『綺麗』サザンが進化のステップを登り始める
本記事はプロモーションを含みます。
どうもsimackyです。
本日はサザンが1983年にリリースした6作目のオリジナルアルバム
『綺麗(KIREI)』
を語っていきます。
何ていうことでしょうこのアルバムジャケットの普通さ加減。
普通のジャケットに普通のタイトルって…
大丈夫か!?
と心配になったのは私だけではないでしょう。
いや、本来こっちが正常なんでしょうが、サザンと付き合っていると感覚がズレてきてしまうので(笑)。
っていうか、毎度毎度ジャケットにツッコミを入れることが密かなお楽しみだったというのに、なんか寂しいと言うか。
しかし、このアルバムの評価低いね~。
よくおすすめアルバムランキングとか見ていると、最下位とか、良くても15枚中13位とか。
私は言いたい。
『綺麗』を侮らないでね!!!!
このアルバム、過小評価されすぎです。
アルバムは好調…しかしシングルは未だ安定せず…
『チャコの海岸物語』で久々にシングルヒットを飛ばしたサザンは、前作『ヌードマン』で過去最高、いえ1980年代のサザンアルバムとしては最高の売上を叩き出しました。
そしてその勢いのまま、『艶色(にじいろ)』『YaYa』『ボディスペシャル2』も約30万枚前後で推移しており、完全に大物バンドとして安定した売上を維持するかと思われましたが、『EMANON』7万枚『東京シャッフル』12万枚と、早くもセールス的にしぼみます。
う~ん、だから選曲おかしいって絶対(笑)。
ヒットを狙った選曲とはとても思えないんですよ。
やっぱり桑田さんってシングルを、『ヒットを狙う時』と『マーケティング調査をする時』とに使い分けてると思うんですよね。
もしくは、世間のサザンに対するイメージを固定させないために意外性のある楽曲を意図的にチョイスしている節さえありますね。
『EMANON』は激シブでわりと好きなのですが、こんなサイケなナンバーが売れるイメージありますか、ファンの皆さん?
『東京シャッフル』なんてシングル曲にしてはボーカルが奥に引っ込み過ぎで、インストゥルメンタルみたいに聞こえるし。
この曲は紅白で歌ったにも関わらず12万枚くらいのセールスなので、紅白出てなかったらレーベルに叱責されるほどの売上に終わった可能性さえあります。
まあ、でもこういうマーケティング調査ってすごく大事とも思うんですよ。
なぜなら後に『シュラバラバンバ』や『愛の言霊』のように「ありえないくらい攻めまくった」曲が、誰も予期しないまさかのビッグヒットに繋がる可能性もあるわけですからね。
『デジタル3部作』の第1弾
『ヌードマン』の回でも書きましたが、私は本作、次作『人気者で行こう』『KAMAKURA』の3作を『サザンのデジタル3部作』と勝手に命名しております(笑)。
どういうことかというと、『ヌードマン』がそれまでのサザンの集大成的な仕上がりで、やり尽くした感じがあり、本作『綺麗』から実験的なサウンド作りに挑戦し始めているからです。
ここからガラッと変わりますね。
私のような90年代からの遡り組世代からすると、ここで一気に90年代サザンに近づいてきたイメージです。
『ステレオ太陽族』の時も大人びたAOR色が出始めたのですが、本作ではそれがより本格化します。
都会的で大人びていて洗練されています。
そこに打ち込み、サンプリング、デジタル加工したドラムサウンドが加わります(この時代ってドラムトリガーってあるのかな?)。
また、リズム的なアプローチとしてはスパニッシュだったり、アフリカンテイストだったり、これまでにあんまり目立っていなかった要素がクローズアップされます。
『勝手にシンドバッド』に代表されるラテンのリズムはここ数作は鳴りを潜めていた感があるのですが、タムとかコンガとかの音がやたら耳に付きます。
打楽器は本作の聴きどころですよ。
毛ガニさん大喜びだと思います(笑)。
デジタルサウンドを導入しているにも関わらず、こうした有機的なビートが共存しているのはおもしろいです。
なので、『デジタル』というイメージが先行する割には、聴き込むと驚くほどパワフルなビートが効いてるんですよ。
『綺麗』楽曲紹介
本作からデジタル3部作とか勝手に言ってますけど、デジタルの度合いでいくと、本作は有機と無機の融合みたいな感じで、バンドサウンドもしっかり共存してます。
これがさらに発展していって『KAMAKURA』では『コンピューターチルドレン』みたいな超密室空間ソングにまでなっていくのですが、この頃はそこまで極端なナンバーはありません。
ただ、前作『ヌードマン』のような思いっきり100%の歌謡曲ナンバーがなくなりましたね(本当にそうか?)。
#1『マチルダBABY』
ちょっと誰ですか、本作が地味とか言ってる人は。
初っ端から最高じゃないっすか。
サザンのアルバムのオープニングとしては結構好きな方に入ります。
のっけから
「今回のアルバムはぜんぜん雰囲気が違う」
っていうのがはっきりと分かるドラムサウンドです。
このサクソフォンっていうの?ハーモニカみたいなしゃっくりみたいな音が病みつきになるな~。
#2『赤い炎の女』
得意のラテンのリズムですが、ギターはスパニッシュですね。
このアコギでのギターソロは激シブでかっこよすぎですよ。
いや、大森さんのことを多くの人が見直すギターソロです(笑)。
後に『愛は花のように』に繋がっていくナンバーですね。
スパニッシュ特有の憂いも帯びつつ「ぱっぱらっぱ」とコミカルになるのがサザン流ラテンミュージックだ!
