『サーティーン』メガデス:究極の歌モノなのか!?究極のグルーブなのか?
本記事はプロモーションを含みます。
どうもSimackyです。
本日はメガデスが2011年にリリースした13作目のオリジナルアルバム『サーティーン 』を語っていきたいと思います。
さて、今回はなかなかに評価の難しい作品のご紹介です。
2009年にリリースした前作『エンドゲーム』は、とっくに離れてしまっていた旧来のファンからも
「お!?なんかメガデスが昔みたいにかっこよくなってるぞ!知らんかった!」
と驚かれる作品となりました。
かつてはあれだけ『歌モノ』に走ったメガデスが、ここまで初期のスラッシュメタルを再現してくることを誰も想像していなかった。
期待はしていても本当にできるなんて…ぶっちゃけ私を含め誰も思ってなかったんじゃないかな(笑)。
ついには
「全盛期さえも超えた最高傑作だ!!!!」
というレビューさえちらほら見られるほど、ファンも大満足の一枚だったと言えるでしょう。
しかし今回の『サーティーン』は思いっきり方向性を変えてきました。
前回『エンドゲーム』の解説では
「ここから4作はメガデス3回目の黄金期です!」
とか書きましたけど、作風が同じ路線だとは誰も言ってませんよ?(笑)。
『エンドゲーム』路線で行って欲しいファンの中には不満な人もいるでしょうね。
サウンドは結構ギンギンなのでそう思わなかった人も多いかもしれませんが、これは立派に『歌モノ』と言える作品になってます。
というより、制作段階での方法論がガラッと変わっているのではないでしょうか?
どうして私がそう感じたのか?
そのあたりをたっぷりと語っていきましょうかね。
前作と本作の大きな違い
すばり前作と本作の違いは『歌がメインになっている=歌モノの作風』です。
ここからは私なりの分析で説明していきますね。
マーティやニックら黄金メンバーが脱退し、2001年『ワールド・ニーズ・ア・ヒーロー』で焦点の定まらない作風が垣間見え、バンドが迷走し始めた予感もそのままに2002年やっぱり解散しちゃったメガデス。
民主的になり過ぎてしまったことによるメンバー間の意見の不一致を根本から建て直すために、一旦解散し、全部のメンバーを刷新した上、音楽制作の主導権をワンマンで大佐が握る初期の体制に戻しました。
そこからの3作『システム・ハズ・フェイルド』
『ユナイテッド・アボニネーションズ』
『エンドゲーム』
は、全くブレずに一つの方向性を目指しているように思えます。
それは初期のインテレクチュアルスラッシュメタルを完全復活させることです。
インテレクチュアルスラッシュメタルとは何なのか?
スリリングなスピード感、超絶技巧のギタープレイ、複雑な楽曲構成、大佐のくせのある吐き捨てるようなシャウトボーカルなどがそれにあたります。
中でも核となるのはギタープレイに他なりません。
つまりインテレクチュアルスラッシュメタルを復活させていくということは、ギタープレイを中心にして制作を推し進めていくことだし、そうして制作したのがこの3作だったと思うんですよ。
私もかつてバンドマンで作詞・作曲をやっていた時期もあるので、その時の経験に照らしてお話すると、ギターリフから先に組み立てる制作の場合、曲が歌モノになりにくい。
リフの勢いに乗っかったようなシャウト系のボーカルになりがちというか。
いかにもロックな感じにはなりますが。
逆に頭に浮かんだ鼻歌なんかから作曲が始まって、出来上がった歌メロに対しバックの演奏を当てていくやり方の場合は歌モノになっていきがち。
私みたいなロック大好き人間でも意外に歌謡曲みたいな歌メロが出来上がっていくのでなかなか笑えます(笑)。
「俺ってやっぱ日本人だな、おい」みたいな。
あくまでそういう傾向があるというだけでいつもそうだとは言いませんが。
オジー・オズボーンを例に挙げましょう。
オジーで言えば、サバス時代はトニーのリフがいつも先にできて、歌は後から。
ソロになってからはオジーの頭に浮かんだ鼻歌を聴きながらギタリスト(ザックやランディ)がリフを当てはめていくので、歌が先、リフが後、という感じになってることが多いです(これも全てがそうだとはいいませんよ?)。
なので特に初期のサバスは歌メロがリフに引っ張られがちというか、歌モノ感がほとんどありません。
けれども、ソロでのオジーの歌メロは非常に分かりやすく、まるでビートルズかというほどのキャッチーさを持っています。
メガデスの『エンドゲーム』と『サーティーン』の違いってこういうことなんじゃなかろうか?と思ったわけです。
何が言いたいかというと、前の3作は
「インテレクチュアルスラッシュメタルを復活させる→ギターリフ中心に組み立てる(リフ先)→歌モノにならなかった」
ということなんじゃないかな、と。
