『ブラック・クラウズ・アンド・シルヴァー・ライニングズ』(ドリーム・シアター)かつてない大作主義で作り込んだ作品
どうもSimackyです。
本日はドリームシアターが2009年にリリースした10作目のオリジナルアルバム『ブラック・クラウズ・アンド・シルヴァー・ライニングズ』を語っていきますね。
リーダー/マイク・ポートノイ時代の終焉
本作はドリームシアターのカタログの中で、1つの時代の終わりを告げる作品です。
バンドの結成メンバーでもあり、ペトルーシと二人でドリームシアターの音楽性・バンド活動の方向性を決定してきたマイク・ポートノイが本作を最後に脱退するからです。
ドリームシアターを初めて聴いた人なら誰でも感じることが、
「うわっ!ドラムなんかすっごいことやってんね!しかも音デカいね!」
だと思うんですよね(笑)。
私が学生の頃、周りのバンド仲間は、ドラムのことはよく分かんなくても
「ドリームシアターのドラムはすごい!ってかこの人リーダーなんじゃね?」
って皆言ってましたから。
ドラマーってバンドの中では発言権が弱いパターンがほとんどです。
これはリード楽器ではなくリズム楽器を担当しているため、作曲に携わっていないケースが多いからです。
普通はボーカルなりギターの人のなりが、メロディを考えてきて制作を主導していく。
しかしなぜかドリームシアターはこのポートノイがペトルーシと二人で主導していくんですね。
不思議なバンドです(メタリカもですが)。
そんなポートノイが、別にこのアルバムで「全てを出し尽くして終わりにする」つもりで作ったわけではないのでしょうが、その後に脱退してしまったがために、本作は結果的に『これまでの総決算』的な作品に見られがちです。
チャート成績も過去最高の全米6位を記録しましたので、「下積み長かったドリームシアターがついにたどり着いた」感もありますしね。
ポートノイが6作目『シックスディグリーズ~』から制作を主導してきた『アルコール依存症ソング』が、本作で完結することもその印象をより強めていますね。
毎回、アルバムの中に1曲ずつ入れてきて、本作では5曲目。
完結編にふさわしい出来栄えとなっているため、ここは1つのハイライトと言えるでしょう。
何かに雰囲気が似ている?
本作のタイトルはしばらくの間、私にとってめっちゃ謎でした。
『ブラック・クラウズ』は黒い雲だと分かるのですが、『シルヴァー・ライニングス』を翻訳ソフトで調べると『銀の裏地』と出てきたので変な世界観を描いてしまったんですよね。
「真っ黒な雲に覆われて今にも大雨が降り出しそう。でも大丈夫さ。俺にはこの前買ってもらったオーダーメイドのカッパがあるから。見てくれよ、この裏地。シルバーだぜ?こんなおしゃれなカッパは俺しか持ってねーよ」
カッパの話?
「んなわけあるかい」と、色々ブログ等も調べてみると、
『雲の合間から差し込む光の筋や雲の形を縁取るように光る太陽光のこと』
ひるがえって
『希望の兆し』
という解釈になるそうです。
なるほど!
それでジャケットが黒い雲とドアから差し込む光になっているのか!
ん?しかし、このジャケットなんか既視感を感じたのは私だけでしょうか?
そう、これって私の大好きな『アウェイク』にめちゃめちゃ似てませんか?
