『ア・ビュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』ドリームシアターが久しぶりに大作主義を復活させ、ついにグラミー賞獲得!
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
本日はドリームシアターが2021年にリリースした15作目のアルバム
『A View From The Top Of The World』
(ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』
を語っていきたいと思います。
2023年現時点での最新作です。
『世界の頂点から見た景色』
とはなかなかに大見得を切ってきましたね~。
それでグラミー穫るんだからかっこよすぎでしょ(笑)。
封印していた大作主義を復活させた
これまでの作風の変遷
まずは本作を語るにあたってドリームシアターの基本方針のお話をします。
ドリームシアターの歴史は大作化の歴史
と言ってもいいです。
皆さん、ちょっと思い出してみてください。
2作目『イメージズ&ワーズ』を聴いていた頃は『メトロポリス』(9分)や『ラーニング・トゥ・リブ』(11分)を
かなり特殊な長さの曲
だと思って聴いてませんでした?
「なんて長い曲だ!結構しんどいから元気ある時に聞こう…」
ってなってませんでした?
アルバムトータルタイムだって『イメージズ&ワーズ』では1時間を切っていたんですよ(57分)?
それが3作目『アウェイク』以降は70分台後半が当たり前、6作目『シックスディグリーズ~』ではついに2枚組になり、『アストニッシング』では2枚組で34曲2時間10分!
曲の長さも『シックスディグリーズ~』42分を筆頭に、『オクタヴァリウム』24分、『ブラッククラウズ&シルバーライニングス』では各曲平均12分ですよ?
だいぶおかしいですよ、あなたたち?
しかし、それは我々ファンも同じで、誰も長さに文句を言わないという(笑)。
だいぶ感覚が麻痺してるんですよ、バンドもファンも。
つまりこれは『閉鎖された空間のみで通用する常識』というわけです。
Xのライブ開始時間がYOSHIKIのごたごたで3時間押しても、我々ファンが誰も文句言わないのと同じくらい麻痺してるんです。
なんなら倒れてツアー中止になっても「YOSHIKI~!大丈夫か~!?」とか言うとるわけですよ。
「そこは心配じゃなくホントは怒るとこじゃないの?」
っていうね(笑)。
おそらくこの『感覚の麻痺』に気がついて
「ずっと
ボス(ポートノイ)が怖くて言えなかったんスけど…そもそも
こんなに長くなきゃ駄目なんっスかね?ちょっと短めてみないッスか?でもあからさまに変えるとファンの反発もあるだろうから最後の曲だけ長尺曲は入れておきましょ」
っていう考えで作ったのが12作目『ドリームシアター』だと勝手に推察してみました。
11作目『ア・ドラマティック・ターン・オブ・イベンツ』はポートノイが抜けた直後の作品ということで、フォーマットは限りなくポートノイ在籍時の作風に寄せて、冒険/実験を避けた作りになっているので、まだ、それまで通り10分前後の長尺が4曲もあったんですよ。
なので、実質的に新体制で方針を固めたという意味でのファーストアルバムは12作目『ドリームシアター』だと思うんですよね。
そこで前述のような意見が出たんじゃないかな?
その結果、ラストの長尺曲以外は平均タイム6分台。
最も長かった『ブラッククラウズ~』の半分になりました。
これは個人的にはかなり賛成でした。
だって大作化する一方だったドリームシアターが初めて真反対のことをしたんですよ?
続く『アストニッシング』はロックオペラということで、アルバムトータルは2時間10分と長いものの、曲ごとのタイムは非常に短く仕上げてます。
で、前作『ディスタンス・オーバー・タイム』ではラストの長尺曲すらもなくし、平均タイムを6分台に抑えトータルタイムは56分と最短。
つまり、ここ3作の流れを見てみると、ずっと楽曲をコンパクトにしてきているんですよ。
個人的には新鮮で、これまでになかったドリームシアターが聴けて楽しかった。
別に不満はなかったし、その方向性で今後彼らが何をつかむのかを期待していました。
なので今作で長尺曲を大々的に復活させたのはかなり意外でした。
全7曲中、10分前後の曲が3曲、20分超えが1曲という割合。
これは『大作主義』とはっきり言える作品です。
本作の特徴は久々に長いインストやソロバトルなどの要素が復活してます。
なので、前作『ディスタンス・オーバー・タイム』とは真反対の方向性と言えますね。
再び大作主義に戻した彼らの意図
彼らはせっかく方針転換したのに、なぜ本作で以前の大作主義に戻してきたのでしょうか?
