『バッドモーターフィンガー』サウンドガーデン3作目は出世作~史上最もサバスに近づいた作品~

本記事はプロモーションを含みます。

どうもSimackyです。

本日はサウンドガーデンが1991年にリリースした3作目のオリジナルアルバム

『BADMOTORFINGER』

(バッドモーターフィンガー)

を大いに語っていきますよ~。

グランジを代表する名盤…なのに日本では人気がないのは何故か?

さて、本作『バッドモーターフィンガー』は彼らの通算3作目、メジャーデビューしてからは2作目のオリジナルフルアルバムであり、彼らの出世作であり代表作です。

「おーっし!グランジ王にぃ!俺はなるっ!」(byルフィ)

っていう感じで船出した初心者の人が、まずニルヴァーナの『ネヴァーマインド』で入って、

「さぁ、次は何を聞こうか?」

っていう次の一手はパール・ジャムの『ten』か?

アリス・イン・チェインズの『ダート』か?

そしてこの『バッドモーターフィンガー』か?

になるわけですよ。

そう、『グランジ四天王』と言われる彼らそれぞれの代表作が、入門としては鉄板になってくるでしょう。

だって、ほとんどのオルタナ名盤ランキングでこの4作がトップ5に入ってますからね。

本作はその中でも『ネヴァーマインド』に次ぐ評価を得ている名盤と世界的には認識されてます。

ただ個人的には大好きだけど、

これを“名盤“と呼ぶのかどうかははなはだ疑問が残ります

なので、それに関しては後述します。

さて、新世界(グランジ)に入って代表的な名盤を聴いたら、後はそれぞれのログポース(好み)に従って、自分の好みの道を進んでいくわけですが、この分岐点でサウンドガーデンに進む人は

日本では1%くらい

です。

「俺はサウンドガーデンが好きだ!」

というそこのあなた!

おめでとうございます!

あなたは、映えあるトップ1%に選ばれました(笑)。

いや、ほんとにそう言いたくもなるほど、サウンドガーデン好きは少数派。

まあ、『バッドモーターフィンガー』までは、雑誌の薦めで手に取るかもしれない。

けど、あんまり日本人の好みに合わない。

かえってもう一つの代表作であり彼らの最大ヒット作『スーパーアンノウン』の方がよっぽど受けが良い。

けど手に取ったとしてもその後が続かない。

私が友達に薦めても反応良くない。

この4バンドの中ではダントツで人気がない、と、そこまで断言しましょう。

っていうか『グランジ四天王』として括(くく)られるレベルに達していないほど日本では人気がない。

スマッシング・パンプキンズの方がよっぽど人気が高くて、グランジ4大バンドだと思ってる人もいるのでは?

私はアルバム紹介するごとにアマゾンレビューとかで、皆がどんな感想を言っているのか一通り読むのですがね?

サウンドガーデンのレビュー数の少なさには驚きを隠せません。

Amazonレビューを見てください。

これだけ名盤の呼び声が高いにも関わらず

日本人が3人しかレビューしてなかったりするんですよ!?

いや、私も音楽解説ブログを3年以上はやってきて、1記事書くごとにAmazonレビューは見るのですが、こんな少ないのは見たことないですよ!?

オジー/サバス、REM、レッチリ、メタリカ、メガデス、ドリームシアター、アリス・イン・チェインズ…記事を書く前に沢山のレビューを読みましたが、日本人が3人しかコメントしていないなんて現象は、他の海外バンドでは絶対ありえませんよ?

一番人気がないアルバムでももっとコメントされてますよ?

ましてや『バッドモーターフィンガー』ですよ?

どうでもいい作品ならともかく、1990年代グランジシーンを代表する作品ですよ?

