メタリカ・ドラム:ラーズ・ウルリッヒのドラミングを語る
どうもSimackyです。
今回はメタリカのドラマーにして実質的にリーダーシップを発揮している
ラーズ・ウルリッヒ
を語っていきたいと思います。
ラーズはドラムが下手なのか?
リズムが”独特”
ラーズ・ウルリッヒはよく
ドラムが下手だ
と言われます。
ドラムが巧いか下手かなんてよく分かんない人からすると
「え?あの天下のメタリカのドラマーが下手でいいの?」
と思われるかもしれませんが、確かに上手くはないと私も思います。
どういう時にそれを感じるか?
それはリズムがブレる時ですね。
正確に言うと『リズムが走る』。
これはミスってそうなるのではなく、彼のリズム自体が狂っていると言うか(失礼!)。
手数が少ないとか、難しいフレーズがないとかいうことではないんですよ。
ライブの時なんて
「よくこれでメンバーは合わせられるな」
と強く感じます。
そして、メタリカにライブバンドとしての貫禄を強く感じるのが、そのズレまくったラーズのドラミングに苦もなく合わせているメンバーのプレイを感じたとき(笑)。
「どんだけ場数踏んでたらあのドラムに合わせられるの?」
っていう。
ドラマーっていうのはメトロノームに合わせて自分のリズムを矯正するトレーニングを行うものです。
バンドは基本的にドラマーに合わせるので、心臓であるドラマーがブレていてはガタガタになります。
しかしラーズの場合、
「オレがメトロノームだ!」
と言わんばかりに自分リズムで走って、メンバーがそのクセを熟知しているからそれにピタリと合わせ成立している。
メタリカってそういう稀有なバンドなんです。
それはライブだけでなくスタジオ・アルバムでさえ時々それを感じます。
特に初期。
しかし、そんなメタリカも『メタリカ』(ブラック・アルバム)を作るときは全然違いました。
なんとあのラーズがメトロノームを聴きながらレコーディングしたと言うではないですか!
それほど、ブラックアルバムの完成度にはこだわったということが伝わってくるエピソードですね。
フレージングの特徴
ラーズのドラミングは一発一発が大きく、スネアとクラッシュシンバルを同時に叩くアクセントが非常に多いです。
タメてタメてアクセント、という『タメの美学』を持っています。
タム回しはあまり使わず、スネアロールでのフレージングが多い。
これは特にブラック・アルバム以降に顕著になります。
スピードを落としてスロー&ヘヴィな作風になった時に目立つようになりました。
ブラック・アルバムで完璧にメトロノームに合わせたラーズがタメたプレイは極上で
「ラーズってこんなに上手かったっけ?」
と思った人も多いハズ(笑)。
そして、彼のプレイでもっとも特筆すべきは変拍子に代表されるリズムのトリックですね。
拍の表と裏をひっくり返したり、スネアを抜いて抜いての後にアクセントを入れたりといったリズムトリックが妙に病みつきになります。
この手のプレイで一番有名なのはレッド・ツェッペリンの『Ⅳ』収録の『ブラック・ドッグ』でジョン・ボーナムが見せたプレイなのですが、ドラマーはみんな彼からの影響があるにも関わらず、意外にもここを楽曲に実際取り入れた人ってあんまりいないんですよね。
メタリカ以前のバンドで探しても著名なところではラーズ以外に思い浮かびません。
これは楽曲の主導権を握っているドラマーがあまり存在しないから、というのも理由にあります。
実は初期からこういうアプローチをやってはいたのですが、大々的に取り組んだのは『アンド・ジャスティス・フォー・オール』でしたね。
ここでの彼のプレイは後のプログレッシブ・メタルやニューメタルに確実に影響を与えていますね。
また、日本で言えばXのYOSHIKIに代表されるツーバス連打を超高速で行うプレイスタイルのさきがけでもあります。
古くは1960年代、クリームのジンジャー・ベイカーに始まり、1970年代にはモーターヘッドの代表曲『オーバーキル』で認知度が上がるプレイですね。
昔からあるけど、『ほぼスポーツ』と言えるほどフィジカルの要素が強くなったのはメタリカのスピードゆえでしょう。
全世界のメタルドラマーたちが『どれだけ速くツーバス連打を踏めるか?』を競い合ったのは、この人が原因ですね(笑)。
しまいには失神者まで出始めます(YOSHIKIとか)。
