「ハミングバード・イン・フォレスト・オブ・スペース」吉井和哉 ソロの方向性が変わりだした1枚

本記事はプロモーションを含みます。

どうもsimackyです。

本日は2007年9月にリリースされた吉井和哉のソロ4作目のオリジナルアルバム

「Hummingbird in Forest of Space」

(ハミングバード・イン・フォレスト・オブ・スペース)

を語っていきますよ~。

ようやく長いトンネルを抜け出した

この「Hummingbird in Forest of Space」(以下、『ハミングバード』)は、ロビンソロ4作目にしてようやく「開けてきた作品」と言えるのではないでしょうか?

逆に言うとこれまでの3作が「閉じられた作品」だったというのは言いすぎでしょうか?

まあ、ロビンの作風はイエモン時代から急激な変化はさほど強くなく、いつだって徐々に変わっていきます(若干の強弱はあれど)。

ニューアルバムが出たら

「なんてこった!一体全体どうしちまったんだ!?こ、こんなの俺の知ってるイエモン(吉井和哉)じゃない!」

みたいなことはあまりなく、

「あ~、あっちの方向に向けてだんだんと変わってきてるのね」

みたいな変化です。

それはイエモン時代で特に変化が大きかったと言われる「パンチドランカー」でも「8」でもそうでした。

これには

「とんでもない!大きすぎたよ!」

という異論も、人によってはあるでしょうが(笑)。

まあ、「8」はかなり強めの変化でしたが、世の中にはファンが絶望してしまうような変化を起こしているバンドはたくさんあるわけです(メタリカとかレッチリとか:笑)。

そういうバンドの変化っていうのは、絵の具で例えれば、ずっと赤できた作風が、いきなりある作品から青の作風になる、みたいな。

ロビンで言うとイエモンからソロへの切り替わりがまさにそれですね。

けど、イエモン、吉井ソロ、それぞれのキャリアを単独で見れば、純粋な赤にだんだんと青が加わり始めて、ある地点で紫になり、さらに青が加わってだんだんと純粋な青になっていくような、グラデーションの変化と言えばいいですかね?

1~3作目までの変化は

「なんか赤がだんだんとにごり始めたよね。赤は赤なんだけど真っ赤じゃなくなってきたよね」

みたいな変化。

で、この『ハミングバード』で

「あ!ここで紫になった!」

ってはっきり感じるみたいな。

それがまたどんどん青っぽくなっていって7作目『スターライト』で

「あ!ここで真っ青になった!」

みたいな。

そう、吉井和哉の変化のペースというのはこんな感じだと私は認識してます。

で、ソロになってからの作風も『閉じられた具合』が、徐々に開けてきた感じです。

徐々に歌詞が深刻なものからおバカな(ユーモラスな)ものへ、徐々にサウンドが密室的なサウンドからオープンなバンドサウンドへ、オルタナティブな雰囲気から王道ハードロックの雰囲気へ、徐々にライブがおとなし目からロックスターへ…みたいな(笑)。

今回は

「お?だいぶ垢抜けてきたかな?だいぶテンションも上がってきたかな?」

と多くの人が認識できるラインを超えてきたと言えるでしょう。

その意味ではソロの流れの分岐点と言える作品と言えるかもしれません。

ここから5作目『VOLT』、

6作目『The Apples』、

7作目『Starlight』

という流れは垢抜けてるんですよね。

特に『ヨシー・ファンク・Jr』などのカバーアルバムをリリースするあたりでは完全に覚醒した感があるというか。

開き直って怖いものなしの雰囲気というか、ウジウジしていたかつてのあの雰囲気はどこへやらって感じになっていきますよね。

本作のタイミングは、イエモン解散という挫折を精神的に乗り越え、家庭のごたごたを乗り越えたロビンが、ソロになって以降では一番良い精神状態で制作に望めたのではないでしょうか?

とは言え、精神的にガッタガタな時期なのに『ホワイトルーム』のような傑作を生み出してしまうロビンさんなので、これは分かりません。

かなり好きなんですよね~、2作目。

なんたってのっけから『フェニックス』でぶん殴られ、名曲「コール・ミー」はイエモン全盛期レベルの完成度を誇ってますし、他の曲も全部素晴らしく、歌詞もサウンドも40代の今の私の感性にグッサグッサ刺さってきます。

本来”アーティスティック”という意味では、落ち込んだり傷ついたりの度合いが強いほど、それを解消するために作品への感情移入は強まり、情念の強い作品が生まれるという側面もあるわけで。

ギラギラしていたロックバンドが大成功でセレブバンドになったら、クソつまんなくなった例はいくらでもありますから。

その意味では、今回この『ハミングバード』におけるロビンの精神状態が良かったことが、果たして作品にとってプラスになっているのか?マイナスになっているのか?

