『DIRT(ダート)』アリス・イン・チェインズ グランジ・オルタナのマスターピース
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
今回はアリス・イン・チェインズが1992年にリリースした2作目のオリジナル・フルアルバム
『DIRT』
を語っていきますよ~!
1990年代のロックを代表する名盤
最初に言い切ってしまいましょう。
本作は『アリス・イン・チェインズの最高傑作』とも、『グランジ・オルタナティブロックのマスターピース』とも呼ばれる名盤です。
私が本作と出会ったのは高校3年生の頃(1996年)で、まずそこの流れと当時の雰囲気なんかをお話しましょう。
私の場合は本作を聞く前に、先に3作目であり、当時の最新作だった『アリス・イン・チェインズ』(以下「犬」)を聴いてました。
メタリカのジェイムズ・ヘットフィールドが、アリス・イン・チェインズの名前を頻繁に話題に出してたので
「よし、まずは一番ジャケットが不気味そうな奴からいっとくか」
ということでこれを買ったんですね。
これがとんでもなくダークで、ルーズな作品でしたね。
メタリカの「LOAD」みたいなルーズさ。
つまりまったく受け付けませんでした(笑)。
「覚悟はしてたけど、ここまでとっつきにくいか…」
ってのが本音ですね。
確かに『LOAD』の元ネタになってるし、それどころかメタリカがアリス・イン・チェインズのフォロワーに見えてしまうほど、同じベクトル上にある作品というか。
正直、この『犬』聴いて
「もうアリス・イン・チェインズを深堀りするのは辞めよう…」
と思いましたから(笑)。
ニルヴァーナの『イン・ユーテロ』聴いた時の拒否反応も凄かったですが、あれは2週間も聴き込めばあのグルーブ感にはまってくるんですよ(結局は『ネヴァーマインド』より好き)。
けど『犬』の良さが分かるには時間かかったな~(もちろん『LOAD』もね)。
その後ビデオクリップ観て、映像から好きになっていったのは大学生になってからかな?
そんな感じだった高校生の私が数カ月後には
「やっぱりアリス・イン・チェインズをもう一枚買ってみよう!それで駄目なら諦めよう」
と思うくらい、当時のアリス・イン・チェインズはシーンの中で無視できない存在だったんですよ。
メタリカだけじゃなく、色んなミュージシャンがリスペクトしてましたから。
「やっぱここは逃げて通れないよな」
みたいな。
なにより日本のファンが実は多かったことが自分的にショックでした。
私の周りにはアリス・イン・チェインズを知っている友達など一人もいないのに。
ニルヴァーナやナイン・インチ・ネイルズ、レディオヘッドみたいにオルタナ系の音楽雑誌に頻繁に登場していたわけではないのですが、何故か人気が高い。
彼らの音楽性はメタル雑誌『BURN』で扱うにはオルタナすぎ、『クロスビート』で扱うほど内向的ではないというか(笑)。
そんな中、『ミュージックライフ』なんかはかなり扱ってた方だと思います。
『ミュージックライフ』って一番、ファン色が強いというか、いい意味でミーハー、フランクなとこがかえって良いんですよ。
ミュージシャンを“カリスマ“として扱わず、“身近なタレント“として扱うというか(笑)。
だって『BURN』の写真だとギラついてやばいオーラが出てるのに、『ミュージックライフ』の写真だと、“その辺歩いてるおじさん“みたいな写り方なんだもん(笑)。
ちなみに、『クロスビート』の写真は全部“過去の偉人”に見えるんですけど(笑)。
『ミュージックライフ』は、やたら小難しい評論とか思想的なこととかに偏ってないし、その意味では中立的なんですよ一番。
で、その『ミュージックライフ』で当時、プロモーションのために来日したジェリー(Gt)&ショーン(Dr)が日本のファンたちから熱烈な歓迎を受けている記事を見て
「ええええ~!ニコニコしてなにこのアットホーム感!アリス・イン・チェインズってこんな人達だったの!?こんないい人そうな顔であんな悪魔みたいな曲を演奏してんの?どういうこと?」
みたいな(笑)。
ブラック・サバスとは大違いなんですよ!(あれと比べるな…)
メンバーとファンがあまりにも楽しそうにしている写真を見てたら、なんだか日本で自分一人が取り残されているような気がしてきまして。
で、タワレコに行って速攻買いましたよ、悔しかったから。
そこでついに出会ったのが本作『ダート』なんですよ。
まあ、家に帰って聴いたらぶっ飛びましたわ。
「なにこのとんでもねぇリフとボーカルは…。『犬』とは凄みが全然違うじゃん…。」
って感じ。