それっくらい日本では人気がないんです。

本国アメリカではニルヴァーナに次ぐ人気だったにも関わらず。

つまり

『スモール・イン・ジャパン』

の典型というわけですね。

「スモール・イン・ジャパン」と言えば、かつて様々なビッグネームがいましたね。

「なんであのバンドが人気ないの!?」

っていうビッグネームたち。

グレイトフル・デッド、ザ・フー、AC/DC…

でもね…私がこの際、一番言いたいのは

ブラック・サバス(1970年代オジー期)

オジー期のサバス(オリジナル・サバス)とか、あったま来るくらい日本で人気ないんですよね~。

「いや、俺好きだし、めっちゃいるよ?好きな人」

っていう声が聞こえてきそうですが、ワタシ的には

全然足りないんです。

ビートルズ、ZEP、クイーンくらいの人気があって当たり前ぐらいの感覚なんです。

いや、もはやみたいな扱いを受けててほしい。

もちろん好きなメタラーもいますよ?

いますが、未だにディープ・パープルに比べてあまりにも少ないので、それががっかりなんですよ。

それにサバスが好きだという人も、1980年代に入って「様式美メタルになってからが好き」という人が圧倒的に多い。

はい、このあたりも後で伏線になってくるので覚えておいてくださいよ(笑)。

さて、ここでブラック・サバスの話題を出したのには理由があります。

サウンドガーデンの日本における不人気の理由が、どうもオリジナルサバスと無関係ではないように感じるからです。

ちなみにサウンドガーデンは名曲「イントゥ・ザ・ヴォイド」をライブでカバーするくらい、オリジナルサバスに心酔推してます。

さて、ここからは私の独断と偏見で、かなり乱暴な理論を展開しますから、付いてきてね(笑)。

サウンドガーデンは、ヘヴィメタルと呼ぶには『分かりやすくドラマティックでメロディアス』(=様式美の要素)という特徴をほぼ持ち合わせていないし、パンクと呼ぶには複雑で技巧派だし音がメタル的。

だからヘヴィメタルリスナーたちのウケも悪いうえに、ニルヴァーナやパール・ジャムを好きになったグランジファンの人たちにも

「うわっ!これってグランジ(パンク)じゃなくてメタルじゃね?」

っていう拒否反応をされる。

音楽雑誌「BURN」も「クロスビート」も、サウンドガーデンをどう扱ったら良いのか分からず、さほど熱心に応援してくれない(笑)。

クロスビート「おい、こいつらはそっちの領域だろう?お前んとこで書けよ」

BURN「いやいや、これはメタルとは呼べないでしょう?シアトル系はそっちの方が得意なんだからそっちで書いてよ」

????「おバカちゃんたちね。それなら私が書いてあげるわよ」

BURN「お、お前は!?あの扱うバンドが節操ないことで有名な…」

BU・クロ「ミュージックライフ!」

ML「私達が日本におけるサウンドガーデン人気を育ててあげようじゃないのよん♪」

みたいな。

で、全然育たなかった、みたいな(笑)。

同じ理由でアリス・イン・チェインズもやっぱり不遇な扱い(ミュージックライフのみ)を受けていたと思います。

人って「これはメタルだから好き」とか「これはパンクだから好き」とか、とかくイメージの『型』にはまったものは受け入れるけど、どの『型』にもはまらないものを敬遠するような、そんな傾向があると思うんですよね。

特に日本はアメリカと違って単一民族国家だから、価値観がアメリカほど多様じゃないんで、その傾向は強いほうだと思います。

要は『受け皿』の種類が少ないんです。

だからきっと、アリスもサウンドガーデンも、嘘でもいいから、日本に来た時だけでも良いから、一言こう言えば良かったんですよ。

「俺達はメタルバンドだ」

と。

そしたら、日本での人気は全然違ったと思いますよ。

言う訳ねぇだろ。

クリス・コーネルがそれを口にした瞬間、カート・コバーン(ニルヴァーナ)と戦争が勃発してたぞ。

グランジ・シーンが内部崩壊しちまうわ。

ちょっと脱線したんで、話をオリジナルサバスに戻します。

かつての日本においてはオリジナル・サバスがあまり受け入れられなかったせいで、こういう音楽にも違った種類の快感があることが、あんまり浸透していなかったというか(このサウンドガーデンの登場時点で)。

多くの人が知らずに来てしまったというか。

じゃあ、オリジナル・サバスの快感ってなんなのか?

