『ブラック・レイン』(オジー・オズボーン)ヘヴィネスの海に溺れやがれ!
本日はオジー・オズボーンの2007年リリース9thアルバム『ブラック・レイン(BLACK RAIN)』を解説します。
前作から6年を空けてリリースされた作品は、元祖ヘヴィロックの面目躍如となる超弩級のヘヴィナンバーもありますよ!
2001年リリース前作『ダウン・トゥ・アース』の後の2002年から3年間はテレビ番組『オズボーンズ』でアメリカのお茶の間の人気者になったオジー。
その影響もあってか、チャートアクションは過去最高記録である全米3位!
のってますね~。
渋くてメッセージ性の高いジャケットからは
「俺はどもってるだけのイカレ親父じゃねぇぞ!」
と言っているようにも見えます(笑)。
さぁ、とくと語っていきますよ~!
ザックが作曲から復帰!その出来ばえやいかに…
前作『ダウン・トゥ・アース』では、いきなりレコーディングに呼ばれ、アレンジ案を色々出すも、プロデューサーに却下されまくって、そのアイデアをブラック・レーベル・ソサイアティへ持ち帰った可愛そうなザック・ワイルドさん。
今回は作曲の段階から参加しているという前評判で、ファンの方たちも期待が膨らんでいたのではないでしょうか?
作曲はオジー、ザック、プロデューサーのケヴィン・チャーコの3人で殆どの曲を作っています。
7th『オズモシス』8th『ダウン・トゥ・アース』と2作続いた、多くの外部ソングライターとの共作は今回からはナシです。
本作以降、10th『スクリーム』11th『オーディナリーマン』12th『ペイシェントNo.9』と続くアルバムの制作は、
オジーとプロデューサーが共同で作曲する形式
を取ります。
実はこのことがオジーの作曲者としての視点を、よりプロデューサー的なものに変えているようです。
その話は後でします。
本作のレビューを見渡してみると、
「やっぱりザックが作ると文句なし!」
「近年にない傑作!」
と肯定的なものから
「いくらなんでもこれはやり過ぎでは?ブラック・レーベル・ソサイアティのアルバムでオジーが歌ってるみたいじゃないか!」
「ザックが復帰してもこれか…もうかつての傑作は作れないのかな?前作同様、無難な作品」
という否定的なものまで様々です。
皆さん全く違う感想を持たれるので、レビューを読むのは非常に楽しいです(笑)。
前作『ダウン・トゥ・アース』は、ヘヴィメタルの体裁(ていさい)をかろうじて取ってはいるものの、聴き込むと意外にもソフトな音像であることが分かりました。
ザックの個性がかなり抑えられており、オジーのボーカルにフォーカスし始めた印象がありましたね。
それでは今作ではどうなのか?
ずばり!
基本的な方向性は前作と同じです。
前作のレビューでも書きましたが、「オジーの個性VSギタリストの個性」という聴かせ方ではなく、「オジーの歌を前面に押し出す」という聴かせ方を狙っていると思われます。
そしてそれはこのあと2作でも継続です。
インストゥルメンタル部分が短く、曲がタイト。
例えば名曲「ノー・モア・ティアーズ」で聴かれるような、演奏が前面に出てきて曲が大きく展開していく、といったかつての作風の面影はほとんどありません。
『オズモシス』の頃は6分を超える曲が4曲もあったのですが、前作『ダウン・トゥ・アース』では0曲、本作でも1曲。
ほぼ4分台の曲が並びます。
長くてダレるような曲がなく、アルバム全体としてすっきりと聴けるものになっているんですよ。
このあたりがオジーがプロデューサー的になったと感じた部分です。
アルバム出すごとに曲の長さがどんどん長くなるメタ●カさんに見習ってもらいたいものです(笑)。
ザックらしさは味わえるのか?~まるでBLS!?超低音リフもあるけど…~
ただし、前作『ダウン・トゥ・アース』に比べると、ザックのヘヴィな轟音リフが鳴り響くナンバーが数曲だけ存在感を放っています。
それがまるでBLSみたいと感じられた要因でしょう。
冒頭の#1~2、そしてラストの#9~10というように超弩級のヘヴィナンバーでサンドイッチにしているため、アルバム全体がヘヴィ一辺倒のような印象を最初は受けますが、実は#3~8の中盤はわりとおとなし目の作風になっています。
そして冒頭2曲の出来は秀逸で、この2曲だけでも
「これこれ!やっぱザックが入ったらこうでなきゃ!」
とザックファンの方は溜飲(りゅういん)が下がる思いだったことでしょう。
前作では「キラーチューンがない」といった声が多かったですが、このアルバムでは#2『アイ・ドント・ワナー・ストップ』をそう呼んでも良いのではないでしょうか?
ボーナストラックにはこの曲のライブ盤が収録されているのですが、私は毎回ここで鳥肌がゾワゾワ立つんですが。
車の中で大声で歌ってしまう曲はこの曲だけです私は。
ザックも思いっきりヘヴィなナンバーをさせてもらって満足してくれたかな?
