『ブラック・サバス』(アルバム):ヘヴィメタルの始まり
どうもSimackyです。
本日はオジー期ブラック・サバスが1970年にリリースしたデビュー作『ブラック・サバス』を語っていきましょう。
さて、上の画像が全世界に衝撃をもたらしたアルバムジャケットです。
真ん中に佇む女性はおそらく魔女かなんかでしょうが、この女性がいかにも魔女の風体をしていないのが妙にリアルで怖い。
今の時代では特に珍しくもない「ホラー」「黒魔術」という要素も1970年当時は誰もやっていなくて、こんな不気味なジャケはさぞ怖かったことでしょう。
さらにレコード買って帰ってさっそくターンテーブルに乗せたら、音楽は始まらず、雷の音やら教会の鐘の音がなり始めて
「ダーーーーンダーーーーーンダ~~ァァァァァァァァン」
って始まったときには全リスナーが腰を抜かしたことでしょう(笑)
これがかの有名な
「ブラック・サバスのブラック・サバスのブラック・サバス」
というやつですね(笑)。
バンド名もアルバム名も曲名も一緒。
「しかも今日は13日の金曜日じゃねぇか!薄気味わるっ!」
みたいな。
ちなみにオジーが自分たちの初のレコードができたことに大感激して、早速家に帰って父親に聴かせたところ
「おまえ、やばいクスリとかやってないよな?」
と言われてまったく理解してもらえなかったとのこと。
当時はストーンズやツェップでさえ悪魔崇拝主義とか言われてるくらいの時代であることを考えれば、このデビュー作は
「本物のそっち系の奴らが出てきた!」
と思われても仕方ないでしょう(笑)。
このジャケットにしてこのオープニング曲が、彼らをヘヴィメタルの元祖たらしめていると言っても過言ではありません。
そもそも音楽でこんなホラー映画みたいなことをやろうと思いつくのがすごい。
これは有名な話なのですが、彼らがいつも練習していたスタジオの目の前の映画館で、ホラー映画の上映の日に行列ができているのを見て、
「なんでわざわざ怖い思いするために金払ってまで見に行くんだ?こういうのを音楽でも演ってみたら面白いんじゃねぇか?」
と思いついたことが発端です。
演ってみたら面白いかも、という発想で実際にこんな名曲を簡単に生み出せてしまえるところが只者じゃないんですよ。
この時代って音楽がまだ全然やり尽くされていないし、ロックが巨大産業化していないから自由な発想で色んな音楽が生み出されていた時代なんですね。
ワクワクします。
ちなみに我が家のダイニングでいきなりこのオープニングを流すと、この2023年の現代においても家族が震え上がります(笑)。
それでは今回よりオジー期ブラック・サバスを語っていきますよ~!
ロックにおけるブラック・サバスの位置づけ
ブラック・サバスは『ヘヴィメタルの元祖』と呼ばれます。
「ヘヴィなリフ」という点では1960年代から活躍していた先輩であるクリームがいましたし、同じ『ブリティッシュ3大ハードロックバンド』と呼ばれるレッド・ツェッペリン、ディープ・パープルなど、サバスよりも圧倒的に知名度が高かった先輩バンドたちががすでに演っていたため、昔は彼らが元祖と呼ばれていた時期もありましたね。
しかし、現代においてはメタルの元祖をブラック・サバスとすることに異論を挟む人はほぼいなくなったように感じます。
時代の流れとともに徐々にそうなってきたんですよ。
どうしてそうなったのかは、大きな理由として3つ挙げられます。
『背徳的世界観』と『知名度・影響力』と『パワーコード』ですね。
理由である『背徳的世界観』に関しては異論を挟む人はいないでしょう。
1980年代に入り、『ニュー・ウェーブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル』(通称NWOBHM)としてヘヴィメタルが広く一般層にまで認知されるようになると、いわゆる『悪魔的』『黒魔術的』な世界観(歌詞にしてもファッションにしても)を打ち出すバンドも多くなり、そのため『メタル=悪魔』といった先入観(偏見?)も定着し始めます。
しかし、クリームやツェッペリンにそのような要素があったかと言われれば、これはほぼないと言えます。
それどころか、1970年という時代においては、いかにも『悪魔』『黒魔術』といった背徳的世界観を音楽に持ち込んでいたバンドはほぼいなかったからです。
2つ目の理由『知名度』に関しては、上記バンドたちに比べ知名度で劣っていたブラック・サバスが、時代とともにどんどん知名度を高め続けたからです。
1990年代のグランジ・オルタナティブムーブメントで「ビートルズとブラック・サバスの融合」と呼ばれたニルヴァーナが一躍脚光を浴び、
「サバスが好きだ」
ということが時代のトレンドとなることで、様々なミュージシャンが彼らに対してリスペクトを表明したこと。
もっとも影響力が大きかったのは1990年代最大のカリスマであるニルヴァーナがその影響を公言したこと。
そしてさらにモンスターバンドとなったメタリカもサバスからの影響を公言してしました。