引きずるように暗いヘヴィリフの繰り返しと、リズム隊が一体となって襲いかかってくる『うねるようなグルーブ感』がもたらす酩酊(めいてい)感

まさにこれがオリジナルサバスの持つ快感であり中毒性。

つまり後に『ドゥームメタル』とか『ストーナーロック』と形容される快感の種類ってわけです。

刺激してくる『快感』が、ディープ・パープルのような『メロディアス』とか『ドラマティック』とかとは違う部分なんですよ。

ギターソロで聴かせるわけでもない。

パンクのような『衝動性』『爽快感』とも違う。

王道ハードロックのようなキャッチーでストレートなかっこよさとも違う。

暗くて陰鬱な気分になるような重たいギターリフが反復されることによって、聴き続けるとそのグルーヴ感が快感に変わってくるっていう。

サウンドガーデンもこの要素を色濃く持っているのですが、オリジナル・サバスを素通りした多くの日本人にとっては

未体験のツボ

を刺激してくるんです。

客「そこじゃないんだよ~。俺が気持ちいいとこはそこの反対側!いつも言ってんじゃん!」

あん摩師「でも、ここはここでツボがあるんですよ?他のお客様は喜ばれる方が多いですよ?」

客「え~?そこは痛いだけで、別に気持ちよくはないよ~」

みたいな。

オリジナルサバスは、アメリカ・イギリスで1~5作目まで発売当時だけでもマルチ・プラチナ(数百万枚セールス)を連続達成するほど売れているので、あっちの人たちは最初っからこの手の快感を体験済みの人が一定数いるんです。

さらにはマリファナ文化もありますしね(麻薬のもたらす酩酊感を知っている)。

そういう音楽が好まれる『受け皿』をすでに持っているんです。

その下地があるから、オリジナル・サバス直系の音楽性を色濃く持つサウンドガーデンも受け入れられやすい。

けれども、日本ではオリジナル・サバス来日公演がなかったこともあり、その快感があんまり浸透しなかったため、その下地がほとんどないんです。

どちらかというとディープ・パープルに代表されるようなメロディアス路線の下地はすごく出来上がってても、この手の快感があることがあんまり知られていない。

だからメタリカが分かりやすいメロディを排し、ギターソロまで排し、徹底的にリフの繰り返しのみで攻め続けた傑作『セイント・アンガー』なんかがボロクソに叩かれるわけです。

メタリカ「セイントアンガー」アルバムジャケット

『セイント・アンガー』2003年

日本のメタラーの人たちには、あの中毒性が分かんないんですよ。

かえって、後にレイジやコーンを好きになった人たちの方が、よっぽど良さが伝わってたというか。

これは『スラッシュメタル』でも『メロディアスなヘヴィメタル』でもなく、『ドゥーム・メタル』『ストーナー・ロック』を目指して作られたものなんですから、みんな見当違いの批判をしているんです。

サウンドガーデンにしてもそうです。

期待する快感とはまったく違う種類の快感が刺激される作品なんだから、『新しい琴線』が自分の中で『開発』されるまでは謙虚な姿勢で聴き込む必要があります。

なぜなら

日本人の多くはオリジナル・サバスを素通りしたのだから!

(どんだけ根に持ってんだ…)

オリジナル・サバスの良さが分かんない人たちが、サウンドガーデンの良さが分かるわけがない。

けっ、日本人なんて所詮『サバス童貞』と『サバス処女』ばかりの民族なんですよ、情けない(言い方)。

暴論を吐きまくってやけに今回は荒れております(笑)。

余談ですが、日本人の『ドゥーム』とか『ストーナー』とか呼ばれる“ツボ“が開拓されるのは、グランジブームが第一波で、本格的に浸透しだすのはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかパンテラとか、コーンとか、そのあたりの第二波じゃないかな?

