『マスター・オブ・リアリティ』ブラック・サバスがドゥーム・メタルやオルタナティブの起源となった作品

どうもSimackyです。

本日はオジー期ブラック・サバスが1971年にリリースした3作目のオリジナルアルバム『マスター・オブ・リアリティ』を語っていきますね。

突然変異で生まれ、突然変異で化けたバンド

サバスの全作品の中で、おそらくは1990年代のオルタナティブロック、それに続くヘヴィロックに直接的に、そしてもっとも強い影響を与えたのが本作でしょう。

そう、本作は

「ブラックサバスと言えばこれ!」

と多くの人が認識する音楽性の粋を集めたような内容で、そしてそこだけに特化している、ある種のアイコンのような作品です。

この種の音楽をやっている後進のミュージシャンたちにとっては、

究極の理想像と言うか。

みんなこれがやりたくて音楽演っているんじゃないですかね、ぶっちゃけ(笑)。

きっと

「お前の曲って『マスター・オブ・リアリティ』のパクリみたいだよな」

って言われても、怒るどころか

「ワオっ!?それって最大の褒め言葉だよ!」

って喜んじゃう、みたいな(笑)。

「どんだけ心酔してんの!?」みたいな。

そして90年代ヘヴィロック/オルタナティブやニューメタルににどっぷり浸かった人であれば、彼らがインタビューでサバスへのリスペクトを表明しているのを読んで、

「そこまで言うなら聴いてみるか」

と聴いてみたであろうアルバムなんです。

そして聴いてみて多分こうなったと思います。

「え!?なんで1970年代の初期にこんな音楽が存在するの!?」と。

「おい!サウンドガーデンってまんまサバスをやってるじゃねぇかよ!」と。

「っていうか全部すでにサバスがやっていたんじゃん!」と。

当時のサバスの横の並びを見てみてください。

誰も演っていません。

突然変異としか言いようがないです。

「当時の音楽シーンの脈絡の中でなんでこんな音楽がいきなり出てきたの?」

っていうタイミングで登場してます。

1作目「ブラック・サバス」の回では書きませんでしたが、実はサバスが「ヘヴィメタルの元祖」と呼ばれる一番の要因がこの

「同時代性の欠如」です。

存在する時代が間違ってます。

『ピラミッドに代表されるあれだけの超高度な建築技術がどうして紀元前の古代に存在していたのか?』

みたいな感じ。

分かりやすく説明しましょう。

例えばメタリカとかが出てくる時のライブハウスシーンって、結構みんなああいうスラッシュメタルみたいな試みを皆が演っているものなんですよ。

たまたまメタリカが一番先にブレイクしたってだけで、エクソダスあたりをヒントにしてメタリカもメガデスもアンスラックスもスレイヤーも、それから結局売れなかった有象無象のインディバンドが当時はたくさんいたわけです。

で、一種のシーンを形成する中で、皆で切磋琢磨して、あるバンドがブレイクしていく。

これはガンズがブレイクする時のLAのインディシーンも、ニルヴァーナがブレイクする時のシアトルのインディシーンも同じなんです。

これは1960年代、ビートルズやストーンズ、ザ・フーの時代から一緒で、皆が色んなバンドのライブに出入りして、ライバルたちを横目に見ながら盗み合う、いいトコ取りし合って発展していくんですよ。

だから例えば、ジミヘンが騒がれだすとライブの最前列はポールやキースやクラプトンやピートやジェフ…名だたるミュージシャンがズラッと並んで、ガン見したりしてるんですよ。

完全なバンド単体のオリジナルなんてものは存在しません。

この時代のインタビューで「あれはすでに俺がやったことだ」みたいな発言が多いのはこのためなんです。

ミックとかジェフとかはその発言多いですよね(笑)。

けれど、どうも色々情報を集めてみると、サバスの時はそのシーンがないんです。

皆でヘヴィな音楽を切磋琢磨するライブハウスシーンがあってその中から出てきたわけではなく、いきなりサバスが単体でやりだした感があります。

そしてそんなシーンはないものだから、自分たちだけで勝手に発展していきます。

そしてついに究極のオリジナリティの完成をみたのが本作というわけですね。

最も重く、最も中毒性が高く、最もかっこいい。

最初から最後までぐいぐい引き込まれっぱなしの完璧な作品ですね。

私の中では一番のお気に入りだった期間がもっとも長いです。

ちなみに私はサバスはオジーソロからの流れでまず「オジー期のベスト盤」から入ったのですが、その時は名だたる代表曲が入っているにも関わらずピンとこなかったんですよね。

オジー期のみのベスト盤

そしてその次に買った本作に打ちのめされました。

「こっちの方がよっぽどベスト盤じゃん!」

みたいな。

もうね、余計なことは考えず、ただひたすらに自分たちオリジナルのヘヴィな音楽性を追求しています。

それが見事に完成形まで行き着いていると言うか。

全く無駄がなく、触れれば切れるような集中力というか。

なので本作はサバスの1つの終着地点かもしれませんね。

サバスの一番の代表作は間違いなく2作目「パラノイド」でしょうが、おそらくサバスマニアが一番好きなのはこのアルバムかな、と。

このアルバムやばすぎるよ!

