『ペイシェント・No.9』(オジー・オズボーン)~豪華絢爛なゲスト陣~
どうもSimackyです。
本日はオジー・オズボーンの2022年リリース12作目『ペイシェントNo.9』を解説していきます。
2023年2月現時点での最新作です。
前作『オーディナリーマン』が過去最高の全米3位を記録し、ご機嫌になっちゃったのか、まさか2年というスパンでリリースしてくるとは意外でしたね。
前作のエルトン・ジョン、スラッシュ、トム・モレロにも驚いたのですが、今回は更にビッグネームが参戦しております!
さぁ、とくと語っていきますよ~!
「god bless you!!!」
(てめぇら風引くなよ!!!:意訳)
類を見ないほど豪華な参加メンバー達
はい、恒例となりました参加メンバーの紹介からいってみましょう。
前作『オーディナリーマン』の制作において核となったメンバーは引き続き参加です。
そう、プロデューサー兼ギタリストのアンドリュー・ワット、レッチリのドラマーのチャド・スミスですね。
ガンズのダフは今回メインからは外れて、メタリカのロバート・トゥルージロがガッツリ参加してるみたいです。
ロバートの参加はメタリカ加入前の8作目『ダウン・トゥ・アース』以来。
特にこのアンドリュー/チャドのコンビは、オジー以外でもコラボを良くやっていて信頼関係が出来上がってますね。
基本アンドリューはデモ制作段階ではすべての楽器を演奏します。
クレジットにも全てのパートで名前があります。
チャドとアンドリューのジャム風景です⇩。
ドラマーは基本チャドで、2曲のみフー・ファイターズのテイラー・ホーキンスが叩いてます。
ベースは結構分散していて、ロバート6曲、アンドリューが3曲、ダフが2曲、ジェフ・ベック(?)1曲、クリス・チェイニーが1曲といった具合です。
そして本題のギター。
今回はすごいっすね。
作曲段階では前作同様、原案はアンドリューが作ってるんだと思います。
しかし、今回はそこにどうやらザック・ワイルドも参加しているんですね。
どうしてそういうことになっているのかも後でお話します。
その二人で作った後にゲストミュージシャンに声をかけて、アレンジに加わってもらうというやり方をしているのが伺えます。
いろんな人達が入れ代わり立ち代わりスタジオに顔を出していた風景を、勝手に頭に浮かべたものです。
「え?あの人が来るの!?ワオッ!!俺もジャムりたい!!」
とかいってその日は来ないでいい人が来たり、
「あの人がギター弾くならオレがベースやる!」
とか言ってベーシストがその日に3人もかぶったり。
根も葉もない勝手な妄想ですが(笑)。
でも、こういう事があってもおかしくないと思いませんか?
だって‥だってですよ?
ダフやザック等、名うてのミュージシャンから見ても、雲の上の存在が参加するのですから。
まさか、
ヤードバーズの3大ギタリストのうち2名が参加
するとは。
ジェフ・ベックとエリック・クラプトンですよ?
ヤードバーズの3大ギタリストといったら、もうこれは大天使ミカエルとかガブリエルとかいった
神話の神々と同列の存在ですよ!?
そこに加えてですよ!?
『この世に10億人はいると言われるヘヴィメタルギタリストたちの始祖(神)』
であるトニー・アイオミまでが、まさかまさかのオジーソロへ降臨。
ブラック・サバス時代、あの『ヘヴィメタルの帝王』である御大オジー・オズボーンが
ステージ中央をゆずって隅っこで歌ってたほど
の絶対ボスのトニー大先生ですよ!?
あなた見たことありますか!?
ボーカリストが画面右端にスタンドマイク立てて歌っている
屈辱的な姿を。
ギタリストがステージ中央にエフェクターがっつり固定してますよ?
ありえないでしょ?
それほど偉大なお方たちが参加してるんです。
そりゃ、「オレもオレも」と、お祭り騒ぎにもなると思いませんか?
ファンとしてはそういう「ドリーム共演」であって欲しいというか。
けどね、本作では残念ながらどうやらそうではなさそうです。
ジェフ・ベックもクラプトンもスタジオには来てないんじゃないかな?
