「ワン・ホット・ミニット」(レッチリ):デイブ・ナヴァロ加入で異色の魅力を放つ傑作!
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
本日はレッチリが1995年にリリースした6作目のオリジナルアルバム
『ワン・ホット・ミニット』
を語っていきます。
『ワン・ホット・ミニット』はなぜ影が薄いのか?
長いレッチリの歴史の中でも存在を忘れ去られがちの『ワン・ホット・ミニット』。
その理由はギタリストにあります。
それはレッチリで最もファンから愛されるギタリストのジョンがいない時期の作品だからです。
とは言っても1~3作目もやはり同じ理由で評価が低すぎるとは思うのですが。
それでも2,3作目はオリジナルギタリストでバンドの創始者の1人でもあるヒレルが弾いているので、まだ歴史の脈絡の中で語られることはあります。
しかし、この6作目は『ジョンが抜けていた僅かな期間』という扱いになってホントに忘れられてます(笑)。
私はジョンのプレイも大好きですが、ジョン信者ではありませんし、他のギタリストを軽視する理由にもなりません。
本日は『隠れ名盤』の「ワン・ホット・ミニット」の魅力に迫りますよ~!
ジェーンズ・アディクションっていうカリスマを知っていますか?
このアルバムでギターを弾いているのは
デイブ・ナヴァロ。
1967年生まれなのでジョンと実は同じ歳。
アンソニー・フリーの5つ下。
あのジェーンズ・アディクションの元ギタリストです。
オルタナティブムーブメントを世界中に巻き起こすきっかけとなった伝説のロックフェス『ロラパルーザ』を主催したバンドなので、その分野のパイオニアとも言えますが、このフェスのツアーをもってジェーンズは解散してます。
これが1991年。
そもそもこのジェーンズが日本ではライブとかやっていなかったため、知名度低すぎなんです。
当時は音楽雑誌に
『なんとレッチリに伝説のジェーンズ・アディクションからデイブ・ナヴァロが電撃加入!!』
みたいに書かれてもほとんど誰も知らなかった。
Xのhideなんかはジェーンズ・アディクションに早くから目をつけていて、リアルタイムのライブをLAで何回も観に行ったとかラジオで言ってましたが。
世間一般的にはレッチリとの絡みがここで生まれたから、知られ始めたと言っても良いのですね。
でもすでに解散しているバンドなんで、そこから人気に火がつくとかはなかったんですね。
デイブの加入に関しては、当時はかなり『鳴り物入りで加入』みたいな感じで書かれていたのを覚えています。
「『ブラッドシュガー~』で世界中から注目されるバンドとなったレッチリに、ジェーンズのギタリストが加入すればそりゃ鬼に金棒!」
みたいな。
ジョンよりも格上のギタリストとして書かれていました。
なので、当時の発売前の音楽雑誌の煽り方は凄まじく、世の中の期待度や熱気はすごかったです。
デイブ・ナヴァロのギターの特徴『重ねまくり』
ジョンより格上か格下かはともかく、まったくタイプの異なるギタリストであることは間違いありません。
「ワン・ホット・ミニット」を聴いた後にジェーンズの作品を全部聴いて、デイブの特徴がはっきり分かりました。
ジョンはシンプルでリズミカル、“間“を使ったプレイが得意なのですが、デイブは“重ねる“ことで幻想感を出したり、重厚感をだしたりするタイプのギタリストなのだな、と。
実はファンクの要素があることは共通しており、曲によってはカッティングが
「お?これジョンが弾いているみたい」
と感じる瞬間もあったりします(#12など)。
どちらかというと音の選び方はメタルに近く、レッチリでは『マザーズミルク』に近いギターサウンドですね。
つまりこの人が加入した時点で、前作『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』とは真逆の作品ができあがることは半ば確定していたわけです。
