『10(テン)ナンバーズからっと』サザンがアイデア枯渇からひねり出した力作

本記事はプロモーションを含みます。

どうもSimackyです。

最近まるでグルメサイトのようにラーメン記事ばかり書いてきました(笑)。

いかんいかん、私のライフワークは

サブスク時代に失われたライナーノーツの復活

なのですから。

と、いうわけで本日は久々に音楽ブログ行きますよ~!

今回からはサザンのアルバムをまだ書いてなかったものから書いていきますからね。

今日のお題目は

『10ナンバーズからっと』

サザンの1979年リリース、オリジナルアルバム2作目になります。

このあたりの作品になるとあまりにも古いので、後追いサザンファンの方からするとちょっと敬遠されがちですよね。

だって44年前(2023年現時点から)の作品ですからね。

私も気持ちは分かります。

このアルバムが出た時、私0歳なんですから(笑)。

私なんかは1992年11作目『世に万葉の花が咲くなり』あたりからがリアルタイムなので、過去サザンの敷居は高い高い(笑)。

そんな私がサブスクに目覚め、サザン一気聴きで全アルバムを1日24時間2ヶ月間聴きまくったのが、はや3年前。

実は2年前に全アルバム解説を一度書いたのですが、

「この程度の聞き込みで解説とか書いてたら往年のサザンファンに失礼だ!」

という判断で消しました。

25000字の大作だったのですがね(笑)。

その名残が現在アップされている5作品のレビュー記事というわけです。

そこから2年経って、そろそろ機も熟したかな、ということで今回から残り10作品のアルバム解説をどどーっとやっていきます。

前に書いていた5記事もリライトする予定です。

さあ、気合い入れていきますよぉ!

「横アリはま~な~~!!!!WHIIIIIIIIIIEEEEEE!!!!」

全てを出し切った1STアルバムからの2作目

サザンは1978年に『熱い胸さわぎ』でデビューしました。

あの伝説の名曲『勝手にシンドバッド』を擁する完璧な1作目ですね。

1作目というのはバンドによって色々なパターンがあるみたいで、

「メジャー(プロ)の制作環境に馴染めなくて、全然思った通りの力を発揮できなかった」

っていうバンドもあれば、

「これまでの人生で吸収してきたエッセンスを全て出し切った」

というバンドもあります。

サザンの場合は後者だったみたいで、桑田さんはその後のインタビューで何かにつけデビューアルバムのことを引き合いに出し、

「あの人力と若さを総動員させた勢いは二度と再現できない奇跡のようなものです」

「最近になって、あのデビューアルバムにこそ、きっと多くの人が大好きだと言ってくれるサザンが集約されているんじゃないかと思えてきました」(ウィキペディア参照)

みたいなことをちょいちょい語ってますので、ここで『絞り出しきった』、あるいは『燃え尽きた』という感じだったのかもしれません。

それくらい各楽曲の質の高い名盤だったと思うんですよね、私も。

聞く前なんて、はっきり言って

「初期サザンなんてまだまだ売れてなくて、アマチュアに毛が生えたみたいで音楽性も固まってないんだろ?音も悪そうだし」

と舐めきっていた私にとっては衝撃的だったです(笑)。

ごめんなさい。

そして御存知の通り『勝手にシンドバッド』で大ブレイクを果たしたサザンは一躍人気者となり、テレビに引っ張りだこ。

本来プロのミュージシャンってデビュー作で出し尽くしてから、そこからメジャーという環境でどのように新しい音楽を吸収し、引き出しを増やしていくかが正念場となるのですが、ブレイクしたバンドであればかなり辛いでしょう。

ツアーはやんなきゃいけないわ、テレビやラジオには出なきゃなんないわ。

家でゆっくり音楽なんて聞いてる時間はないと思うんですよね。

そんな状況ですぐさま2作目である本作の制作に着手しなくちゃならない。

デビューアルバムから本作が出るまでの期間って

たったの8ヶ月ですよ?

