『アリス・イン・チェインズ』(アルバム)病みに病んだグランジ・オルタナの象徴
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
今回はアリス・イン・チェインズが1995年にリリースした3作目のオリジナルフルアルバム
『アリス・イン・チェインズ』
(以下『犬』)
を語っていきますよ~。
私にとってアリスとの出会いのアルバム
前回『ダート』の記事でも書きましたが、私のアリス・イン・チェインズとの出会いは3作目であるこのアルバムなんですよね。
私はもともとメタル好きだったこともあり、主に音楽雑誌『BURRN!』なんかを読んでいたのですが、「メタル好きは総じてパンクが嫌い」ということで、グランジ・オルタナ勢はほぼ取り扱われることはないんですよ。
でもアリス・イン・チェインズはどうやらグランジ・オルタナロックの範疇で語られるバンドなのに、なんでか知らないけどメタル側のミュージシャンたちが頻繁にその名前を出してるぞ?と。
それもニルヴァーナに対してのように敵対的な発言ではなく、友好的というか、リスペクトを込めた発言が多かったというか。
メタリカがよく口にしていたことは前回も書いたのですが、実はメタルの帝王たる御大オジー・オズボーンさえもアリス・イン・チェインズのことは絶賛してました。
メタリカどころかオジー(神)まで絶賛してるんならこれは無視できません。
だってオジーってビートルズしか聞かない人って聞いてたから。
「オ、オジーがビートルズ以外の音楽を聞くってよっぽどじゃ!?」
となったんですね(笑)。
で、地元の田舎CDショップではもちろん置いてないから、わざわざ熊本市内のタワレコまで片道1時間もかけて買いに行きましたよ。
もちろん、事前情報はまるでないから、どれから聴いて良いのやらさっぱり分からない。
ということで『ジャケ買い』になるわけです。
で、一番禍々しいオーラを放っているこいつを手にしたというわけです⇩
やばくないですか?
CDケースが透明のパープル、そして帯部分は同じく透明の蛍光イエロー。
うーん、毒々しい…。
そしてドーンと居座った犬の前足はありません。
「ふ、不謹慎過ぎる…。よくこんなジャケでリリースできたな…」
ちなみにこのジャケがあまりにもやばいってことで、国内盤はすったもんだと揉めた挙げ句、真っ白なジャケ仕様になってます。
アルバムタイトルもバンド名もジャケには記載されておらず、輸入盤だから帯に説明文もなし。
これどう見てもインディ版かブートレグにしか見えないんですよ!
こんなものを買おうと思えたのも、かつて中学時代にオジーのアルバムジャケで鍛えられた経験があればこそ(笑)。
で、帰って聴いてみると
「うわ~、最初から最後までスローで重苦しい…。なに?アリス・イン・チェインズってもっとかっこいいメタルリフを鳴らすようなバンドじゃなかったの?」
もう、まったく受け付けませんでした。
当時聴いていたメタリカの大問題作『LOAD』や、サウンドガーデンの『スーパーアンノウン』同様に、このサウンドが駄目だったんでしょうね。
メタル畑からやってきたので、音がメタル的でないとこの頃は駄目だったんですよ。
レインの声はかっこよかったし、オジー並に個性の強いボーカリストだとは感じたのですが。
なので、このアルバムを聞いた時にはまだまだアリス・イン・チェインズにはハマらなくて、本格的にハマりだすのは次に買った2作目『ダート』からなんですよ。
私の場合、3→2→1作目という風に逆に遡っちゃった。
この聞き方はまったくおすすめできませんね。
皆さん、アリス・イン・チェインズには1作目か2作目で入門しましょうね(笑)。
日本版がリリースできなかった経緯
本作はこの強烈なアートワークのため、国内盤に関しては販売者であるソニーがストップを掛けます。
つまり国内盤の発売が遅れたということです。
その期間、なんと丸1年。
ソニー側は、
「犬はそのままでいいから、子どもが書いた絵のようにソフトなタッチに出来ないか?」
とか妥協案を出したのですが、アートワーク担当で、ドラムのショーン・キニーが