特にレイジは『メタル』っていうイメージと真逆にいたから、「メタルはダサい」という’90年代の空気感の中で、若者が手に取りやすい立ち位置にいたと思うんですよね。

レッチリのような日本での人気バンドと、『ラップとロックの融合』という共通点があったことも大きいですし。

当時の印象としては、レッチリファンはほぼそのままレイジにスライドしてましたしね。

周りに聞いている人がたくさんいたし、雑誌、ラジオでの取り上げられ方も尋常じゃなかったから、彼らが日本人に『ドゥーム』や『ストーナー』の快感を広く浸透させたのは間違いないでしょう。

日本のインディでも、モロに影響受けたバンドが急増しましたしね。

当時の自分のライブハウス時代を思い返しても、

「なんか最近、ロックバンドなのにキャップ被ってるヤツ多くね?

みたいな(笑)。

対バンしてるバンドがなぜか楽屋でヒップホップ流してる、みたいな(笑)。

ライブハウスに来てる観客見回しても

「あ、こんなロック初心者でもこんなヘヴィでダウナーな音楽を聞く時代になったんだ」

っていう印象が当時あったのを今でも覚えてますよ。

だから、サウンドガーデンは出てくるのがタイミング的に早すぎたんだと思います、日本においてはですね。

なので、クリス・コーネルとレイジが合体したオーディオスレイブでちょっとはサウンドガーデンも見直された印象かな?

そして、オリジナル・サバス再評価の波は1990年代の後半~2000年代に入って日本にもようやく届き、結構な雑誌が取り上げてるのを見かけましたが、まだまだワタシ的には物足りない。

だって、私の周りでもオリジナル・サバスを遡って聴いてる人なんて1人もいなかったし。

JOJOの5部にもスタンド『ブラック・サバス』が登場しましたが、こっちの影響力のほうがよっぽど大きかったりして(笑)。

って、いつまでサバス推すんだ。

今回は『バッドモーターフィンガー』の回だぞ?

いえいえ、実はこの『バッドモーターフィンガー』を語る上で、オリジナル・サバスを語る必要が“もう1つ”あるんですよ。

ヘヴィ・ロックの『経典』に限りなく近づいた作品

ところで…1990年代のグランジ・オルタナティブを含めた『ヘヴィ・ロック』における“経典“ともなった作品があります。

それこそが1971年にリリースされたブラック・サバス3作目のオリジナルアルバム

『マスター・オブ・リアリティ』

です。

これがとんでもない作品で、私も以前解説してますので、読んでみてください⇩

 

 

『ヘヴィ・ロック』という題名でアメリカ議会図書館に飾った方がいいでしょう。

ブラック・サバスの、いえ、ヘヴィメタルの大名盤と言えば2作目の『パラノイド』が挙げられます。

これは2作目『パラノイド』

しかし!こと1990年代に限って言えば究極の大名盤と呼ばれリスペクトされていたのは『マスター・オブ・リアリティ』でしょう。

これこそ1990年代ヘヴィ・ロックバンドのほぼ全てに影響を与えていると言えます。

グランジ・オルタナティブもニューメタルもドゥーム・メタルもストーナーロックも、全てあますことなくです。

そして、時代のカリスマとなったカート・コバーンがサバスからの影響を公言してしまったので、1990年代の10年間で、サバスはレッド・ツェッペリン、ディープ・パープルに次ぐ『世界三大ハードロックバンドの3番手』から、レッド・ツェッペリンを時には超えるほどの存在に一気に浮上しました(日本じゃなく海外ね)。

時代のトレンドが『ヘヴィであるかどうか?』になり、世界中のバンドにとって『サバス的であるかどうか?』は時代の合言葉になります。

みんながこのアルバムを目指したんだと思います。

だって当時の色んなバンドのインタビューたるや、ブラック・サバスという単語が出てこないことがない、と言っても決して大げさじゃなかったと思うんですよ。

『〇〇が影響を受けたアルバム10選』とかいう企画ではほぼ『マスター・オブ・リアリティ』を入れてる、みたいな。

「いや、オマエは絶対違うだろ。そんなこと前は一言も言ったことねぇじゃん。そもそもオマエがやってるのはポップ・ロックじゃねぇか…」

って人まで10選の中にサバスを入れてる、みたいな(笑)。

それくらい時代のトレンドだったし、ヘヴィなロックを演る以上は究極の理想像ですから。

そして本作『バッドモーターフィンガー』は、この当時、数ある時代のバンドたちの中で、そこに一番近づいた作品と言えるでしょう。

『マスター・オブ・リアリティ』超えを果たそうと夢見た、あそこに追いつき追い越そうともがいたバンドたちの中で、一番高いところまで行った作品です。

この人たちはファッションじゃなく、マジもんなので。

初期のライブ映像ではクリスがオジーの『カエルジャンプ』真似してるくらいです(どんだけ好きでもあれは恥ずかしいぞ)。

当然、オリジナル・サバスが人気ない日本で本作が両手を広げて受け入れられるわけがないのですが、私のように初期サバスを崇拝する者からすると、よだれが出そうな作品というわけです。