「『犬』とは違うのだよ!『犬』とはぁ!」
って言われたような、本気のアリス・イン・チェインズを見た気分でした。
完全にイッちゃった狂気のボーカル、完璧に作り込まれた音質、怒涛のようなヘヴィネス、そして美しすぎるバラード…。
タイミング的にはメタリカのブラック・アルバムやニルヴァーナの『ネヴァーマインド』に圧倒されていた時期なのですが、1990年代のロックの流れを決定づけたこの2枚の超名盤に、勝るとも劣らない完成度の高さ。
完全にアリス・イン・チェインズの虜になりましたね。
こっから1作目、ミニアルバム、ビデオ・クリップ集やらホームビデオみたいなのまで買い漁っていった勢いは、メタリカやレッチリにハマった時の勢いを超えてました(ニルヴァーナは皆が持ってたから買わずに借りれたんですよこの時代は)。
それほど私を引き込んだ本作は、今では
500万枚のセールス実績
を保持し、リリースから30年後の2022年に再び全米チャートで9位になるなど、未だに支持され続けている超名盤です。
前回『フェイスリフト』の記事でも書きましたが、アリス・イン・チェインズがトレンドやムーブメントに左右されない普遍的な音楽性を持ち合わせていることの証明です。
っていうか、1作目300万枚、本作500万枚、次作300万枚、その間でミニアルバム300万枚、アンプラグド200万枚…
アリス・イン・チェインズってセールス的には
結構な化け物
ですよ。
隣で『ネヴァーマインド』が3000万枚も売れてるんでそうは認識されてませんが。
完璧な作品…しかしレイン・ステイリーはどう思っていたのか?
ここでちょっと個人的な見解を語ります。
なんら確証はない、あくまで私の憶測の話になりますのであしからず。
本作はとにかく怖いくらいに研ぎ澄まされてます。
無駄を一切省いているという意味ではメタリカのブラック・アルバムに印象がよく似てます。
そういう印象になってしまう最たる要因がボーカルのレインです。
前作『フェイスリフト』では感じたレインの人間臭さが感じられないというか。
これは本作が『感情表現に乏しい』という意味ではありません。
野暮ったさだったり、粗さだったり…そういう三枚目的な要素、
『安心材料としての人間臭さがない』という意味です。
「楽しそうに歌っているな」とか、「生き生きしているな」とは感じないと思います。
本作は無慈悲なまでに完璧なんですよ。
おそらく私が言いたいことは、伝わる人には伝わるかな、と。
本来、古典的なメタル歌わせても、ハードコア歌わせても、80年代の王道ハードロック歌わせても…おそらくその都度あらたな魅力を見せてくれるであろうレインを、限定されたコアな世界観(=ダーク・ネガティブ・ドラッグなど)のもとに徹底的に型にはめきっているというか。
レインの突出したカラー(=狂気と儚さ)のみに焦点を当て、それ以外のカラーを切り捨てています。
もうここまでくると『レインというキャラクターを演じている』とさえ見えます。
だから本来の人間臭さがまったく見えないんですね。
けれども、ホームビデオなんかから見えてくるレインは、もっとルーズでだらしなく、音楽を単純に楽しみたい人に見えます。
イメージ戦略のような打算的なことが一番できないタイプの人。
野心的じゃないんですよ。
で、繊細で恥ずかしがり屋。
というより、イメージ戦略どころか、そもそも音楽をビジネスとして割り切ってやっていくことが出来る人にはまるで見えません。
セールスのためにここまで徹底的なプロデュースをされたことが苦痛だったのか?
いや、自ら『アングリー・チェア』みたいな楽曲も作っているので、本作の作風が不本意ってことは決してないんでしょうが、そのイメージ(ドラッグ・狂気)が強くなりすぎてしまったことが苦痛だったのかな?
かつてインタビューで、
「ある時ファンが自宅に来たんだけど、ドラッグで完全にキマりまくったハイテンションで親指立てられたことがショックだった。一番、そういう影響を与えたくなかったはずなのに、そういう人間になってしまった」
みたいなこと言ってたし。
さらにそのアルバムが大ヒットしたものだから、ずっと長いツアーで歌い続けることになってしまい、その求められるキャラを演じ続けるはめになるわけです。
そういうことに疲弊したのではないか?
そう思ったりもするんですよね~。
なんだかカート・コバーンの話をしているみたいになってきましたが、やっぱりカートと同じ道(短命)を辿っちゃったし…。
2枚のEPがフルアルバムとはまるで違う作風(アコースティック)になっているのも、『レインの息抜き』という意味合いがかなりの部分あったんじゃないかな?