ここまで似ていて偶然ということは、彼らの場合考えにくいですね。
つまり、作風の共通点を匂わせているということです。
これに気がついた時に(すぐに気付けよ)、本作のヒントが見えました。
白と黒のモノトーンの世界に、一部分だけカラー(明るさ=光)がある。
つまりダークでヘヴィな音世界に、兆しのようにキレイな明るいメロディが差し込む、と。
確かに、本作の雰囲気は『アウェイク』が持っていた、ダークさからの明るさへの展開、もしくは明暗の対比があります。
#1,2でダークな流れから#3で明るく。
#4でダークから#5・6でまた明るく、と言った感じですね。
私は今回ブログを書くまでは、本作を「どういう印象のアルバムか?」と聴かれた時に「かなり明るい作品」と答えるつもりでいました。
しかし、久々に聞き返してみると
「あれ?こんなダークでヘヴィだったっけ?」
となってしまうのは、おそらく後半2曲の明るい印象があまりにも強く残ってしまっていたからでしょうね。
ちなみに『アウェイク』の場合はこの逆の印象で、ヘヴィでダークな印象だけが強く残っているけど、聞き返してみると「こんなポップで明るかったっけ!」となりますので、明暗のバランスが本作と反対のバランスだということでしょう。
『ブラック・クラウズ・アンド・シルヴァー・ライニングズ』アルバムレビュー
アルバム収録曲はたったの6曲でトータル75分、各曲平均12分を超える大作主義の作風が本作の特徴です。
特に後半なんてすごくて、#4からは約13分が2曲続いてダメ押しのラストはなんと約20分(笑)。
字面だけ読むと逃げ出したくなるのですが、実はここが本作の真価が詰まっています。
この3曲を全くダレさせることなく聴かせる力量はすごいです。
#1『A Nightmare to Remember』16:10
しょっぱなから16分を超える大作。
本作ではもっともヘヴィでダーク、まさに暗雲を象徴するような幕開け。
色んな要素が詰め込んであって、情報量が多いな~。
4:00あたりでメガデス3作目『So far So Good~』で聴いたことあるような車の追突音が聞こえたと思えば、その直後、ヴォーカルがデイブ・ムステインそのものになります(笑)。
いや、これはご本人登場かと思うほどのクオリティですよ。
なんでこんなにそっくりに歌えるの?
7:00すぎから始まるコーラスは非常に秀逸なバラードで、それまでの不穏さとの明暗の対比がお見事。
11:30すぎからはおおむね不評なポートノイのデスヴォイスが入ってます。
いや、私は好きなんですがね。
こういう新しい要素を入れてくれるのがポートノイなんですよね。
この野心あふれる挑戦心に私は拍手を送りたいです!
さすがリーダー。
この人をジャイアンとか言う人は廊下でバケツ持って立ってなさい。
けしからん!
で、ラストはドリームシアター初のブラストビートでジャイアンが突っ走ります。
#2『A Rite of Passage』8:35
ヴァース部分はまるでマリリン・マンソンのような怪しいヴォーカル。
これホントにラブリエが歌ってんの?
サビ前のヴォーカルもメタリカの『LOAD/RELOAD』あたりに入っていそうなサイケ感を出します。
で、サビは非常にキャッチーです。
6:00前あたりから曲調が一変。
メガデスっぽくなります。
やたらメタリカ臭いことの多いこのバンドが、次に多いのがメガデス臭さですけど(笑)。
この人達って自分たちがリスペクトするバンドの表面上のオマージュではなく、本当に核の部分のエッセンスを吸収してものにしているところが凄い。
#3『Wither』5:25
平均タイム12分を超える大作主義の本作にて5分台という、『一休みできる曲』です(笑)。
まるでカート・コバーンのようなヴァース部分ですね。
これまでの作品では、インスト部分のオマージュが数多く見られましたが、本作は『ラブリエ七変化』が1つのコンセプトなのでしょうか?(笑)
ドリームシアターのバラードではわりと人気の高い曲ですが、私はまあまあ好きです。
こういう曲やるとなんかU2っぽさが匂い立ちますね。
かなり影響受けてるんでしょう。
#4『”The Shattered Fortress』12:49
6作目『シックスディグリーズ~』の『グラスプリズン』から続いてきた『アル中ソング』のラストです(言い方!)。
レビューでは「今までの曲の単なるつなぎ合わせ」みたいなことをわりと見かけましたが、私はそうは思わないんですよね。
初っ端のフェードインもかっこいいのですが、そこからの「ディス・ダイイング・ソウル」の主旋律(1:40)は、原曲よりもテンポが速くて圧倒的にかっこいい。
「グラスプリズン」のヘヴィリフにしてもツーバスにしても音圧がど迫力で、私としてはよくぞリニューアルしてくれたと思いますよ。
構成としては、『シックスディグリーズ~』DISC2の#7「アバウト・トゥ・クラッシュ(リプライズ)」で、それまでの全パートを総括した時の手法に近いですね。
原曲にわりと忠実なダイジェストでダーッと走って、ラストのクライマックスでオリジナル要素を加えるんですよね。
9:20で「ザ・ルート・オブ・オール・イーヴル」のリフの上にオリジナルのソロを乗せるとこは鳥肌モノです。
これがたまらない。
「これが全貌だ!」みたいな。
ただ、最後のヴォーカル部分がハイライトになりきれていないというか、『尻すぼみ感』が残念。
その後に「グラスプリズン」の主旋律で締めるのがすばらしいだけに、もったいないな~。
まあ、ここは好みです。
#5『The Best of Times』13:07
この曲はかなり人気高いんじゃないですかね?
