『システマティック・ケイオス』(ドリームシアター)難解な作品。聴き込む覚悟がある人にだけ感動が訪れる…

どうもSimackyです。

本日はドリームシアターが2007年にリリースした9作目のオリジナルアルバム『システマティック・ケイオス』を語っていきますね。

ドリームシアターの集大成として生み出された前作『オクタヴァリウム』が完璧な作品で、久々にセールスが好調だったので、本作のチャートアクションも実に順調。

過去最高のビルボード200(米)で19位まで登りました。

しかし、内容はと言うと前作とは真逆でチャレンジ精神に溢れた作品になっており、かなり物議を醸したようです。

その理由を解説しましょう!

ドリームシアター史上で最も『とっつきにくい』スルメ盤

このアルバムに関してフォローはしませんのではっきり言います。

とっつきにくいです。

こればっかりは「聴き込んでください」としか言えません。

決してキャッチーではないし、ビギナーにもおすすめしません。

このアルバムのレビューでよく言われる

「キラーチューンがない」

というのも、まあ気持ちは分かります。

「キラーチューン」というのが「パッと聴いて耳に残るメロディ」すなわち『フック』のことを指すのであれば、このアルバムはそれが極端に弱い。

まあ、そもそも何をもってフックがあると感じるのかは、結局人それぞれでもあるのですが。

ただ、レビューを見ていると、傑作『イメージズ&ワーズ』でドリーム・シアターに入った多くの人にとってフックを感じれなかったということは伝わってきます。

けれども音楽というのは『フック』がなければ駄作ということではない。

フックがない作品のほうが長期的に楽しめるケースだってあるんですよ。

そのことを教えてくれる作品だと言っていいでしょう。

だからこれはそういうものだと割り切って聴いてもらった方がいい。

これまでに難解と言われたアルバムでは3作目の『アウェイク』がありましたが、あれでもパーツパーツを見ればかなりキャッチーでポップな瞬間が何度もありました。

それを埋め尽くすすほどのダークな展開が多いので、ポップな側面に気がつく前に「ちょっときついかな」となるだけで。

本作は、これまでドリームシアターを熱心にフォローしてきたファンから多くの批判を浴びた最初の作品ではないでしょうかね?

これ以降は、わりとアルバム出すごとに色々言われてますが、8作目『オクタヴァリウム』までの作品には批判的レビューがそんなに多くないです。

で、本作への多かった批判が先程言った『キラーチューンがない』であり、次によく見かけたのが

『マンネリ化』

ですね。

正直に告白すると、この『マンネリ化』という言葉。

実は私もこの9作目を聴き初めの頃、よく頭をよぎってました。

しかし、聴き込んで本当の作品の良さが分かってくると、この言葉は不思議と出てきません。

それではこの『マンネリ化』という言葉が出てくる理由を考察してみましょう。

どうして『マンネリ化』と言われるのか?

皆さん、『マンネリ化』という言葉って決して褒め言葉じゃないですよね?

作品に何かしらの不満があるからその言葉が出てくるんです。

音楽的内容に満足していれば、おそらくその言葉は出てこないでしょう。

満足している時に出るその言葉は

「ドリームシアターらしくていいね」

だと思います。

世の中には『金太郎飴』と呼ばれる、いい意味で変わらないバンドがありますよね?

モーターヘッドやAC/DCがその代表格ですよね。

彼らの作品に対して『マンネリ化』なんてレビューは読んだことがありません。

『偉大なるマンネリズム』とか表現されます(笑)。

つまり『変化がない』ことに対してのポジティブな反応は「〇〇らしくていい」、ネガティブな反応が「マンネリ化だ」となるんだと思います。

ではどうしてドリーム・シアターはそう呼ばれてしまうのかというと、これが先程の『フックがない』という話と関係してくるんです。

印象的なメロディがすんなり入ってこないから。

メロディがいまいちピンとこないのに、複雑怪奇で高度な変態プレイがてんこ盛りで、それでいていつものドリームシアターらしい典型的展開を見せるため、

「いつものドリーム・シアターっぽいことを繰り返しているだけ=マンネリ化」

みたいなことを言っている人が結構いる。

しかし聴き込んで、その奥にある魅力が分かってくると、実は『マンネリ化』なんてとんでもない。

それどころか、常に貪欲に最新の音楽トレンドを取り込んで実験しているんですよ。

90年代にはスラッシュメタルへのオマージュが顕著に見られましたが、他にも実はファンク、ラップ、デス、ドゥーム、ニューメタル、シンフォニック、サイケ、果てはゲーム音楽などなど、それまでのドリームシアターにはなかった要素がアルバムを追うごとに取り入れられています。