ついにサバスサウンドの完成形が登場!

1~2作目までも「これぞサバス!」という部分はありました。

1作目ではブルースとサバスサウンドが半々といった感じ。

2作目では「だいぶ表に出てきたね~」みたいな。

そして3作目となる本作では「がっつり出てきたね~」っていうか「それだけで作っちゃったね~」みたいな。

まあとんでもなくヘヴィですわ。

「一体誰に負けたくないからそんなにムキになってヘヴィにしてるの?」

っていう。

まるで誰も競ってないのに修学旅行で木刀買って「俺が一番だ」感を出している中学生のようです。

「いや、別に誰もそこで競ってないよ?」

ってツッコミを入れたくなったことあるでしょ?

それもそのはず。

本作からギターのチューニングが

1音半下げになります。

当時としてはありえないくらいヘヴィです。

勝手に「誰が一番ヘヴィだ選手権」をやってます。

ヘヴィミュージックオリンピックの1971年度、はえあるゴールドメダリストです。

参加者はサバスのみで審査員もサバスのみ。

一体誰が盛り上がるんだ(笑)。

こんな馬鹿げたマネ、当時は誰も演ってません。

しかし、これが奇をてらってこうなったわけではないところがドラマなんですよ。

ギタリストのトニー・アイオミは工場で働いている時代に右手指先を切断しています(ちなみにトニーはサウスポー)。

サウスポーのトニーにとっては指板を抑える方の指ということです。

この指に洗剤の容器を加工して皮をつけたものを指先に被せて押弦(おうげん)しているんですね。

そのため、力が入りにくいんですよ。

だから、もっと弾きやすくするために弦のテンションを緩めることを発案したんです。

「お?これなら力入らなくても弾けちゃうぞ?」と。

そしたらとんでもなく重いサウンドになっちゃった(笑)。

っていうか、「これはこれで面白いことができそうだぞ」となったわけです。

ただ低いだけじゃなく、新しい表現・方法論を生み出していると言うか。

「この低さで弾いてみたらこういうプレイした時にえらいかっこいいサウンドがでちゃうぞ!」みたいな。

こんなもの発見したのも自分たちしかいないから、夢中になったんだと思います。

「今度はこんな弾き方してみたらこんなんなったぞ!」

みたいな。

サバスが持っている『突然変異感』って偶然の産物だからなんですよ。

そもそも「音楽でホラーなことをやる」っていうのも、たまたま練習していたスタジオの目の前の映画館でホラー映画に行列を作っている人たちを見たことがヒントです。

奇をてらおうとしたわけでも差別化を意図してそうなったわけでもない。

このとんでもなく重いサウンドも「誰も演っていないことをやろう」としたからではなく、トニーの指でどうにか弾きやすくする工夫をした結果なんです。

面白い時代だよね~。

珠玉の名曲たち

それでは楽曲レビュー行ってみましょう!