そして何より、いまだシーンの最前線をひた走っていたオジーがブラック・サバスの広告塔のような役割を果たしていたからです。
ライブでは必ずブラック・サバス時代の人気曲を演奏するのですから、新しくオジーファンになった人は必ず昔のサバスまで遡りますしね(私もその1人)。
そして極めつけがブラック・サバスのオリジナルメンバーでの再結成を『オズフェスト』という1990~2000年代最大のロックフェスの目玉に持ってきたことです。
余談ですが、さらなるダメ押しはオジーがドキュメンタリーテレビドラマ『オズボーンズ』にて大ブレイクし、アメリカで知らぬ者のない有名人となってしまったことが挙げられるでしょう。
これらのことにより、1960~70年代をリアルタイムに知らない後進の世代にとって、ブラック・サバスの知名度・影響力が上記バンドの中で頭一つ飛び抜けたことは間違いないでしょう。
サバスをメタルの元祖と呼ぶ理由の最後の1つ。
それは『パワーコードの多用』です。
皆さん、ギターを少しでもやってみようと挑戦したことがある人であれば、Fコードが抑えられなくて挫折した経験もあるかと思います。
あれみたいに6弦のすべてを押さえるのがまあ一般的に最初に教わるコードですよね。
指の先とか腹とか関節とか至るところが痛いんですよねあれ。
けど、メタルの曲をコピーしようとすると
「え?2本の指で2本の弦を押さえるだけでできちゃうの?そんな簡単でいいんですか!?」
と衝撃を受けた経験もあるかと思います(笑)。
そう、それがパワーコードです。
これ生み出したのがトニー・アイオミ先生その人なんですよ。
トニーはサバス結成前に工場で働いていた頃、プレス機で中指と薬指の先を切断してます。
その短くなった指先にお手製のプラスチックケースをはめて執念でギターを弾き続けました。
しかしケースを付けているため弦が押さえにくい。
そのため、ケースを付けていない小指をメインで活用するために、通常のコードから『音を減らす』工夫をし、中指・薬指で押弦せずともコードが成立するこのパワーコードが生まれたんです。
パワーコードがこの世に存在するからこそ、大してギターの経験がなくても文化祭でギターを演奏することもできるわけで、バンド経験がある男性ギタリストは一人残らずトニー先生にお世話になってるわけです。
世界中の何十億人という駆け出しギタリストたちが文化祭でモテまくって童貞を卒業できたのはぜ~~んぶトニー先生のおかげ!
トニー先生がいなかったらあなたはなんて未だにチェリーボーイです!
明日から神棚に本作とトニー先生の写真も一緒に飾っときなさい!
この世のメタルをやる上でパワーコードのないメタル曲なんて存在しませんから、メタラーはすべてトニー先生の子どもたち、『トニーチルドレン』というわけです。
そう考えるとトニー・アイオミというお人がどれだけ偉大なギタリストなのか?
サバスが嘘偽りなく偉大なバンドであるということがよく分かるでしょ?
ここまで来ると『ヘヴィメタルの元祖』という評価すら陳腐なものに感じてしまいますよね。
メンバーの個性~意外にもその印象は『ブルース・ジャズ』~
アルバム冒頭の衝撃が凄まじいことと、『ヘヴィメタルの元祖』という先入観があるためよく勘違いされがちですが、本作はまだまだブラック・サバスの典型的な音楽性が確立されておらず、過渡期とも呼べる内容になっております。
何から何への過渡期か?
ブルース、ジャズという音楽性から、後の『ヘヴィメタル』の雛形として彼らが完成させる音楽性への過渡期です。
引きずるような重さの純度100%の「サバス節」が完成を見るのは次作、もしくは3作目ですね。
もともと彼らが”アース”と名乗って小さなクラブで演奏していた頃は、ブルースバンドにちょっとだけジャズの要素を足したようなバンドでしたから。
オジー本人もクリームから影響を受けたことを公言していますが、クリームのようにブルースを発展させたハードロックに、この頃はジャズの即興演奏の要素が多分に盛り込まれています。
特にそれが感じられるのがビル・ワードのドラミングですね。
とにかく手数が多いスネアロールを駆使して「わちゃわちゃ」叩きまくります。
この人ってツェッペリンのジョン・ボーナムに比べると、ドラマーランキングなんかでもかなり過小評価されていると感じるのですが、実は影響を受けている人多いです。
メタリカのラーズやレッチリのチャド・スミスはその影響を公言している代表的なドラマーですね。
なんというか、歌心があるんですよ。
わちゃわちゃ叩いているイメージあるけど、『war pigs』でのあの伝説のハイハットプレイなんて、超シンプルで誰の心にも残るようなフレーズは彼ならではなんです。
トニー・アイオミもこの頃からいかにもサバス節といったヘヴィリフは存在するのですが、まだブルース色が強いですね。
しかし、ある意味その後の作品にさえ見られないほど貫禄のあるヘヴィリフが突然飛び出してくる瞬間もあるので、このデビューアルバムは侮れませんよ。
