『リスク』メガデス”歌モノ4部作”の最終到達地点!
どうもSimackyです。
本日はメガデスの1999年リリース8作目『RISK』を語っていきます。
私が勝手にくくっている『歌モノ4部作』の4作目となります。
メガデスの歴史の中でも一番物議を醸した大問題作です。
「これじゃあメタルじゃなくてポップ・ロックだよ!」
当時はそういう声が非常に多かったですね。
ひねくれ者の私は、世間が嫌いだと言えば言うほどムキになって聴き込んでしまう癖(へき)があるのですが、意外にも本作はリリース当初からすんなり受け入れた珍しい問題作の1つです。
私は大好きな作品が世間一般からこき下ろされていると、世の中の評価を覆したくなる本能がありまして、これまでもそういう作品を解説する時は必要以上に長くなります(笑)。
というわけで、この記事で『RISK』をプレゼンしまくりますから、読み終わった人はもう一度聞いてみてくださいな。
大問題作と言われる理由
本作が物議を醸したのはその作風が非常に『ポップ』な作風だからです。
それに関しては私もまったく同意見です。
確かに本作はポップだと思います。
それでは何故、私は本作をリリース当時すんなり受け入れることができたのか?
それは想定範囲内だったからです。
今回は分かりやすく解説するためにライバルのメタリカを取り上げながら解説しますね。
時代の変化とメタリカの動き
メタリカとメガデス。
もともと同じバンド(メタリカ)にいながらスラッシュメタルを生み出した2人の天才リフメーカー:ジェイムズ・ヘットフィールドとデイブ・ムステインが、たもとを分かちそれぞれの道を進みました。
この2バンドはスラッシュメタル四天王(ビッグ4)にも名を連ね、数あるメタルバンドの中でも1990年代にもっとも変化し、かつ成功したバンドと言えます。
ヘヴィメタルにとって暗黒時代とも言える1990年代の荒波に自らを対応させ見事生き残りました。
まず、メタリカはメガデスに先駆けて1991年に『ブラック・アルバム』で音楽性をガラリと変えます。
それまでメタリカをメタリカ足らしめていた要素であるスピードや大仰な展開を廃し、スローでヘヴィ、そして歌に焦点を当てた作風にチェンジしたんです。
この作品が大ヒットしたことと、ニルヴァーナを筆頭とするオルタナティブムーブメントの台頭でヘヴィメタルシーンは大激震します。
この影響を受け、メガデスもメタリカから遅れること1年後に『破滅へのカウントダウン』で同様の方向転換を行います。
これはメガデスだけでなく他のメタルバンドもほぼ全て追随したと言ってもいいでしょう。
オルタナブームは1994年にニルヴァーナのカート・コバーンの死によって終焉したかのように一般的には思われていますが、実際は1990年代を通して影響力を持っていました。
彼の死が遺書を伴う『自殺』であったため、強い『メッセージ性=イデオロギー』が音楽雑誌等により広く伝播されることになったんです。
カート・コバーンは神格化され、オルタナブームは終焉するどころか彼の生前に残したインタビュー(メタル批判など)、彼の音楽に対する考え方(音楽の産業化への批判)などはより影響力を強め、ヘヴィメタルへの逆風は依然として強かったと感じます。
つまり、1990年代は最後までメタルバンドがかつての作風に戻せる空気感ではなかったということです。
メタリカ、メガデスは変化させた音楽から、次なる一歩をどこに踏み出すべきなのか?