チャドがドラムマガジンで当時語っていましたが、デイブは15トラックくらいのギターを重ねるので空間がほぼギターで埋め尽くされてしまい、チャドとフリーのリズム隊は非常にやりにくい状況だったとのこと。
そんなデイブの特徴がリズム隊にも影響を及ぼしています。
そのことがこのアルバムの“ある特徴“を生み出す結果になってます。
パワフルにならざるを得なかったリズム隊
具体的に言うと常にギターが鳴っているので、ドラム、ベースはそれに負けないようアタック感のあるプレイにならざるを得ないということです。
『ブラッドシュガー~』でのジョンのプレイには無音空間がかなりの部分あります。
ギターが止まって弾かない時間のことです。
しかもわりとクリーントーンの利用が多く、しかも残音を消すので(ミュートの多用)、他の楽器を邪魔しないんですね。
なのでチャドはハイハットの繊細なプレイでの表現ができますし、ベースもちょっとしたおかずを入れたり、“ため“てみたりと色々できる幅が広がるんです。
音の『強弱』も、『出る入る』のタイミングも選べるんですね。
しかし、このアルバムは『強』で『入る』という選択をとらざるを得ないというか(全曲じゃないですよ)。
「そんなにギターの音入れられたら俺らの音が聞こえなくなるじゃねーか!」
というリズム隊二人の心の声が聞こえてきそうなほど、もうやけくそに聞こえました、当時は。
チャドもフリーも。
けれども、よくよく考えてみればチャドはレッチリのオーディションの時にメタリカのTシャツを着てくる完全な”メタラー”だったらしいし、
フリーにしてもパンク・ハードコア畑の人間で、初期は音楽性より攻撃性を重視するかのようなスラップベースを引き倒していたので、
本来のスタイルに実は近いのかなと思ったりもします。
少なくともまったくデイブとはやっていけない、なんてことはなかったと思います。
彼らには引き出しが多いので。
ジョンとの仕事が2作続いていただけに、慣れるのに時間はかかったのでしょうが、
「この方向性での作品をもう1枚くらい作って欲しい」
と感じたのは私だけではないはずです。
ドラムとベースのボリュームを限界まで上げてあるので、重低音のド迫力はレッチリ史上最高でしょう。
ドラムはバスドラもタムもドッカンドッカン鳴ってるし、ベースは前作で封印したスラップをドゥインドゥインいわせてます。
アグレッシブなナンバーがこれでもかと並ぶ攻撃重視のアルバムです。
#1『ワープド』、#3『ディープキック』、#5『コーヒーショップ』#7『ワン・ビッグ・モブ』#12『シャロウ・ビー・ザイ・ゲーム』。
特に#1『ワープド』は文字通り「ガツン」とやられます。
レッチリ史上こんなに破壊力のあるナンバーはないですね。
#7『ワン・ビッグ・モブ』の空耳「おいしーおいしー」がノリノリで、ドラムのタム回しが爆撃みたいです。
どの曲も音がびっちびっちに詰まって隙間が全くないではないですけど、すさまじい音圧で攻めてきます。
1枚のアルバムにこれほどの重量級ナンバーが揃うのはこのアルバムだけです。
戦車です、もはやこれは(笑)。
聞き返してみて改めて思うのはこれって『ジェーンズ・アディクションVSレッチリ』だよな、って。
バチバチにぶつかり合う個性を無理やり合体させたみたいな面白さがあります。
あのクリームもかつてライブを評して「楽器同士が喧嘩しているみたい」とか言われていましたが、それに似ています。
レッチリは『ブラッドシュガー~』とはまったく異なるアルバムを生み出してしまいました。
しかし、一番らしくないこのアルバムの個性が私は大好きなんだな~。
こんな書き方をしてきたので、皆さんデイブを『重ねまくりの自己中ギターオタク』と思ってるでしょ?
