『破滅へのカウントダウン』メガデスが音楽的方向性をガラッと変えたターニングポイントとなる作品
どうもSimackyです。
本日は1992年リリース、通算5作目のオリジナルアルバムとなる『COUNTDOWN TO EXTINCTION』を語っていきますよ。
私にとってはメガデスで最初に手にした1枚で一番聴き込んだアルバムですかね。
今回からあの謎のガイコツ野郎(ヴィックラトルヘッド)がジャケットからいなくなりました。
替わりにミイラみたいなご老人が映ってますね。
いいね~このジャケ好きなんですよ。
私はいかにもメタルメタルしたジャケットは嫌いなので、こういう何かを匂わせているようなジャケは嫌いではありません。
実はこれ、インド人のムシャマド・マハラノビスさん(94)が、刑務所の独房で垂直跳びをしている瞬間を激写したもの。
94歳で独房に入っていること自体が驚きなのですが、彼の生きがいは『人類最年長の垂直跳びギネス記録』を更新することで、この日は夕食の豚足(脇においてある)をきれいに平らげた後に挑戦しました。
前回の記録をなんと3センチも更新するインド人もびっくりの11.5センチを記録!
インド中が興奮に湧いた歴史的瞬間を収めたものなんですね~。
って
んなわけあるか。
ムシャマド誰やねん。
いそうな名前だけど。
ちょっと信じました?(笑)。
インテレクチュアルスラッシュメタルを封印した!?
音楽的な方向性がガラッと変わったと言われる本作。
それまでのスピード感はグッと落とされ、複雑な楽曲展開、長尺のギターソロはかなり抑えられています。
その磨き上げられたサウンドプロダクション、完成度の高さから最高傑作の呼び声も高いのですが、反面、それまでの音楽性を支持してきたコアなファンたちからは結構なブーイングもあったようです。
それではどうして本作はこうした作風になったのでしょうか?
それは時代との関係性を抜きにしては語れません。
本作がリリースされたのは1992年なのですが、その前年の1991年にアメリカのロックシーンに『地殻変動』が起きたとも言えるほど決定的な影響を与えた2つの作品があります。
これらは『1990年代のロック史を語る上で最も重要な2枚』と言われています。
1つ目は、いよいよメタル界の頂点に上り詰めたライバル・メタリカが全世界から注目される中で放った『ブラック・アルバム』。
それまでの大作主義的なスラッシュメタルからスロー&ヘヴィ&シンプルにシフトチェンジしたこのアルバムは、メタル業界にどよめきを起こしながらも、それまでメタルを聴かない層にまで浸透するほど大ブレイクします。
発売と同時に全米1位を獲得し、現在はセールス3500万枚を超えるモンスターアルバムとなったこの作品の、当時のトレンドに与えた影響はあまりにも大きいと言っていいでしょう
もう1つは、『ブラック・アルバム』のわずか1ヶ月後にリリースされたニルヴァーナの『ネヴァーマインド』。
これまた『ブラック・アルバム』に匹敵するほどのセールスを記録するモンスターアルバム(3000万枚超え)。
こちらは『ブラック・アルバム』と違い、チャートの20位台からスタートしてその後1991年末あたりから爆発し始める感じです。
このあたりでグランジ・オルタナティブムーブメントが勃興します。
この『ネヴァーマインド』の全米に与えた衝撃は凄まじく、1980年代から隆盛を誇ってきたヘヴィメタルが否定されました。
まあ、今にして思えば彼らもおそらく全てのヘヴィメタルを否定していたわけではないと思うし、ファッション的なヘアーメタル・ポップメタルや巨大産業化した音楽業界(MTV戦略など)そのものへの批判的意見があったというところでしょうが。
ニルヴァーナのカート・コバーンは自分たちの音楽性を『ビートルズ+ブラック・サバス』って言っているくらいなので。
実際オルタナティブとは言ってもサウンドガーデンやアリス・イン・チェインズのようなブラック・サバスをルーツにしたバンドがかなり多かったし、カート・コバーンもメタリカのファンでライブに行っていたんですよ?