依然として暗中模索する状況が続いていたといってもいいでしょう。
そんな中、カート・コバーンの死の直前(1994年3月)にリリースされたサウンドガーデンの『スーパーアンノウン』が全米1位の大ブレイク。
オルタナ四天王の一角に数えられ、最古参ではあるものの商業的には大きな成功を収めていなかったサウンドガーデンが、ここにきて歴史的傑作を生み出します。
もともと『ミュージシャンズ・ミュージシャン』と呼ばれていた上に、グラミー2部門受賞・1000万枚超えセールスを記録したこのモンスターアルバムがシーンに与えた影響は絶大で、ここで使われたサウンドが1990年代後半のシーンのサウンドを決定づけたと言ってもいいでしょう。
そんな中、メタリカは『ブラック・アルバム』から5年のスパンを空けて、1996年と1997年に続けざまに姉妹作である『LOAD』『RELOAD』をリリース。
スラッシュメタルに回帰していないのは言うまでもないのですが、そのサウンドからはヘヴィメタルの響きさえ失われ、この『スーパーアンノウン』に大きく影響を受けたサウンドとなっていました。
メタルファンにとってこの変化のインパクトは相当なもので、『ブラック・アルバム』リリース時とは比較にならないほどの物議を醸します。
これには仲間であったスラッシュメタルバンドたちからさえも批判が起きるほどでした。
しかし、アメリカンハードロック然としたその作風は、これまでメタルを聴いてこなかった層にまでアピールし、メタリカは『ブラック・アルバム』で上り詰めたロックの頂点の地位を不動のものとします。
このことからもメタリカは時代に求められるものを鋭敏に察知する嗅覚を持ち合わせていると言えますね。
それではメガデスはどんな道を歩んだのか?
メガデスは刻みました。
一気に変化するメタリカに対し、少しづつ変化したメガデス
商業的に大成功したバンドにありがちなのですが、『ブラック・アルバム』以降のメタリカは非常に寡作(少ないこと)になります。
これってすごくギャンブル性が高いと思うんですよね。
『ブラック・アルバム』から5年もスパンを空けたら、1996年『LOAD』を出すまでに音楽シーンのトレンドはガラッと変わっているんですよ?
現に1994~95年という時期には、カート・コバーンの死を見計らったかのように、ヴァン・ヘイレンやオジー・オズボーンなど、それまで沈黙していた大御所メタルバンドがリリースラッシュをしましたし、オアシスを筆頭とするブリットポップも1994年から台頭してくるんです。
5年の変化は大きすぎますよ。
トレンドにある程度配慮をした作風の変化も、そりゃ急激にならざるを得ないわけですよ。
ファンがついていけないほどの急激な変化です。
売れたから良かったものの、これは失敗と紙一重のギャンブル性が伴うと思います。
それに対し、メガデスはこまめにリリースを重ねます。
1992年『破滅へのカウントダウン』、1994年『ユースアネイジア』、1997年『クリプティック・ライティングス』、そして本作『RISK』を1999年にリリース。
平均スパンが2.2年です。
メガデスは1990年代をこまめにアルバムをリリースしながら、まるで一歩一歩ステップアップするように変化していくんですよ。
あくまで『スラッシュメタルはやらない』という基本方針を軸にしながら。
『ユースアネイジア』では前作のスロー&ヘヴィ路線を踏襲しながら、ダークさや攻撃性を若干減らし、よりメロディアスに。
『クリプティック・ライティングス』では前作のメロディアス路線を踏襲しながら、サウンドをよりソフトに、作風をポップなものに。
そして本作では前作のソフトなサウンドやポップ路線を踏襲しながら、そこに新たに打ち込み・サンプリングなどのデジタル要素を加え、それまでになかった世界観を構築することに成功しました。
気づきました?
そう、ポップな要素を加えたのは何も本作で唐突にやらかしたわけじゃなく、前作『クリプティック・ライティングス』からすでにやっているということです。
このことは前作のレビューでかなり詳細に分析していますのでご覧になってください⇩
●『CRYPTIC WRITINGS』メガデスが脱メタル化した作品!
