!

この3曲が無かったら地獄行き間違いなしです(笑)。

しかし同じ不倫でも#12「SAUDADE 〜真冬の蜃気楼〜」は全く真反対です。

なんか妙にリアルなんですよ(別に私に経験があるわけではありませんよ?)。

これまで音楽では決して感じることのなかった感性が刺激されます。

ほんのり哀愁を漂わせるボサノヴァの曲調といい、寂しさを綴った歌詞の内容といい、雰囲気が昔の昼ドラの不倫。

この曲が一番背徳感を感じました。

なんていうかこの曲は『イヤ』でしたね。

流れ始めると「うっ」ってなるくらい大嫌いなんだけど耳にこびりついて離れない。

いや、理性が「この曲を受け入れちゃ駄目だ」って言ってきます(笑)。

皆さん、飲まれちゃだめです。

理性を保つんです!

不快感が伴うのに、私にとってはこのアルバムで一番『残る』曲だったですね。

とびきり落ち込む暗い曲がある

#11『私の世紀末カルテ』はとびきり暗いですね~。

このアルバムの『暗い』という印象の7割くらいこの曲のせいでしょ(笑)。

暗いとしか表現しようがない世界観。

サラリーマンの日常生活における中途半端な欲望やずるさ、下心、惨めさ、臆病さ、妥協と諦め、本音と建前をえげつないくらい切り取ってます。

おまけにここでもまた不倫が出てくる(笑)。

サラリーマンにとってリアルすぎるし図星すぎる(だから私がしているわけではないので)。

これ聴いててザックザック刺さる。

これを平然と聴けるサラリーマンっているの?

で、少し自分が情けなくなってくる。

痛いね~。

けど、この曲ね。

自己嫌悪で落ち込んでいる時なんかは不思議と慰めてくれている曲に聴こえてくるんですよね。

この曲なんかまさにオブラートに包まず、ダイレクトに容赦なく切り込んでくる曲です。

この方向性はしばらく続くのかとも思いましたが、桑田ソロの『どん底のブルース』であと1回やるだけで終わりましたね。

もっと聴きたかったような、なんかホッとしたような(笑)。

バラエティ豊かなラインナップ

本作の『ダーク』な側面ばかりを語ってきましたが、どうしてどうして。

普通にこれまでのサザンを楽しめる側面もちゃんとあります。

先ほど挙げた#4「LOVE AFFAIR 〜秘密のデート」#8『唐人物語 (ラシャメンのうた)』もそうです。

#2「YARLEN SHUFFLE」は楽しいし、#6「BLUE HEAVEN」もさわやかでいいし、#9「湘南SEPTEMBER」は懐かしくなるほどの80年代サザンですよ。

そして#14「SEA SIDE WOMAN BLUES」ではド直球の歌謡曲!

他のアルバムに入ってたら戸惑うけど、本作では絶妙にマッチしてます。

これはまさにカレーに乗せる福神漬的な役割です。

そして#16「素敵な夢を叶えましょう」はオーケストレーションで大団円に終わるという最高のラストですね。

とにかくバラエティ豊かなアルバムなので、78分が割りとスイスイ聞ける不思議なアルバムなんですよ。

純文学的な一面のある作品

まあ、そうは言ってもサザンの作品の中ではトップクラスに『重い』作品です。

本作を聴いて、これまで桑田さんは私達のために『表現を手加減』してくれてたんだと分かりました。

聴き終わった後は何か言葉で表現できない『しこり』が残る作品です。

純文学を読んだときの気持ちに近いというか。

漫画や映画って芸術性よりエンターテイメント性が高いですよね。

楽しくてウキウキしたり、大笑いしたり、ハラハラ・ドキドキしたり、涙を流して感動したり。

でも純文学って、例えば太宰治の「人間失格」とか石原慎太郎の「太陽の季節」とかっていうのは、楽しさも喜びも感動もない。

ズーンと暗い気持ちにさせられるんだけれども、ぐさりと深く心に刺さってずっとその作品のテーマに思いを馳せたり深く考えさせられたりする。

そんな要素がある作品ですね。

別に難解な作品ではないし、これまで通り、何も考えずに楽しめるサザンもたくさん入っています。

ですが、この方向性っていうのは桑田ソロでしか見せないと思って油断していたファンへのカウンターパンチだったんじゃないかな?

そんな作品だからこそ、要所であらわれる#4「ラブ・アフェアー」や#8「唐人物語」ラストの「素敵な夢を叶えましょう」が映える映える。

感情を上下に激しく揺さぶられる面白いアルバムです。

さらにこのツアーではサザン代表曲を伏せ、マニアックなセットリストで演奏してたらしいので、この時期は一番アーティスティックな時期というか、売れることの呪縛から開放された時期だったのかもしれませんね。

その後の歩みを見ると、サザンがマニアックな素顔を見せた最後の作品ではないでしょうか?

 

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