なのでカーク・ハメットがメタリカの前座にニルヴァーナを誘ってみたりもしていたみたいです。
残念ながらダブルヘッドライナーとして名を連ねていたガンズのことを嫌いすぎて断ったらしいですが。
まあ、かなり歯に衣着せぬ発言でガンズなどをぶった切ってはいましたからね(笑)。
で、何かと爆弾発言が多く賑わせてくれるカートをマスコミはこぞってもてはやし、オルタナを大きく扱う音楽誌も増え、『メタル=古い・ださい・くさい』の空気感がすごい勢いで作られていくわけです(くさいは誰も言ってねーよ)。
『ネヴァーマインド』の奇しくも1週間前にリリースした『ユーズ・ユア・イリュージョン1,2』で英米1・2フィニッシュをキメた人気絶頂のあのガンズでも、わずか半年後には「好きだ」と言いづらい空気感になっていったというか。
ヴァン・ヘイレンやモトリー・クルーなんて口にするのもはばかられたんだろうな~。
ちなみに『ユーズ・ユア・イリュージョン』も1と2合わせて2500万枚くらい売っているモンスターアルバムなんですが、これがアクセルの気まぐれであと半年でもリリースが遅れていたら、絶望的なセールス結果に終わった可能性はあります。
それほどシーンの変化のスピードはすごかったみたいなので。
ギリギリセーフです。
ロックの歴史上見ても3000万枚を超えるほどの作品は数えるほどしかありません。
そんな作品が1991年に続けざまに発表された上に、同じようなベクトルを向いていたことは相当なインパクトだったことでしょう。
「今、時代はこっちだよ!」
とスポットライトを向けられた先にメタルバンドはいなかった。
そういう時代背景があり、ヘヴィメタルバンドは音楽的方向性を見直さざるを得なかった、ということです。
その結果、メガデスとしてはかつてのインテレクチュアルスラッシュメタルを封印するという決断に至る、と。
そして彼らは逆境をはねのけ、全米2位というメガデス史上最大のヒットを飛ばすことになるのです。
お見事です。
これって時代の変化に対応できるメンバー各自の適応性の高さも理由にあると思うのですが、以前の記事で書いたようにもともとメガデスの持っていた雰囲気ってオルタナティブに近いものがあったんですよ。
だってよくよく考えてみるとヘアメタルとかチャートやMTVを賑わせているバンドとやっていることは真反対だったでしょ?
音楽もファッションもマーケティングも。
アンチテーゼ的な立ち位置だったから。
というよりスラッシュメタルビッグ4と呼ばれるバンドは、全部そうだと認識してます。
私の学生時代はサウンドガーデンやアリス・イン・チェインズを聴きながら、メガデスの『ラスト・イン・ピース』『ソー・ファー・ソー・グッド~』も聴いていましたが、全く違和感ありませんでした。
今思えばサウンドガーデンの初期の雰囲気とこれら2枚がまとっている雰囲気って、共通しているものがかなりあるというか。
なので、確かに本作において『スロー&ヘヴィな歌モノ路線』に変わりはしましたが、変えなくても普通に行けたんじゃないかな?とは個人的に思ってます。
しかし、大佐にとって古巣でありライバルのメタリカがあれだけ大胆な変化を見せたことに触発されて、
「オレだって歌えるかも知れない」
という新たな方向性にチャレンジするきっかけになったのかも知れませんね。
楽曲紹介
5作目となる本作はここから8作目『RISK』まで連続して続く『歌モノ4部作』の1発目となります(また勝手に命名する)。
基本的にスラッシュメタルには戻さず、スロー&ヘヴィ&シンプルは継続です。
だからマシーン度は高くありません。
※マシーン度・・・メガデスのみで使われるターミネーター度を表す単位
メンバーはこの黄金メンバーでいきますが、7作目『クリプティック・ライティングス』を最後にドラマーのニックが脱退します。
つまり黄金メンバー期ってすごくテクニカルな印象があるけど、それは4作目『ラスト・イン・ピース』だけで、このメンバーで生み出したものは歌モノが多かったということです。
前作から『デイブのソロ色が薄まり、バンドらしくなった』という傾向はあったのですが、それはさらに強くなり、本作からマーティ、ニックも作曲に関与しはじめます。
その影響もあったのか?