「これはなによりもアルバムを表現しているものだから駄目だ!」
とかって突っぱね続けるんですよ。
やたらアーティストっぽい発言をしているようですが、そんなもん、
ショーンがガキの頃に近所で追いかけ回された3本足の犬
をネタにしただけのくせに格好つけるんじゃありませんよ。
まあ、本人としては
「日本版が出なくても輸入盤買っとけばいいじゃん。日本にもタワレコあるだろ?なら問題ないじゃん。なんでレコード会社の勝手な自主規制で俺が一生懸命考えたジャケを変えられないといけないの?」
という感覚だったと思うし、私もそう思います。
音楽のことなんてまるで分からない会社の上役たちが、保身のためにやってる自主規制でしかないのが本当のところのくせに、まるで公序良俗に違反したかのような扱いを受けるのはいかがなものでしょう。
業界の自主規制って、なんらためになった試しがないですよね。
しかし、ソニーの担当者が
「タワレコあるのなんて大都市圏だけで、田舎の子どもたちはタワレコになんて行けないっすよ!だから輸入盤もなかなか手に入らない不憫な子どもたちのためにも、ぜひ国内盤を発売させてください!」
と熱烈に説得。
その不憫な子どもとは私のことだ。
ってか私の最寄りのCDショップなんて、国内盤さえまともに品揃えされてなかったんですが。
いいぞ~、ソニーの担当者。
もっと言ってやれ(笑)。
結構、この事実がショーンには衝撃だったらしく、説得に応じ、国内盤の真っ白ジャケが発売することになりました。
で、国内盤の発売に合わせたプロモーションでショーンとジェリーが来日した時のことが、ミュージックライフで取り扱われて、その記事を読んだ私が
「『犬』はあんまり好きになれなかったけど、やっぱりもう一枚買っとこうかな」
となり、名盤「ダート」に出会い、アリス・イン・チェインズにのめり込んでいくんですね。
つまり、私がアリス・イン・チェインズを大好きになって、今こうして記事を書いているのも、あの時のソニー担当者の熱量があってのこと。
名も知られていないソニーの担当者の方、ありがとうございます(笑)。
まあ、こんな書き方をするとまるで私が本作をまったく評価していないかのような印象を与えると思うのですが、好きになるには時間がかかったとはいえ、大学の頃はかなりハマりましたね。
本作が最高傑作なのではないかと思っていた時期もありますから。
アリス・イン・チェインズ(レイン在籍期)のオリジナルフルアルバム3枚、そしてミニアルバム2枚はどれも珠玉の作品たちですよ。
まったく恐ろしいバンドだぜ、アリス・イン・チェインズ…。
本作に至るまでの流れ
それでは本作が制作されるに至るまでの、前作「ダート」からの流れで説明しましょう。
まず、「ダート」が大ヒットしたことにより、アリス・イン・チェインズはワールドツアーを行います。
この頃は「オジーの引退ツアー」とも呼ばれた「ノー・モア・ツアーズ(1993年)」に前座として帯同したりもしてます。
実はオジーに気に入られていたのには、音楽性もさることながらこういう経緯があったんですね~。
で、ベースのマイク・スターがツアーの最中に脱退(実際はドラッグ依存症のための解雇)。
ちょうどオジーバンドのベースであるマイク・アイネズと「ノー・モア・ツアーズ」で仲良くなっていたこともあり、アイネズをバンドに誘います。
ちなみに「ノー・モア・ツアーズ」でのアイネズもカッコイイので見てもらいましょうか⇩
この「ノー・モア・ツアーズ」のビデオは中学生の時に見まくっていたのですが、まさか数年後にアリス・イン・チェインズのMVでアイネズを見ることになるなんて思いもしませんでしたよ。
で、長いツアーが終わるとすぐにスタジオに入り、たったの1週間でミニアルバムを作り上げます。
7曲入りの「Jar of Flies」(1994年)ですね。
長いツアーで人気が絶頂だったこともあり、ミニアルバムとしても自身としても初のチャート全米1位を記録します。
EPでの1位はなんと全米初。
そのままトリプルプラチナまで獲得する大ヒット!
なんと300万枚ですよ?
