『After the Apples』吉井和哉 ミニアルバムで聞ける“テクノロビン”
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
本日は吉井和哉が2011年にリリースした初のミニアルバム
『After the Apples』
(アフター・ジ・アップルズ)
をご紹介します。
ロビン初のミニアルバム
さて、今回は初のミニアルバムとなりますよ。
トータル6曲で25分、なんの変則もない、まごうことなきミニアルバムの体裁をとっております。
まあ、最近はシングルでも気前よく5,6曲入っていることはままありますが(笑)。
本作は名盤『ジ・アップルズ』の続編・番外編的な作品として計画されてました。
ようは『アップルズ』に収録されなかった楽曲だけど、なかなかにいい出来だから「未収録音源集」として出そう、ということです。
しかし、東日本震災が起きてロビンの心境も変わり
「いや、やっぱり新曲やりたいね」
となったため、結局「アップルズ」の未収録音源はラストの「Born」のみ。
つまり6曲中5曲は本作のために新たに作った曲になってしまいました。
の割にはリリース時期が「アップルズ」から7ヶ月しか経っていない(笑)。
どうやらロビンにはこの時期、『創作のエクスタシー』の4回目が来ていたようですね。
被災地の方々に「フラワー」が思わぬ反響を呼んだので、「もっともっと音楽を届けて元気づけたい!」っていう気持ちになったのかもしれません。
ただ、本作は別にそういう復興支援的な名目で作られたわけでもなければ、そういう作風になっているわけでもありませんよ。
というより、「アップルズ」と真反対の性質の作風なので、別にタイトルを「アップルズ」と関連付ける必要性がなかったのでは?
『After the Apples』の作風
前作「アップルズ」はロビンが楽器全パートを自ら演奏するっていう画期的な作品でした。
その意味では1作目「ブラックホール」と近いのですが(1作目はドラム以外ほぼ全て自分)、1作目がデジタルサウンドを多用していたのに対し、前作は非常にフィジカルなイメージを残した作品でしたね。
演奏技術が卓越していないからこそ、より人間味を感じるプレイでした(笑)。
思いっきり「アナログ」って感じで、だからこそ、そのギャップで本作は思いっきりデジタル加工されているようにも感じるのかもしれません。
「アップルズ」が1作目からの演奏技術の向上を証明したのだとすれば、本作は1作目からのデジタルエンジニアリングの向上を証明したと言えます(とはいえ本作も全パートロビンが演ってますが)。
バックサウンドが前作と全然違います。
音の洗練されかたが、なんかもう研ぎ澄まされているというか。
一音一音が美しく聞き惚れてしまいます。
「楽器だけじゃなく、こんなことまで出来るようになってたのか。もはや無敵ロビンだな…」
と凄みを感じたのは私だけでしょうか?
アルバム全体としてのカラーは、前作がクラッシクなロックに回帰したのに対し、本作は1990年代のオルタナティブロックに接近してます。
その意味で実はまたしても『ブラックホール』に近いんですよ(笑)。
ただ、『ブラックホール』と聴き比べた時に、その音質のあまりの違いに驚くと思いますが。
レビューでも
「ナイン・インチ・ネイルズやR.E.M.っぽい曲がある」
といった声は挙がっているのですが、まさしくそうですね。
ただ、全曲がそうではなく、6曲全てがバラッバラで、吉井和哉というお人の音楽的な引き出しの多さには、ミュージシャンとしての貫禄を感じてしまいます。
『After the Apples』楽曲紹介
それでは楽曲紹介行ってみましょう。
ミニアルバムだから忘れ去られがちな作品ですけど、これは必聴盤というか。
このアルバムでしか聴けないロビンの魅力があります。
しかもどの曲も完成度はAクラスです。
何も期待しないで聴いた人はびっくりすると思うんですけどね。
#1「無音dB」
「むおんでしべる」と読みます。
いきなり新境地のナンバー。
この曲でのシャウトなんかナイン・インチ・ネイルズみたいな声の出し方ですよね、
まだ知らない人のために、これがナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーの声です⇩