制作期間は

たったの2ヶ月。

う~ん、こりゃかなりきついでしょう。

制作もスケジュールに全然間に合わなかったらしく、本作中の3曲で歌詞が表記されていないくらいですから(ちなみに朗報ですが、私が今使っているストリーミングサービスの『Spotify』では全曲ちゃんと歌詞が表記されてました→Spotifyはこちらから」)

彼らの後のインタビューから、おそらく本人たちにとっても2度と思い出したくもない苦しい期間だったことが推察されます。

雑巾を目一杯しぼりきったところから、

「もっともっと一滴も出なくなるまで絞り出せ!」

って言われて、手がプルップル震えるくらい絞ってるようなイメージ(例えが雑巾って:笑)。

そういう煮詰まった制作背景を知ってから聴いたという先入観もあり、また前作があまりにも素晴らしかったということもあり、私は本作を聴いた当初はあんまり好きになれなかったんですよね。

おまけに桑田さん本人も本作を『駄作』扱いしている節がありますし。

以前書いたけど消した全アルバム解説でも

「前作ですべてを出し尽くしたのかアイデアが枯渇してる感じがすごいする」

みたいなことを書いてました。

「えぇ?嘘だろ?」

ってくらい、全然このアルバムの魅力が伝わってこなかったんですよ。

で、あれから2年が経ち、その間も聴いてきたんですけど、聞き慣れてくると妙に味がある作品だということが分かってきたんですよね。

当時としてはとんでもないセールス

ちなみに、当時は『本作でボロが出た』とか、『期待に対しての肩透かし』という印象で世間に受け止められたわけでは全然ありません。

それどころか本作は1979年のレコード大賞最優秀賞を受賞してるんですよ?

そしてその勢いで紅白出場も決めちゃってます。

作った本人がなんと言おうが受け取る側には関係ないということですね(笑)。

アルバムセールス枚数は前作『熱い胸さわぎ』の10万枚から大幅に伸ばしてなんと

68万枚!

これってピンとこないと思うので、この時のサザンのブレイクの規模を私の世代で例えますね。

まあ、ピンとこない世代の人にはすみませんが、私の世代であればLUNASEAが近いのかな?

LUNASEAが『マザー』で大ブレイクして、一気にヴィジュアル系ブームに火が付いた時。

『MOTHER』

あの時が70万枚セールスで、『音楽番組つければだいたいLUNASEAが出てる』『音楽雑誌の表紙はどれもこれもLUNASEA』みたいな状況だったので、68万枚っていうのはそういう状況になるんだろうな、ということはイメージできます。

しかし、単純比較はいけません。

LUNASEAは1990年代のお話。

100万枚売れるのが特に珍しくもなくなるCDバブル期の話ですよ。

本作はそのはるか以前の1979年、つまり15年も前のことですよ?

音楽の市場規模がぜんぜん違います。

その時代で、しかもロックバンドでこのセールス枚数ということは、とんでもないことなのかもしれません。

ここでサザンの認知度は一気に上がったどころか、『音楽業界の大物』としての扱いになっていったんじゃないかな?

実際このアルバムで(というより『いとしのエリー』で)、それまでコミックバンド扱いされていたサザンが、『本格派・実力派』とか言われるようになって戸惑ったとかいう話があります。

なるほど、『日本ロックの第一人者』とサザンが評されるのも納得出来る気がします。

そして当時をリアルタイムで過ごしたファンの方の、このアルバムに対する評価が異常に高いのも納得ですね。

1990年代以降のサウンドに慣れた後追いファンにはぱっと好きになるのが難しい初期作品ですが、往年のファンにとっては

「この時代こそ桑田佳祐の才能が爆発していた」

とかレビューで書いてあるのをよく見かけるのは、こうした時代背景があればこそなんですね。

『10ナンバーズ・からっと』楽曲解説

それでは楽曲を解説していきましょう。

#1『お願いDJ』はいかにも日本歌謡風なんですが、ギャグをぶち込んできます。

なんか誰だったかのモノマネをしているんですが、せっかく大森さんのギターソロの一番の見せ場にぶち込んでくるところがミソ(笑)。

これケンカになるやつじゃないの?

#2『奥歯を食いしばれ』は渋いけど、「このアルバムではこれ!」っていうほど隠れたファンがいる曲です。

ピアノが引っ張りますね~。

この頃の原さんはめっちゃ実力派なピアノを聴かせてるんですよね。

サビの部分での大森さんの泣きのギターもいい味出してます。

っていうか、ここまでギターソロの尺が長い曲って実はサザンには滅多とないんですよね。

いつも途中でピアノとかホーンに持ってかれることが多いのに(笑)、ここでは最後まで弾きっているというか。

#4『ラチエン通りのシスター』はハーモニカがほんわかした雰囲気を出すバラード。

私などのように90年代のサザンからの後追い者にとっては『素敵なバーディ』を思い出すナンバーですね。

この頃のサザンはスリリングなバンドサウンドで90年代辺りからのサザンとは別物ですね。

疑いようもなくロックバンドです。

思い過ごしも恋のうち』は幼稚園の運動会で流すと妙にハマりそうなナンバー。

松田さんの細かいハイハットプレイと関口さんのベースが4ビートでグイグイ引っ張ていく『勝手にシンドバッド』のようなスピード感を持ったナンバーです。

『勝手にシンドバッド』風という意味では、セカンドシングルとしてカットされた#6『気分しだいで責めないで』も上記2曲とまるで3部作といってもいいスピードナンバー。

この曲ってどうもプロレスを感じさせるとずっと思ってたら、アントニオ猪木の入場曲「猪木ボンバイエ」のノリと雰囲気にそっくりだということに今さら気が付きました(笑)。