ここからは私の勝手な推測です。
一番大きな理由は音楽というマーケットの変化ですね。
昔はCDの販売が大きな収益源だったため、いかにCDを多く売るか?そのために新規のファンをどう獲得するか?ということが重要でした。
そのためにメタリカやメガデスなどは『スラッシュメタル』という殻を脱ぎ捨て、オルタナティブの要素も取り込んだ音楽性に変遷していったんですね。
しかし、時代は変わりストリーミング配信で音楽を聴く時代になると、普通のCDによる収益はあまり頼りにできません。
重要なのは
コンサートでの収益+付加価値を付けた高単価商品の収益
なんです。
そう、熱心にコンサートに足を運んでくれる、それでいて高い売価の付属付きCDでも買ってくれるコアなファンの存在なんです。
また、全体のCDセールス水準がすごく下がっているので、自分のファンを獲得できていない流行り廃れのアーティストはCDのチャートから淘汰されます。
そういうアーティストはストリーミングで聞けば良いわけで、熱心なファンでもない人がCDなんて買ってくれません。
そうなるとコアな一定数のファンを獲得できているバンドは、相対的にチャートの上位に食い込んでくる時代でもあります。
例えばそんなファンが5万人いれば、ニューアルバムを出すごとに5万枚が安定的に売れるでしょ?
このバンドは10万人、このバンドは3万人…バンドごとにコアファンの数がある程度決まっていて、売れるCD枚数がある程度ブレないから、チャート順位もある程度決まってくるわけです。
だからオジーやメガデスなど、CD全盛時代はチャート成績がそこまで高くなかったバンドも、ここ数年で出した新作はいつも同じくらいの順位(3位以内)に決まってランクインしてる。
ちなみにドリームシアターは前3作が日本では毎回10位です。
実はオジー、メガデスも前2作が同じく毎回10位なんですよ。
ね?安定してるでしょ。
そういう理由もあってメタリカもメガデスも近年では既存ファンが望むかつての作風=スラッシュメタルに戻しているんだと思います。
早い話、既存ファンを囲い込んでるわけです。
この時代に大事なのは『新規ファンの獲得』ではなく、『今のファンを失わないこと』ですから。
そういう背景があるのであれば、発想としては
『ドリームシアターファンが望む理想の音楽を作ろう=かつての大作主義』
となるのは道理ですね。
「でもそれなら今更じゃない?ストリーミング時代になったのなんてもうずいぶん前の話じゃない?」
と思ったでしょう?
そう、メタリカやメガデスに比べ、ずいぶんと『囲い込むのが遅くないか?』ということですね。
実はチャートの順位の推移を見ると、ホームグラウンドである全米でのチャートに変化が見られていたのです。
ポートノイが抜けて新体制になってから(11作目『ドラマティック~』から)の成績が全米8位、7位、11位と順調に推移していたのに、前作『ディスタンス・オーバー・タイム』で24位になってしまったんです。
さっき私は何て言いました?
『コアな一定層のファンがいつも買うから売れる枚数もチャート順位もあまりブレない』
って言いましたよね?
そのチャート順位が崩れるということは、
一定層のコアファンの絶対数が減っている
ということを意味しませんかね?
『アストニッシング』まで所属していたレーベルであるロードランナーが、すごくプロモーションを積極的にしてくれていたレーベルだったから、あまり数字に現れなかったのでしょう。
が、実は『既存ファンが離れつつある』ことに、レーベルを移籍して『ディスタンス~』のチャート成績を見て気づいたのだと思います。
なぜ既存ファンを失いかけていたのか?
そりゃそれまでの音楽性(大作主義)を支持していたファンの望まない方向性に進んだからですよ。
『ドリームシアター』に始まる楽曲の短縮化の方向性は、私には大歓迎でしたが、多くのファンにとってはそうではなかったのです。
もちろんタイム感だけが原因ではないでしょうが。
で、『アストニッシング』という、誰も期待してなかったような作風(わりと歌モノ)で問題作をリリースしてしまったがために
「おどれらええ加減にせぇよ!もう我慢の限界じゃ!」
と離れてしまったファンが結構いたのではないかと。
そういった流れがモロに反映したのが前作『ディスタンス~』のチャート24位。
「やべっ!ファンが怒ってはる!」
と焦ったのかなと(笑)。
「長尺じゃ~っ!大作主義こそお客様の求めてはるものなんや~っ!」
と焦ったのかなと(笑)。
って、イジるのも大概にしとかないとファンの方に怒られますね(笑)。
真面目な話に戻しましょう。
ここすごい大事な話。
今回の作風の原点回帰は興味深い『ある事実』を浮かび上がらせるんですよ。
CD全盛期の頃は、曲はキャッチーでポップでラジオやMTVで流せるような短い楽曲がセールス上で重視されていました。
『セールスを狙う=短い楽曲』だったんです。
けれども、それは昔のやり方であり、ドリームシアターのような作風のバンドが今の時代でそれをやってしまうと、
新規ファンの開拓よりも既存ファンを失ってしまうリスクのほうが高い
ということなんです。
なので、本作における作風の原点回帰は、そういう音楽マーケットの変化を象徴するできごとだと感じたわけなんですよ。
ドリームシアターの”ミュージシャンシップ”
彼らは『売ること』をレーベルと約束しているとは言え、生粋のミュージシャンでもあります。
やっぱり彼らのミュージシャンシップも関係あるんじゃないかな~。
ジョーダン・ルーデスにしてもマイク・マンジーニにしても、このドリームシアターに途中から加入してみて感動したと思うんですよ。
だって、自分の磨いてきた技術を思う存分駆使できたうえで、それを受け入れるファンの土壌が出来上がっているわけですから。
こんな喜びを享受できるのはドリームシアターに加入したからこそじゃないですか?
