『ダリア』X JAPAN シングル曲ばかりで物議を醸す

どうもSimackyです。

本日はX JAPANが1996年にリリースした4作目にしてラストアルバムである『DAHLIA』を解説していきたいと思います。

前作『アート・オブ・ライフ』はアルバムと言っても実質シングルだし、フルアルバムとしては『ジェラシー』から5年もの年月がかかってしまいました。

いまでこそ5年スパンというのは珍しくもないですが、当時としてはエアロスミスとかメタリカとかの世界的大御所とかのペースですよこれ(笑)。

これを『いつもの完璧主義』と片付けるのは簡単なのですが、当時の状況を振り返りながら何が起きていたのかを考察します。

私にとってもかなり苦い経験を語ることになるのですが、ちょっと辛口になるのでご容赦ください。

Xを語るときには冷静じゃいられないんですよ。

X史上最大の悪夢…ファンを裏切ることだけはやっちゃいけない

私がXに出会ったのは『ART OF LIFE』がリリースされた1993年。

当時は中学生です。

なので、リアルタイムのリリースを目撃するのが本作『DAHLIA』なのですが、それまでの時間が当時は本当に長く感じました。

年に一度くらいのペースでリリースされるシングルのたびごとに

「次はいよいよアルバムか!?」

と期待するのですが、その気配はありません。

『ティアーズ』『ラスティネイル』『ロンギング』『DAHLIA』『フォーエバーラブ』『クルシファイ・マイ・ラブ』…

「お、おい。これいつまで続くの?アルバムの曲全部出す気?っていうかタイトルナンバーである『DAHLIA』まで出すってどういうこと?アルバムの一番核心部分を先に出しちゃったら楽しみなくなっちゃうんじゃない?」

サザンオールスターズじゃないんだから、「ニューアルバムには先行シングル入ってません」みたいなことはXではなかったんですよ?

寡作なXにおいてサザンのような潤沢な曲数はありませんから。

かなり身を削ってる感が…。

いや~な予感…。

まさか。

でも、もしかして…。

いやいや、でも「海外向けも同時リリースするために、日本語版と英語版を同時並行で作ってる」って言ってるし、かなりの曲が溜まってるんじゃないかな?

そして日本中のファンの期待と不安が入り乱れる中でついに待望のリリースとなった本作は…

アルバム収録全10曲中6曲は既発シングル

という、およそ考えうる最悪な形でのリリースとなりました。

こんなものはオリジナル・アルバムとは呼べません。

既存の6曲なんてファンは3年間で聴き飽きるほど聴いているんですよ?

これでは「シングルス」です。

#2『SCARS 』だってとっくに1994年のドームライブから演奏されていたんだから実質的には既存7曲とも言えます。

これは酷すぎる。

英語版のリリースもなし。

世界デビューもなし。

あれだけの期待感を煽っておいて…。

当時のリアルタイムのファンの気持を想像してみてください。

私なんて中学3年から待ち続けて、本作が出た時はもう高校3年生になっとるんですよ?

高校生にとって中学時代なんてはるか昔ですからね?

この3年っていったら40代になってからの10年に等しい長さです。

もう高校を卒業しようかという間近になって、はるか昔の中学生の頃にリリースされたシングル曲が入っているようなアルバムを手にしてですよ?

あなただったらそれをニューアルバムだと思えますか?

Xファンは熱心な人が多いから、シングルはすべて買っていたと思います。

今ではシングルって知らない人がほとんどだと思いますから説明しますね。

他のアーティストの通常のシングルは2~3曲、純粋な曲が入って1000円程度。

それがXの場合、たった1曲しか収録されていない、またはカップリングがついてても『カラオケ版』。

そんな粗悪品に普通のシングル定価を付けたぼったくりシングルを、毎回1000円以上も払いながら待ってたんですよ?

それをレコードじゃないけどそれこそ擦り切れるほど聴きまくってきたんです。

3年もの長きにわたって。

少ない小遣いから6枚で6000円以上です(さらに『ロンギング切望の夜』ってのもありましたから7枚7000円)。

そんなファンに

既存曲6曲、新曲がたった4曲しか入っていないものを、定価3000円で販売する。

どんな神経してるんだ?

はっきり言います。

このやり方はファンを食い物にしている。

「どうせこいつらX名義のものならなんでも文句言わず買うんだろ?」

そう言われたような気がしました。

メンバー全員、それにレコード会社の末端から重役に至るまで、全員がん首並べて記者会見でファンに詫びろと言いたかったです。

『応援してくれるファンに対して一番やってはいけない商売汚さ』に見えました、当時は。

実は私、本作でXに失望して1回ファンを辞めました。

そんな中hideは、ファンの「Xで溜まったフラストレーション」を一身に背負って、それを晴らすべく活発な活動が目立ちました。

Xがほとんど表立った活動をしていない『DAHLIA』発売前から、hideがシングルを出せば、その都度ミュージックステーションやその他音楽番組で顔を見せてくれる。

Xの代弁者として喋ってくれる。

アルバムを出せば文句のつけようのないほどエンターテイメントしてる作品で大満足させてくれる。

それがファンの気持を繋ぎ止めていたと言ってもいい。

そういう流れがあったので、実はX解散前からすでに『DAHLIA』で失望したファンたちの多くが「Xファンじゃなくてhideファン」になってしまっていたのではないでしょうか?