スラッシュメタルを象徴するプレイとして高速ギターリフと並ぶインパクトがあるのがこの高速ツーバス連打なのですが、実は取り入れ始めたのは2作目『ライド・ザ・ライトニング』からで、1作目『キル・エム・オール』では一切やっていません。
1作目がかなりパンク・ハードコアの匂いがつきまとうのはこのためだし、2作目の1曲目『ファイト・ファイア・ウィズ・ファイア』が衝撃的インパクトを持つのは、この地響きのような高速ツーバス連打ゆえでしょう。
ラーズの音作りへのこだわり~実験多し~
ラーズはやっぱりリーダーでバンド内における発言権が大きいため、当然のことながらミックスにおける
ドラムの音は大きい
です。
ジェイムズが『RELOAD』に関する当時のインタビューで
「俺がレコーディングをちょっと留守にしている時があって、久々に復帰してミックスの具合を確認したら、ドラムの音がでかすぎて他のパートがなんにも聞こえねぇの(笑)。全部やり直したよ!」
みたいなこと言ってました。
ジェイムズがいなかったら
ほぼドラムしか聞こえないアルバム
が完成するようですね。
っていうかあれだけドラムの音量デカいのに
あれでもまだ音量しぼった結果だった
という驚愕の事実が明るみになりました。
そういうわけなので、彼が選ぶドラム、特にスネアの音色はその時その時のアルバムの雰囲気にかなりの影響を及ぼしていると私は思っています。
ぶっちゃけ『LOAD』は時間がかかって『RELOAD』はすぐに好きになれたのも、ドラム(スネア)の音によるところが非常に大きかったです。
色んなレビューを読んでいてこんなに
「今回のドラムの音は~~」
と語られるドラマーは他にいませんからね。
ファンの皆が毎回新作ごとに
「ラーズ、頼むからいらん冒険すんなよ…」
とヒヤヒヤしています(笑)。
4作目『アンド・ジャスティス・フォー・オール』ではあまりに特殊な…、悪い表現をすると奥行きがなくペラペラな、安っぽいリズムマシンのような音になり物議を醸しました。
5作目ブラック・アルバムでは前作の反省から、30種類ほどのドラムキットを試して、徹底的に高音質の音作りにこだわりを見せた結果、世界中のファンを唸らせます。
8作目『セイント・アンガー』ではなんとスネアのスナッピーを外して「カンッ」という、民族打楽器的な音作りで過去最大の物議を醸しました。
9作目の『デス・マグネティック』も前作がインパクトありすぎたからスタンダードに戻しているように言われてますが、あれもスタンダードとは実は違い、好みの分かれる音だと思いますよ(4作目にわりと近い)。
10作目『ハードワイアード・トゥ・セルフ・ディストラクト』からようやく王道サウンドに戻し、やっと安心して聴くことができるようにまりました(笑)。
誰からなんと言われようとも我が道を行くラーズです。
コンポーザーとしてのラーズ
かつてメタリカの原曲はほぼ全てボーカルのジェイムズとラーズが共作で作られてました。
ごくたまにカークやベーシストも参加を許されますが、基本はこの2人でした。
最近では「全員でアイデアを持ち寄って制作する」とカークが語っていますが。
私はラーズもメインコンポーザー(作曲者)であるならば、当然、ジェイムズと一緒にギターを弾きながらあの名リフの数々を生み出してきたんだと思っていました。
「ドラムはあんまり上手くないけど、ギターも弾けるなんて大したものだ。さすがにあれだけ偉そうにしているだけはあるな」
と思っていまいした。
しかし、ある時ラーズのインタビューを読んでいて驚愕しました。
「いや、俺はギター弾かないよ。弾くのはジェイムズの手だ。俺は隣りにいて口ずさんでそれをジェイムズが再現する」
あのリフマスター、ジェイムズ・ヘットフィールドをこんな使い方するなんてなんという贅沢な男でしょう。
これがメタリカの流儀なんでしょうね。
ラーズの性格
非常に明るく裏表がなくよく喋る。
人懐っこく物怖じしない性格はジェイムズとは真逆で、そのためバンドがインタビューを求められる際の『スポークスマン』(代弁者)はラーズが担当します。
もし、仮にメタリカが「Hey!Hey!Hey!」に出演していたらほぼラーズが一人で松っちゃんと浜ちゃんを相手にすることでしょう。
非常にビジネスライクな考え方をする人で行動的でもあります。