どうもマネージャー通してのやり取りっぽいし。
参加メンバーたちが彼と会話したとかいうインタビューもないし。。
一緒に写ってる写真もないし。
クラプトンは電話で歌詞に関して変更を求めてきたらしいし。
ジェフやクラプトンのこの作品に関しての公式のコメントを探しても見つからないし。
なので少し寂しい話ではあるのですが、アンドリューがゲストたちとメールでデータをやり取りして、たくさんのサンプルの中から編集していったというのが本当のところかな。
それでもまあ、これだけのメンツがプレイした膨大なテイクを、よくぞ無事にまとめれたもんだと思います。
このアンドリューの労力には頭が下がります。
参加したミュージシャンをパートごとに見ても
ギタリスト7名(アンドリュー、ザック、クラプトン、ベック、トニー、マクレディ、ジョシュア)
ベーシスト5名(アンドリュー、トゥルージロ、ダフ、チェイニー、ベック)
ドラマー3名(アンドリュー、チャド、ホーキンス)
これにオジーを加えると参加者は総勢12名!
オジーのソロ(オジー・アンドリュー)に、ブラック・レーベル・ソサイアティ、ブラック・サバス、ヤードバーズ、メタリカ、ガンズ、レッチリ、パール・ジャム、ジェーンズ・アディクション、フー・ファイターズ、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ・・・
名だたるアーティスト/バンドがごちゃまぜ状態。
これはなんだ?現代版ライブエイドなのか?(笑)。
ちなみにフー・ファイターズのテイラー・ホーキンスはアルバムリリース前に、そしてジェフ・ベックはリリースから4ヶ月後に帰らぬ人となりました。
偉大なるミュージシャン二人にとっても公式的に参加した最後の作品になります。
R.I.P.
何が何でも全米1位獲りたい!オジー74歳の『野望』
自伝でも言ってましたが、オジーの残された野望が全米1位を取ることらしいです。
ブラック・サバスのラストアルバム『13』や娘のケリーとデュエットした『チェンジス』で全米1位を取ったとはいえ、どちらもブラック・サバスの曲です。
やはりオジー・オズボーン名義の楽曲で全米1位を取りたい気持ちは強いのでしょう。
前作『オーディナリー・マン』で全米全英3位という過去最高のチャートアクションで、『ヒットメーカー』オジーのスイッチが入ったんだと思います。
もう目と鼻の先に届くところまで見えているわけですから。
『オーディナリー・マン』リリース直後にすぐさまアンドリューに話を持ちかけ、本作の制作に取り掛かっています。
ちなみに当時のオジーはクビの痛みやらパーキンソン病やらで体はボロボロ。
杖をついて歩くのがやっといった状況です。
その状況で作曲活動に入るのだから、全米1位への執念は凄まじいものがあります。
前作はオジーがアンドリューにわずかな猶予期間しか与えなかったため、作曲に4日、レコーディングに3週間という驚くべき速さでサクッと作っているのですが、今回は全米1位のためにじっくりと作り込もうと考えたのでしょう。
そのため、さまざまなミュージシャンとジャムりながら、パーツを拾い集めていこうと思ったのだと思います。
しかし、それだけでは全米1位にはまだ足りないぞ、と。
世間が大注目するほどの”強烈なネタ”が必要だぞ、と。
「よーし、ビッグネーム集めるか!アンドリュー、お前エルトンの時みたいに交渉して来い!」
となったのかな、と(笑)。
なんと実はジミー・ペイジにも声をかけていた(かけさせた)というから驚きです。
ヤードバーズ3大ギタリスト全部いく気だったんですね。
どんだけ?