コード的な意味での『ヘヴィさ』を体現するバンドなんて掃いて捨てるほどいましたが、ここまでのドラッグ的なリフの中毒性や、スリリングさを体現したバンドはいません。

「狙ってやっていないわけがない」と言えるほど、その音は強烈に『マスター・オブ・リアリティ』を想起させます。

よくサウンドガーデンを評して“サバスのパクリ“と呼ぶ人をネットで見かけることもありますが、私はそうは思いません。

先人に強烈に影響を受けて、その影響が自らのオリジナリティに色濃く出ることは、ワタシ的には『誇り』に感じることはあっても、『』だとは思いません。

だって、それこそが『継承と発展』ってやつだと思うからです。

彼らはサバスから『継承』したものをオリジナリティとして『発展』させてますから。

それでは、『バッドモーターフィンガー』とはどんな作品だったのか語っていきましょう。

あれもこれもやらない…自分たちの長所だけに特化した作品

この出世作『バッドモーターフィンガー』に至るまでに、彼らは2作のアルバムを作ってきました。

インディで作った1作目『ウルトラメガOK』は、かなりパンク寄りの作品で、それはボーカルであるクリス・コーネルの声に顕著に現れてます。

はっちゃけて『わちゃわちゃ』歌うような、わりと同郷のマッドハニーなんかに通じるボーカルを聴かせてます。

かなりパンク要素が強いんですよ。

そして凄くサイケデリック

しかし、ところどころ本作に通じる問答無用のヘヴィネスを、わりとメタル的技術で聴かせてますね。

続く2作目『ラウダー・ザン・ラブ』では、クリスのボーカルがガラッと変わります。

ハイトーンボーカルという自分の武器に、今さらながら気がついたかのように、そこを徹底的に推します(笑)。

本格的に伸びやかな声を聴かせ始めるんですよ。

で、サウンドはパンクからもっとヘヴィでダークになり、バンドがタイトにピシッと引き締まります。

アルバムテーマは『絶望』なんじゃないかな?っていうくらい、徹底的にヘヴィネスを極めようとしてますね。

ただ、そうあることが『手段』ではなく『ゴール』になってしまっている感があり、まだ彼らの『武器』を使いこなしていないような感じです。

この3作目である『バッドモーターフィンガー』は、これまでを振り返って、自分たちの武器はなんなのか?どう使えばよりそれが活きるのか?ということを徹底的に考えて、かなり有効的に使っている印象を受けます。

そして前の2作にあったパンク要素だとか、ルーズさだとか、サイケな雰囲気といった『手持ちの武器』ではあるけれども『必殺の武器ではない』ものをかなりの部分、排除してます。

つまり、自分たちの長所に特化している作品なんです。

これはたまたまベーシストが、マニアックな趣味を持つヒロ・ヤマモトからベン・シェパードに交替したことも要因として大きいのかもしれません。

余計なことをしていない。

メンバー全員がゴール地点=理想像を共通認識として持ち、そのために必要なプレイをしている印象を受けます。

つまりメンバーの個性よりも作品の世界観の完成度を優先してます。

前作までベースを担当したヒロ・ヤマモトは、そのマニアックな『余計なこと』をするからこそ、歴代の作品に面白さと懐の広さを加えていたとは思うのですが、彼がいたら本作はもっと『焦点の定まらない“ぶれた“作品』になっていた可能性があります。