確か、メタリカに加入する前はマーシフル・フェイト(デンマーク)のファンクラブのヨーロッパ支部長をしていたとか(17歳まではデンマークに住んでいたため)。
ジェイムズは内向的でいい音楽を生み出す才能はあっても、バンドを売出しに行ったりするマネージメントは得意ではなさそうなので、このあたりはほぼラーズが請け負っていたのでしょう。
ジェイムズよりも一つ年下のラーズは1964年生まれで1983年の「キル・エム・オール」リリース時にはなんと19歳。
天才ひしめく音楽業界、ロックバンド界隈でも10代でデビューしている人って実はあんまり多くないんですよね(まあ、インディーですが)。
つまり売り込み上手なんですよ。
このあたりからもラーズのビジネスライクな人柄が垣間見えますね。
ぶっちゃけラーズの魅力と技術は関係ない
下手くそと言われることが多いし、ライブなどを観たり聴いたりしていても私も思います。
けれどもメタリカのドラムフレーズは全てコピーしてきたほど、ラーズのプレイは大好きです。
本人も上手いかどうかにこだわってなんかいません。
これってプレイヤーにはなかなか持てない発想で、『曲を活かすためのプレイをする』ことに関して、世界で一番こだわっていると言えるのがラーズでしょう。
さらに言えば『曲を活かす』の先にある『聴く者・観る者の心を震わせる』というこの一点のみに全力集中しているというか。
だから彼のプレイは非常にツボを突いてくる。
快感指数が異常なまでに高い。
そしてあの情熱的な叩き方。
自分の内にあるエネルギーを叩きつけるかのようなあのドラミングは、観る者を熱くたぎらせるパワーを持っています。
ジェイムズもカークもそうなのですが、彼らはメタルバンドの中でもっともステージで動き回るパフォーマンスをするんですよね。
それはライバルのメガデスと比べれば一目瞭然。
テンポも速く複雑なプレイを要するヘヴィメタルという音楽では、メガデスのように『頭は振るけどその場はあんまり移動しない』っていうパフォーマンスが一般的なんですよ。
けれどもメタリカはステージ狭しと動き回ります。
そんなフロントマンたちと比べてその場から離れられないのがドラマーの宿命。
だからこそ、移動できない分、彼のドラムプレイはファンへのアピールがてんこ盛りで、「何回立ち上がれば気が済むの?」っていうくらいせわしなく立ち上がっては観客を煽りまくります。
メタリカのライブが『派手でエネルギッシュ』な印象を強く受けるのは、メンバーのケツを後ろから蹴り上げているラーズの存在が大きいでしょう。
「てめぇらの汚ねぇケツを蹴り上げまくってやるから覚悟しとけっ!」
皆さんによき音楽ライフがあらんことを!
いやぁ素晴らしいラーズ評だと思います。私も30年くらいラーズ好きでプレイにかなり影響を受けました(今も)。ラーズとチャドスミスからリズムをパクりまくってます。そういう意味では跳ねるようなリズムをフィルインさせるラーズはファンク的でもあるな、と勝手に思っていました。
下手と言われるのに世界一売れている。客を集められる。
ジェイムスが「なぜかステージ上で4人でプレイすると最高になる。」ラーズが「俺の最大の努めはジェイムスのギターを引き立てることなんだ。」「曲造りはジェイムスのギターアイデアを何万個も集め、それをまとめ上げていくのが俺の役割なんだ。」この三つの言葉にメタリカの最大要素が詰まっていると思います。お互いこれからも良きプレイを!
コメントありがとうございます!
ラーズとチャド!
私もその二人が大好きなんですよ。
メタリカとレッチリは私の中でかつて二大巨頭だったんで、ほぼ全部コピーして盗みまくってます(笑)。
仰る通り、その3つの要素ですよね。
ギターとドラムがこれほど意思疎通の取れているバンドもなかなかないと思います。
これからもお互い”魂“のこもったドラム演っていきましょう!
ラーズ大好き谷原章介さんが「ドラムサウンドが歌ってる」みたいなことを言ってました。
まさしくその通りかなと。
コメントありがとうございました!
まさにぴったりなコメントだと思います。
歌心があるんですよね。
ドラマー視点でのラーズ評が的確で面白い記事でした。
コメントありがとうございます。
大好きなドラマーなので、これからもラーズを応援し続けます。
ラーズ最高!!!
最高っすね!