それは本作を聴いた皆さんが感じることであって、私がどうのこうの言うことではないと思います。

作品の感じ方は人それぞれ。

だからこそ面白いんですから。

ただ、この「ハミングバード」を聴いた多くの人にとって

「あ~、ロビン、なんか吹っ切れたね」

と感じる作品であるとは思いますね。

そして

『イエモンにあってソロにはなかった最大の要素ってなんだったのか?』

っていうことに気が付かされる作品だと思いますよ。

『ハミングバード』に至る流れ

前作『39108』がリリースされたのは2006年4月。

家を出たロビンが帰る家もなく彷徨うように全国ツアーを回って、ひたすら後悔と迷いの日々だった2005年の春~夏前ごろに制作されました。

その後、イエモンナンバーをライブで解禁した夏フェスへの出演を機に、ロビンは少しずつかつての『ロックスター吉井和哉』を思い出し始めたのでしょうか?

『39108』のツアー「thank you yoshii kazuya」では、テンション高めで突っ走ります。

ついに復活したイエモンナンバーで、久々に『ロビン節』を聞かせてくれました。

かなりガチで、オリジナルに忠実な、まさかの『バラ色の日々』!

よもやこんなロビンを人生で再び見ることができるなんて…。

このあたりの流れは、本作のカラーに間違いなく影響出てますよ。

前作『39108』の記事でも書いたと思うのですが、この『ハミングバード』というアルバムでは前作以上に

「こんなロビンが出てくるのって久々!」

っていう場面が非常に多いです。

具体的に言うと、エッチでおバカでおちょくったような言葉遊びが、ちょいちょい顔を出します。

フェスっていうのは、自分だけのワンマンコンサートと違って、自分を知らない人達の前でアピールする必要があるから、1~2作目のような内向的な雰囲気よりも、イケイケでノリノリの雰囲気で戦う必要があったのでしょうが、そのあたりの変化が今回のアルバムの作風に影響を与えているのは間違いないでしょう。

かつてフジロック出演の際、内向的かつマイナーな選曲で撃沈してしまった教訓もあり、「バラ色の日々」をお披露目しているところからも、すごくポジティブな思考の変化を感じますね。

視点が内から外に向いているというか。

「Hummingbird in Forest of Space」楽曲解説

意外や意外、実は私、吉井ソロで一番聴いている時間が長いアルバムです。

インパクトは一番なかったアルバムなのですが、なんか一番しっくりくるんですよね。

それにしても曲ごとの振り幅が大きなアルバムです。

歌詞も音楽ジャンルもこれまでになく自由に飛び回ってます。

本作をもって『ロビンの足枷が取れた』と評するレビューも見かけたのですが、激しく同意します。

この振り幅の大きさが『自由』を印象付けるし、何より楽しそうに演っているのが伝わってくるんですよね。

前3作までの深く思索するような雰囲気に対し、このアルバムは何も考えないで音世界に身を委ねることができる作風と言えるでしょう。

あまり深い意味を持たせずに単語のインパクトと韻で攻めてくる曲が目立ちます。

また、本作も前作同様にバンドメンバーはすべて外人ミュージシャン(アメリカ)で固めました。

ここまで外部ミュージシャンに頼っておきながら、どうして4年後に『Apples』を一人で全部録れたんでしょうね(笑)。

#1『introduction』

すごいサイバーなオープニングで、不穏な空気を醸し出してます。

アルバムのオープニングは不穏なのにアルバム全体の雰囲気は全然そうではないので、アルバムのイントロダクションというより、続く2曲目へのイントロダクションと言ったところでしょうか?

#2『Do the Flipping』

黒いな~。

のっけからファルセットですよ。

マーヴィン・ゲイ的な雰囲気をやってみた時のレニー・クラヴィッツのような雰囲気です(まさにそれ!)。

何となく言いたいこと伝わるでしょ?