で、当然、またしてもワールドツアー…と行きたいところだったのですが、ツアーのリハーサル期間中にレインがドラッグのやり過ぎでダウン。
マイク・スターも解雇されるほど酷かったので、ワールドツアー中からバンド内に良くない流れがあったのでしょう。
残念ながらツアー日程はすべてキャンセル。
それどころか、まったくバンドとしての活動ができず、半年ほどは解散状態になってしまいます。
メンバーのフラストレーションが溜まるのを尻目に、レインはパール・ジャムのギタリストとかと一緒にスーパーグループのマッド・シーズンを結成。
アルバム1枚をリリースします。
この作品も面白いんだよな~。
なんていうか、『1970年代のブリティッシュ・ロックバンドをバックにレインが歌っている』感じがして新鮮です。
レインが生き生きしてるんですよ。
番外編であるEP「Jar of Flies」、サイドプロジェクトというレインにとっての“ガス抜き“を挟んで、ここでようやく本業であるフルアルバムの制作に取り掛かります。
レイン・ステイリーの不調
本作『犬』を聴いて一番印象に残るのはレインの存在感の希薄さ、そしてジェリーのボーカリストとしての存在感の強さです。
あきらかにジェリーのコーラス、リードボーカルの占める割合が増えています。
このアルバムでは『ツインボーカル体制』を取っている印象なんですよ。
ビートルズでいうジョンとポール、KISSでいうところのポール・スタンレーとジーン・シモンズみたいな。
これはジェリーのエゴが丸出しになって、レインを追い出しにかかっているわけではありません。
レインがドラッグのやり過ぎでボロボロになって、声にも張りがないし、体力的にも長時間のレコーディングに耐えることが出来ないため、そういう作風になったのかな、と推測します。
しかし作品の中でのパフォーマンスが落ちているようにはまったく感じさせないところがすごい。
それどころか、これまでとは違った種類の『魔力』がかかってます。
曲によってリードボーカルを変えるだけでなく、1曲の中でも半々の割合で歌っているような曲もあります。
1曲目の「Grind」からして、いきなりその作りなんですよ。
そしてレインの声も、殆どの楽曲で何本かの音階違いの声をオーバーダブしてあり、レインの『素の声』『地声』はほとんど聞き取れないような作りですね。
すごく輪郭が朧(おぼろ)げで線の細いボーカルです。
そして楽曲もそういう歌い方がハマるような曲調に作られています。
もう、1作目や2作目のような攻撃的な楽曲を作っても、レインの声が出ていないからハマらないんだと思います。
だから本作には激しい曲がないんですよ。
もともとレインの野太いシャウトが大好きな私としてはいささか残念ですが、もちろん、この作りこそが本作に魔力を与えている側面はあります。
これはプロデュース力の成せる技というか。
しかし
「う~ん、やっぱり今のレインに頼るのは無理か。それじゃあ、今のレインでも歌えるようなこういう曲を作ろう」
って、んな簡単に作れるものなのか?
とんでもない才能ですよ、ジェリー・カントレルって人は。
人の精神の『闇』『病み』っていうのを表現しているものとしては、ロックの範疇でここまでの作品はないのでは?
歌詞で表現しているものなら山ほどあっても、音でここまで表現できるのは驚異的です。
『アリス・イン・チェインズ』楽曲レビュー
本作ではギターリフ、ドラムサウンドともにかなり乾いたサウンドになりました。
そして粗い。
ガレージロックテイスト、ローファイサウンドとでも言えば良いんですかね。
メタリックな音質とはまるで違い、これまでアリスに感じたメタル感は完全に払拭されてますね。
逆に本作のサウンドにメタルの本家本元であるメタリカが近づいてくるんですから、おかしなものです(笑)。
#1『Grind』
シングル曲です。
しょっぱなからジェリーのリードボーカルですね。
レインはダークで邪悪な声をコーラスで響かせてます。
出た!3本足の犬。
これって本物?合成?
#2『Brush Away』
レインの地獄の咆哮が聞けます。
イントロからして幻覚的ですね。
ずっと鳴ってるヒステリックなリードギターが病んでます。
凄い緊迫感…。
#3『Sludge Factory』
アリスで7分超えは初じゃないかな?