#3『かしの樹の下で』
本作中、トップクラスに実験性の強いナンバー。
こういうの何ていうのかな?
ヒーリングミュージックというか、神秘的で幻想的なんだけど沖縄の民謡のようにも感じる、というか。
誰も人が近づかない沖縄の無人島あたりのキレイな海の底にもぐっていったいみたいなイメージです、私の個人的なイメージですけど。
90年代にディープフォレスト(フランス)なんかがやるデジタルと民族音楽の融合みたいな。
それをこの時代にやっているのがすごいです。
歌詞は中国残留孤児の歌なので、私が楽曲から感じた世界観と歌詞の世界観がまったく関係ないのですが、こういうことがあるから私は歌詞読まない派なんですよね。
自分の頭に浮かぶイメージを歌詞世界で壊されたくないっていう。
#4『星降る夜のHARLOT』
物悲しい雰囲気のレゲエですね。
レゲエってこういう世界観もやれたんですね。
レゲエは陽気でバカっぽくないといけないと思ってた(笑)。
#5『オールスターズ・ジャンゴ』
出ましたドンドコソング。
かなり好きだし、これライブ映像を見たらかなり好きになりますよ。
本格的なロックバンドとしてのサザンを感じることができますからね。
サザンでここまで打楽器が前面に出てきたのは初ですね。
ドラム松田さん、パーカッション野沢さん、ベース関口さんが主役の曲です。
この曲を聞くと、ドラムのノリが有機的で人が叩いているビートなので、打ち込みではなく松田さんが叩いたものを加工しているのがはっきり分かります。
関口さんの低音でうねるスラップベースがたまりませんね。
思わず体を縦に揺さぶりたくなるグルーブ感です。
そして大森さんはギターソロでジミヘンになります(笑)。
文句なしにかっこいいナンバー。
#6『そんなヒロシに騙されて』
ごめんなさい、1曲だけ思いっきり歌謡曲ありました(笑)。
思わず
「おい、お前出てくるとこ間違ってるって。お前が登場するのは『ヌードマン』だよ」
って教えてあげたくなりました。
本作の中では浮きまくってますね。
思いっきりサーフナンバー、というよりもほぼベンチャーズ(笑)。
#7『ネバー・フォール・イン・アゲイン』
ここまで7曲やってきてようやく折り返し地点。
レコード時代のA面ラスト曲です。
囁くようなボイスバラードです。
道化師の仮面を被っていた桑田さんが素顔を見せたような印象のレイドバックソング。
#8『イエロー・ニュー・ヨーカー』
ドストレートでひねりなしのサザン流ロックナンバー。
なんか前作の『プラスティック・スーパースター』みたいな位置づけですね。
サザンってロックバンドなのに、ギターリフの存在感が弱くて、ピアノがそれを担っていることも多かったのですが、この曲ではギターバッキングがしっかり引っ張ってますね。
結構、サザン聴くときって原さんのキーボードと大森さんのギターのパワーバランスに注目しちゃうんですよね。
#9『MICO』
加工されたタムの重低音が印象的で、ダンスナンバーっぽくも聴こえます。
摩訶不思議な曲です。
オカルトチックでいかがわしい雰囲気なので、もしこの曲をサントラとして使うなら『占い師の館』とかではまりそう(笑)。
#10『サラ・ジェーン』
余裕と貫禄を見せる大人のバラード。
90年代のサザンの王道バラードの雛形のような雰囲気を持ってるので、私などの世代からすると『典型的なサザンのバラード』っぽく感じるのですが、考えてみるとこれまでの5枚のアルバムでこのフォーマットはなかったですよね。
その意味ではこの曲って実はすごく重要な曲なんじゃないかな?
#11『南たいへいよ音頭』
関口さん作詞作曲ボーカルの曲で、「ムクが泣く」以来ですね。
いつも思うんですけど、無口で寡黙な関口さんのイメージと声が全然違う(笑)。
っていうかこの声なら7曲目の『ネバー・フォール・イン・アゲイン』を歌わせてみてもはまったのではないかな?
#12『オールスターズ・ジャンゴ(インスト)』
先程の『オールスターズ・ジャンゴ』のインストです。
お?サザン初のインストでは?
40秒程度とあまりにも短いので、何のために入っているのかと思っていましたが、おそらく『南たいへよ音頭』から『EMANON』への落差が激しすぎるので、緩衝材としての役割を果たしていると思われます。
#13『EMANON』
バラードのようにも感じるんですが、ピンク・フロイドなんかのプログレっぽくも感じるんですよね。
ちょっと前衛的な雰囲気も持っていると言うか。
AOR色が非常に強く、原さんの透き通ったピアノや大人の雰囲気たっぷりのサックスソロがいいね~。
私、こういう雰囲気って気取ってて本来好きじゃないはずなんですけど、サザンだと受け入れられるんですよね。
#14『旅姿六人衆』
さあ、ラストは名曲で締めです。
「『綺麗』はサザンのアルバムの中であんまり良くない方だ」
という評判を耳にしていて本作を聴いた人は、ここまでアルバムを通して聴いてきておそらく驚いたと思うのですが、
「評判は大間違いだった」
という『誤解が確信に変わる』のはこの曲を聴いた時でしょうね。
クサ過ぎるくらいにストレートで熱いです。
ああ~、なんだかんだでこの曲が大好きすぎる!
この曲でライブが終わったらメンバーもスタッフも観客も総泣き状態になるんじゃないでしょうか(笑)。