新ベーシスト:ベン・シェパードのプレイは、キム・セイルのギターにも寄り添い、まるで全盛期のサバスのような一体感を生み出してます。

まあ、ギターとのユニゾンの多いこと多いこと。

そこにクリスのボーカルまでユニゾンした時にはまるで、

「『アイアンマン』かよ!?」

ってなるんですが、これを堂々とやるところが、これまでのサウンドガーデンとの違いです。

ひねくれてなくて、ど直球のストレート勝負というか。

そしてベンのベースは、マット・キャメロンのドラムとも『活きた』グルーブ感を生み出しています。

表面的なテクニックに派手さも奇抜さもないのですが、全体を上手くまとめ、それぞれを活かす立ち位置にいます。

だからね、バンドが一丸となって向かってくる時のあの圧倒的なグルーブ感があるんですよ、本作には。

これって奇しくもサバスが『マスター・オブ・リアリティ』で取った方法論に近いことが面白いんですよ。

サバスも元々ジャズやブルースを演っていたバンドなんで、1,2作目にはかなりその雰囲気が出ていたんです。

けれども、3作目『マスター・オブ・リアリティ』で、それらの要素をピシャっと切り捨てました。

そしてよりヘヴィネスを突き詰めた結果、ベースがギターと絶妙の絡みを見せてまるで一つの楽器のように昇華してます。

ゴールをはっきり見極めてそこだけに一心不乱に打ち込んだら、無駄の一切ない非の打ち所のない作品が出来てしまいました。

今回のサウンドガーデンと、方法論としては非常に似てるんです。

ただ、結果が似なかった。

残念ながら本作『バッドモーターフィンガー』は非の打ち所がない作品とは呼べないんですよね(笑)。

ここで記事冒頭に述べた「個人的には好きだけど名盤と呼べるかは疑問」という話に戻ります。

すばり言ってしまうと、

前半5曲に神曲が偏りすぎ

というアルバムなんです。

だからもう聴き始めから圧倒されて

「な、なんて凄いアルバムなんだ!こりゃ最高傑作に決まりや!」

って皆がなるんだと思います。

ロックアルバムを聴いてても、そうそう出会えないくらいの感動が味わえますからね。

私の中では、サウンドガーデンがここでニルヴァーナ、アリスを超えました。

サバスで言うと『パラノイド』のレコードA面みたいなものかな?

『ウォー・ピッグス』『パラノイド』『アイアンマン』というメタル史上に残る名曲が全部レコードA面に集中していたということで有名な作品が『パラノイド』なのです。

でもね?

それでも実はB面も全て名曲なんですよ、『パラノイド』くらいの大名盤になると(ファンじゃない人は知らないでしょうが)。

それに対し本作は、

後半戦だれます。

サッカーで例えると、

「前半5-0で圧勝ムードだったのに、後半5-4まで追い上げられ、ヒヤヒヤものの勝ちを拾いました」

みたいなアルバムです。

勝ったけど、観客席から物を投げつけられるやつです(笑)。

「快勝せんかい、情ねぇ!」と。

「いや、ここまで持ち上げといて最後に落とすんかい!『マスター・オブ・リアリティ』にもっとも近づいた作品じゃないんかい!」

とお叱りを受けそうなのですが、ここまで散々褒め散らかしてきたのは、前半5曲の話なんです

もっとこの5曲を全体に散らしてバランスを取るか?

もしくは、いっそのこと後半の曲をすべて切り捨てて、前半の5曲の合間にインストの小曲を挟むような作りでも良かったんじゃないかな?(それだとホント『マスター・オブ・リアリティ』ですね)

#1『ラスティ・ケイジ』、#2『アウトシャインド』、#3『スレイブ&ブルドーザーズ』、#4『ジーザス・クライスト・ポーズ』、#5『フェイス・ポリューション』と、前半5曲は非の打ち所がない神曲揃い。

サウンドガーデンにとってのアンセム級の曲たちで、後のライブでも必ず重要な箇所で演奏されるナンバーたちです。

けど、その直後の#6「サムホエア」で「あれ?」っとなり、#7『サーチング・ウィズ・マイ・グッド・アイ・クローズド』で「う~ん?」となります。

#7はライブでなぜか1曲目に演奏されることの多い定番ナンバーなのですが、あっちでは人気高いのかな?⇩

しかしながら私にはさっぱり良さが分かりません。

まあ、『捨て曲』とまでは言いませんが。

その後は、かなりリフがワクワクするかっこいい#8や#10とかもあるのですが、前半5曲の神がかった良さからすると、曲としてもう一歩も二歩も足りないんですよね。

この後半のだるさ加減を、この2曲だけで払拭できるかと言うと…だいぶと厳しい。

っていうか、仮にもプロデューサーがいるのに、こんなアルバム構成にするか普通?(笑)

こういうとこ!