その後のレインの態度は、アリス・イン・チェインズに対して逃げ腰というか、消極的なんですよね。
ドラッグのやり過ぎでアリス・イン・チェインズの活動は休止しているにもかかわらず、他のバンドのメンバーとサイドプロジェクトをやったりもしてますしね。
おそらく『アリス・イン・チェインズに求められるもの』が、レイン・ステイリーのキャパを超えたんだと思います。
まあ、ここまでの話はあくまで私の憶測でしかありません。
このアルバムでのワールドツアーを最後に、もうツアーはやらなくなるんですよ。
ツアーから戻ってすぐに、たったの1週間で制作からレコーディングまで仕上げた7曲入りEP『Jar of Flies』(1994年)は、バンド初のチャート1位(しかもEPでの1位獲得はアメリカ歴代初!)を獲得したというのにツアーは行われませんでした。
人気絶頂とは裏腹にレインは自宅に引きこもるようになります。
『ダート』楽曲レビュー
#1『Them Bones』
究極のアリス流ヘヴィ・ロックです。
初っパナの「アアッ!!!」でいきなりレインの毒素にやられます。
まさにファンがレインにやってもらいたいことを、開始1秒で実現してくれます(笑)。
どこにでもあるようでどこにもないジェリーのリフ。
1つ間違えるとダッサイメタルのリフになりそうなんですが、いつも紙一重でめちゃめちゃクールなリフにしてしまうのは、この頃のジェリーの神業ですね。
7/8拍子というちょっとノリ辛いようで、妙にハマってしまうリズムも素晴らしい。
よくもこんな変則リズムでかっこ良く聞かせることができるものです。
そのくせいたってシンプルなんですよね。
マジックがかかってます…。
#2『Dam That River』
冒頭の2曲は怒涛のヘヴィネスで畳み掛けてきます。
バース部分では蚊が飛んでいるような浮遊感、そしてサビでは小節をまたいだ変則フレーズのリフを聞かせてくれます。
ジェリーに神が降臨してますよこれは。
それからあえて4拍子で刻むショーンもやっぱりセンスが凄い。
もう私は打ち震えて何も言えない…。
#3『Rain When I Die』
このショーンのドラムの始まり方、コピーするのめっちゃ苦労しました(笑)。
マイク・スターのベースは単純なフレーズを繰り返しているだけなのに、どうしてこんな入り方が思いつけるんだ?
とてつもなく不穏なイントロで、魔界の奥深くまで誘われます。
アリス・イン・チェインズにしか作ることができない楽曲です。
ギターのワウの感じと、レインの不安定に揺れ動くボーカルラインが絡み合って、すごく幻覚的というか。
世界中のファンが思ったでしょう。
「こりゃヤクやってないと出来ない曲だな」と。
ま、レインはともかくジェリーはシラフでこれをやるから凄いんですが(笑)。
1990年代のこの時期(1995年前後)って、「セブン」なんかのサイコサスペンス映画がすっごく流行った時期で、ナイン・インチ・ネイルズとかマリリン・マンソンとかもそこらへんとリンクしたような曲調だったりMVとかを出していたものですが、この手の音楽をやらせたら誰もアリス・イン・チェインズに勝てませんね、やっぱり。
#4『Sickman』
冒頭4曲逃げ場なし(笑)。
またしても狂ったサイコな世界に引き込まれていきます。
もうね、アルバム名を「オーバードーズ」にした方が良いと思います(笑)、
レインのイっちゃい加減が完璧です。
最初の頃はこの曲好き過ぎて狂ったように聴いてたな~。
途中、ちょっとバラードみたくなるんですけど、そこでも悪魔の笑い声が聞こえてくるんで、どこにも救いはないのでしょう。
#5『Rooster』
さて5曲目にしてここで一旦休みましょう。
まあ、結局はダークなんですが(笑)。
バラード…とは違うんだな~。
じゃあ、これをなんと表現するかというと…言葉が浮かばないんだな~(笑)。
確かジェリーの父親がベトナム戦争に行った話がモチーフになってて、それがMVのネタにもなっているとか。
#6『Junkhead』
ジェリーのリフは刻まないパターンが多いですね。
このスイング感のあるリフが本作の一つの特徴です。
基本的にダークな雰囲気なのですが、サビやギターソロでは割と中性的な色合い。
#7『”Dirt』
本作のタイトルチューンだけあって存在感と完成度が段違いですね。
まさに「地を這うような」という形容がピッタリ当てはまるような、低くうねる楽曲。
これはアリス・イン・チェインズの代表作と呼んでもいい出来ですね。
レインの魔力が最大に発揮されてます。
っていうかレイン以外の誰にこの曲を歌いこなせるというのでしょう?
