『39108』吉井和哉~ストレートなロックが戻ってきた3作目~

どうもsimackyです。

どうもSimackyです。

本日は吉井和哉が2006年にリリースした通算3作目のオリジナル・アルバム

『39108』

(さんきゅうひゃくはち)

を語っていきますよ~。

名義を「yoshii lovinson」から本名の「吉井和哉」に替えて最初のアルバムとなります。

タイトルの「39」は、当時のロビンの年齢39歳という意味、と「サンキュー」のダブルミーニング。

「108」はロビンの誕生日「10月8日」と「煩悩の数=108」というダブルミーニング。

「まあ、これまでたくさんの煩悩を抱えてきて、悩みの原因は全て煩悩だということが39歳にして分かってきたわけだけども、悩んできたからこそ今があるわけだし、むしろ悩むことこそが人生なんじゃない?その意味じゃ煩悩にもなんかありがとうって言いたくなるよね」

っていう感じで、全ての曲の歌詞にこうしたスタンスが見て取れます。

「名は体を表す」見事なタイトルですよ。

このタイトルって本作だけに当てはまるものじゃなくて、これまでのソロ3作全てに通底していると思うんですよね。

レビューではこの3作を『初期3部作』と、本作を『完結編・集大成』と呼んでいる人もいたのですが、そう言いたい気持ちも凄く分かりますね。

『39108』に至る流れ

前回の記事で、2作目となる「ホワイトルーム」は、実は明るい兆しなど見えておらず、相変わらず”ブラックホールな精神状態”の真っ只中で制作された経緯を書きました⇩

そしてそれは

本作でも継続です。

え?まだ?

長げぇな。

ずっとウジウジしてます。

ウジウジロビンです。

もう悩み悩んで彷徨ってます。

長い長いトンネルの中にいます。

「ホワイトルーム」リリースの2005年3月から1ヶ月後に、溜まりに溜まったフラストレーションが爆発し、ロビンは引っ越したばかりの山梨の家を出て、愛人の女性と東京で暮らし始めます。

けど、週末には子供に会いに山梨に帰ったり。

すごく悩んでるんですよ。

かつては上手くいっていたイエモンというバンドと家庭。

それが失われたことで、自分の才能も枯渇してしまったんじゃないのか?

やっぱりバンドと家庭という元の鞘に戻るべきじゃないのか?

自分がやりたいことは何で、自分はどこに向かっていけば良いのか?

完全に暗中模索です。

しかし、それまでの4年間と決定的に違う『明るい兆し』が一つあります。

1作目「ブラックホール」ではやらなかったツアー、すなわちライブをやったことです。

まず2005年6月から「YOSHII LOVINSON TOUR 2005 AT the WHITE ROOM」を14公演、さらに畳み掛けるように2006年1月からは2回目のツアーである「吉井和哉 TOUR 2006 〜MY FOOLISH HEART〜」を16公演やります。

この時期には色んな音楽を聴くようにもなっており、ジャズ、ブルース、フォーク、インダストリアルロックなどなど、それまではほとんど聞いてこなかった音楽を貪欲に吸収するために、ディスクユニオンに入り浸っていたらしいです。

完全にオタクです。

しかし、その2006年の夏にはロックフェスに出まくり、ついに!

ソロのステージで

イエモン楽曲の封印を解きます。

かつては

「もう自分のライブになんか来ようと思う人はほとんどいない」

とまで思っていた引きこもりのロビンは、最初のツアーでは薄暗い照明で、伏し目がちなかなり地味めのライブをウジウジやっていました。

けれども自分で思っていたより評判は良かったし、NKホールもソールドアウトできたし、何より自分はミュージシャンであるという自覚を取り戻し、この夏のフェスで『ロックスター・ロビン』を解き放ちます。

フェスっていうのは、自分のファンだけが集まる場所ではないので、イエモン楽曲のパワーを借りてでも戦う必要があったのでしょう。

完全に吹っ切れた感があります。

ライブによって往年の自分を取り戻したのか?

それともプライベートのいろんな悩みを吹っ切ったのか?

とにかく、フェスでのロビンは何かを掴んだのかもしれません。

そんな中での2006年10月に本作のリリースなんです。

嫌がおうにも期待は高まるってもんでしょう。

けれども、本作を手にした多くの人が

「あれ?」

と思ったと思います。

この夏フェスを体験した人たちからすると

「ロビンがまるでイエモンの頃のようになってる!次のアルバムは期待できそうだ!」

と期待していたんでしょうが、そのイメージからすると本作風は

「あれ!?またちょっと内向的?」

と意外に感じたかもしれません。

どうしてこうなったのか?