言い過ぎ?そこまで思ってない?(笑)。
デイブはいいギタリストですよ。
『重ねる』だけではないバラードでの透き通ったギターも大好きだったんですが。
ぜひジェーンズも聴いてもらいたいです。
レッチリでのギターよりさらにかっこいいですから。
しかしアンソニーとフリーはデイブとやっていくことに無理があると悟ったのでしょう。
結局、アンソニーとフリーが話し合って
ア「おいボブ、なんか違わない?」
フ「うん・・・なんか違う」
となり、極秘にフリーがジョンにコンタクトを取り呼び戻し、デイブには解雇が言い渡されます。
なんだかんだでレッチリはアンソニーとフリーのバンド。
ここぞという時は強権発動です(笑)。
またしてもドラムマガジンで当時読んだのですが、チャドもまったく聞かされていなかったらしく、デイブから
「俺何かした?何がいけなかったんだ?」
と相談されたとのこと。
相当ショックを受けていたらしく、掛ける言葉が見つからなかったそうです。
チャドもびっくりだったでしょうが、驚いたのは我々ファンも同じです。
「え!?(音楽誌の)先月号に普通に皆で仲良く写ってなかったっけ?こわっ!大人の事情こわっ!」
みたいな(笑)。
レッチリはその後もこういうことはちょいちょいあるんですよね。
まあ、その後、フジロックにも再結成したジェーンズとレッチリが共演しているので、和解はしているみたいでひと安心です。
アンソニーの歌が心地いい
アグレッシブなナンバーでは楽器隊に押されがちなアンソニー。
あれだけバチバチやられたらそりゃそうなります(笑)。
その分、歌心に冴えを見せます。
正直な私の感想を言わせてもらうと、アンソニーのマシンガンラップは3rd『ジ・アップリフト・モフォ・パーティ・プラン』でピークを迎え、後は4,5、6枚目となるにつれ行き詰まっているように感じてました。
特に当時のライブを見ると。
なんかただ声を張り上げているだけというか、マンネリ気味というか。
麻薬の影響もあったのでしょうが、つまらなそうにお仕事で『マッチョなアンソニー』を演じているようにも見えました。
もともとフリーのスラップベースにアンソニーのラップを乗せてみたら思いのほか受けが良かったので、デビュー時からその方向でやってきていたのですが、その方向性を極めた後の新たな表現方法をここ数作で模索しているというか。
もともと歌うことが好きなのに、パンク精神の『アンチ売れ線』でやってきたレッチリで、それを表現することにためらいもあったのでしょう。
その模索が垣間見られたのが、各アルバムに遠慮がちに登場していた、歌メロのあるロックナンバーやバラードですね。
マザーズミルク収録の『ノック・ミー・ダウン』、前作に収録の「ブレーキング・ザ・ガール」「アンダー・ザ・ブリッジ」なんかがそうです。
そして本作では#2『エアロプレイン』、#4『マイ・フレンズ』#9『ティアージェイカー』などでその独特の魅力のある歌心をさらに開花させています。
そんな模索の先に
「もう全部正直に出しちゃえ!」
と開き直り、『歌モノ』へと大きく舵を切って大当たりしたのが次の大ヒット作『カリフォルニケイション』というわけです。
「もうロッカーぶるのや~めた」
って感じでしょうか(笑)。
「歌モノだろうが、内面の弱さだろうがありのままの自分を出しちまおう」
って感じで、あれだけマッチョだったアンソニーがメロウになったわけですね。
その後のアンソニーは憑き物が落ちたように自然になったというか。
今作はそんな変身前の過渡期のアンソニーが見れる興味深い作品でもあります。
『ワン・ホット・ミニット』からオルタナティブへ
私はハードロック、メタル、オルタナティブ系の音楽を好んで聞いてきた人間です。
なので、高校生当時、最高傑作と言われる『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』はギターの音がすりつぶしたような音に聞こえ、全く気持ちよくなれなかったです。
好きになるのに3年かかりました。
直後に聴いた『マザーズミルク』がハードロック/メタル寄りのサウンドだったため、それがレッチリの入り口になりました。
先程書いたようにこの作品はジェーンズ・アディクションに近いサウンドということもあり、’90年代オルタナティブが大好きな人にはうってつけだと思います。
あとはチャドのパワフルなドラムプレイが好きな人、フリーの”最後になる”スラップベースは必ず聴きたいという人は超おすすめですね。
長いキャリアを誇る人気バンドによくあることなのですが、人気のあるメンバーがいない時期だとか、メンバー間の仲がガタガタになっている時期だとか、
そういう文脈の中で作品の評価がそっちに引っ張られたりすることがあります。
ズバリ言うと『カリフォルニケイション』でのジョンの復帰を劇的に演出するための文脈で、この作品が”落とされる”傾向があるように感じてしまいます。
けれども、バンドの内部がどうなっていようとも、いい作品はいい作品。
純粋に音楽に耳を傾けてご自身の耳でありのままを感じてみてください。