当代きっての売れっ子プロデューサーの手腕と、超ビッグミュージシャンの名前を借りた甲斐もあり、本作は見事
全米1位、全英2位を獲得。
いやー、よかった、安心しましたよ。
今回も取れなかったら、次作は
マドンナ
にまで声をかけかねません。
ゲストはあくまで化粧箱
あまりにも豪華絢爛なゲストミュージシャンたちを起用したためよくこのアルバムを評して
「ブーストをかけた」
みたいな言い方をされていますが、私としてはそうは思ってません。
なぜかというと、ここにある楽曲はすべて、参加したミュージシャンの圧倒的なプレイや個性で引っ張られているわけではないからです。
もちろん素晴らしいプレイもあるのですが、基本はオジーの歌があって、そのメロディと世界観で聞かせている。
オジーが中心に「ガン」と存在感を放っています。
ゲストはハナから『話題作り』であって、彼らのプレイに助けてもらおうとなど思っていないのだと思います。
つまり8作目『ダウン・トゥ・アース』から脈々と続く『あくまでオジーの歌を聞かせる』という方針を全くブラしてはいないということですね。
全米1位を獲るためにプロモーション手段は手を尽くすが、かといって方針を曲げてまで音楽性を売れ線にもっていこうとは思っていない。
ゲストはプレゼントを豪華に見せる化粧箱のようなもの。
中身はとことん自分の求める『本物』を求めて作り込まれている。
本物の音楽を作りたいというオジーの信念は、全米1位を目指すことと矛盾していないんです。
それが分かるエピソードがオジーのインタビューで見つかりました。
前作『オーディナリー・マン』では、アンドリューがProtoolsを駆使してかなりオジーの声を加工しています。
それは素人目にも明らかなほど。
前回の記事で『生声で再現することはできないだろう』と私も書きましたが、あれはアンドリューの最新の技術を駆使した産物です。
まあ、あれはあれでオジーのさまざまな魅力を引き出したので凄く良かったと個人的には思っているのですが。
しかし実はオジーはそのことに不満だったみたいで
「自分の作品を作った気がしない」
とさえ言っていました。
ボーカルはもちろんそれ以外の全般に渡って
『編集によって生み出した加工品ではなくリアルさ』
を求めたんでしょう。
で、今回は
「そんなものは偽物だ。本物を作るんだ。こんなものは全部やり直しだ」
とアンドリューを相当困らせたらしいです。
「じゃあ、どうしたらいいのオジー?」
「知らん!とにかくやり直しだ!」
うーん・・・地獄(笑)。
発狂しそうなほど煮詰まったところへ、オジーとは長年一緒に制作をして、オジーのやり方を熟知しているザック・ワイルドが助け舟を出して、一つ一つ解決していったそうです(ここまで全てオジー談)。
実は『feat.ZAKK』の表記がない曲のクレジットにもザックの名前がたくさんあり、全13曲中なんと9曲も参加しているのはこのためなんですね。
オジーにとってザックがいかに大きな存在かが分かるエピソードですよね。
『ペイシェントナンバー9』の聴きどころ
そつなく”こなした”クラプトンと”踏み込んできた”ベックのプレイ
ゲストミュージシャンのプレイに関しては、トニー・アイオミやザック・ワイルドはともかく、エリック・クラプトンやジェフ・ベックのカラーとオジーの作風が果たして本当にマッチするのか?
といったところがまず気になるポイントです。
しかし、その心配は無用です。
アンドリューたちがかなり曲の雰囲気を固めた上でゲストに送っているものと思われます。
そのため、彼ら二人もそれに合わせたプレイをするだけです。
でもだからといってこれらの曲がつまらない『客寄せのための曲』に成り下がっているかというと…これが地味にいいんですよね(笑)。
特に#5「One Of Those Days」なんて、最初は
「こんなもん、雰囲気だけクリームっぽくしただけじゃん!クラプトンのプレイもそつなくこなしているだけで特筆するものはないな」
なんて思っていたのですが、曲自体は聴くほどいい曲だと分かってくるんです。
クラプトンに送る前の段階で「オジーの楽曲」としてすでに完成されているんだと感じました。
クラプトンも「こなす」しか余地が残されていなかったのではないのかな?
ジェフ参加の2曲では配信第1弾だった#1のタイトルトラックが印象は強いと思うのですが、これまた地味なナンバーの方の#6「A Thousand Shades 」があとからガツンと来ます。
本作中で唯一のバラードになるのかな?