サビでボーカルとギターリフがユニゾンしているようでしていない絶妙の絡まり具合で、この方法論もアリスは割と使うのですが、単なる「アイアンマン」のパクリで終わらず、これもお家芸の域に達してますね。
#8『God Smack』
本作で一番明るい曲調なのでは?
この曲調でさえそう感じてしまうほど、全体的に病んでいるので(笑)。
特にレインのボーカルは異常に病んでいます。
バースではちょっとポエトリーリーディングにも感じたり。
#9『※無題(シークレットトラック)』
スレイヤーのボーカル、トム・アラヤが参加してます。
このデスヴォイスがそれですね。
アリス・イン・チェインズはメタリカを始めとするメタル系のバンドからもリスペクトされており、そのあたりがニルヴァーナと決定的に違うんですよね。
パンク要素がないからかな?
で、スレイヤー、メガデス、アンスラックスの3バンドによるツアー『クラッシュ・オブ・タイタンズ』のサポートアクトをやっていたこともあり、親睦が深まったものと思われます。
スラッシュメタル四天王のうち、メタリカ以外の3バンドを集めての豪華なツアーで、どうにかメタル勢としても勢いを盛り返したかったのでしょう。
そこにオルタナバンドでありながら加われるアリス・イン・チェインズって何者?
#10『Hate to Feel』
初となるレイン単独の作曲です。
この曲なんかはすごくルーズな作りで、次作『犬』に入ってても違和感ないかも。
間がたっぷりとってあるので、リズム隊が色々遊びを入れてて楽しいです。
ジャムってるようなノリなんですよね。
ジェリーの合いの手のようなハーモニクスがセンスあるな~。
#11『Angry Chair』
2曲連続でレインの作詞作曲です。
本作イチ病んでるんじゃないかな。
ついに念仏ヴォーカルが炸裂します。
サビの「あぁあぁあぁ」のところでユニゾンするギターのうねりとか凄いです。
トニー・アイオミ(ブラック・サバス)ですよ、まるで。
サバスの名曲「into the void」でのリフ。。
かなりブラック・サバスの影響が強い、というよりブラック・サバスがいかにグランジ・オルタナの音楽性の基盤になっているのかが分かる曲というか。
サビで曲調が極端に明るくなるのが、その後の奈落の底のようなダークさをより引き立てます。
#12『Down in a Hole』
超絶に美しい楽曲です。
ダークなナンバーがこれでもか、と続いた後だからそう感じるということではなく、楽曲単体として限りなく透明感のある美しい曲ですね。
ジェリー・カントレルが“天才“と呼ばれるのは、ヘヴィな楽曲と対極的なこういう楽曲を作るからなんですよね(しかもこのコーラスの美しさときたら)。
これほどのセンスを持ちながら、バラードらしき楽曲が本作にはこの1曲のみ!
攻めたな~…攻めまくったな~(笑)。
こういうナンバーが「大好き!」って言う人には是非ともミニアルバムの二枚も聴いてもらいたいです。
フルアルバムで見せなかった引き出しの多さに圧倒されますよ。
画面にやたら犬が登場するのですが、
「い、犬?…良かった、ちゃんと足が4本ある…」
と安堵したのは私だけじゃないはず(笑)。
#13『Would』
タイトルナンバーに匹敵する名曲で締めくくります。
なんなんでしょうね、このジェリーのオリエンタルなリフのセンスは。
ルーツが何なのやら全く分からない。
レインはただひたすらにかっこいい、そして儚い…。
それから実はこの曲ではショーンのドラミングも見どころ満載。
パーカッシブなタムワーク、繊細なシンバル・ハイハットプレイ、タメ感など、彼の魅力が実は凝縮されてますので、ドラムにも傾聴してみてください。
これはドラマーであればコピーはマストですよ。
最後に超かっこいいMV観てください⇩
はい、というわけで今回は1990年代ヘヴィ・ロックのマスターピースを語ってきました。
とりあえず、すぐ聴いて。
今すぐ。
絶対ハマりますから。
これはヘヴィ・ロックだ’90年代だとか云々ではありません。
私の人生における数少ない名盤の数枚のうちの一枚
と呼んでもいいです。
それではまた!
この記事で紹介したアルバム⇩