で、ここ3作でのインテレクチュアルスラッシュメタルの再現度に満足したので、次のステップとして本作では頭の中に浮かんだ鼻歌から曲を作っていく、という方法論を試してみた、とか。
発想の幅を広げるために。
ギターを弾きながら作曲することの『発想的な限界』を感じたのかもせれません。
前3作はギターを弾きながら良いフレーズが出てくるのを待つ、それをつなぎ合わせていく、みたいなイメージ。
今回の場合は『頭に流れる音楽や雰囲気を具現化していく』みたいなイメージ。
ギターという楽器に縛られず自由に発想していく、みたいな。
その意味では譜面で作曲するスタイルに近いのかもせれませんね。
これもね、私は一時期DTM(デスクトップミュージック)で作曲していた時期に感じたことなんですよ。
ドラムを叩きながらフレーズを考えると、手癖とかそれまでに体に染み付いたプレイの範囲の中からしかフレーズが出てこない限界を感じるんですよ。
けど、DTMでドラムのフレーズを打ち込んでいくと、
「こんなんどうやって叩くんだよ?っていうかお前ドラマーのくせにこんなDJみたいなフレーズ作んなよ。てかこれ作ったの誰だよ?」
みたいなのが出来上がって面白いんです。
今回の『サーティーン』からはそういう制作方法論を根本的に変えたような違いを感じたんですよね。
それほど今回の大佐の歌は明らかに前作と違います。
非常にキャッチーでメロディが素直で分かりやすく口ずさんでしまう。
私が『歌モノ4部作』と呼ぶ1990年代の作風に近い。
これは言い換えると『ギターが主役でなくなった』ということでもあります。
全てがバランスよく調和されている状態に感じたんですよ。
ギター聴かせるために曲がある、みたいなメタルにありがちな傾向が本作からはほとんど感じられませんね。
前作は「このインテレクチュアルなギターの数々を聴きやがれ!」みたいな作風でした(笑)。
まあ、全然それでも素晴らしかったんですけど。
本作では「楽器の全てがこの世界観を表現するために存在している」みたいな感じ。
その意味では『クリプティック・ライティングス』や『リスク』と驚くほど似ているんですよ。
あんなにポップじゃなくダークだし、今回はちゃんとメタルを感じさせる作風になっていますがね。
なので前作『エンドゲーム』を大絶賛した人ほど、本作は抵抗があると思うのですが、レビューを見てもあまりそういう声は多くないということが、本作の楽曲の質の高さを物語っているのはないでしょうか?
『サーティーン』楽曲レビュー
先程から『歌モノ』と連呼してますが、あくまでメガデスの他の作品の中での位置づけであって、本作はメタラーを十分に満足させうる攻撃性とスリルを持ち合わせていると思いますよ。
ただ、前作のような極端なギター中心主義やスピード主義を抑えただけで。
今回のメンバーはギターとドラムはは引き続きクリス・ブロデリック、ショーン・ドローヴァー。
正直、黄金期ラインナップ以外ではここまで好きになったプレイヤーたちはいませんね。
通算での参加回数もクリス3作、ショーン4作と黄金ラインナップ以外では最多の二人です。
クリスは歴代ギタリストとしてマーティに次ぐ人気を獲得してますし、ショーンは個人的にはニックに並ぶくらい好きです。
この頼もしいメンバーたちに加え、ここでようやっと相棒エレフソンが戻ってきます。
ここから数年後に『やらかす』まではとりあえず在籍します。
一応、グラミー賞を受賞するまではいますのでご安心ください(笑)。
本作の時点でクリスは2作目、ショーンは3作目の参加でメガデスにも慣れてきたし、相棒も戻ってきたしで、かなり万全の体制で望めたのではないでしょうか。
あ、それから、さんざん『歌モノ』言ってきたくせになんですが、本作の聴きどころは復帰したエレフソンとショーンの生み出すグルーブ感の気持ちよさに尽きます(笑)。
ついでみたいに言うとりますけど、大佐の歌の出来をリズム隊が上回ってきてますよ。
ショーンなんてスピードも落ちて手数(オカズ)も大幅に減っているにも関わらず存在感が増してますから。
本当に曲を活かす良いプレイってこういうのを言うんですよね。
故・ヴィニー・ポール(パンテラ)のプレイを思い出すな~。
とくと傾聴してください。
まるでメガデスならざるグルーブをあなたは感じ取ることができるか!?
それでは長くなるので一部のみ解説します。
#1『サドゥン・デス』
本作の全体の雰囲気を象徴するように、のっけからダークな雰囲気を放っています。
静と動にメリハリがあり、なかなかにスピード感と緊迫感もありますね。
それでいてサビは哀愁たっぷりというこれまでのメガデスに全く無かった作風で不思議な感じを受けます。
この曲がスルメすぎて本作の印象を地味に見せている部分はあるでしょうね(笑)。
#2『パブリック・エネミー・ナンバー・ワン 』
この曲がオープニングに来たほうが良かったんじゃないかな?