本作イチでルーズな楽曲で、最後はジャムがこれでもかと続きます。
このあたりの雰囲気がメタリカに影響を与えて大問題作『LOAD』へと繋がっていくわけですね。
#4『Heaven Beside You』
ここでまたしてもシングル曲が登場します。
本作はアリス史上もっとも病んでいてダークな作品なのに、シングルカットが4曲と、かつてない多さ。
肩の力を抜いたジェリーボーカルのアコースティックブルースですね。
ほっと一息…かと思いきや、サビの後でいきなり不穏になるのが怖い(笑)。
やっぱり安心させてなどくれないのか…。
#5『Head Creeps』
地獄の咆哮その2です。
前作の『Sickman』も病んでいたのですが、それ以上です。
やっぱりこのただ事じゃない緊迫感ってレインの声だけではなく、ジェリーのリフあってのものですよね。
ショーンのプレイもオープンハイハット効果的に決まっててかっこいいな~。
#6『Again』
本作で一番好きなナンバーです。
これもシングル曲ですね。
この曲も数少ない『レインがかつてのスタイルで歌ってくれてる曲』ですね。
MVでのグラサン革ジャン姿が異様にかっこいい⇩
人生でこれまで見たMVの中で一番かっこいいかも。
本気の時のレインのカリスマオーラがやばすぎる…。
細身で長身(185cm)のスタイルに全身皮コーデ。
こんなの似合う人はレイン以外にいません。
あと、壁に蹴りを入れるアイネズもいいね~(笑)。
とにかくかっこいいMVだったので、『ビデオクリップス』で見まくりましたね。
#7『Shame In You』
ようやく最後まで安心して聞ける曲です(笑)。
平和だ…。
レインが珍しく病んでいない声だし、ちゃんとリードボーカルしてます。
なんか1970年代のロック聴いてるみたいな感覚。
#8『God Am』
なぜかめっちゃ“日本の和“で始まります。
なにか日本との縁でもあったのか?
色んなとこにアンテナ張ってんだろうな~。
実はイントロだけじゃなく、サビでもバックで笛がずっと鳴ってるんですよね。
ヘヴィ・ロックのダークさと和のテイスト。
まったく誰も予想だにしなかった組み合わせです。
#9『So Close』
本作で一番アップテンポな曲です。
アリスは速い曲ってないですよね。
なんて中毒性の高い曲なんだ。
#10『Nothin’ Song』
夢現(うめうつつ)で彷徨(さまよ)っているかのようなボーカル。
完全にラリってますね。
このアルバムってレインの張りのある声やシャウトは全く聴くことが出来ません。
腹の底から声を出している部分ってほとんどないですよね。
生の声を聴いたらおそらくかなり小さいんじゃないかと思います。
が、こういう物憂げで儚い声が聴ける唯一のアルバムという意味では貴重ですね。
こんなホーカルだったら、普通は『絶不調』の一言で切り捨てられるかもしれないのに、アリス・イン・チェインズの場合は逆にこれも表現としてプラスに働くんですから大したものです。
本作がかつてなく物憂げで沈んだ作風なのは、ボーカル・レインの声に合わせた結果なんだろうな~。
#11『Frogs』
ここで8分を超える最長のナンバーです。
リードボーカルはレインなんですが、ミキシングで絞り気味ですよね。
奥にこもってるんですよね。
輪郭がぼやけて幻想的というか。
う~ん、わりとだるいな…。
#12『Over Now』
この曲もシングルでジェリーのリードボーカル。
なんとあろうことか、本作からカットされたシングル4曲のうち、3曲がジェリーのボーカルとは…。
これってリアルタイムのファンとしては緊急事態だったんじゃないかな?
で、たまに音楽雑誌やテレビに出てくるレインはげっそり痩せこけてるわけでしょ?
そりゃ誰の目にもドラッグの影響は明らかだったでしょう。
この曲があったからこそ、後のアンプラグドにも安心して望めた、といえるほど出来のいいアコースティックナンバーですね。
ミニアルバム『SAP』『Jar of Flies』で聴くことが出来たこういう要素も、ますますものにしてきている感があります。
こうして聞き返すと、ジェリーのリードギターってブルージーだな~。
ブルージーなのに、他のどのブルース・ミュージシャンとも違います。
それは根本に流れるルーツがメタルだからでしょうが、メタル素地のブルースっていう誰も成し得たことのない表現を手にしているというか。
ジェリーはやっぱ天才です…。
はい、というわけで今回は『犬』を語ってきました。
はっきり言ってかなりとっつきにくいアルバムです。
けど、ドロドロにダークで、一度ハマると“沼“りますよ。
根気強く付き合ってあげてくださいな。
けれど、本作の良さが分かった時に、アリス・イン・チェインズのただごとならない才気を感じることが出来るでしょう。
それではまた!