そしてこの要素が、それまでのドリームシアターファンにとってあまり馴染みのないもののため、『フックがない』かのように感じる原因なんだと思います。

人間って聞き慣れていないジャンルの音楽はすんなり入ってきません。

メタルしか聴いていなかった人がいきなりヒップホップやファンクの作品聴いてすぐに好きになれるわけ無いと思いませんか?

最初は「何がい良いのかさっぱり分からん」ってなると思うんですよ。

私も初めてレッチリの歴史的名盤『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』を聴いた時は、それこそ「これってどこにメロディあるの?」ってなりましたから。

後に最高のアルバムだということに気がつくのですが。

それと同じで、この様々に混在した音楽ジャンルがリスナーの馴染みにくさを生み出しているのかな、と。

そして、本作はその度合がかつてなく大きかったため、メロディが全く入ってこず、フックも感じられないため、単なる様式だけをドリーム・シアター風にした『マンネリ化』だという評価が出てしまったのでしょう。

ということは逆に言えばそれだけ音楽的実験がかつてなく大きかったと言えるわけですよ。

ところで、ドリームシアター全カタログを通して聴き続けていると、最初は素晴らしいと絶賛していた作品が意外にも息が短かったりします。

私の中では『メトロポリスPart2』なんかがそうですね。

ある時に聞き返してみると「あれ?昔はもっと感動がきてたような?」ってなりました。

しかし、レビューというのはリリースされてすぐに書かれたものが多いため、やはり最初の印象が良いものがレビューも圧倒的に高評価が多い。

こういうことは他のアーティストでもままあって、最近では大絶賛されたオジーの2020年作『オーディナリーマン』なんかがそうでした。

最初は「これとんでもないな!」ってなるのですが、もっともっと聴き比べていくと、最初はあまり良いと思わなかった作品のほうが断然良かったりする。

そう、ドリームシアターにとってそれに当たるのが本作で、最初は評価低かったけど今後見直して頂きたい作品の筆頭です。

『システマティック・ケイオス』アルバムレビュー

#1『In the Presence of Enemies – Part I』9:00

もともと25分ある純然たる1曲をアルバムのオープニングとエンディングに分割してあります。

純然たる1曲という意味では『オクタヴァリウム』の24分を超えてきましたね。

分割したがための編集はしてないため、通して聴いてもまったく違和感はありません。

序盤からこれ以上はないくらいのスリリングな展開。

ペトルーシのダークにうねるリフにルーデスのピアノリフがのっかってきた時はゾクゾクします。

そこから一気に変態プレイが爆発。

今回のアルバムはど頭から全開です。

そこからはしっとりとギターメロディを聴かせ、ブレイクして『アウェイク』の『6:00』のようなスペーシーな雰囲気へ。

ここまでの展開にあまりにも引き込まれるため、ヴォーカルが入るまでに『5分』が経過していることに気が付かないほど(笑)。

フックがないと言われるアルバムですけど、この曲にはかなり分かりやすいかっこよさが詰め込まれていると思うんですよね、しかもキラーフレーズが。

#2『Forsaken』5:35

冒頭のピアノイントロ好きですね~。

かなり歌で聴かせる曲です。

これはドリームシアターとしては珍しく、歌を聴かせるための演奏に徹しています。

私でも叩けるドリームシアターのドラムは珍しい(笑)。

#3『Constant Motion』6:55

もうドリームシアターとしか表現しようのない『らしい』曲調から、いきなりパワーコーラスのギャップがなかなか微笑ましいです。

ドリームシアターに『おちゃめ』を感じる数少ない機会ですよ(笑)。

これはテンポかなり速いですね。

ドラムは聴いているだけで胸いっぱいになるので、コピーしようとは全く思えません(笑)。

ギターソロにはアラン・ホールズワースっぽさが出てます。

#4『The Dark Eternal Night』8:53

ニューメタル?

いや、もはやオルタナかな?