…それが多分そうじゃないでしょうね。
ギターソロがほとんどない。
あるのはあるけど、すごく短い。
歴代の作品を聴いてきたオジーファンからすると
「あれ?もう終わり?今から盛り上がるところじゃないの?」
って感じるくらいです。
こういうところからも、リスナーの集中を『歌』以外のものに散らしたくない、という制作方針が見え隠れするんですよね。
特にバラードはかなり短い。
2曲ともにあいかわらずの完成度なので文句は一切ありませんが。
しかし、まるでプロモーションビデオ用に、ギターソロが短縮されているバージョンかと勘違いしてしまうくらいの短さです(笑)。
参考までに、前作からのシングルカット『シー・ユー・オン・ジ・アザー・サイド』は、PVでこれぐらい短縮されてました。
分かりました?
曲自体は6:00→3:58へ約2分も短縮、ギターソロは31秒→20秒へ11秒の短縮です。
PVってしれっとこんなことやってるんですよ(笑)。
そして本作の代表バラード2曲はどうなっているかというと…
#4『レイ・ユア・ワールド・オン・ミー』、#8『ヒア・フォー・ユー 』ともに
ギターソロは16秒!
短縮された『シー・ユー~』でも20秒はあったのにですよ!?
こうして実際のタイムを見ても、ザックを呼び戻したからといって彼にフォーカスしているわけではないことが伝わるかと思います。
それにしても『歌』にフォーカスするためとはいえ、いくらなんでもこれは極端に感じます。
やりすぎると「ヘヴィメタル」ではなくなるし、自分の支持基盤を失うことになる。
そこで頭をよぎったのが2002年からのテレビ番組『オズボーンズ』。
撮影期間の3年間は、24時間カメラマンが家の中にいて、オジーのプライベートは丸裸になります。
この番組を受けるということは、自分のロックスターとしてのヒーロー像が跡形もなく崩れ去るリスクがあると思うんですよね。
すでにお金持ちのオジーがお金のために受けたとも思えません。
そこで私は考えました。
もしかしてオジーは『脱メタルの帝王』を考えていたのではないか?
そこまではないにしても、もともとビートルズが大好きなオジーは、メタル界隈だけでなく、一般の層にまで認知されるビートルズのような存在になりたかったのではないでしょうか?
そう考えると『オズボーンズ』への出演も、前作『ダウン・トゥ・アース』からの歌モノへの方針転換も辻褄が合うんですよね。
皆さんはどう思いますか?
恐るべきリズム隊
1995年の『オズモシス』リリース直後からオジーバンドに加入したベースのロバート・トゥルージロとドラムのマイク・ボーディンのリズム隊は、2003年にロバートがメタリカに移籍するまで続くコンビです。
オジーバンドで足掛け8年間もリズム隊が固定されたのは後にも先にもこの時だけで、かなり仕上がっていたと思うんですよね。
というより、あの飽きっぽいオジーにこれだけ引き止められるというのは、二人共すごい力量の持ち主なんだと思います!(というより性格がいいのか?)
オジーもロバートを引き抜いたメタリカに心中穏やかならざるものを感じていたのでは?(笑)
そしてマイク・ボーディンは2007年の本作まで12年間くらい在籍するんですから、在籍期間は過去ドラマーのなかで最長ですね。
この二人はかなり引き締まったリズム隊で、この二人にザックが加わった編成での武道館ライブはめちゃくちゃかっこいいです。
絵になるな~。
ロバートの移籍は非常に残念だったのですが、この時、ロバートとまるでトレードをするかのように加入したメタリカのジェイソン・ニューステッドには驚きましたね~。
「こんなことしてたらオジーとメタリカで喧嘩になるのでは?」
とヒヤヒヤしましたよ(笑)。
ワクワク感はハンパなかったのですが、ジェイソンは1ツアー程度であっさり抜けて、ロブ・ゾンビバンドからロブ・ニコルソン(ブラスコ)が加入します。
このブラスコのベースがやばい。
ロバートはすごく控えめな性格らしく、前作でも印象的なフレーズはほとんど見られなかったのですが(メタリカ加入後もそうだけど)、このブラスコは存在感すごいですよ。
ザックのリフを食うぐらいの勢いでゴイゴイ来ます。
特に#1『ノット・ゴーイング・アウェイ』で聴かせるスライドプレイは、曲全体に大きなうねりを生んでおり、のっけから只者じゃないベーシストであることがビンビン伝わってきます。
まあ、別に特段難しいプレイではないと思うのですが(笑)。
ロバートであれば同じプレイをしていてもボリュームを遠慮して上げないから、やってるのが分からないんじゃないかな?
ヘヴィメタルのベーシストって”発言権”とか”自己アピール”が非常に大事だと思うんですよね。
聞こえないことには個性もへったくれもないから。
このブラスコのブヨンブヨンしたベースの音がアルバム全体を通して気持ちいいったらもう。
次作では元ロブ・ゾンビで同僚だったトミー・クルフェトス(ドラマー)とのタッグでさらにアグレッシブに攻め立ててくれますかなね。
要チェックです。
はい、というわけで今回は『ブラックレイン』の解説でした。