この曲はジェフが前のめり気味に踏み込んできましたね~。
もしくはある程度のフリーな余地を残して渡しているかですね。
ジェフのこのギターって、「エモーション&コモーション」の頃の匂いがプンプンしてて、
ジェフが亡くなった今となっては、聴くたびに
「ああ、ほんとにオジーのアルバムでジェフが弾いてたんだな…」
としみじみ感じられる曲だと思います。
最後のクライマックスでオジーのサビと絡み合いながらむせび泣くギターには鳥肌が立ちます。
すごい置き土産をしていってくれたものです。
トニー・アイオミのプレイ
本作で一番驚いたのはトニー・アイオミの個性です。
ブラック・サバスのラストアルバム『13』は少々がっかりしてあまり聴き込んでおらず、良い印象がなかったからです。
本作でのプレイには1970年代ほどの魔力は感じませんが、やはり『餅は餅屋』というか、これはトニー・アイオミ以外の何物でもないというプレイを聞かせます。
もうね、一聴するだけで根本から全部トニーが作ってるというのが分かります。
『13』ではプロデューサーのリック・ルービンにやらされた感が強く、オジーも
「まるでブラック・サバスの初期(3作目まで)の頃のように、自分たちで主導権を握れなかったアルバム」
と言ってます。
しかし、本作でのトニーのプレイには
「この2曲が『13』に入ってれば随分違うものになったはずなのに」
とまで絶賛してます。
何なんでしょうね、この問答無用の説得力。
陳腐な表現ですが「ズバッ」と切り込んでくる鋭さがあります。
余談ですが、実はチャドはレッチリのオーディションの時にメタリカのTシャツを着ていくほどメタルは元々好きで、影響受けたドラマーとしてブラック・サバスのビル・ワードを挙げています。
#4「No Escape From Now」#10「Degradation Rules 」ともにプレイがにビルに寄せて手数が多めになってるんですよ。
さらに言うとロバートのベースがギーザーのようにカウンターメロディ入れて、ボリューム上げてます。
さらにオジーもハーモニカ弾いてます。
実は、トニーのリフだけじゃなく、メンバー全員でブラック・サバスの再現をやろうとしているんですね。
聴きこむほどにおもしろくなってくる2曲ですよ。
個人的に好きな曲
#2「 Immortal 」は本作でオジーのヴォーカルが最もきらびやかに光る一曲で好きですね。
ヴォーカルに絡むリフが素晴らしいです。
パール・ジャムは特に好きではないので、マイク・マクレディは名前も知りませんでしたし、正直このソロも別にどうとも思いませんが、このリフにはフックがあっていいねぇ。
feat.zakkの#7「Mr. Darkness」も曲は文句なし!
でも「フィーチャー」というほどザックの魅力が遺憾なく発揮されているというわけでもなく、これだったら「feat.」をつけている曲とそれ以外のザック参加曲(#11,#12)の境目ってどこなの?って感じなのですが(笑)。
『feat.zakk』は4曲ありますが、多分ザックファンが納得するのは#8「 Nothing Feels Right」のギターソロだけでは?
9作目『ブラックレイン』のあとに、作風がBLSみたいになってしまっとことを懸念したオジーが、ザックと話し合い袂を分かちます。
そういう経緯があるため、今回はザックは自分のカラーを出すことよりもオジーの世界観を構築することに貢献している様子が伺えます。
次作への期待
8作目『ダウン・トゥ・アース』から『脱ギターヒーロー』の方針で進めてきて、今作で5作目となりオジーはついに念願の全米1位を獲得しました。
ヒットメーカーとしてのオジーはこれで納得してくれたでしょうかね。
皆さんは今後のオジーに何を期待しますか?
おそらく最も多い声は
「『ノー・モア・ティアーズ』までの作風で作って欲しい」
これで間違いないでしょう。
その気持はすごい分かりますが、私は意外とそれを願っていません。
私としては孫くらい歳の違うアーティストでジャンルの全く違う人と共演してもらいたいものです。
オジーの真骨頂は『ギターヒーローの発掘』なのですが、もっと根本にあるのは実は
『若い才能を見つけること』
なんだと思います。
正確に言うと『若い才能に感化されて化学反応を起こすこと』なんでしょうけど。
前作からアンドリュー・ワットという若き才能を発見し、ポスト・マローンとこれまでになかったジャンルのコラボを実現した時に、久々に感じたんですよね。
「お!オジーがまた若者に感化されて輝いてる!」と。
まるで昔、20歳も歳の違うザックと化学反応を起こしていた時の輝きを感じましたからね。
今後が楽しみでなりません。
皆さん、もしかしてこれが最後のアルバムだとでも思ってるんじゃないでしょうね?
オジーは90歳まで現役ですよ、私が保証します(笑)。
そういう風に期待する全世界のファンのエネルギーを養分にして生きている人ですから。
私達が期待することをやめたらオジーはロッカーとして死んじゃいます。
そうである以上、我々ファンがやることは期待し続けることですよ!