冒頭から#1『スウィート・リーフ』ではいきなりマリファナを吸い込みすぎたトニー(?)の咽(む)せこむリピートで始まり、不謹慎極まりないです。

タイトルといい、咽る声といい、ここまで露骨な麻薬の描写は当時なかったんじゃないでしょうか(笑)。

こういうところにサバスのパンク精神を強く感じるんですよね。

アナーキーというか。

サバスがメタルにもパンクにもリスペクトされるバンドなのはこういうとこなんですよね。

この曲はオジーソロの特にザック・ワイルド期によく演奏されていましたが、やはり本家は違います。

『ドゥームメタルの元祖』と言われる本アルバムですが、その中でもこの曲こそ元祖中の元祖と言えそうですね。

しかし、途中で疾走するのがこの頃のサバスらしさで、ここではトニーのギターソロと、まるでディープ・パープルの名曲『バーン』以上のドラムフィルインが聴けます。

ビル・ワード舐めたらあきまへん。

#2「アフター・フォーエバー」は透明感のある雰囲気をまとっているのですが、いきなりズバッとリフが切り込んでくる展開にはやられます。

インパクトは他の曲ほどではありませんが、この曲大好きな人は意外に多いです。

#3「エンブリョー」は続く4曲目の序曲のようになっており、ライブではセットで演奏されることが多いです。

そしてここで代表曲中の代表曲#4「チルドレン・オブ・ザ・グレイブ」が登場します。

この曲こそ遡って聴いた後追いファンを一番驚かせるナンバーと言えるでしょう。

「1971年になんでこんな曲があるの?」

とんでもなくかっこいいです。

当時本作の制作中にラリっており、ほとんど記憶が残っていないオジーが、この曲のできの良さに「過去最高の手応えを感じたことだけは覚えている」というほど。

当時から相当な人気があったらしく、テレビ出演やフェスティバル等の出演時には必ず演奏されていた印象があります。

この曲を聴いて何も感じない人はおそらくサバスとはまったく感性が合わないので、無理してそれ以上聞く必要はないと思いますよ。

#5「オーキッド」はこれまた次の曲へのイントロ。

トニーのアコギって実は大好きなんですよね。

ジミーペイジもトニーも、アコギの名手なんですよ、実は。

で、#6「ロード・オブ・ディス・ワールド」が始まります。

これって代表曲に挙げられること少ないけど、最初は本作で一番好きだったから、1998年「リユニオン」の再結成時にセットリストに入った時はおそらく世界で一番喜んだという自負があります(笑)。

いかにも初期サバスという感じの野暮ったく田舎臭いノリで、オジーのボーカルが一番輝いてます。

#7「ソリチュード」では静かなバラードで再び箸休め。

ボーカルはビル・ワードが取っています。

囁く様な歌い方がオジーにはできなかったのかな?

ビルで正解だと思いますよ。

そしてラストナンバーとなるのは#8「イントゥ・ザ・ヴォイド」。

「ドゥームってどういう音楽を言うの?」

って友達に尋ねられたらこの曲を聴かせてあげてください。

重く引きずるようなたくさんのリフパターンが1曲の中に詰め込んであり、この手の音楽が好きな人からすると鼻血が出てしまうでしょう(笑)。

このアルバムの構成はメインとなる5曲の極めつけのヘヴィロックです。

この5曲はルーブル美術館で「ヘヴィロック」という題名で展示しても誰も文句言わないでしょう。

この引きずるような重さは『トゥームストーン・トニー(墓石のトニー)』と呼ばれたトニー・アイオミの魔力のかかったリフスタイルが完成したことを意味します。

ギーザーのベースの絡みつき方も『完全に掴んだ感』を感じますしね。

今回のギーザーはやばいですよ。

ここまでギターリフと切り離せないベースラインはちょっと他では聴けません。

サバスのリフはトニーとギーザーがセットだということがよく分かるアルバムですね。

その5曲を最高のコンディションで聴かせるために、3曲の小曲が一服の清涼剤として間に存在してます。

まるで考え抜かれたコース料理のように抜群の配置なんですよ。

脂っこい肉モノの後には口の中を中和する苦いピーマンが効果的なように、途中で入ってくる小曲の気持ちいいこと!

バーベキューで焼肉食ってる後半戦のピーマンってめっちゃ美味くないですか?

それだけで飲むと「渋っ!」って感じる赤ワインが、なんでブルーチーズのくっさい奴を食べてる時はあんなにフルーティに感じるのしょうか?

っていうか激辛のカレーを食べてる時の甘酸っぱいらっきょうや福神漬って安物でも最高級品のように感じてしまうでしょう?

つまりそういうことなんですよ、本作は。

そしてこの『静から動への対比』という聴かせ方って、その後のメタルにもオルタナティブにも確実に影響を与えていますよね。

それにしてもこの5曲のヘヴィロックは問答無用の説得力です。

「カレーは辛いほど大好き!」

という人にとっての辛さ50倍カレーみたいなアルバムですね。

それを好きな人にとっては完璧に望みを叶えてくれるアルバムです。

知ってました?

カレーって辛いほどスパイスがたくさん入っているから、旨味も強烈なんですよ、辛さが苦にならない私のような人からするとね。

別に味覚がイカれてるからとか、辛いものへの中毒症状というわけではなく、本当においしいんですよ。

そんな人にとって辛さ0倍みたいなカレーは旨味がナッシング。

スッカスカに感じるんですよ。

私なんて隣でかみさんが食べている「辛さマイルド」みたいなのを一口もらうと

「馬鹿にしとんのか!辛くなきゃカレーじゃねぇだろ!」

ってちゃぶ台ひっくり返したくなりますもん。

オジー期サバスの7~8作目がわりとファンに酷評されるのはこうした理由からだと思います。

「ふざけんな!重くなきゃサバスじゃねぇだろ!」

というわけですね。

まあ、辛さとは別の基準で測ればとんでもなくいい作品なのですが、サバス中毒者にとっては

「旨味スッカスカのカレー」

に感じてしまうのは、いた仕方のないことでしょう。

はい、というわけで今回は『マスター・オブ・リアリティ』を語ってきました。

それではまた!

 

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