こんなに楽器隊のメンバーにスポットが当たるバンドなんて、そうそうないですから。
ならば、ドリームシアターにいるからこそ追求できることを追求しまくって、そこから何が生まれるのか?
それを探す旅は自分たちにしかできない。
そういう、前人未到の領域を開拓しようと思うミュージシャンシップに行き着いたとしてもおかしくはない。
で、今回のような作風になって明らかにイキイキしてる。
とくにマンジーニ。
このバンドにおけるドラムのあり方と、自分らしいドラミングとの間に落とし所を見つけたというか、すごく自分らしいプレイをしているのははっきり分かります。
11作目から5作目にして完全開花してるんで、本作の聴きどころですよ。
『A View From The Top Of The World』アルバムレビュー
それでは全曲レビュー行ってみましょう。
昨今、「キラーチューンがない」と言われがちなドリームシアターですが、今回は7曲全てがそう呼ばれても不思議ではないほどのフックが前編にわたって見られます。
捨て曲がないどころの次元じゃなく、かなり強力なラインナップが並んでいますよ。
それでいて旧来ファンを狂喜させるほどの攻撃性とスピード感を持っていて、「ドリームシアターを聴いている」感が久々にありますよ。
#1 『The Alien』9:31
これが先行シングルでありグラミー賞も獲得した曲です。
9分半もある曲でよくぞ取れたものです(笑)。
いいですね~、序盤からアグレッシブに攻め立ててきますよ。
これは今後のドリームシアターの定番にも入ってきそうな人気曲になりそうです。
加入から5作目にしてドラムのマンジーニが本領を発揮しだしたというか。
明らかにこれまでと違い水を得た魚のように縦横無尽に暴れております。
#2『Answering the Call』7:35
前曲からの流れでまったく攻撃の手を緩めずに始まりますが、わりとスローで大きな展開で進んでいきます。
バラードになるのかな?と思いきや、合間合間に主旋律となるリフがピリッと曲を引き締めます。
そしてこれまた久々に伝家の宝刀を出しました。
ギターソロVSキーボードソロのバトルからのユニゾン。
これを待っていたファンは多かったはず!
#3『Invisible Monster』6:31
これシングルカットみたいだけど、ヴォーカルラインがイマイチ好きになれません。
これシングルで出す?
しかし、ギターソロが本作中で一番ツボをついて来ます。
#4『Sleeping Giant』10:05
冒頭からワイルドなギターリフとマンジーニの疾走感のあるドラムが非常にスリリングですね。
しかし中盤まではダークに静かに展開します。
中盤からのインストゥルメンタルでは、ルーデスが得意のラグタイムも導入したりと引っ張ります。
#2に続きギターとキーボードのバトルが復活してますね。
目まぐるしく変わる展開はまさにドリームシアターワールド。
#5『Transcending Time』6:25
明るい!
気持ちいいくらい明るいぞ!
途中、少しダークにせずこの方向で振り切っちゃってほしかった。
っていうかそれだとボストンになっちゃうか(笑)。
ルーデスのキーボードの主旋律がとにかく楽しく夢のワンダーランドです。
#6『Awaken the Master』9:47
この曲が本作で一番好きかな。
8弦ギターを使っているとのことで、まるでブラック・レーベル・ソサイアティのようなギターの音で始まります。
「昔やっていたシューティングゲームでボス戦のBGMに流れていた」みたいな雰囲気をまとっています。
超重低音リフがゾクゾクするんですが、そこに入ってくるルーデスのキーボードがさらにシューティングゲーム感を助長します。
こういう雰囲気大好きでたまんないんですよね。
全編にわたって8弦ギターの重低音の快感に浸れるのですが、マイアングのベースもゴイゴイ引っ張ってかっこいい。
#7『A View from the Top of the World』20:24
かつて8作目ラスト『オクタヴァリウム』24分に始まり、10作目ラスト『ザ・カウント・オブ・タスカニー』19分、12作目ラスト『イルミネーションセオリー』22分の頃にあった20分前後の大作で締めるパターンが久々に復活しました。
これまではシンフォニーだけになる部分があったり、環境音楽(アンビエント)にガラッと切り替わったりしていたのですが、今回はそれはありません。
バンド演奏で最後まで表現し続けます。
ここ数作で抑えてきたミュージシャンとしての表現欲求が爆発したのか、あれもこれも詰め込んでありますが、最後まで『メタルらしく』通す気概には拍手を送りたいです。
前作のラストよりはかなりいいですが、前前作の『IlluminationTheory』ほどには好きになれなかったかな。
はい、本日は『A View from the Top of the World』を語ってまいりました。
そこにどんな理由があるにせよ、ドリームシアターが久しぶりにらしさを取り戻した痛快な作品です(笑)。
ぜひ聴いてみてください。