ベースとディストーションギターの組み合わせが面白くて、かつてのモーターヘッドのレミーみたいな音出してるのが面白い。

#3『Biri』

あれ?一向に明るくなってきませんね(笑)。

不穏な気配が続きます。

っていうか序盤メタルアルバムみたいな雰囲気(笑)。

韻を踏ませて言葉遊びしいるっていう趣向を強く印象付けますね。

「ファックな奴」「やばいロッカー」など、いかにもロックな単語、「パンティ」「君のチェリー」などお下品な単語など、とにかく単語の強烈なイメージに韻まで踏ませてあるものだから、インパクト大ですね。

「パーティー」のドサクサに紛れて「パンティ」って言うところの悪ふざけ感で、「あの頃のロビンが戻ってきた!」って感じた人は私だけじゃないはず(笑)。

#4『シュレッダー』

驚くべきことになんとこれシングル曲です。

なかなか硬派な選曲です。

なのでMVも作成されてます。

観ました?

すごくないですか?

バッチリメイクまで決めて、自己陶酔の極み。

久々にグラム・ロックスターのロビンが復活してます。

白い方のロビンは初期デビッド・ボウイのように耽美的ではありませんか!

まあ、黒い方のロビンはオジー・オズボーンに見えなくもないのですが(笑)。

ロビンってもうこんなロックスター然としたことはしないと思っていたので、驚きましたね。

正直、何もツボるものがない曲だと思っていたのですが、MVで観て曲の印象がガラッと変わりました。

#5『上海』

「この曲はアルバムに入れるクオリティに達してないだろう?」

って思うほど、残念な曲に感じていたのに、ムカつくくらい耳にこびりつき、最終的には好きになってしまうという中毒性の高い曲です。

その要因はメロディじゃなく、韻とこのグルーブ感なんでしょうね。

あと、何と言ってもこのひっでぇ歌詞ですよ(笑)。

決してガチな姿は見せず、どこかニヒルに笑い、煙に巻くような雰囲気には、イエモン時代に通じるものがあります。

100%の全力は見せず、底を見せない余裕というかね。

なんていうか、以前の3作、特に最初の2作のロビンってこの『余裕』はあまりなかったように感じます。

ガチというか真剣極まりないというか。

考えてみたらソロの初期2枚って、らしくもなく生真面目なロビンの姿を見れた貴重な作品だったんだな、と、このアルバムを聴いて感じましたね。

本作の歌詞を『軽い』と捉えた方もレビューで割と見かけたのですが、まあ、こっちがデフォルトでしょうね。

#6『ルーザー』

前曲に続いてメロディよりグルーブ感で聞かせてくる曲ですね。

『上海』『ルーザー』は多分、聞きはじめの頃はあんまり好きになれないんじゃないかな?

多分、この2曲を好きな人とそうでない人で本アルバムの評価はガラッと変わると思います。

また、歌詞に意味を求める人は、この曲も、このアルバムもあんまりおすすめしません。

ちなみに私はこのくっだらねぇ歌詞が大好きです(笑)。

この曲は本アルバムの中でも極めつけにアホで、意味がなく、ここまでくるとフランク・ザッパみたいですね(笑)。

#7『ワセドン3』

はい、ここで来ました。

本作中盤における重要曲ですね。

ここでこの曲がアルバムの重心をぐっと下げてきます。

この曲と後半の『マンチー』がなかったら、本作はなんかふわっとした作品で終わると思うんですよ。

なんのことを歌っているのかが分からないのに、何かを暗喩していることは間違いないと感じてしまう。

ただごとではないほど不穏な雰囲気だけは伝わってくる。

そしてなぜか歌詞にドキッとさせられる。

なんなんでしょうね、このセンス。

#8『Pain』

本作一のノリノリナンバーで、ライブで盛り上がること必至です。

最初聴いた時、アニメ『けいおん』の主題歌『ドント・セイ・レイジー』かと思った(笑)。

これまたお馬鹿な欲望ソングですね。

って、さっきから多いな!