それはレコーディングのタイミングが、

フェス前だからなんです。

吹っ切れる前。

ウジウジ君でレコーディング→吹っ切れる→フェス出場→アルバムリリース

こういう時系列になってるんですよ。

だから本作は『ウジウジ君モード』で作ったアルバムなんです。

って、ロビンがこれ読んだら絶対怒られるよ?(笑)

アメリカレコーディングは、まだロビンが吹っ切れる前の時期に行われているため、フェスでの印象と本作の印象にかなりのギャップがあるということなんですね。

『39108』の楽曲紹介

レビューを読んでいると、

「暗かった前2作を経て、ついにロビンが復活!」

みたいにポジティブに受け止めている人が多かったです。

私の個人的な感想としては、前作「ホワイトルーム」の延長上の世界感というか、どっちかと言うとより暗い印象を受けたのですが(笑)。

どうして人によって受け取り方にこうも差があるのか?

その理由を勝手に考えてみました。

この『39108』の楽曲群は、2006年1月にリリースされた先行シングル『ビューティフル』と同時期に作られています。

で、自伝によると『ビューティフル』を作っていた時期が、まさに行ったり来たりの『人生の暗中模索=ブラックホール』の真っ只中の一番黒いところに落ちていた時期なんです(笑)。

そんな中で作られてるんで、よくよく聴き込むと曲調がそこまで明るいということは確かにないんです。

そこまでポップでもないし。

けれど、本作はかなりロックテイストなアレンジに、さらにアメリカンなサウンドに仕上がっているんです。

確かに前2作もロックではありましたが、『ハードロック』と呼べるような楽曲はほとんどありませんでした。

しかし、今回は骨太なハードロックサウンドが増えました。

単純にギターの音がガツンと前に出てきてますし、印象に残るリフが多い。

なおかつ、レコーディングメンバーは前回のエマを始めとする日本人ミュージシャンたちを一新して

全て外国人ミュージシャンを起用。

そしてアメリカでのレコーディング。

こまかいダメ出しはせずに、

メンバーの個性に楽曲を委ねているオープンな作風

なんですよ。

全然作り込み感はなくて、極論すると『一発録り』のような雰囲気です。

これは1人閉じこもって密室的に作っていた1作目とは真逆ですね。

その意味でも前作の延長上にあるのですが、さらに解放感がましているというか。

このあたりの要素が強く影響して、「元気=ロックしてる」印象を与えます。

グルーブ感、躍動感がこれまでの2作に比べて格段に上がってます。

それが「ロビン復活!」を印象付けることになったのかな、と。

さらに夏フェスでの

「なんかロビンは最近のってきてんな~」

みたいなパブリックイメージもありますし。

さらに言うとジャケットがレインボーカラーだし(笑)。

そのあたりの印象に引っ張られている人も多いのかな、と。

歌詞に関しては前作「ホワイトルーム」のテーマと通底している匂いを感じるものの、『人それぞれのマイウェイ』のようにちょっとお馬鹿な歌詞も飛び出したりして、笑いの要素が加わったことも大きいでしょう。

「あ、この感覚久々かも…。そうそう、ロビンってもともとこういう人だったよな。なんか久々に思い出した」

と、無意識にそういう要素を求めていた自分に気が付かされました。

やっぱ吉井和哉には『ちょっとお馬鹿なノリ』が必要だったんだな、と。

それでは楽曲解説行ってみましょう。

#1『人それぞれのマイウェイ』

肩の力抜けてんな~。

オープニングナンバーからして自然体です。

これまではどうでもいい、価値がないと思っていたことも、この年齢になって意味があることに思えてきた、ということでしょうか?

当時のロビンはちょうど40歳前(39歳)。

40歳くらいの時期って、自分を振り返っても確かに、それまで信じて疑わなかった価値観がガラッとひっくり返ったね~。

だから歌詞を読んでいると「確かに!」とか「分かる分かるぅ!」がグサグサやってくるんですよ。

「3年前から平凡な人生が良いと思った」

「感電防止のビニールをむいてしまった子供の頃に帰って炭酸水が飲みたいんだ」

同じ年齢くらいの時期に、よく子供の頃に通ってた駄菓子屋に自分の子供連れて行ってラムネ飲んでましたから(笑)。

結局、何が価値があるかなんて人が決めるんじゃなく、自分で決めることなんだって言うことが、

『言葉』でなく『心』で理解できた!

って感じでしょうか。

ジョジョの奇妙な冒険より引用

#2『LIVING TIME』

ヘヴィなハードロックナンバーです。

ギターのファズが怪しく、不穏な雰囲気を放ちますが、サビではキャッチーになります。

この曲のサビなんか聴いていてると、ロビンの歌い方はイエモン時代とかなり変わっていることが分かります。

ちょっとメロコア系の歌い方っぽいんですよね。

ラスト前にちょっとヒップホップっぽいのが入る部分は好きですね。

#3『LONELY』

美しいピアノバラードかな?