『クリプティック・ライティングス』はメタルの音像からハードロックの音像へと変化しているのですが、それでもスピードナンバーが4曲もあります。
それらの曲ではザクザクのリフもあるし、ツーバスのドコドコもあるんです。
その印象が強いためか、実はかなり『ポップ』な要素を加えていることに気づいていない人も多いのかも知れません。
しかし『クリプティック・ライティングス』はかつて批評家やコアファンなどから
「これを好きな奴はにわかファン」
と揶揄されるほど、その『ポップ』要素は目立っていたんです。
そのポップ要素を認知し、また受け入れていた人からすると、本作のポップさは今さら驚くことではなかったんですよ。
冒頭で私が『想定内』と言ったのはそういうことです。
個人的には『クリプティック・ライティングス』の時の方がびっくりしました。
前作『ユースアネイジア』の作風を踏襲しているとはいえ、音がメタルじゃなくなっていること、売れ線フォーマットに整いすぎていることは感じたからです。
なので『RISK』だけをことさらに『ポップ』だと騒ぎ立てられることには、違和感がありましたよ。
さらに言えば、前作はほぼすべての曲がある程度ポップだったのに対し、本作はぶっちぎりでポップなナンバーとわりとマニアックさを含むナンバーが混在しているので、純粋ポップな曲の多さでは実は前作のほうが多いんですよ。
本作はそのぶっちぎりでポップなナンバーのインパクトが強すぎるために、こうした評価に繋がっている部分があるのだと思います。
めっちゃダークなナンバーも実はあるんですよ?
なので、本作の評判が悪いことを理由に食わず嫌いをしている人は、ご自身の耳で聴いて判断してほしいですね。
ファンに優しくないメタリカと優しいメガデス
全然リリースしないくせに、出したと思ったらファンの想定外の作品を持ってくるメタリカ。
それは『LOAD』では終わらず『セイント・アンガー』もそうでした。
毎回爆弾を投下されているようなものです。
メタリカはファンを雑に扱いすぎで優しくないです。
まあ、文句言いながらも付いていきますけど(笑)。
それに比べ、メガデスは『RISK』とは名付けているものの、その変化は想定内。
『クリプティック・ライティングス』が実はあれだけ支持されていたという事実を知ると、むしろこれはリスクではなく順当な一手だったと思うんですよね。
私が『破滅へのカウントダウン』~本作までを『歌モノ4部作』と呼んでいるのは、1つのベクトル上で進んでいるからです。
この4作の間は、全く関係のない明後日の方向に向かったアルバムは1作もありませんし、メタリカがいきなり100ぐらい変わるのに対しメガデスは25の変化を4回刻むようなイメージなんですよ。
だからメガデスファンはメタリカファンほど急激な変化に振り回されることはないはずなんです。
大佐はファンに優しいんですよ、ああ見えても(笑)。
せっかくそこまで大佐がお膳立てしてくれているんだから(勝手な想像)、本作『RISK』を聴くに当たってちゃんと『破滅へのカウントダウン』からの変化を順番に抑えてみてください。
それが大変であれば、最低でも前作の『クリプティック・ライティングス』を聴き込んでみて、その『売れ線フォーマットぶり』に慣れてから本作を聴いてみてください(笑)。
曇りなき眼でこの『RISK』という作品を見つめた時に、本作が持つサウンドクオリティとメロディの素晴らしさに打ちのめされることでしょう!
『RISK』楽曲紹介
さて、『ポップすぎる』という雑すぎる評価で一刀両断にされている現状があまりにも悔しくて、ここまでくどくど説明してきましたが、ここいらで本題に入りましょう。
本作の内容は非常にいいですよ!
傑作とまでは言いませんがね。
大佐はメタルだとかポップソングだとかいうジャンルに関係なく、メロディメーカーとして普遍性・汎用性の高いセンスを持っていることが、本作を聴けば分かります。
これはメタリカにも言えることなのですが、結局はメロディーメーカー・ミュージシャンとしての『地力』が桁違いなんだと思います。
スラッシュメタルをやっていたからかっこいい音楽が生み出せたわけでも人気が出たわけでもない。
音楽に携わっている以上、どんなジャンルに飛び込んでも高水準の結果を残したんだと思います。
だから世間のトレンドが変わってもやっぱり生き残ったでしょ?
それどころか最前線に君臨し続けてた。
これはとんでもないことなんですよ。
そう思わずにはいられないほど、この時期の大佐のセンスは才気ばしってます。
私は個人的に『歌モノ4部作』、その中でも『ユースアネイジア』『クリプティックライティングス』『RISK』の3作は、大佐のメロディセンスの全盛期だと思っていますので。
私だってそりゃインテレクチュアルスラッシュメタル時代のメガデスが好きなんです。
かつての作風を期待する部分も毎回ありましたし、がっかりする気持ちがゼロだったとは言いませんよ?