そういえば桑田さんの「ウィ~!!!!」もプロレスからきているからやっぱそうなんだろうな。

野沢さんのパーカッションもこの頃は存在感があって、今ではほとんど聴けないサザンのラテン系のノリが私たちの世代にはひどく新鮮(笑)。

バンドを構成するギター、ベース、キーボード、ドラム&パーカッションのそれぞれの楽器の個性で音楽が出来上がってます。

私がサザンで一番好きな『世に万葉の花が咲くなり』とかになると、シンセベースを使ったり、コンピューター処理した音だったり、上記楽器以外のホーンセクションなんかが大大的に導入されていて、

「バンドサウンドをかき鳴らしてる」

っていう印象はあんまり感じられないのですが、この頃はスタジオで一発録りしているような雰囲気と言いますか(実際はそんなことはないのですが)。

サウンドに有機的なグルーブが感じられるんですよね。

で、それでいて進化してきたことを感じさせるのが、このアルバムから大幅に導入されたホーンセクションですね。

桑田さんってバラエティ番組の音楽とかからも貪欲に吸収しているというか。

それが一番感じられるのが#4・5に別れた『アブダ・カ・ダブラ』。

我々日本人にとってはテレビつけてりゃなんか耳にしたことがあるような『お茶の間で耳にするサウンド』なんですけど、駆け出しのロックバンドが取り入れる要素としてはありえないというか。

喜劇音楽の様な感じなので、目をつむると映像が浮かんでくるというか。

こういうことを20代の前半でやってのける桑田さんはやっぱり才気走ってますよ。

それから原さんって歌に注目されがちだけど、本作はキーボーディストとしてもすごいと感じたアルバムですね。

それが垣間見えるのが、あんまり注目されてる記事を見たことがない#8『レット・イット・ブギー』。

これ好きだな~。

この曲で聴けるピアノもそうですが、ミュージシャンとしての引き出しが多い。

なんか一番ロックを感じる。

ジェリー・リー・ルイスとかのピアノで引っ張る1950年代のロックンロールですね。

#9『ブルースへようこそ』は歌詞が掲載されていなかった曲の1つです。

掘って掘られてのゲイの曲ですね。

まあ、「こんなもんは掲載する価値もねぇぜ」ってくらいのひっでぇ歌詞です。

「み~そが~つく~」を女性の原さんにコーラスさせるのって、これ『演奏という名のセクハラ』ですからね(笑)。

そもそも言うほどブルースか?これ?

で、最後は名曲中の名曲『いとしのエリー』。

この曲に関しては今さら私がとやかく解説することなんてないほどの皆が知ってる代表曲ですが、私の世代の受け取り方と当時リアルタイムの人たちの受け取り方はぜんぜん違うんですよね。

後追いの私たちの世代にとっては『サザンの数ある名バラードのうちの1曲』という印象だったんです。

すでに『メロディ』『真夏の果実』『涙のキッス』といった名だたる名バラードを先に聞いているわけですから。

けど、当時コミックバンドか何かと思われていたサザンがここまで正統派のバラードをシングル・カットしてくることに、世間はかなりびっくりしたみたいです。

のちにあのソウルミュージックの巨匠であるレイ・チャールズにカバーされることになります。

これって桑田さんにとってはヒットすることなんて比較にならないほどの喜びだったことでしょう。

とは言っても別にレイ・チャールズがことさら日本の音楽にまでアンテナを張っていたとかいうことではなく、サントリーがウイスキーのCM曲をレイ・チャールズにオーダーして、その際「日本の曲をカバーして欲しい」という候補曲の中から本人が気に入ったものを選んでもらったとのこと。

サントリーさん、グッジョブ!


はい、というわけで本日は『10ナンバーズ・からっと』を語ってきました。

今となってはあまり注目されないアルバムかも知れませんが、このアルバムをフェイバリットに推す声はあまりにも多くてびっくりしました。

聴き込んで見る価値は大いにありますよ。

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