そして本作はミリオンセラーを記録した『JEALOUSY』111万枚から大幅に売上を落とし、64万枚という結果に終わりました。

後続の「ヴィジュアル系」と呼ばれる世代にとって、元祖とも言われてきたX JAPAN。

そのピラミッドの頂点にいたと思われるX JAPANの幻想はここに崩れ去りました。

『DAHLIA』制作当時の混乱

それにしても一体どうしたというのでしょうか?

少なくとも我々ファンが知っているXは、並のバンド以上にファンを大切にしてきたバンドです。

普通のバンドが考えつかないようなサプライズを用意してきてくれたバンドでした。

このような残念な結果になった理由が後年、徐々に分かってきます。

当時は腹が立って冷静ではいられなかったし、情報も全く無かった。

けれど、解散してインタビューがあったり、メンバーの自伝が発売されたり、ドキュメンタリーの映画があったり…

「今だから言えるけど…」みたいな情報が開示されていくと、この最悪の結果がいかにして起きたのかがなんとなく分かってくるんです。

『DAHLIA』失敗の原因をざっくり一言で言ってしまえば

Xは制御不能の巨大ビジネスになりすぎてしまった

ということなのでしょう。

バンド/メンバーのブランド価値=商品価値が高まりすぎてしまったために、関わるプロジェクトが膨大になる。

色んな話が来るんですよ。

F-1だ、ブランドだ、ゲームだと音楽以外のイベント企画もたくさんありました。

そこに各メンバーのソロ活動、タイアップ企画などなどありとあらゆることがごちゃまぜになり、圧倒的リーダーYOSHIKIを持ってしても完全にコンロール不能状態に陥ってしまった。

おそらくまったく統制が取れておらず、そもそも音楽を作ることに集中できる状況ですらなかった。

いえ、すでにバンドとしての体裁をとどめていないとさえ言える状況だったのではないでしょうか?

インタビューでも「メンバーがソロ活動で揃わないから進められない」みたいなボヤキがかなり多かった。

この時期のYOSHIKIのインタビューは捨て鉢感がすごかった。

中には機嫌悪くて途中で打ち切ってあるインタビューもあったぐらいです。

「こんなもん掲載すんなよ」ってツッコミ入れたくなるのもありました(笑)。

やはりいちばん大きな原因は各メンバーのソロ活動、それも各メンバーかなり成功したことがまずかった。

だって『ART OF LIFE』リリースから『DAHLIA』の間の3年に、hideはソロアルバムを2枚もリリースしているんですよ?

よく考えてみると、Xのレコーディング期間中なのにですよ?

アルバムのたびごとにたっぷり作曲・レコーディングして、その後は大掛かりなツアーまでやってるんです。

ほとんどLAのXのスタジオには顔を出してはいないでしょう、どう考えても。

TOSHIもhideと同じ状況でした。

hideだってTOSHIだってHEATHだって、シングル出せば1位や2位は当たり前だったんですから。

売れればビジネスはもっともっと大きくなる。

そして動き出した歯車は止めることができないんです。

その規模が大きくなってくると、バンドのいちメンバーという立ち位置ではなく、各プロジェクトのリーダーになるわけですよ。

一国一城の主としての責任が生まれてくるんです。

スタッフたちを食わせていかなきゃならない。

当然、Xよりもそちらを優先せざるを得なくなる。

今は亡きTAIJIが生前の自伝本で語っていました。

「バンドがビッグになってくると、それぞれのメンバーが抱えるスタッフ(取り巻き)が増える。純粋に親友同士だったメンバーの間にスタッフが入り込んできて、一種の派閥の様相を呈してくる。スタッフ同士の諍(いさか)いが絶えなかった」

TAIJIがいた頃でさえそうだったんです。

さらにビッグになったXの状況がどれだけ混沌としていたか想像も付きません。

これをYOSHIKI1人の責任にするのはあまりにも酷でしょう。

先程は「hideがファンの気持を繋ぎ止めていた」とはいいましたが、責任はhideにも、いえ、メンバー全員にもあるわけです。

後年になってこういうことが分かってくると、Xを許す気に少しずつなってきたんですね。

賢くスケジューリングを調整するには、メンバーたちがビジネスに慣れていないし、何より若かったんでしょうね。

これらのことに対して他のメンバーをバッシングするようなことをしなかったYOSHIKIは偉いと思います。

愚痴はこぼしてましたけど(笑)。

あらためて振り返る『DAHLIA』という作品

ここまで語ってきたことは後年Xファンになった人からはどうでもいい話です。

『全10曲がすべて初見』という入り方ができた人にとって、この作品は決して駄作ではないでしょう。

私が嫌な思いしたからと言って「こんな作品聴かないほうが良いよ」なんて私は言いません。

生まれてきた子(曲)に罪はないから。

それどころか、なかなか見ることのできないほどクオリティの高さを誇っています。

これはたった一人でスタジオに取り残されたYOSHIKIが、次の作業が進まない間(他のメンバーがソロから戻ってくるまでの間)サウンドプロデュースをしているしかなかったからとも言えますね。