彼らが『大物』なのか『ド天然』なのかが判断しづらい理由(笑)。

まあ、ここまで好き放題語ってきたのは、あくまで個人的な見解であり感想です。

後半の楽曲の中にも、あなたにとって好きになれる曲が生まれることを切に願います。

ちなみに当時の若かりし私も

「いや、そんなはずはない。後半の楽曲は難解なだけなんだ」

と思い、何年も繰り返し聴いてみたのですが…ついぞ好きになることはなかったです。

そう、これが私が本作を『名盤』とは呼ばない理由なんですね。

『バッドモーターフィンガー』楽曲解説

ちょっとグダグダ感が出てきましたが、私は楽曲をこき下ろす趣味はありませんので、今回は私の大好きな前半5曲のみを解説します。

こんなこと初めてですよ!

なんて極端な作品なんだ(笑)。

#1『ラスティ・ケイジ』

オープニングナンバーはアップテンポで来るという、これまでのサウンドガーデンにしてはかなり軽快な立ち上がりです。

スネア4つ打ちで進んいきますが、スネアが拍の表になったり裏になったりと目まぐるしくリズムチェンジを入れてますね。

こういうことやらせたら、マット・キャメロンの右に出る人はいませんね。

このあたりはメタリカなんかに共通する部分を感じますが、はっきり言ってあれより演奏レベルは格段に上です。

2:10あたりからはベースの音量がぐわっと上がって、まるでギーザー・バトラー(サバス)の「モコモコ」ベースそのものになったベン・シェパードのベースラインがゴイゴイ引っ張っていきます。

いや、ここまでくるともはやレミー・キルミスター(モーターヘッド)かという勢いですよ。

突っ走ってます。

凄いね、ギターソロ演らないでベースに任せるとか、これはありそうでなかった発想。

で、最後はひたすら「タメてドン!」「タメてドン!」をしつこく繰り返します。

これがやたら中毒性高い。

よく合わせられるな。

ちなみにMVはなにやら林の中で撮影しているのですが、これって、オリジナルサバスが『サバス・ブラッディ・サバス』を撮影した場所と酷似してない?

ちょっと見比べてみてくださいな⇩

#2『アウトシャインド』

ここでサウンドガーデン史上ナンバーワンのアンセム曲が登場です。

もうこれは1990年代に蘇った『アイアンマン』ですよ。

それにしてもこのドラムの間のタメ具合ときたらどうでしょう。

ハイハットで細かく刻んでタメてタメてアクセント。

このアルバムってなにが凄いかって、寸分の狂いもないジャストなタイム感

0コンマ01秒のズレもない。

ドラムのサステイン(残音)をきっちり切ってあるから、演奏が凄まじくタイトに締まってる。

ぼやっとしてる部分がない。

だからこそ生まれるこのグルーブ感の中毒性。

…たまりません。

#3『スレイブ&ブルドーザーズ』

前作の『GUN』や『I AWAKE』からの流れを次ぐ、超スロー&超ヘヴィナンバー。

ゆえに中毒性で言えば本作イチかも。

7分はあろうかというサウンドガーデンにしてはかなりの長尺ナンバーです。

スローテンポ+長尺なんて、普通だったら嫌な予感しかしないのですが、この曲が驚異的なのは、こんだけスローなのにもかかわらず最後までダレさせないとこ。

聞き手を掴んで放しません。

それはやっぱりこの曲が持つ『緊迫感』のせいだと思います。

その『緊迫感』を生み出しているのは『無音空間』と『タメの上手さ』です。

今作はタメの上手さが、前作よりも格段に上がっていますね。

そして無音空間をたっぷり取っているのがポイントです。

無音(休符)を意図的に使っているとでも表現すればいいでしょうか?