と思うとガラッと展開が変わり、割とスタンダードロックな流れになります。

囁くようなボーカルも味があるんですが、サビではシャウトします。

前曲の#2もそうですが、ほんとにイエモン時代のボーカルスタイルと全く違います。

というより声が違いすぎて別人みたいですね。

ひたすら青空を見つめて希望を見出して進んでいこうという決意表明の曲です。

かなり前向きになってきているロビンが垣間見れますね。

#4『黄金バッド』

レビューでは『黄金バッ』と思っている人が多かったのですが、『黄金バッ』です。

これまたヘヴィなハードロックナンバーです。

かなりスピード感あります。

これなんかライブで盛り上がるでしょうね。

2作目でのツアーでやるには明らかに違和感がある色合いで、こうした曲が出てくる時点でもう『ロックスターロビン』の復活の兆しは見えていたのかもしれません。

#5『ポジネガマン』

『ポジティブマン(前向き)』と『ネガティブマン(後ろ向き)』、そのどちらも併せ持つのが『ポジネガマン』ということでしょうか?

ロビンの弾き語りです。

実はロビンって、イエモンの前身バンドで最初はベース、それからギターもかじっている筈なんですが、弾き語りができなかったらしいです。

弾き語りも出来なかった人が、後々は全パート1人で録るようになるんですから、影の努力はすごいんだと思いますよ。

決してインタビューでそういうことは語らないのですが、40歳も過ぎているのに影で基礎練習をみっちりやっているロビンって想像できないですよね。

#6『HOLD ME TIGHT』

本作イチのスピードナンバーです。

この『スネア4つ打ち』ってイエモン時代でもなかったですよね、確か。

この曲なんかもパンクやメロコアの要素が感じられます。

歌詞は超シンプルで、ひたすら

「きつく抱きしめてくれ」

言うとるんですが、ちょっと澄ましたおとぼけ歌詞が笑わせてくれます。

#7『I WANT YOU I NEED YOU』

キーボードの不穏なメロディが印象的なナンバーです。

この曲の歌詞なんか読んでいると、どうもブランキー(ジェットシティ)っぽいというか。

あらたなボーカルスタイルが出来てきてますね。

ギターのブラッシングでリフを作るって、これありそうでないな~。

#8『WEEKENDER』

人気の高いナンバーです。

先行配信されました。

これまたメロコアっぽく爽やかです。

イエモンの「パール」みたいな雰囲気もありますね。

若い頃に聴いてたハイスタとかブラフマンとか思い出すな~。

っていうか

「I’m so very excited we’re reborn on weekends」

の部分なんてモロに声の出し方が似てるんで、意識的に色々なボーカルスタイルを取り入れてみてるんでしょうか?

#9『ALL BY LOVE』

この時期、フォークとかも聴きまくっていたらしいのですが、このフォークギターもロビン自身が弾いています。

なんか、このアルバム聴いていると『ロビンがミュージシャンとして成長していく様』を見せつけられているようにさえ感じます。

カラッとしていて、アメリカを感じるな~。

サビのボーカルはパール・ジャムっぽいですね。

#10『BEAUTIFUL』

先行シングルで人気高いです。

ロビン談では「吉井和哉の熱量のない曲だかららしくない」とのことですが、確かにそうですね。

家を出たロビンは、

「東京に住むか?山梨の田舎で住むか?音楽を取るか家庭をとるか?そんなどっちつかずの心持ち」

の真っ只中でこの曲を作ったと言います。

私の場合、最初はまったく良さが分かんなかったんですが、聴くうちに好きになってきます。

素朴で飾らないシンプルな言葉がすごく美しく感じ、心に染み渡ってきます。

う~ん、オレも病んでんのかな(笑)。

#11『恋の花』

#5『ポジネガマン』に続き、またしてもロビンの弾き語りです。

これまたレビューでは人気が高かったナンバー。

歌詞は美しいのですが、ギターメロディがポロポロとアルペジオで爪弾いていて物悲しさもあるので、なんか『辞世の句』を読んでいるようにも感じたり(笑)。

#12『BELIEVE』

これも2番目に先行配信されました。

ラストナンバーっぽくないあっさりしたラスト曲です。

つまりいかにもエンディングっていう壮大で物々しいことは一切なく、最後まで淡々としているってことですね。

これまたじわじわ系で好きになってくるんですよね。

昨日なんてずっとこの曲だけ聞いてました。

終わり方が超あっさりで、

「え?こんな終わり方でいいの?」

って驚きましたよ。

ほんと、最後まで等身大の飾らないアルバムでした。

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