ドリームシアターファンって「ディス・ダイイング・ソウル」に代表される超ヘヴィ&ダークが好きな人もいれば、そういうのは苦手で、『イノセンスフェイデッド』に代表される超明るくポップなものが好きな人もいます。
私はどちらかと言えば後者かな?
この曲は後者のファンがよだれを垂らしそうなナンバーです。
序盤がしんみりしてて「ルパン三世の銭形警部が落ち込んで、屋台で一杯引っ掛けてる時」みたいな始まり方します。
「ルパーン…お前がいなくなったらこれから俺は何を生きがいにしていかなきゃなんないんだよ~…」
っていう状態です。
なんですが、いきなりアニメソングもぶっとぶ突き抜けた明るさとポップさに!
ドラゴンボールやワンピースの主題歌か何かが始まったのかと錯覚します(笑)。
「俺は死んでねぇよ!とっつぁ~ん♪」
っていう状態です。
このギャップが凄い。
後半は大きな流れでのバラードになりますが、なんといってもラストのギターソロは泣かせます。
ペトルーシはどれだけテクニックがあってもそれに頼らず、ランディ・ローズのように『心で弾く』ソロを生み出せることがすばらしい。
この人が類稀なるメロディメーカーだということを証明するナンバーです。
#6『The Count of Tuscany』19:16
この曲は好きですね~。
ラスト曲としては前前作『オクタヴァリウム』24分、前作『イン・ザ・プレゼンス・オブ・エネミー』19分と、超長尺が定番になってきました。
今回は「オクタヴァリウム」に近い作風で、癒やしや明るさがメインです。
序盤のアルペジオは嵐の去った後の静けさというか、穏やかさというか。
そこからのギターソロも美しいのですが、その後のアルペジオには今度はハーモニクスを入れてきます。
これがまるで雨上がりに木の葉から水滴が滴り落ちて、水たまりの水面をピシャーンと叩いているているかのような情景をイメージさせる非常に秀逸なフレーズ。
2:20過ぎあたりからザッパみたいなギターソロ、そして次のルーデスのソロも好きです。
さらにそこからファミコンのシューティングゲームみたいなワクワクするメロディ。
このあたりの流れは完璧すぎてやばいです。
その後も目まぐるしく展開しますが、すごいのはメロディがどれも素晴らしく、緊張感が途切れないことですね。
11:00すぎからは3分間ほどのまるでブライアン・イーノのようなアンビエント(環境)音楽が入ります。
癒やしだ…なんて透明感。
暗雲が去ったことを表現しているのかな?
このあたりの『急がず丁寧に雄大な世界観を描き出す』ところが『オクタヴァリウム』を思い出させるんですよね。
14:20からはアコースティックになりちょっとほっとします(笑)。
ラストのクライマックスは泣かせますよ。
ライブでの大合唱(オーオー)が目に浮かびます。
約20分が全然だれない。
派手さはないですが、聴けば聴くほど味のわかる名曲ですよ。
はい、本日は『ブラック・クラウズ・アンド・シルヴァー・ライニングズ』を語ってまいりました。
ちょっと尻込みしそうな各曲のタイム感なので怖いでしょうけど、かなり聴きやすいアルバムですよ。
特にラスト2曲は是非とも聴いていただきたいですね。