「おいおい!こっから先の作業はhideが戻ってこないと進められないじゃん!しょうがないから『DAHLIA』のミックスでもいじって待ってよう」みたいな(笑)。

凝りすぎているくらい凝ってるというか。

Xの代名詞である超スピードナンバーが減退しているとは言え、ハードな楽曲は#1『DAHLIA』、2『SCARS 』,4『Rusty Nail 』,8『WRIGGLE』,9『DRAIN 』と半数を占めていることは、あらためて振り返るとかなり意外です。

この配分は実は『JEALOUSY』と変わらないんですよね。

当時、

「Xも大人しくなったものだ」

というファンの声が非常に多かったにも関わらず。

まあ、4曲も入ったバラードの存在感が圧倒的だったからでしょう(笑)。

#3『Longing 〜跡切れたmelody〜』#6『CRUCIFY MY LOVE 』#7『Tears 』#10『Forever Love』の4曲はどれも既発シングル曲ですが、チャート成績は1位、2位、2位、1位と、貫禄の知名度を誇っています。

やはり『Tears 』は群を抜いてすばらしく、この曲は100年残る名曲でしょう。

ただ、アルバムバージョンでYOSHIKIの語りが入るのは、当時としては「またか。それはもういいかな」ってなりました。

先行シングルのなしバージョンが私は好きです。

だってこのアルバム、YOSHIKIの声が入る曲が『DAHLIA』『Tears 』『White Poem I 』『Rusty Nail』って4曲もあるんですよ?

ちょっとマンネリ気味というか。

1曲くらいは『ART OF LIFE』の女性の語りとかでも良かったのでは?

『Forever Love』を既発シングルとかぶらないようにアコースティックヴァージョンにしてあるのが、なんというか(笑)。

いや、こっちの方がいいっていう人もいるし、作った本人がこっちが原曲とは言ってますが。

当時の自分としては「これはシングルで出したものとは違うでしょ?被ってないでしょ?」って言い訳しているようにしか聞こえなかったんですよ。

それに、後々アルバムとして純粋に楽しもうとする時にこのヴァージョンでは弱いですね。

やっぱりシングルバージョンのギターソロまで入ってこその『Forever Love』だと思ってる派ですから。

このアルバムの特徴というか、大きな変化を象徴しているのは#5『White Poem I 』#8『WRIGGLE』#9『DRAIN 』ですかね。

打ち込みの要素が前面に出てきました。

前作『JEALOUSY』の『LoveReplica』で実験した打ち込み要素を各メンバーが進化させた感じがしました。

ソロでの成長が見られます。

こういうのってナイン・インチ・ネイルズ好きのhideの独壇場だと思っていたんですけど、意表をついて今回はHEATHの『WRIGGLE』が相当かっこいいですよ。

っていうより今回の打ち込み系では一番かっこいい。

たった1分半ではなく5分くらいの入れてほしかったですね。

YOSHIKIの『White Poem I 』も影薄いけど、気持ちよくなってきます。

YOSHIKIの作る楽曲としては、この異色さは初めてでしたね。

速い曲かバラードかクラシックピアノか、っていうパターンの範囲になかったものです。

その後バイオレットUKに繋がっていく流れなのですが、結局これも作品としてリリースはほぼしなかったから、非常にもったいない。

タイトルナンバーの『DAHLIA』はYOSHIKIが当時インタビューで「嫌い。全然良くない」と言っていましたがまったく同感です。

サウンドは、特にドラムに関しては当時最先端の贅沢なレコーディング環境で録ってて、音のこだわりが異常です。

こんなかっこいいドラムサウンドは他では聴けません。

けれども肝心のメロディにグッと来なかったです。

ギターリフもヴォーカルもイマイチのれません。

『Rusty Nail 』は名曲と呼ばれますけど、飽きやすいんだよな~。

当時、初めてドラマの主題歌として流れてきたときには震えが走ったんですけど。


本日は『DAHLIA』を語ってききました。

私は本作が出るまでにバラードのシングルを3年間死ぬほど聴き込んで、本作を聴いたので、未だにこれをアルバムとしては全く聴けません。

やっぱりシングルスに感じてします。

なので、本作を全く初見で聴いた人が羨ましいです。

これだけバラードの名曲がすべて所見であれば相当な感動の大きさだとは想像できますが。

本来、アルバムの出し方さえ間違えなければ、楽曲としては文句のつけようのないくらいの完成度です。

なので、これまでXを聴いてこなかった人には是非ともオススメしたい、そんなアルバムです。


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