「シーーーーン」

とした中に、静かに響くハイハットの開け閉め音とボーカルのみ、みたいな演出が緊張感を高めるんですよ。

真剣の居合抜きみたいな殺気が漲っており、

「う、動いた瞬間、斬られる…!」

みたいな、手に汗握る緊迫感があります。

今回のマット・キャメロンには神が降臨してます。

グランジ最高峰のドラミングですね。

クリスのボーカルは前作のように甲高い感じではなく、高いんだけど表現力と凄みがあるというか。

なんか凄くクリスに“マッチョさ“を感じます。

間違いなく、クリスの超絶ボーカルの真髄が発揮されているのは本作ですね。

曲調がヘヴィな割には、冒頭のギターはそこまでヘヴィじゃなくて、小節の頭で「ガーン」ってヘヴィなコードを入れるのですが、すぐにヒステリックなリードギターを入れるっていう、一人二役をキム・セイルはやっていたりします。:

#4『ジーザス・クライスト・ポーズ』

本作イチの神曲の登場です。

1作目『ウルトラメガOK』でも『サークル・オブ・パワー』なんかで聴かせていたリフの洪水+高速タム回しで圧倒してくる方法なのですが、それがさらに進化してここまでの楽曲に昇華したといったところでしょうか?

もはや『サークル・オブ・パワー』と比べると楽曲として表現している次元が違うというか。

凄く映像的ですね。

ボーカルが神がかってて、1作目からわずか2年しか経っていないとは信じられません。

『サークル・オブ・パワー』のボーカルを改めて聴くとちょっと笑っちゃいますよ(笑)。

「お前はマッドハニーか!」

って言いたくなりますもん。

MVでのクリスはロン毛+ヒゲなので、ほんとにジーザス・クライストかのようなルックスしてます⇩

 

#5『フェイス・ポリューション』

おそらくサウンドガーデン史上最速のナンバーです。

この爆走するスピード感…かっこよすぎですよ。

サウンドガーデンで一番好きなナンバーです。

大学生の頃に計測したことがあるのですが、確かBPMが250くらいあったような?

私はXが大好きなもので、“速さ”に対して異常なまでの執着があり、一時期は速くてかっこいい楽曲を聴くとすぐにメトロノームでBPMを調べる変な習性がありまして(笑)。

「hideが『SCANNER』で記録したBPM223を超えた!?なんちゅう速さだ!!!すっげぇ!アメリカすっげぇ!」

とか言って、1人で勝手に大騒ぎしていた1人暮らし時代が懐かしい(別にアメリカは関係ねぇだろ)。

凄まじいスピードの“うねり”が襲いかかってきます。

ほんと、本作ジャケのあの台風みたいなイメージ(あれは別に台風をイメージしてないでしょ:笑)。

今更ながらに思うのですが、かつてのサウンドガーデン(1~3作目)には、間違いなく“速さ”というのが重要なファクターとして存在したことを思い出させてくれました。

で、このスピードに対して変則的なリズム(特にドラム)の嵐をぶっこんでるんですよ?

ほぼ変態もとい化け物です。

シアトル・グランジ勢の中でダントツの演奏力を見せつけてきます。

こんなかっこいいリフの数々を湯水のごとく1曲の中に注ぎ込むキム・セイルという人はとんでもないお人です。

1人だけ中東の人みたいなルックスで、サウンドガーデンのエキゾチックな雰囲気を出すのに一役買っているのですが(笑)、この顔でこんなリフを弾いていることが信じられません(失礼だからな)。

本作のMVPはマットかキムですね。


はい、今回は『バッドモーターフィンガー』を語ってきました。

とにかく前半5曲が神がかっているんで、そこだけでも聴いてもらいたいですね。

それから、これだけ語ったんだから、是非ともブラック・サバスのオリジナルメンバー期も聴いてもらいたいな~。

サウンドガーデンにハマった時、あなたはオリジナルサバスにもハマるはず・・・。

それではまた!

 

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