しかし、この時期の作品はそのがっかり感を、ワクワク感でふっとばすほど新たな魅力を提示してきます。
本作が最後となるマーティも、まるでJ-Rockアーティストのような全く違うアプローチをしていますし、メタルのギターリフが引っ込んだ分、エレフソンのベースが久々に楽しめますね。
それでは私の推し曲を数曲のみご紹介します。
#2『Prince Of Darkness』
あまりにもポップな本作の中で浮きまくっている実験的で非常にオルタナティブなナンバー。
まとっている雰囲気だけで言えば『ソーファーソー・グッドソー・ホワット』の頃のような感じさえあります(ラストのソロなんかも)。
アルバムで最も長い6分半もあるナンバーで、ひたすらダークな世界観を楽しませてくれます。
そうか、ちょっとアリス・イン・チェインズっぽく聞こえるのか。
#4『Crush‘Em』
メガデス初のアンセムソングとも呼んでも良いのではないでしょうか?
前曲#3『Enter The Arena』からまるで熱いライブでコール&レスポンスがされているような趣向が凝らされています。
「お前ら、ライブの時はこうやって盛り上がるんだぞ!」
とでも言いたげです(笑)。
この曲の雰囲気なんて、かつてのメガデスはどこにも見当たらないですよね。
快感指数の高いうねるベースの上に乗っかるカッティングがブラックミュージックっぽくて、レッチリとかジミヘンを思い起こしました。
加工されたドラムの音はなにやらマリリン・マンソンなどのインダストリアルロックの匂いを放ってますし、途中、大佐流のラップみたいなものまで入るのにはびっくり!
ラストのマーティのソロも思いっきりブルージー。
もう、何から何まで異色要素満載なのに、かっこいいアンセムソングとして成り立っているのがすごい。
#5『Breadline』
すごく透明感のある美しい曲ですね。
これも同じくかつてのメガデスなんて1ミリも入っていないのですが、大佐が歌っていればメガデスの楽曲として成立できる説得力がある。
この声が、歌いまわしがメガデスの個性を象徴するものにまでなっているということなんでしょうね。
それにしてもマーティのリードギターは完全にポップソングあたりで聞けそうなフレーズを持ってきてますね。
#7『I‘ll Be There』
中盤にポップなナンバーを固めてますね。
『アルバム中盤でダレる』というこれまでのジンクスを打ち壊そうとしているのでしょうか(笑)?
『Breadline』もそうだったのですが、メガデスが一切のダークネスを取り除いて中性的な世界観を表現する時に放つ輝きが大好きです。
この雰囲気は『ユースアネイジア』で初めて見せた姿で、誰も特筆しないけど私はこの側面を声を大にしてアピールしたいですね。
しかし、これは一歩間違えばエアロスミスやボンジョビのテリトリーに入ってしまうので、この辺にしときましょうね、大佐(笑)。
#10『Seven』
初期のメガデスに見られた唐突に明るいカヴァーソングが入ってくるパターンか…ん?
こ、これは、カバーじゃない!
となること請け合いの曲ですね(笑)。
こういう雰囲気をオリジナルとしてやっても違和感のないアルバムを作ったということでしょう。
2部構成になっており、前半はアメリカンハードロックで来ますが、後半はガラッと変わります。
この後半の軽快なドラミングが非常クール。
ニック・メンザから交代したジミー・デグラッソはあんまり評判良くないですけど、この曲のアプローチはセンスあって好きだな。
はい、というわけで本日は『RISK』の解説をしてきました。
こうしてレビューしてみて今更ながら驚いたのが、自分たちが一時代を築いた方法論をこれだけうっちゃって、まったく新しい方法論を取り入れているにも関わらず、私のような旧来ファンをも納得させられる作品を生み出していることです。
今となってはこういう作品があと1枚くらいあっても面白かったと思います。
大佐のポップなセンスがどれだけのものを持っていたのか?
もしかするとあと1枚続けていたら、とんでもないヒットソングが生まれてたりしたかもしれません(笑)。