本作から回を追うごとにメタルとしてのカラーがどんどん抜けていき、8作目『RISK』ではメガデス史上最高にポップに仕上がっていきます。
そんな『歌モノ4部作』の中でも依然としてメタルとしてのサウンドや攻撃性を持っていたのが本作と言えるでしょう。
実は私、メガデスの最初の1枚が本作で、学生時代に聴きまくったにも関わらず、全体トータルで見るとそんなに好きなアルバムではありません。
これは未だに何回聴いてもその印象が覆ったことはありません。
ツボに入る曲は未だに何回聴いても好きですが、それ以外の曲はいつまでたっても好きになれないんですよね。
メガデスのアルバムでここまで『曲を選んで聴く』アルバムは本作がダントツですね。
しかし本作のレビューサイトを見ると、
「アルバムに捨て曲がなくすべてが素晴らしい」
という意見もあるので、あくまで私の好みだと思って参考にされてください。
それではそんな私がおすすめする曲をご紹介しましょう。
1.『Skin o’ My Teeth』
まあ、かっこいいですわ。
一時期の私なんて本作はこの曲しか聞かなかったくらい大好きで聴きまくりました。
タイトという言葉はこの曲のためにあるのかというくらい、無駄を省いてピシッと締まってます。
大佐のボーカルの説得力が前作から全然違うのが1曲目にして伝わってきます。
しかし、この曲の主役はマーティです。
曲はタイトなのにギターソロがたっぷり(笑)。
「まだ弾くんかい!」
みたいな。
しかしこれが異様なまでにかっこいいんですよ。
個人的にはマーティのギターソロの中で実はこれが一番大好き。
2.『 Symphony of Destruction』
実はこの曲だけ中学3年のときにオムニバスアルバムで知ってました。
その頃はこのおどろおどろしい歌い方が超こわくてぶるってました(笑)。
きっと1970年『ブラック・サバス』をリアルタイムで聞いた人もこんな反応だったんだろうな~。
好きになったのは高校で本作を買ってからですね。
大佐、すごい表現力です。
サビのところの妖艶さとか最高。
この間をたっぷりもたせたギターリフに絞り出すようなボーカルの相性が抜群で、マジックがおきてますね。
ゾクゾクします。
マーティのソロも短い時間なのに起承転結が見事にまとめられてて完璧じゃないですか。
恐るべき完成度の高さ。
7.『Countdown to Extinction』
レビューで最も人気が高いことが伺えた曲。
私もご多分に漏れずお気に入りです。
つまりそれだけ突出した名曲ということでしょうね。
本作の中ではもっとも叙情性が強く、サビの部分のリードギターもそうなんですが、やっぱりギターソロのユニゾンでやられた人が大半でしょう。
メタラーたちの脳天直撃の破壊力です。
ライブ映像見てると
「歌も歌ってソロまで弾かれたらマーティの立場は!?」
って大佐にツッコミ入れたくなります(笑)。
11.『Ashes in Your Mouth』
本作で唯一『インテレクチュアルスラッシュメタル』と呼ばれた曲です。
これも人気の高い名曲。
まあ、前作収録曲ほどのスピードはないのですが、『100MEGADETAH』くらいの殺傷力はありますかね。
※MEGADEATH・・・メガデスのみで使われる音楽の攻撃性を表す単位
緊迫感と目まぐるしいまでの展開をもった曲です。
こんなリフとドラムのシンクロの仕方なんて歴代ドラマーでニックじゃないと表現できないですよね。
ギターソロにいく直前のリフの攻撃性はやばいし、このギターソロの透明感も美しい。
はい、というわけで本日は『COUNTDOWN TO EXTINCTION』を語ってまいりました。
先述した通り、アルバム全曲が名曲揃いだとはいいません。
しかし、ここに挙げた4曲を聴くだけでも本作を手にする価値があると言ってもいいほどの名曲たちです。
オリジナルとリマスターどちらが良いのか問題に関しては、本作の場合、もともとすごく良質の音で録られているので、「大きな違いはない」と言っておきましょう。
「実はスラッシュメタルは苦手」という方は、メガデスに入門する最初の一枚としていいと思いますよ。