いや、ロビンもこの時45才くらいのはずですけど、これまでのキャリアでここまでシャウトしているのは初めてですよ。
素直にかっこいい。
またまた惚れ直してしまいました。
#2「Next Innovation」
アップテンポの曲の割には、ボーカルは大きなメロディで伸びやかな美声をきかせます。
次作「スターライト」に収録されている「トーキョー・ノース・サイド」に繋がっていくボーカルスタイルですね。
ロビンの声をあらためて
「美しいなこりゃ!」
って感じられますよ。
ベースもそうで、曲はアップテンポなんだけど細かく刻まず4ビートで、大きなグルーブを生み出しているのがポイント。
これはサザンの『勝手にシンドバッド』のプレイによく似ています。
この曲はベースに注目ですね。
とくに3:00過ぎのところのベースソロがかっこいい。
ベースにディストーションかけて、まるでモータヘッドのレミーのようです⇩
#3「母いすゞ」
この曲は本作でもっともインパクトが強かったですね。
「かれこれ十何年と音沙汰がない 父ジャンとは」
っていうフレーズが出てきた時、「母いすゞ」はロビンのお母さんのことなのかと思ったのですが(自伝読むと分かります)。
色んなエピソードがやたら具体的すぎませんか?(笑)。
まあ、ロビンは確か一人っ子で兄弟いないはずだから
「長男の部屋は物置に 次女とは会話がない」
って歌詞に出てくる時点で、お母さんその人を直接歌っているわけではないんでしょうが。
しかしこの独特の音世界は何でしょう?
『おっかさん』のことを歌っていると、まるで美輪明宏「ヨイトマケの唄」とか思い出しました。
改めて聞くと共通点がほぼ見つからないんだけど(笑)。
これは純粋にロビンオリジナルの音世界を生み出してますね。
民謡っぽい雰囲気も放っているのに、そこにドゥーワップが入ってくるから妙にダンサブルにも感じます。
本来温かみを放つアコギが、スタイリッシュでオシャレに感じるんですよね~。
すごいセンスだぜまったく!
#4「ダビデ」
物悲しいバラードです。
この曲はレコーディングはしていませんでしたが、「アップルズ」の時点で曲は出来てたそうです。
同じく「アップルズ」収録の隠れ名曲「おじぎ草」とは雰囲気・歌詞が近いので、「アップルズ」への収録が見送られたのかもしれません。
しかしどうしてどうして、これはこれで素晴らしいですよ。
#5「バスツアー」
これまた新境地です。
ベックみたいですね。
バスツアーっていうより大空を飛んでいるイメージなのですが(笑)。
本作一のデジタルサウンドなのですが、実はちゃっかり生ドラムも叩いているんですよね。
限りなく無機質に機械的なリズムパターンを繰り返しているからそうは感じませんが。
これね、ドライブしていると延々と聴きたくなりますよ。
#6「Born」
ラストナンバーは「アップルズ」の唯一のアウトテイクとなったこの曲です。
ギターの弾き語りですね。
R.E.M.やベックなんかを想起させますが、これまた新境地で『ポエトリー・リーディング』が入ってきます。
「歌わない」で「朗読する」みたいな歌い方がそれで、イエモンから通してこのスタイルはやってなかったですよね。
こういうのが好きな人のために紹介しておくと、ポエトリー・リーディングと言えばやっぱりルー・リードでしょうか?⇩
どんどん吸収して、どんどん新しいことして、どんどん引き出しを増やしていくな~、ロビン。
バラードみたく感じるのですが、歌詞はわりと生々しい歌詞が入っててドキッとします(笑)。
はい、というわけで本日は『アフター・ジ・アップルズ』を語ってきました。
6曲しかないミニアルバムっていいよな~。
クオリティの高い曲に絞ってあるから、集中力が続くんですよね。
グッと引き込まれます。
もうCDで聴かせる時代じゃないんだし、現代はこれくらいのアルバムボリュームの方が時代に合っているのでは?
少なくとも私にとってはちょうどいいですし、本作は『VOLT』『アップルズ』『スターライト』という黄金ラインナップの中にあっても、まったく見劣りしない作品だと感じています。
ぜひ聴いてみてください。
それではまた!
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