3作目で聴けるあの「クスリでもやってないとこんなリフ思いつかないんじゃ?」っていう病的なまでに中毒性のあるリフはこの時期は発展途上の中にあるといった感じではありますが。
ギーザー・バトラーはヘヴィメタルでもっとも有名なベースイントロ「N.I.B.」を堂々と弾いていますが、なんと彼はベース初心者です。
オジーがメンバー募集広告を出して最初に訪ねてきたのがギーザーで、オジーは逆にギーザーの所属するバンドに入るのですが、その頃はギーザーはリズムギターなんですよ。
で、そのバンドがポシャって、ギーザーと離れていた時期にトニーとビルがオジーのもとに訪ねてくるんです。
「ベーシストを探さなきゃな。誰か知り合いいる?」
「ギーザーっていうギタリストが知り合いにいるけど、そいつにベース弾くか聞いてみようか?」
となって弾くことになったんです。
彼らは1968年に結成し、下積みのクラブサーキットを始めてますので、この1970年の時点ではベース経験2年です(笑)。
まあ、それを言うならオジーもそうなんですが。
トニーは左薬指を板金工場の職場で切断してしまったがために、洗剤の蓋を改造したものを薬指にはめ、他の誰でもない彼だけのオリジナル奏法を生み出しましたが、それはギーザーも同様で、全くベースの経験もないままクラブサーキットを続けながらオリジナルのベースアプローチを模索します。
トニーが言うには、
「その独特の発想は既存のベースプレイヤーと全然違って、実はギタリスト以上に俺はギーザーからインスピレーションを受けている」
と語っています。
あの狂人オジーから「変人」と呼ばれるほどの変わり者で、サバスが「黒魔術」のイメージで語られるのはほとんど彼の個人的趣味が原因であり、他のメンバーはいい迷惑だという(笑)。
サバスのイメージを決定づける「背徳的世界観」は彼の生み出す歌詞が要因なんです。
ボーカルであるオジーじゃないんですよ。
マニアックで奇抜で背徳的で知性が非常に高い…サバスのイメージの根幹を体現しているのがギーザーです。
この3人の強烈な個性に、『エキセントリックさ』と『煽動性』を加えているのがオジーですね。
見たくなくても注目してしまう奇怪な言動・行動、そしていざライブとなればまるで労働者階級の人々の鬱屈したフラストレーションを代弁したかのようなアナーキーな振る舞い。
誰がどう見たって
「俺は現状に不満だ!くそっ喰らえだ!」
って伝わってきますもんね。
オジーはソロになってからは『帝王オジー』のイメージをエンターテイメントとして演じている部分があると思うのですが、この頃はキャラと言うより素のままで、ありったけのフラストレーションをぶちまけている分、思いの外「人間味」を感じられます。
田舎臭くて野暮ったい。
「俺はこんな工場での8時5時の一生なんてまっぴらごめんだ」
っていううっ憤が感じられます。
すごくハートフルでエネルギッシュ。
けれどもなんとも言えない物憂げな雰囲気はこの頃からあり、ボーカリストオジーの個性はデビュー作からはっきりと存在感を放っています。
オジーほど、「ロックのボーカルは上手い下手じゃない」、と思わせるボーカリストはいませんよね。
本作の評価
やはりサバスの代表作は2~4作目「パラノイド」「マスター・オブ・リアリティ」「ボリューム4」が挙げられます。
けれど、ぶっちゃけオジー期のサバス作品は8作品ともすべて素晴らしいです。
そしてこのデビュー作は代表作と呼ばれてもなんら不思議ではないクオリティをもっています。
何と言っても1曲目『ブラック・サバス』の名曲としての重要度はヘヴィメタルの歴史においても、彼らのキャリアの中でもナンバーワンでしょう。
はっきり言いますけど、『アイアンマン』や『パラノイド』を聴いてなくても、他の名曲たちを聴くことで十分代用は効きますが、この曲に代用なんてものはないんです。
この曲『ブラック・サバス』を聞いてなければてブラック・サバスを聴いたうちに入りませんからね。
そんなもの熊本県民の私流の表現をすれば
「とんかつの名店『勝烈亭』(熊本市)には何回も来てるけど、いつも生姜焼きしか頼まず、とんかつは実は食べたことがない」
とか言うようなものです。
「一体、わざわざ他県から何しに来たの?」って言いたくなります。
それくらいありえません。
それに他の楽曲も後のライブでセットリストに残り続けたり、他のアーティストにカバーされている代表作ばかり。
すんごいアルバムです。
ちなみに後にオジーソロの右腕となるスーパーギタリスト:ザック・ワイルドは、昔から本作をサバスで一番のフェイバリットに挙げていたのですが、本作が好きすぎて、丸丸一枚カバーした「ザックサバス」というアルバムを制作しました。
どんだけ(笑)
はい、というわけで今回は『ブラック・サバス』を語ってきました。
本作は『代表作』ではありません。
しかし『必修科目』です。
これ聴いとかないとあなたは単位を落としてダブりますよ!
それではまた!