なんかイントロだけで「この曲はきっとキャッチーなのが来る」って分かるというか。
『掴み』としては完璧なんですが、大佐は「1曲目に一番自信のある曲を持ってくる」という話をインタビューで語っていたので、手応えとしては前曲に及ばなかったのかな?
とびきり級にキャッチーなんですが、本作全体がそうであるようにこの曲も明るくはないしポップではないと感じます。
#3『フーズ・ライフ(イズ・イット・エニウェイズ?) 』
がなり立てる大佐のシャウトがナイスですね。
ビートのタメが気持ちいいです。
今作でのショーンのドラミングはあんまり手数が多くなく、グルーヴで聴かせてきます。
#4『ウィ・ザ・ピープル』
前曲以上にグルーブが気持ちいいな~。
メガデスで味わったことのない快感がこの曲にはありますね。
タメてはねて、体を自然と縦にゆすりたくなります。
これはおそらくヒップホップ文化をロックが取り込んだ後の2000年代シーンに誰かいるんだよな、近い人が。
誰だっけかな?
この大佐のボーカルも誰かに猛烈に似ているのですが思い出せない(笑)。
誰か教えて!
#5『ガンズ・ドラッグズ・アンド・マネー』
もうこのあたりで完全にエレフソン&ショーンのリズム隊を大好きになりました。
エレフソンがすごいのか、プロデューサーがギターの音量を絞ったからなのか、バスドラの音をデカくしたからなのか?
とにかく気持ちいい。
メガデスって指の動き、手数の多さとしての技術の高さを語られることがほとんどで、こういうグルーブ感を出す巧さが語られることってなかったですよね。
というよりこの要素は殆ど無かったと言っていいでしょう。
ねちっこくて、白人音楽っぽくないというか。
どちらかというとヒップホップの影響を受けたニューメタル、もしくはオルタナですね。
なんかノリがレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンみたいなんですよね。
#6『ネヴァー・デッド 』
『ユナイテッド・アボニネーションズ』あたりから妙にマリリン・マンソンくさいボーカルが見え隠れし始めたと思ったら、こういうホラーチックな演出まで入れ始めましたね。
しかしそれが終わると本作で初めての爆走が始まります。
この曲とか聴くと、いかに本作でギターリフの音量が絞られているのかが分かります。
それから、今回はソロもかなり音量絞ってあったのか?
この曲のソロで初めてクリスの存在を思い出しました(笑)。
#7『ニュー・ワールド・オーダー』
なんだ、この曲。
うまくノレないぞ?
ん?変拍子?
ここまで大大的にリズムトリック使ってくるのって初めてじゃないかな?
ついにショーンにボンゾが乗り移ったか(笑)。
本作はとことんリズムで楽しませてくれるよね~。
めっちゃコピーしたくなる。
最後はどんどん盛り上がっていって、締めはメタリカの『ヒット・ザ・ライト』で突っ走ります(笑)。
#8『ファスト・レーン』
これこそまさに『頭の中で作ったものを再現しようとした』楽曲に感じました。
「ジャージャージャージャージャー」ってこんなシンプルなギターリフはまずギター握って作ってたらやらないと思うんですよね。
インダストリアルのサイバーな雰囲気が出ててかなりかっこいい。
潔いです。
これは「パラノイド」や「スモーク・オン・ザ・ウォーター」に並ぶ超絶シンプルな名リフですよ。
誰でも弾けるけど発想できるか?と言われると…。
このリフと大佐の「ファーストレィーーーン!」がやたら耳にこびりつきます。
中毒性高いです。
本作でもっとも好きかも。
#11『ミレニアム・オヴ・ザ・ブラインド』
うわちゃ~。
これはいよいよもってマンソン化してきたぞ(笑)。
ここまで遅いテンポはメガデス初じゃないかな?
デビリッシュな歌声の中にも哀愁が少し感じられて…やっぱマンソンだよね(笑)。
#13『サーティーン』
とびきり級に美しいギターアルペジオで始まりますが、やはりそのままバラードでは終わらないのがメガデス。
#11と同じく、まるでマンソンのような哀愁と狂気を持ったボーカルがいいですね。
単にボーカルがマンソンっぽいという浅い話ではなく、『メカニカル・アニマルズ』あたりを参考にしたようなサウンドプロダクションになっているようにも感じるんですよね。
やっぱりギターリフの角が取れて丸みを帯びているし、『印象的なギターリフ』ではなく『ボーカルに添えるバッキング』みたいな位置づけに感じます。
ギンギンしていない。
はい、本日は『サーティーン』を語ってきました。
これだけ歌モノでキャッチーにも関わらず、やや暗い雰囲気のため地味に受け取られがちな作品です。
個人的な評価としては前作『エンドゲーム』、次作『スーパーコライダー』が本作よりもかなり上に位置付けしてました。
突出してかっこいいギターリフとか、もの凄いスピード感とかはないので最初はインパクトがないのですが、本作はスルメ盤なんで、聴き込んでいくと
「あれ?いいかも」
という瞬間が何度となく訪れて、徐々にお気に入りになってきました。