ドリームシアターがこんな曲を作るとはかなり意外。

カオス度が尋常では無いため、次の曲とともにかなり『ウケ』が良くないだろうと思われます。

こいつです。

こいつのせいで『マンネリ化』とか『形骸化』とか言われるんだと思います(笑)。

しかしこの曲もスルメ。

っていうか本作イチのスルメかな。

まあ最初は脈絡なしにツギハギしたようにしか聴こえませんもんね。

ドリームシアターがまず演らないであろう要素がぶっ込まれまくってます。

無理はせず、きつくなったら飛ばしましょう(笑)。

#5『Repentance』10:43

はい、ここらが正念場です。

大概の人がここで脱落します(笑)。

アル中依存克服メソッドの4回目ですね。

これまで3回の曲調はアグレッシブなナンバーできていて、ここに来てガラッと変わりました。

この曲が本作をとっつきにくいものにしている一番の原因でしょう(笑)。

「せっかくかっこいい曲ばっかり進めてきたシリーズなのに、この曲のせいで台無しだ!」

みたいな声も多数。

最初は「なんか暗くてやだな…」って感じなんですが、聴きこむほどに妙に安らかさを感じてしまうのは私だけでしょうか?

後半は非常にプログレッシブ・ロックで、ピンク・フロイドなんかの雰囲気がまんまでてますね。

#6『Prophets of War』6:00

ドラマティックですね~。

この悲しみの表現はかなりいいですよ。

これまた#2同様、いえ、それ以上にリズム的な変化球をほとんど抜きで1曲を通している分、どストレートに世界観を表現しています。

その意味ではドリームシアターらしくないとも言えるのですが、その分、感情移入度が非常に高い。

普通にドラム叩いているポートノイは貴重(笑)。

ファン50名を参加させたコーラスも私は大好きです。

#7『The Ministry of Lost Souls』14:57

日本人にとっては演歌としか思えないオープニングで度肝を抜かれます。

一瞬、石川さゆりが歌い出すのかと思いました(笑)。

序盤は非常に大きな流れでゆったりと進行していくので、雰囲気は違えど『オクタヴァリウム(曲)』の壮大さを感じさせます。

7:30あたりからアグレッシブな展開を見せ始めたら、さあ、ドリームシアターワールドです。

ここのインスト部分は、ペトルーシのギターリフのスリリングさといい、その後のルーデスの主旋律といい、かなりの完成度の高さですよ。

緊張の糸が途切れません。

そして極めつけがここからの二人のユニゾン。

本アルバムのハイライトの瞬間はここじゃないかな?

前曲に引き続きドラマティック性が非常に高く、これでラストを飾るには十分すぎるクオリティなので、#1と#8は分けずに1曲目に集約して良かったと思うのですが…。

やばいくらいの名曲です。

#8『In the Presence of Enemies – Part II』16:38

そうは言ってもやはりこの曲以外でラストはありえないんですよね~。

この曲は#1とくっつけて聴いてみてください。

ドリームシアター史上まれにみる名曲足り得たのだと理解できます。

25分もの長尺をここまで一気に聴かせる楽曲なんて、彼らだってそう何度も生み出せることではないでしょう。

完成度が非常に高く、アルバムのオープニングを飾る曲にしても、エンディングを飾る曲にしても、この曲を超えるものが生まれなかった。

#7も通常であればラストを飾るには十分なんですが、この曲には負ける。

そのため分割したのだと勝手に解釈しましたけど、ホントのところは分かりません。

全楽曲中で一番クオリティが高く、万能感がありますから頼りすぎたのか?

まあ、それだったらこの曲を派生させてコンセプトアルバム作っても良かったのかなあ、とかも思っちゃったりしますが。

ほとんどのリスナーにとっても、分割した理由というのがイマイチ腑に落ちないため、

『コンセプト無しでアルバム作ったら、なんかバラバラになっちゃったんで手っ取り早く解決する方法として分割した

みたいに見えてしまうのも、少し損をしている感じがします(笑)。

あと、せっかくの大作曲なんだから『オクタヴァリウム』みたいに、ワンセンテンスの曲名にしたほうがファンからも親しまれると思います。


はい、本日は『システマティック・ケイオスを語ってまいりました。

良さが分かってくると凄いですよこのアルバム。

全曲クオリティが高い。

楽曲単位の完成度で言えば『オクタヴァリウム』を超えてるとさえ思えたり。

聴き込む覚悟がある方だけお聴きください。

その先の感動は私が保証します。

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