あらためて聞き返すと、ほんとにこのアルバムには深い意味がない曲が多い。

それ故、サイコー(笑)。

しかも曲の中で「俺の詩には意味がない」って自分で言っちゃってるし(笑)。

『ホワイトルーム』の頃の作風と隔世の感がありますね。

#9『Shine and Eternity』

先行シングル第2弾としてリリースされました。

これは名曲です。

なんて癒やされるんだ。

ソロになって、イエモン時代とは違うアプローチを試行し続けてきたロビンですが、この曲はそんなロビンだからこそ歌えた曲と思えます。

『ロックボーカルはこうあるべき』

みたいな『足枷』が完全に払拭された印象を与える曲ですね。

#10『バッカ』

これまたシングル曲。

「イエモンの『JAM』にも匹敵する」、と呼び声の高い大人気曲の登場です。

正直、前評判を聞いてから、自分で聴いてみた時は肩透かしもいいとこだったのですが(笑)。

イエモン時代からそうですが、この人のシングルヒット曲ってたまに

『らしさが微塵も感じられないけど、普遍性が非常に高い

という特性を持っていることがあります。

既存ファンからすると「ええ~?」ってなっちゃうんですが、一般リスナーであるほど受けるみたいな。

イエモン時代の『太陽が燃えている』なんかがまさにそうです。

かつてイエモンを聴いたことがなかった私が『太陽が燃えている』でイエモンファンになった時に、それまでのイエモンファンからは

「イエモンらしくなくなった。売れ線に走った」

とブーイングだった事実を思い出します。

なので、これまでのイエモン・吉井ソロファンが支持する曲というよりは、一般リスナーがこの曲を入口に吉井ソロに入門することになるんだと思います。

サザンの『ツナミ』は300万枚売ったサザン史上最高セールスを記録した名曲中の名曲と言われていますが、

「そんな言うほどか?なんか物足りないんだけど…」

っていうのが正直な感想なので、この『バッカ』にも同じ印象があります。

まあ、好きなのは好きなのですが『JAM』に匹敵するとか言われれると、そこまでないかな~。

#11『Winner』

後半はシングル曲が3連発ですね~。

前半の内向さは完全になくなり、さながらベスト盤のような気配が漂ってきました(笑)。

あれ?さっきは「敗者」の歌があって、今度は「勝者」の歌?

せわしねぇな(笑)。

うーん、ちょっと「いかにも」感が出てるかな。

というより、あまりにもドストートでひねりなしのど直球応援ソングなので、この歌詞を本当に恥ずかしがり屋のロビンが書いたのか疑問なのですが(笑)。

その意味では意外性は本アルバム中ピカイチなのでは?

#12『マンチー』

はい、来ました。

本作一の名曲です(笑)。

誰がなんと言おうと、これは大名曲です。

こんなふざけたロックは吉井和哉にしかできません。

「ヘイ!ヘイ!」じゃなくて「へっへっ!」っていうところがありえないセンスです。

よく思いつくな。

ロックの歴史60年といえども、こんな発想ができたのは吉井和哉だけでしょう。

「ヘイ!」が「へっ!」になるだけで、いかがわしく下品で野卑でクソ野郎な感じが数十倍になります。

あ!もしかしてオードリーの春日からヒントを得たのか!?(笑)

へっ!

この曲があると次の『雨雲』が異常に引き立つんですよね。

『ワセドン3』『PAIN』と同じで、本作の流れにダイナミズムを生み出す重要な曲です。

で…マンチーってなんなんだよ…。

#13『雨雲』

最高の流れでバトンを渡され、ラストを締めます。

すごく透明感のある曲ですね。

タイトルは『雨雲』なんですけど、雨上がりの景色が目に浮かぶような曲です。

ロックっていうか、ジャズやフュージョンですよね。

オシャだね~(笑)。


はい、というわけで今回は『ハミングバード』を語ってまいりました。

レビューを読んでてもこれをソロで最高傑作に挙げる人わりと多いですよ。

やっぱロビンにはおふざけが必要なんだな~。

たまには生真面目なロビンにもその時しかない味があっていいのですが、久々にお馬鹿なロビンを味わえるとなんかほっとするというか(笑)。

逆に初期の内向的な作風が好きだった人は、この作品あたりから

「おいおい~、そっちいっちゃうの?」

ってなりだすんじゃないかな?

まあ、最初に言いましたように、ロビンの作風はグラデーションのように変化していきますので、すべての要素がいきなりまったくなくなるということはなく、いつだってその配合バランスが違うだけなんですよ。

シリアスさとおバカさのバランスとか、密室性とオープン性だとか、対極の要素の配合バランスです。

「今回はシリアスとおバカのバランスは10:90」

の時もあれば逆に「90:10」の時もありますけど、「100:0」にはならないんですよ。

『ハミングバード』は確かにおバカ部分がかなり増えましたけど、それでも初期の持っていた内向性もしっかりありますから。

決してゼロにはならない。

で、今の私にはこの『ハミングバード』のバランスが一番しっくり来てるんですけど、あなたにはあなたに一番しっくり来る作品が見つかると良いですね。

Simackyでした。

それではまた!

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